出久と結婚した。紆余曲折あったが、出久と! 結婚した! 俺は毎日幸せを噛み締めている。新婚だ、浮かれて何が悪い。仕事の関係で出久と顔を合わせられない日も少なくないが、それでも俺は毎日幸せだ。
そしてやってくる、入籍後初の出久の誕生日。付き合っていた頃は色々こだわったプレゼントをしたり、デートを考えたりもしたが、俺たちは既婚。毎年あんなにこだわったことを考えていたら、この先のウン十年、大変な思いをする。
と、いうことで。
「今年は花束だな」
自分の両親がお互いの誕生日に何をやっていたか思い出すと、両親はケーキと花束を贈りあっていた。ババアが喜んどったから出久も喜ぶとは限らないが、花束を抱えている出久を、俺が見たい。絶対にかわいい。
もし、出久が花束を喜んでくれたら、俺は毎年、出久に似合う花を選ぶことができるという、メリットしかないプレゼント選びができる。
さて、記念すべき第一回の花束を何にするか。ここが重要である。ここで手を抜くわけにはいかない。第一回は、こだわり抜かねばならない。
出久に似合う花はなんだろう。つーかアイツ、花とかわかるんか。そう思って、ストレートに聞いた。好きな花はなんですか?
「お花かぁ。お母さんは芍薬とか、ああいうお花が好きなんだよね。カーネーションばっかりじゃなと思って、母の日に芍薬をあげたことがあるんだけど、とっても喜んでくれて」
引子さんについて詳しくなれた。今度、お義母さんへ花を贈る機会があれば、そのラインナップでいこう。
じゃなくて。
「おまえは?」
「僕? 僕はまぁ、なんでも好きかな」
なんでも好きが、一番困るだろォが!
しかし、意外と出久も花に詳しそうだと思った。花に詳しくないヤツが、芍薬だの何だのを母の日に贈らないだろう。
そして、そう思う程度には、俺にも花の知識がある。
何を隠そう、俺は両親からの影響で、花言葉も多少嗜んでいる。おまえに愛の言葉を贈る準備はできてんだよ、出久! なんでも好きとか、みんな特別は誰も特別じゃねぇんだよ……。
いけない。落ち込みかけた。俺はもうそれを乗り越えた。出久に徹底的にアプローチをかけ、ぶつかり合い、決して引かず、押してダメならもっと押せの精神で押した。出久相手に一歩でも引いたら、どこかへ飛んでいってしまうのだから。露骨なまでにアイラブユーをアピールできる人間だけが、出久の特別を勝ち取ることができるのだ。
露骨、か。
紆余曲折を経て出久と結婚できたが、俺は今でも引くつもりはない。性に合わない。出久に対してはいつだって全力でいたい。
実は、贈る花については、一つ候補が浮かんでいる。というか、これしかねぇと思っている。
ひまわりだ。
俺は出久だけを見て生きてきたし、これからもそうだ。花言葉にも不足なし。あと、ひまわりと出久の相性がいい。かなりかわいい。想像するだけで顔がにやけそうになる。
ブーケはオールマイトカラーになるように依頼するのはどうだろうか。包装紙は青、リボンに赤と白。派手すぎるか? いやいや、出久なら喜ぶ。
ひまわりの花束を抱えて微笑む出久、見てぇだろ。俺は絶対に見たい。
だが、大事な誕生日プレゼントを、俺の自己満足で決めていいものだろうか? やはりこの先苦労するとしても、付き合っていた頃のように、出久のほしいものをリサーチして、それを贈った方がいいのではないだろうか?
俺は悩んだ。表に出しているつもりはなかったが、切島たちに心配されてしまう程度には、悩んでいた。
そして、切島たちに気づかれるくらいなので、当然、こいつにも。
「かっちゃん、なにか悩んでること、あるよね? 僕じゃ力になれない?」
心配そうに出久がそう尋ねてきた。むしろ出久以外にはこの問題は解決できないが、出久本人に聞いてしまうのはアリなんだろうか。
ここで、なんでもないと答えるのは簡単なことだ。それにより、俺と出久の間には距離ができる。その小さな距離が、いつか致命的な溝になることが、俺は怖かった。
「おまえにしか解決できねぇことを、毎日考えとった」
「え? なに?」
「……ダセェんだけど、よ」
「かっちゃんがダサかったことなんてないよ」
「……おまえの、誕生日プレゼント。何にするかで悩んどった」
ダサい。出久の前では、なんでもスマートにこなすカッコいいかっちゃんでいたかった。すごいやかっちゃんと言われた時、俺がどれだけアガるか、出久はわかっていない。わかってなくてもいいが。
何も言わない出久。出久の顔が見れない。付き合ってる時はがんばってくれたのにとか思っているだろうか。
「……かっちゃん」
俺は奥歯を噛み締める。そんな俺の手を、あたたかい手が包み込んだ。
「ありがとう、かっちゃん。たくさん考えてくれて」
優しい声が聞こえて、俺は恐る恐る顔を上げる。出久が、柔らかく微笑んで俺のことを見ていた。
「かっちゃんは怒るかもしれないけど、僕、かっちゃんが選んでくれたものなら、なんでも嬉しいと思う」
「その辺の石ころでもか」
「かっちゃんが考えてくれたなら、嬉しい」
出久なら、そうだろう。俺が視線を逸らしたのをどう思ったのか、出久は慌てて付け足した。
「違うよ。プレゼントなら全部嬉しいわけじゃなくて、かっちゃんだからだよ」
出久が、コホンと咳払いをする。
「と、特別、だから!」
言っちゃったと言わんばかりに顔を赤くしている出久を見て、胸が軽くなっていくのを感じた。そうだった。俺は暖簾に腕押し状態だった出久に対して、押して押して完全勝利をしたのだった。特別を勝ち取れるのは、露骨なまでにアイラブユーをアピールし、諦めない人間だけ。
そう、俺だ。
出久の左手でキラリと輝いている指輪を撫でる。出久も俺の手を優しく撫でてくれた。
「かっちゃんが僕のためにそんなに考えてくれてるって思ったら、それだけですっごく嬉しい。僕って性格悪いのかな?」
「ンなわけねぇだろ」
「ふふ、誕生日、楽しみだなぁ」
「プレゼントは石ころかもしんねぇぞ」
「だから、嬉しいってば」
ころころと出久が笑う。もう、俺の憂いは晴れていた。俺が出久のためを想って選んだものなら、なんでも嬉しいという出久。年がら年中出久のことを考えている俺。ベストカップルである。
好きだなと思う。出久のことを好きになって、出久が俺を選んでくれて、本当によかった。
こうなったら、でっけぇ花束にするか。いや待て。我が家には花瓶がない。危なかった。花瓶も買ってこよう。しかし家に飾るとなると、でっけぇ花束は現実的じゃねぇか。
気分としては九十九本の花束にしたいところだが、ここは現実的に考えねば。そんなでっけぇ花束、どうするんだ。家中ひまわりだらけになって、実家や近所にもお裾分けしたって間に合わないくらいの量になってしまう。
決めた。九本だ。九本でブーケを作ってもらおう。包装紙は青で、リボンには赤と白。これにしよう。
花瓶はどうすっかな。花瓶はシンプルな方がいいよな。これから毎年、花を飾っていくわけだし。末永く使えるデザインのものがいい。
「首洗って待っとけ」
「うん!」
そうして俺は、花束を予約した。
九本でもひまわりはかなりの存在感があり、でっけぇ花束になってしまった。ド派手な配色かつ、でっけぇ花束を抱えて歩く俺はさぞかし目立っただろうが、誰にも写真は撮られなかった。
ひまわり色に、青い包装紙、赤と白のリボン。やたらと浮かれて歩いている俺。俺の伴侶がオールマイトオタクなのは周知されている。その辺りを踏まえて、誰に贈る花束なのか察しがつかないヤツの方が少ないだろう。店員にも、なんだかぬるま湯みたいな眼差しを向けられていた気がする。
出久は大喜びして花束を受け取ってくれた。やはり、出久とひまわりの相性はいい。かわいい。写真も撮った。かわいい。全世界に自慢する用と、俺だけが見られる用の出久を撮影。かわいい。ひまわりで大正解だった。
さて、来年は何の花束にしようか。来年は出久をイメージして、緑色ベースでもいいな。その次は俺のイメージにしてオレンジとか? オレンジと緑でもいいな。楽しみだな。
鼻歌を歌いながら、新しい花瓶にひまわりを生けている出久を見ながら思う。シンプルな花瓶だから、どんな花を飾ったっていい。
俺はこれから、毎年出久に花を贈る。
花言葉にも、もっと詳しくなるだろう。俺はそれが嬉しくて、胸が温かくなる。
数年後、出久に「え!? かっちゃんって、花言葉知ってたの!?」と失礼すぎることを言われて少し喧嘩になるのも、また幸せの形だ。
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