輪子湖わこ🔞
2025-07-15 10:05:19
2843文字
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光サン光小話

第一世界から帰って来た後の話

薄ぼんやりした視界の中、いつもふざけた顔ばかり晒しているそいつは、今まで見たこともないような表情でこちらを見ていた。
悲壮なようで、祈るようで、それでいて世界で1番眩しいものを見たような。
気だるい瞬きの後、はっきりとした視界で見上げた先には、既に顔をくしゃくしゃにして涙を流す、単純明快な面の我らが英雄様がいた。

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セブンスヘブン、冒険者が入れ替わり立ち替わり出入りするその酒場を抜けた場所が、今の暁月の血盟の本拠地だ。エーテライトが程近い拠点は秘匿性、安全性ともに思うところあるが、木を隠すなら森とかなんとかとか言うらしい。
交通の便がそこそこ悪いベスパーベイが襲撃を受けた影響もあるのだろうか。しかし、ここ石の家もアシエンとかアシエンとかアシエンだとかのせいで許し難い悲惨な出来事はあった。のだが、今の所一応メインの拠点として機能している。エオルゼアのなかでは比較的マシな立地なのだろうか。
まぁベスパーベイの襲撃に関しても結局アシエンの奴らのせいだから、どっちだろうがあまり変わらない気もする。
「チートだろあいつら」
「何がだ?」
独り言として呟いたはずなのに、こう言う時に限って絶対拾いにくる所が憎らしい。
見慣れている筈の、それでいて真新しいコートに身を包んだ男は、これまた見慣れた新品の武器を肩に担ぎ突如現れた。
冒険者ならそのくらいの気配に感付けって?仕方ないだろ、色々あって疲れてるし、気ィ抜けてんだから。
「アシエンどものことだよ」
「そいつらをどうにかした奴が何を言ってるんだか」
……流石にしんどかった、色々と」
対峙する敵が単純に悪なら楽なのに。バカな俺にもわかるように世界はもっと単純であってくれよ。どうにもままならない。第一世界での出来事も、古代人のことも、エメトセルクの事も正直まだ全然飲み下せてないし、感情の落とし所に迷っている。
その上コイツらときたら、全然こっちに帰ってこないし、あっちでぶっ倒れるし、本当に俺のメンタルはガタガタだったんだからな。
なのにお前は妙にスッキリした顔しやがって。
「感謝してる」
「フン」
戻って来たのは直球の素直な謝辞で、俺は返す言葉を失い、目を逸らすだけとなった。
負けた。ってかそもそも、第一世界で一番長く戦って、一番死にかけて、一番苦しい思いをした奴に対する態度じゃないことは性格の悪い俺にだってわかってる。けど、嫌味の一つでも言いたくなるだろ。俺を置いていきやがって、勝手に子持ちになりやがり、5歳も大人になって、歳上の余裕ってか。ムカつく。
「そう拗ねるな」
「拗ねてねーっつーの」
「わかったわかった」
適当にあしらわれた事がムカついて、威嚇するように歯を見せるが、振り向いて何やら荷物を漁っていたらしい。視界にすら入っていなかった。
「暇なら付き合ってくれ。あっちの戦い方に体がまだ付いて来なくてな」
タタルに小綺麗にされたらしいその姿は、パッと見ただけでは第一世界での出で立ちとそこまで相違なく見える。
が、男の言う通り身体つきはあっちの世界に行く前どころか、長時間眠りっぱなしだった事もあり、出会った頃を思い出すほどだ。
浅黒く焦げてた肌も昔みたいに生っ白くなっちまって……若返ってるくせにメンタルだけは5年分大人で態度はの子持ちの貫禄、脳みそが付いてかないんだこっちは。
ってか黒いのもエロかったけど、正直今の方が好みだし。なんつーか、ずるい。
……どこ」
「そんなに遠くはない、このあたりだ」
地図に付けられた印は、肩慣らしには丁度いいモンスターがうろついているあたりだ。まぁ、悪くはない。俺としても苦手な戦い方を試したかったことだし。
「賢者で行っていいなら付き合ってやる」
……1人で行くか」
「なんでだよ!!」
「嘘さ、どうせ肩慣らしだ。好きな武器で来てくれ」
わざとらしく片眉毛を上げた男は、肩をすくめ笑って見せる。
「回復してやんねーからな?!」
ドタバタと装備を整える俺に背を向け、サンクレッドはサッサと歩きだした。なんだその余裕、ほんとに腹の立つ。絶対ラハの方が可愛いし。
「来ないのか?置いてくぞ」
「てめ!救世の英雄様に何だその態度‼︎」
「英雄扱いされたいならグ・ラハにでも遊んでもらえ」
何で脳内が筒抜けなんだよ、本当に嫌になる。
どうせ俺に行かない選択肢がないことなんか分かりきってるくせに!

「あーーもう‼︎」

本当にムカつく‼︎

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武器の使い方は問題ないが、やはり肉体の方が追いつかないらしい。重点的に鍛える箇所を確認し終えレヴナンツトールに戻った矢先、我らが英雄様はまた誰かに呼び出しを喰らったらしい。ブツブツ文句を垂れながら足早に去っていった。
「忙しい奴だな」
「ええ全く」
テラスで優雅にティーカップを傾けるヤ・シュトラに勧められた焼き菓子を頬張り席に着く。次いで出てきたアイスティーの爽やかさと、クッキーの糖分が一汗かいたあとの体に染み渡った。
可愛らしい魔導士の形をしたジンジャークッキーはあの男が置いていったらしい。料理は嫌だと愚痴っていた人間が作ったとは道程思えない丁寧な出来で、ついつい笑ってしまった。アイツは本当に、言ってる事とやってる事が真逆すぎる。
しんどいだの面倒くさいだの大騒ぎしながら世界を救ってしまうのだから。
「ねえサンクレッド」
「なんだ?」
「流石にそろそろいいんじゃないかしら」
もう誤魔化して引っ張る必要もないのでは?と、暁の魔女からのありがたい助言だが、それはまだ受け入れ難い。そもそも受け入れる予定もない。なにより。
「本人から何も言われてないからな」
欲しいと言われてもないものは与えようがないのだ。どれだけ目線や態度が雄弁に物語っていようとも。
「あなたが最後まで手綱を持ってくれたほうがこちらとしては安心なのだけれど」
「俺が縛り付けていい男じゃない」
「何を今更」
「決定打にはしたくないんだ」
……意地の悪いこと」
意地が悪いのはどっちだ、解ってる癖に。と返したくとも、3倍で返ってくるのが目に見えたのでやめにした。ヤ・シュトラはともかく、周囲から見たら自分がどうこうできるように映るのだろう。そもそもあの男は誰にも縛ることなどできない。誰より先に首輪を付けようとした俺が言うのだから、説得力もあるだろう。

あれは転がる石だ。
本人でさえどう転がって行くかコントロールできないものを、俺がどうにか出来る訳がない。

運命に愛されてしまったらしいあの男を縛り付けられる人間など、この世の果てにもいやしないだろう。これからも、この先も。
俺に出来る事といえば、少しばかり露払いと、些末な尻拭いだけだ。
「難儀なものだな」
ボソリと呟いた俺に視線だけで答え、ヤ・シュトラはまたティーカップに手を伸ばす。
テラスを抜ける心地よい風が、頬を撫でて行った。

END