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どぅぬるぼんどぅんどぅん
2025-07-16 00:40:07
2839文字
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記憶を失った五の話(続き)
記憶を失ったあの日の任務は、本当に大したことが無かった。
僕が行くほどでもない等級の任務。
文句を言いながら現場に向かったことを覚えている。
現場には僕からしたら低級の、大したことがない呪霊が一体。
そして、それを従えているような、呪詛師が1人居た。
どちらも僕の敵では無かった。
でも、ほんの少しだけその呪いに興味を持ってしまった。
「...気になるなぁ、それ」
それが、僕の中に残る最後の記憶だ。
「別れる」
鈍器で頭を殴られたかのような衝撃が走った。
足が鉛のように重く感じ、背中を追いかけてやれなかった。
『俺と付き合ってたの、覚えてる?』
冗談だと思っていた。
記憶喪失をいいことにからかっているのだと。
そのノリに乗っかっただけだった。
そしたら、悠仁はうそうそ!と言いながら、深く傷付いた表情を浮かべた。
きっと誰も気付いてない。僕だけが気付いていた。
その日以降の悠仁は比較的変わらない様子だったと思う。周りからはただの教師と生徒に見えるのだろう。
ただ、会話は出来るのに目は全然合わなかった。
僕が話しかけると、ほんの少しだけ動揺を見せる。
じゃあね、と言うとほんの少し寂しそうな表情を浮かべる。
その時点では確信が持てなかった。
ただ、自分の部屋を見て確信に変わった。
悠仁の私物だ。
頻繁に泊まりに来てるであろう、服や歯ブラシ、ゲーム機みたいな、そういった私物がたくさんあった。
いくら仲良いと言えど、これは違和感がある。
悠仁が取りに来る、そのタイミングで聞くことにした。
僕のその身勝手な行動のせいで、悠仁を深く傷付けることになってしまった。
_______________
先生と別れて2週間が経った。
会話はする。目も合わせる。
ただ、俺達の中に恋人関係というものが無くなっただけ。
何も変わらない
変わらないのに、心にはポッカリ穴が空いていた。
あの日別れを告げたのは俺のはずなのに、先生が俺に背中を向ける度に行かないで、離れないで、と縋りつきそうになる。
「そういえば...呪いはどうなったんだろ」
先生が受けた呪いはどういったものかは分からない。ただ、そんな長期的に続く呪いなんてあるのだろうか。
ふとしたことがきっかけで思い出すのか、それか効果が切れてその瞬間突然思い出すのか。
「...ま、関係ないか」
思い出したとしても、元の関係に戻れるわけじゃない。
気持ちが無いなら、意味が無い。
「......せんせ...」
ドンドンドンドンドンドン!!
「!?何!?」
部屋中に鳴り響いたノック音。いやノック音なんて可愛いものじゃない。扉がぶっ壊れそうなほどの衝撃が走る。
「悠仁」
「あ」
「開けて、悠仁」
先生の声だった。
「...な、なんか用?」
「先に開けて」
「要件を先に」
「お願い」
「せん」
「...会いたい」
零れてしまった、そんな声だった。
気付いたら鍵を回し、扉を開けていた。
開いたと同時に何かが体を包み込む。
先生の、腕だ
「せんせ...」
「会いたかった」
ぎゅうっと、抜け出せないくらいの強い抱擁。
なのに、じわじわと広がっていくあたたかい体温。
先生の、
「好きだよ、悠仁」
大好きな人の、
「だから離れないで」
大好きな、五条先生の体温だった。
「思い出したの...?」
「うん、全部。」
「せんせ...おれ、おれね...」
「うん」
「先生のこと、好きなんだよ...」
「うん」
「記憶が無いって言われて、ジョークって言われて、俺、悲しくて」
「うん」
「でも、先生、わかれ、わかれたかった、んだよね?だからおれ、言った、でもおれ、わかれたく、なくて」
「ごめん、ごめんね」
「せんせい、やだよ、わかれたくない」
「ごめん、僕も別れたくない。悠仁の傍に居たい。」
「っ...なら、なんで、なんで呪いなんて」
「...うん、ちゃんと話すよ」
先生は俺の頬を優しく撫でて、額に優しくキスをしてくれた。
そのまま手を握られて、おいで、とベッドに誘導される。
「座って、僕も隣に座るから」
「うん...」
先生に言われたとおりにベッドに腰かけるといい子だね、と言って頭を撫でてくれた。
「...僕が受けた呪いは、一定期間ひとつの記憶に蓋をされる呪いだった。」
「記憶に蓋...?」
「そ。まぁそれだけだから大した呪いでは無いけどね。原因の呪霊は祓ったし、呪詛師は処分が下ってるから安心して?」
「その呪詛師と呪霊は仲間だったの?」
「仲間というか、呪霊が操られてた。まぁちょっとの時間だろうけどね、あれ。呪霊を取っかえ引っ変え操ってたっぽいし」
「そうなんだ...」
「ま、そんなことはどうでもいいとして、その蓋をされる記憶ってのが、悠仁との記憶だった。」
「俺との?」
「そう」
「...忘れたかった...記憶とか...?」
「いや、逆」
「手離したくない記憶に蓋をする呪いだった」
「手離したくない...?」
「そう、手離したくないものに蓋をして、その記憶に対する興味を無くしてから、その記憶に関わっている財産や人間...奪うみたいなね。だから記憶を失ってる間に奪われちゃったら思い出した時に絶望!ってわけ。趣味悪い呪いだよねー」
「...て、ことは」
「そう。悠仁の記憶を無くしてたから、その呪霊と呪詛師が生きてたら、悠仁が狙われてたかもね。」
「そう、なんだ...」
「ただ僕は呪いの性質は分かっても、どの記憶に蓋をされるかは分からなかった。だから興味本位でちょっと受けてみたんだよね。そしたらこの有様。」
「そうだったんだ...」
俺との記憶が、1番大事だったんだ...
それを理解した途端、胸がじわり、じわりと熱いものが滲む感覚がした。
「...悠仁、ごめんね」
「あ...」
「辛い思いをたくさんさせた。大事な子をたくさん泣かせた。別れる、なんて選択をさせてしまった」
「っ...」
「本当にごめん、悠仁の事が好きだから、僕は別れたくない。絶対に。」
「先生...」
「記憶を失ってる間もずっと悠仁のことが離れなかった。その時悠仁に対する感情なんて無いはずなのに、傷つけたことを酷く後悔した。離したくない、行くなって心の底から願ってた。」
「せんせっ...」
「悠仁」
「もう一度、僕と付き合ってください」
掌に、優しく唇が触れる。
目頭が熱くなる。目の前が霞む。
とめどなく、涙が溢れていた。
「もう、二度と離さないで」
「離してって言われても、絶対離さない」
「俺のこと、忘れないで...」
「絶対に忘れない。生まれ変わっても、他の記憶を全部失ってもお前のことだけは絶対に忘れない。」
「...好きって、いっぱい言って。」
「愛してるよ、悠仁」
終
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