syanpon
2025-07-15 01:18:51
1672文字
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最後に私の手を取って

オトスバ
学パロ 現パロ


 ナツキスバルが美しいかと問われれば、世間一般的な答えは否であろう。
 しかし、俺が、私だけが彼の美しさを知っていると心に秘めているものは少なくはない。
 朝露が滴り落ちできた水溜りに淡く色づいた空が反射した時のように、道の端にポツポツと咲く名も知らない野草のほんのりと色づいた彩色に気がつくように、自分だけがこの瞬間の彼が美しいと。そう考えているものの多いこと!
 しかし、自分だけが知っている彼と思いつつもそれを口にしないため、その独りよがりな共通認識は優越感から独占欲へとその形を変えていく。
「全部妄想なのになあ」
「なんか言ったか?」
「あんたが可愛いねって言ってました」
「いやそれは嘘」
 オットーの横で猫のような瞳をぱちぱちとさせながらスバルが問いかけてくる。可愛いと思っていることに間違いはないためオットーはそのままスバルの頭をふわりと撫でた。
 再度瞬き。なんだよとくすぐったそうに笑ってスバルはオットーの手のひらの方向にほんの少しだけ頭を傾けて甘えるように擦り寄った。
「オットーって本当物好きだよな」
「と言いますと?」
「俺みたいな男を可愛いって言っちゃうところとか」
 乾いた笑いが出てしまいそうなところ、オットーはグッと自身の頬の内側を噛み唇の端を吊り上げ笑みの形に変えることで耐え抜いた。
 この男は本当に何にもわかっていないのだ。
 自分にどれほどの魅力があって、どれだけの人間が彼の知らないところで狂ってしまっているのかを全く知らずに生きている。
 オットーが頭を撫でる手のひらをまろい頬に滑らせた時に突き刺さる視線の意味だってきっと知らないし視線にすらこの男は気がついていない。
 今日も男は困ったような、呆れたような顔をしてオットーに語りかける。
「お前、本当俺のこと好きだよな」

 ***

 ぴらり、擬音にすればいささか間抜けな音だ。オットーの目の前に一枚の紙がスバルによって差し出された。
「なんですか、これ」
「こっちのセリフだよ」
 ずいぶん気の抜けた声と共に差し出された殴り書き、要約するとオットーにスバルは相応しくないから離れるべきという言葉がほんの少し走った文字で書かれてある。その紙を受け取って裏返し、そのままくっつけた机の真ん中に置いた。
「それで、どうするんですか?」
「んー?オットーこれ縦に半分にして」
 僕が紙を言われた通り半分に折ってやれば、受け取ったあとスバルはそれに何度か折り目をつけていく。たちまちその悪意はよく飛びそうな紙飛行機へと進化した。
「じゃじゃーん」
「器用なもんですねえ」
 そう正直に褒めてやればスバルは得意げに、ほんの少し照れくさそうに鼻の下を擦って笑った。
 そのまま紙飛行機はスバルの手から美しい放物線を描いてゴミ箱の中へと着陸する。
 その姿を眺めながらオットーはゆっくりと目を細め、ハイタッチをしようと手を伸ばす男の手のひらに触れてやるのだ。

***
 
 美しいものはその美しさを守るために人の手によって囲われることが多くある。
 自然ならば柵を立てて、法を唱えて。宝石ならばその美しさに値段という名の価値をつけて重厚なケースの中に。
 人は美しいものに対してどこまでも慈しむことができるが反面どこまでも横暴だ。
 
 美しい青空を映す水溜りも足を踏み入れれば泥と混ざるし、持ち帰った蒲公英は根を切られ萎れて枯れていく。
 自分が見つけたものはどうしてもいいだなんて、そんな傲慢さと愚かしさを抱えている。
 いくらオットーがスバルの目に触れないように、聞こえないようにしたところで形のない妄執はすり抜けてしまう。
 
 だからオットーはスバルにその妄執が全て溢れ出てしまうほどの愛を注いでやろうと決めたのだ。
 愛なんて言葉でこの人が傷ついた時に本当の愛はオットーの手のひらの温度なのだとスバルが気がつくことのできるように。

 綺麗なものは綺麗なままで。
 美しいものは美しく。
 今日もスバルはオットーの愛の中で笑っている。