ななき
2025-07-14 01:24:19
1824文字
Public 吸死
 

雨を待つ日の話

(読切・ドラロナ未満)
 「お友達」でアオハルじみるドラ氏とやや大人マジロ。
25.8.19 修正

 ドラルクにとって、ロナルドという退治人ハンターは出会いからもう十分すぎるほど特別な人間だった。
 突然城に乗り込んできてネタになれと迫り、こちらが死ねば律儀に復活を待つ。ハードボイルドを気取りたがっているのは一目見ればわかるが、気取れていないこともすぐにわかった。どこかアンバランスな精神をした、しかし善良の枠からははみ出せない人間の青年。引っ張り回されて巻き込まれて一緒にいるのが、楽しくて楽しくて楽しくて。
 
「面白いから友達になりたいと思ったのは確かだよ」
 愛する使い魔に言い訳をしてみる。
「ヌヌヌチ?」
 ふうん?と首を傾げるアルマジロは、退治人に会ったことが実はまだない。だから、ちょっと気にくわないようなのだ。ドラルクが、自分の知らないところで新しいを作るのが。
「そう、お友達。の、つもりだったんだがなぁ……
 使い魔を撫でる手と反対にはスマートフォンがある。画面の中で、ドラルクはさっきから何度も叩いているメッセージアプリのアイコンをまたタップした。閉じては開いて、また閉じて。待っているのはロナルドからの返信である。
 
 初めて、ドラルクから送った。
 いつも向こうから『今日行く』とか『仕事(URL)』とだけきて会話には全然ならないトーク欄に、『遊びにこない?』とだけだけれど、初めて。
 そのたった一言を作るのに、書いたり消したり足したり引いたり一時間。さらに送信ボタンを押すのにも一時間かかった。そして送ったら今度は返信が待ち遠しくて待ち遠しくて意味もなくアプリを弄っている。既読すらまだついていないというのに。
「わかっているよ。これじゃあ、まるで、」
 その先はさすがに気恥ずかしくて使い魔にも聞かせられない。初めて恋したティーンエイジャーみたいじゃないかなんて、とてもじゃないが齢二百を超えた高等吸血鬼としては口に出せなかった。
「でも、もう一月も会ってないんだ。たまには私から誘ったっていいじゃないか」
 また使い魔が、ふうん?と今度は反対側に首を傾げる。今度はちょっと含みのある、ふうん?だ。主人のしゅわしゅわしたサイダーみたいなというには遅すぎる青春の気配を面白がる、ふうん?なのだ。
「ヌヌヌヌ、」
 面白がる雰囲気のまま、使い魔が言う。「それなら、今から来てって送れば良かったのに」「今すぐ君に会いたい、って」。
「い、会い、……ジョン~~!」
「ヌヒャ~」
 白い腹毛をもしゃもしゃと撫でていると、ドラルクの手の中でスマホが振動した。メッセージ。送り主は、待ち人の名。
「!!」
 情けなくも震える指先でアプリを起動する。
……? 天気予報、だな」
 送られてきたのは関東一帯の天気予報のスクリーンショットだった。おおむね、今日は曇り、明日から雨、雨、雨。
 雨続きは憂鬱だ。弱体化した今のドラルクは流水も当然苦手だから。しかし遊びの誘いへの返答でこれはどういう意味だろう、とドラルクが謎解きモードに入ろうとしたとき、再びメッセージが表示された。
『明日行く』
『雨だから暇になる』
 明日! 雨だから、明日!
 憂鬱など吹っ飛んだ。
「退治人くん来てくれるって!」
 使い魔を抱いてドラルクはクルクル回る。紳士の振る舞いではないが嬉しくてたまらない。大家あたりに見られたら、からかわれること必至だが、ジョンしかみていないのだし存分に嬉しさを表に出しておく。
 もう一度メッセージを眺めて確かめて。……はた、と雨マークは三つ続くことに気がついた。もしかして、と期待が膨らむ。
「雨だから来てくれるなら、雨の間はいてくれるかな? お泊まりってやつ!? まだ遊んでないゲームあったかねぇ!?」 
 え、お泊まりですることゲームなの……?! と腕の中のアルマジロが呆気に取られたように呟くので、浮かれた気持ちを咳払いしてクールダウンする。
「あぁ、わかってるとも。退治人くんは忙しいからね、無理に引き止めるつもりはないさ。でも料理の下拵えを多めにしておくくらいは、……どうしてそんな生ぬるい目で見るんだい、ジョン」
 ううん、ドラルク様大好きだなって。
「私も愛してるよジョン! 明日は退治人くんにご挨拶だ!」
 めったに開けない窓を開ける。雲間には満月にほど近い月が煌々と照っていた。いつもなら好ましい月光が、今は少しばかり忌々しい。
 
 ああ本当に、早く雨になればいいのに!!