himuri
2025-07-15 00:50:12
1938文字
Public #鋼徹ワンドロワンライ
 

【村荒】見えないところを見てみたい

第9回鋼徹ワンドロワンライ お題 「帽子の下」で参加します。





まだ出会って間もなかった頃、ふと疑問に思った事があって、それが荒船の帽子の下、いわゆる髪型についてだった。
「荒船って、全然帽子取らないんだな……
「そんなことねぇぞ。普通にとる」
「じゃあたまたまか……
 どのタイミングで会っても帽子を被っているものだから、何か理由があるのか、等とつい深読みしてしまったものだが、実際は特段の意味はなかった。
「いつも被ってるから外すと変な感じするんだよな」
……確かに変な感じ、するかも」
「まぁよく言われるよ、帽子は俺の一部だ、とかな」
 言いそうだな、などと、最近知り合った同年代を見ていて思う。しかしさすがに制服の時にも帽子を被っていた時は本気で驚いた。
「いつか帽子外してくれるか?」
「変な事言うなよ、普通に外すだろ」
 確かに変な事を言っている自覚はあったものの、荒船の帽子の下、というのは、その頃の村上にしてみればパンドラの箱のような感覚で、暴いていいものか、判断もつかない状況だった。
 そして今にして思えば、この段階で村上は荒船に対し、明らかに強い好奇心を抱いていたのだ。思い返すたびに、たぶんあれが最初だった気がするな、なんて思うのだった。

 そして実際、帽子を外すシーンは案外あっさり訪れたのだった。

 その日、突然の大雨に降られた荒船が、ボーダー本部にたどり着いた頃には、同様に大雨にやられて濡れねずみ状態の隊員が続出していた。
「た、大変だったな……
 そんな荒船を出迎えたのは、弟子の村上だった。
「なんだよ、おまえ平気だったのか」
「間一髪」
「運がいいな」
「今回に限っては本当にそう思うよ」
 本部の隊員用の入口付近の床が濡れて水たまりが出来そうな状況に、タオルが支給されたのはそのすぐあとだった。
「ほら、荒船」
「サンキュ」
 村上がもらってきたタオルを受け取る。と、当然なのだが、荒船が帽子を取った。

「あ」

 思わず声が出た。
 荒船の髪が見えた。濡れそぼっておそらく普段とも違う状況だろうが、思ったよりも短い前髪が見える。明らかに帽子で隠れていた部分だ。
 そんな髪型だったんだな、と思わず口に出してしまった。
「おう、そういやこれで種明かしか」
「確かに」
「もったいぶっとけばよかったな」
「なんでだよ」
 荒船の髪がどんな風なのか、よくわかっていなかったのは確かだ。だがもったいぶるようなものでもない。……特に、村上以外にとっては。
 とはいえ、なんだろうか。その謎だった部分が暴かれた事が、後ろめたいような、嬉しいような、不思議な感覚で。
 荒船は、タオルでごしごしと髪を拭いている。実際ぽたぽたと水が滴る状況だ。
「鞄の中も濡れてるよな」
「あー、そうだな……
 はぁ、とため息をつく荒船は妙にプライベート感があって、「師弟」という関係だった頃の村上には妙に刺激が強い気がした。
 そして当然ながら、自分で「刺激が強いな」と思った事に首を傾げる。
 タオルで頭を隠すように覆った状態で、荒船は床に置いた鞄を広げた。当然中に入っていたものも結構濡れていて、ノートなどは明らかに湿っている。
「あー、畜生……
「乾かしたら何とかなりそうか?」
「そりゃ何とかなるけどよ」
 いつもの通り、を演じながら村上はおそるおそるタオルに手を伸ばした。
「なんだ?」
「いや、……髪が見えないの、もったいないなと思って」
……ん?」
「あ、えーと。なんか珍しいからさ
 もごもごと言い訳していれば、荒船は破顔した。
「なんだよそれ、おまえ本当におかしいぞ、どうした?」
「どうしたもこうしたもないんだけど……なんかもったいないなって思うんだよ」
 そういえば水も滴るいい男とか言うんだよな、と。
 その時はまだ荒船に対する気持ちに気づいていなかった村上は、その時芽生えたものに対して、そういう昔からある言葉で自分を納得させようとしていたのだった。

 そして、今にして思えば、本当に最初の芽だったんだな、と。
……なんだよ?」
「別に」
 同じく大雨に降られたその日、同じ状況になって、タオルを手渡した村上は、何年か前を思い出して、苦笑いするしかなかった。
「ただ単に、俺って本当に荒船の事、好きだったんだなって思っただけだよ」
……おう」
 荒船はよくわからない、という顔でタオルを使う。村上は、あの時は出来なかった、荒船の髪を乾かすのを手伝いながら、しみじみ笑ってしまうのだった。



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ひむり
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