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みすず
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創作
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こみこず
ダブルデート。
「あー、やっぱ迎えに行けばよかったかなあ」
「それな。ナンパとかされてないか心配なんだよな」
今日は愛廻とのデートである。彼の親友の恋も一緒にいて、その彼の恋人である國正の親友の翔もいるのでダブルデートであった。このこと自体は何回かあるので國正に違和感もない。
示し合わせたわけでもないのに待ち合わせ場所にやたらと早く来た國正と翔がだらだらと会話しているところに「お待たせ〜!」とかかった恋の明るい声。見れば愛廻と恋が並びながら手を振ってこちらへ向かってきており、國正は反射のように愛廻へ駆け寄ろうとしたのだが、目があるものに釘付けになってしまってその足は止まる。
鎖骨。
愛廻は夏に相応しく涼しげな装いをしていた。半袖から伸びる腕は眩く、シュシュで結んだ髪も指先に施されたネイルもいつも通り、いや、昨日よりもさらに増して可愛らしい。ベルトで締められた腰は心配になるほど細くて國正はいますぐ腕を回して抱き寄せたくなったのだが、そんな気持ちのさらに上に被さるように存在感を主張する鎖骨。
愛廻は主張しているつもりなどないかもしれないが、國正の目は寛げられた襟元から覗く彼の鎖骨に釘付けになる。釘付けになったし、視線を一切動かさないままスマホのカメラを構えた。そのことに愛廻より先に気づいたのだろう恋が愛廻に何事か囁けば、ふたりは同時に腕を交差して伸ばし、所謂ギャルピースをする。これがもうとても似合っていたし、愛廻も恋もネイルが丁寧なので指先までも映えるようだった。
「いえーい!」
「え、かわいっ」
声を揃えてはしゃぐ愛廻と恋に國正が言っている間に、隣でスマホを構えた翔がふたりの姿を連写している。彼も恋の珍しく髪を結って露わになった頸やゆったりとした上着を羽織った姿が可愛らしくて仕方ないのだろう。気持ちは分かると思いながら國正もシャッターを切った。
「会って即行写真撮るのうけるね」
「恋が可愛いから当たり前」
「そなの?」
側まで歩み寄ってくすくす笑う恋の手を取る翔を視界の端に、國正は勢いよく愛廻に抱きつこうとして暑いかと思い直し、代わりに彼の両手をぎゅっと握る。
「あの、今日の服もめっちゃ可愛い
……
髪も、爪も
……
全部可愛い」
「へへ
……
ほんと?」
「ほんとう!」
「そっかぁ
……
ふふ、嬉しい。えと、写真可愛く撮れた
……
?」
「うん、見る?」
名残惜しく愛廻の手を離して撮ったばかりの写真をスマホに表示させれば、嬉しそうにする愛廻が「送って送って!」と言うので國正はメッセージアプリを介して写真を送った。可愛らしいうさぎが大きなハートを掲げているスタンプも送った。すると愛廻が照れ笑いを浮かべながら猫がハートを抱きしめるスタンプを返してくれる。すぐ目の前にいながら交わすやり取りは不思議と胸がどきどきした。
「全員でも撮ろ!」
恋が手招く。
國正は写真を撮る一瞬であれば、と愛廻の腰を抱き寄せて頭もこつ、とぶつけてくっついたし、翔はがっつりと恋の肩を抱くという四人で写っているのにそれぞれが誰と付き合っているのかがはっきり分かる写真が撮れて、四人はくすくすと笑った。國正は愛廻が照れてふにゃふにゃと眉を下げながら笑うのが可愛くて、その横顔も撮った。
集合した直後から賑やかにひとしきり楽しんだ四人は事前に行こうと決めていたカフェへと向かう。季節の果物を扱ったパフェとケーキが有名なカフェはいまの時期、桃とメロンの新作を打ち出していた。
真夏のまっぴかりのなかを歩くのはつらいと早めに来たのがよかったのか、カフェはそこまで混雑しておらず四人は並ぶことなくテーブルへ案内された。四人掛けのテーブルに國正は愛廻と、翔は恋と並んで座る。
「うー、まだ決められない
……
」
「どれと悩んでるの?」
「桃のパフェとケーキ
……
」
「じゃあ、俺がどっちが頼むから愛廻好きなほう頼みなよ。分けっこしよ」
「
……
いいの?」
「もちろん」
メニューを見てむむっと悩む愛廻に提案すれば、彼はぱっと顔を輝かせた。それからもう数秒悩んでから「こっち!」と桃のパフェが載るメニューを指差した。オーバルに整えられたネイルが長い指を引き立てている。國正はついその手を取って手の甲にちゅっと口付けをしかけ、店内であると我に返り頬へあてるだけにした。
「ぁ、わ
……
」
「ごめん、つい」
「仲良いねぇ♡」
「
……
そっちも相当じゃない?」
「なにか悪いか?」
「
……
ぎりセーフかもな」
翔と恋は腕を組んでぴったりとくっついている。教室でもよく見かける姿である。教室であればそのままぐりぐりと相手に頭を擦り付けて懐いたり頬へキスをしているので、店内であるという理性が利いているのだろう。
店員を呼んだ際もきちんと身を離して注文したのだが、店員が行ってしまえばつい手を握ったり指を絡めたりとしてしまう。他の席のカップルも似たような状態なので、彼らが特別はしたないわけでもないだろう。
授業のこと、このあと行く遊び場のこと、プールへ行こうなんていう計画を賑やかに話していれば注文したメニューはすぐに届き、テーブルの上は宝石を並べたようにきらきらとした。
「わ、可愛い。見て見て。チョコレート、ハートの形になってる」
「写真撮ろ! 翔、もっとこっち寄って」
「ちょっと待って」
メニューが映るようにテーブルの中央に寄せて、四人はテーブルへ身を乗り出しながら腕を伸ばす。今度は四人でのギャルピース。態とらしいほどのキメ顔に弾ける笑顔。やり慣れない國正と翔は少しばかりぎこちなかったけれど、愛廻も恋も気にした様子はなく写真を保存している。
賑やかに撮影が終わればケーキとパフェに向かい合う高校生たち。國正は桃のケーキをひと口掬ってから愛廻を呼ぶ。
「ん? わ、ぁ」
「はい、あーん」
きょろりと周囲を見渡した愛廻だけれど、向かいの席では恋が翔に「あーん♡」とやっているのを見て。きゅっと目を瞑ってから口を開けた。
小さな口から覗く舌と歯が可愛くて、危うくキスしてしまいそうになるのを我慢しながら國正はケーキを愛廻の口元へ運ぶ。
「ん、む」
「美味しい?」
「
……
ぉいし、けど
……
よく分かんない。心臓、どきどきしすぎるよぉ
……
」
赤い顔をぱたぱた両手で扇ぐ愛廻に、これでなにもしちゃいけないのはそれこそマナー違反ではないかと國正は思った。湧き上がる愛廻への愛情も可愛らしくて堪らないという気持ちも離したくなくてずっと側にいたいという願いも、抱きしめてキスをすればきっと全部伝わるというのに。
難しい気持ちでケーキから桃を一つフォークに刺して食べれば、桃がじゅわりとふわふわしたスポンジとともに口のなかで蕩けていく。
「
……
うん、確かによく分かんないかもね」
「え、ぁ
……
國正君も
……
?」
「間接キスだっていま気づいたから」
愛廻が首まで赤くなるので、自然と國正は視線を彼の鎖骨に向けてしまう。制服姿のときも見えているけれど、そのときはもう少し大人しめであったように思うのだ。いまの愛廻の服装は胸元近くまで襟が開いていて少し色っぽい。だから「あとで覚悟してね」なんて呟いてしまった。
「か、覚悟
……
?」
「俺にめちゃくちゃ可愛がられる覚悟」
沈黙して愛廻が國正の肩へ凭れてくる。片腕に抱きつく姿は少しだけコアラのようでもあった。
「
…………
してるから、いっぱい可愛いがってほし、ぃ」
ぽそぽそと呟かれる声に國正は目を瞑り、微笑を浮かべながら頷く。
「この可愛い子、俺の恋人なんですよ
……
」
「知ってるー。ってか、愛廻。パフェのアイス溶けるよ」
「え、食べる!」
「恋、こっち向いて。あーん」
せっせとパフェを食べ始めた愛廻だけれど、絡んだ腕はそのままで。不自由そうなのにちっとも放される気配がないことに國正はでれでれとしてしまう。
その様子を面白がった恋が撮ってくれた写真はもちろん送ってもらう。
なんとも幸せいっぱいな写真は今日だけで何枚増えるだろうか。
夏も青春も真っ盛り。恋に忙しい若者たちであった。
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