mochita_rj
2025-07-14 00:57:28
5500文字
Public
 

【露仗】カッコよくてつれなくてかわいいあなたが好きなんです

体調崩したきしべを助ぴが看病する話。

熱で幼くなったかわいい俺様攻めを目ざしたら、きしべが変な赤ちゃんみたいになった

 風邪を引いた。今日は家には来るな。
 
 学校帰りに開いた携帯の画面の中、淡々と一言だけ書かれたメールを見た瞬間、おれは見間違いなのかと二度見した。露伴とはもう1年以上の付き合いになるが、その間1度だって体調を崩した姿を見たことがなかったからだ。あの露伴が?生活リズムも運動習慣もバッチリの健康体なのに?
 
「へえーッ、露伴センセーも風邪なんか引くんだなァーッ」
「そうだよなァ~……っておいバカ億泰!勝手に人の携帯見んじゃあねえよっ!」
 
 アイスを食いながらしれっと携帯を覗き込んでやがる億泰に、思わずおれは携帯を抱きしめるように隠す。当の億泰はのほほんとアイスのコーンを齧っていて、仕返しにトッピングのチョコをぶんどってやった。あーっ!なんて叫んでるが知らねえ、おれは今機嫌がよろしくねえんだ!
 
「わざわざ隠さねえでもいいじゃねえかよ~まさか続き見たらラブラブ~なメールだったんかァ?」
「はぁっ?そんなワケねー……はあぁ……
「なァんで落ち込むのよ、そこで」
 
 おれだって、と言いかけた続きはため息に変わった。おれも叶うなら、露伴とその、ラブラブなメールってのをしてみてえよ。というのも、露伴と付き合ってもう1年程になるが、露伴は未だに冷静さを崩そうとしない。もっと端的に言うと、バカになってくれないのだ。
 好きって言えば「はいはい」なんて流されるし、メールのやり取りだって、「下手な事書いて誰かに見られたら困るのはきみだぜ」とあまり乗り気じゃあない。現に今届いたメールだって、一応スクロールしてみたけど、当然のように恋人らしい事は何も書いてなかった。チコっとは好きだよ、とか書いてくれてもいいのに……おれは浮かない気持ちのまま携帯を閉じつつ、自宅とは反対方向へつま先を向けた。
 
「はぁ~とにかく。お見舞い行ってくるわ」
「んん?センセー来んなって言ってンのに?行くのかァ?」
「いーの。おれが行きたいから勝手にさせていただくんだよ」
正直、おめーらが1年続くって思わなかったぜェ
おれもたまーに、そー思う」
 
 億泰にじゃあなと手を振り、おれは見舞いの品を買い込むべくカメユーへと向かった。なんで来たんだよとか呆れられるかもだけど。恋人としてお見舞いとか看病をしねえほど、おれは冷てえ人間じゃあねえ。それに、好きな人があんな広い家で1人寂しく寝込んでたらかわいそうだし、心配に決まってる。おれは「また言うことを聞かなかったな!」と文句を飛ばされるのを承知で、愛する恋人の元へ見舞いに向かうことを決心した。
 
 
 
 ***
 
 
 
 恋人の家の前で、おれは数分考え込んでいた。インターホンを押すかどうか、脳内会議を繰り広げていたからだ。もしも露伴が寝ていたら起こすのは申し訳ないし、もういっそのこと扉をブチ破ろうか?一瞬そちらに傾きかけたけど、前回もこれでネチネチと責められたことを思い出し、おれは大人しくインターホンに指を沈めることにした。
 
「はいあぁ?仗助?」
「ちわっす。体調どうスか?」
 
 ドアの向こうから姿を見せた露伴は、マスクをつけていてよく顔が見えない。熱は?ちゃんと寝ました?おれがあれこれと質問攻めにするも、露伴はきょとんとした視線をおれに向けていて、顔が半分見えなくても「どうして来たんだ」ってありありと顔に書いていた。
 
「きみ、メール見てないのか?……いや、見てなかったらその聞き方はしないな」
「うん、見ましたよ。だからポカリとか薬とか、色々買ってきた」
……
 
 露伴が何を言わんとしているかは、この冷ややかな視線だけでわかる。けど、おれは華麗にスルーしてビニール袋を露伴の前でゆらゆらと揺らした。
 
「へへ言うこと聞かねえですんません。でも恋人なんだからよォ、看病くらいさせてくださいよ」
……
 
 露伴は腕組みをしたまま、しばらく無言を貫いている。つれない反応なのは読めていたけれど!看病してくれ~なんて可愛く甘えてくる性格でもないのは知ってたけど!
 
そんなにヤだったっスか?おれ、無神経だったかなごめん。じゃあお見舞いの品だけ置いて帰るから、」
ああもう!きみは本当に!」
 
 本当に要らないお世話だったのかもしれねえ。もしかして、おれお節介だったかな。しょんぼりと肩を下げていると、露伴はデコに手をついてため息をついた後、くるりと踵を返した。おれが差し出していたカメユーの袋を受け取らずにさっさと部屋の方へ向かうもんだから、おれは慌てて顔を上げた。
 
「露伴?あのこれ、」
「きみが中まで持って来いよ」
「えっ」
……風邪うつっても知らないからな」
 
 一言だけ言って、スタスタと部屋へと向かってく。露伴の言葉の意味を理解した瞬間、おれはにまりと変な笑みが浮かんだ。今のは露伴なりの「いらっしゃい」ってことだ。もー!素直じゃあねえんだから!でもそれを口に出すと本当に追い出されかねないから、おれははーい!とだけ言って靴を脱いだ。
 
ん?つうかそっちは仕事部屋じゃあ、」
「何って、仕事するからに決まってるだろ」
「はあ!?寝込んでたんじゃあねえの?」
「ああそのつもりだったよ。だがな、ここで中断したらキリが悪いどうしても今日中に仕上げたいんだ」
 
 明日も午後から取材の予定があるし、と付け加えた露伴に、まだ働く気なのかと尊敬すら覚える。露伴は当たり前のように仕事部屋に入り、これまたいつものように椅子に腰掛けて書類をめくり始めた。看病に来たってのにまた放置かよ!おれは不満を感じつつもなんとなく露伴の横顔を眺めていると、ただでさえ痩けてる頬骨がさらに浮き出ている事に気付いた。
 
……露伴、なんかげっそりしてる。飯食った?」
「飯?いや、食欲湧かないから今日は食べてない」
「ええ!もう夕食の時間っスよ!?じゃあお粥は!?食えます!?」
「お粥?まあそれくらいなら食えるかな
 
 体調不良と言いながらも飯も食わずに机に向かい続ける露伴に呆れつつ、おれはすぐにキッチンに向かった。半分おれの私物と化している冷蔵庫を漁ると、贈答用のやたらと粒がデカい梅干しを発見した。これなら梅がゆが作れる。おれは手際よく米をはじめ食材を取り出し、火にかける。30分程で出来上がったお粥とコップに注いだ水をトレーに乗せ、おれは露伴の元へと急いだ。
 
「露伴、できたっスよ~ん?え、露伴!?」
「ッはぁッはあッ
 
 仕事部屋の扉を開けた先には、机に突っ伏して息を荒らげる背中が目の前にあった。すぐに食事を横の机に置いて露伴を抱えて起こすと、おれは露伴の体の熱さにギョッとしちまった。
 
「アンタ、熱あんじゃあねえかよ!」
 
 ぐったりと伸びる露伴を慌てて背中にしょって、寝室へと運ぶ。平熱が高めのおれですら、明らかに異常に熱いと感じる温度。もしかしておれが家に着いた時点でギリギリの状態だったのかもしれねえ。もー何で早く言わねーの!?もしも露伴に言われるがまま家に来なかったら、きっと、いや絶対に、1人でぶっ倒れていたに違いない。
  もどかしい気持ちのままに寝室の扉を足で開け、露伴をベッドに寝かせ、マスクを外してじっくりと顔を見つめる。咳とか鼻水は出てないみたいだけれど窮屈そうなヘアバンドも外して額に手のひらを当てれば、じんわりと熱が伝わってきた。
 
わるいな。仗助」
「あーもー本当、人を頼るの下手っぴっスねえ……
 
 いつも働きすぎなくらいなんだから、こんな時くらい無理するこたぁないのに。おれは露伴の髪を一撫でし、買ってきた冷えピタを取り出してデコに貼ってやる。この人は他人を寄せつけないひねくれた性格だから、今更頼ったり甘えたりできないんだろう。看病したがるおれを家の中に迎え入れたのも、きっと言い合いをする元気すら無かったからなのかもしれない。
 露伴、おれさみしいよ。もっとおれに甘えてくれたっていいのにって思ってる。いつも歳上らしく引っ張ってくれて、記念日や誕生日にはプレゼントを用意してどこかに連れてってくれる露伴もカッコよくて大好きだけれど。だからこそ、おれは露伴の全てを知らない気がして、たまにさみしくなっちまってバカバカ!病人の前で弱音吐くんじゃあねえ!おれは胸に小さな穴が空いたようなイヤな感覚を振り切るように、目の前のスプーンを露伴に差し出した。
 
「はい。食える分だけでいいから食べてください」
……いやだ」
「ええ?嫌って、何ですか」
「ぼく、あーんしてくれなきゃあ食べられない」
…………はっ?」
 
 何を言ってるのか脳が理解できず、おれはスプーンを掴んだままのポーズで固まってしまった。……今あーんしろって言った?え?露伴が?な、なんで?
 
「ろ、露伴熱出すぎておかしくなっちまったんスか?」
「ぼくはおかしくない」
 
 露伴は当然のように口を開け、まるで親鳥からエサを貰う小鳥の状態で待っている。いい大人がやるには滑稽な状況だけれど、おれは引くなんてことはなかった。いやむしろ、
 
「かわいい……ッ」
 
 思わず手で口を押さえて変な声が出ねえように耐える。どう見ても熱でうまく頭が働いてないんだろうが、まるで子どもみたいに幼くなっちまっている。下ろした前髪の隙間から冷えピタがチラチラと覗く額も、熱に浮かされてどこか遠くを見つめるような目も、今まで聞いた事がない舌っ足らずな口調も。全部が大人っぽい露伴とかけ離れていて、かわいくてたまらない。
 
「はやく」
「っあぁ、ど、どうぞ」
「んむ……うまい」
 
 お粥が乗ったスプーンを口元に近づけると、露伴は口に含んでゆっくり咀嚼している。飲み込んだ後はまた口をぱかっと開けて、おれがまた食わせてやるのを待ってるんだ。どうしよう、20そこいらの男に向けるモノではない感情が次々と浮かんじまう。
 
「ごちそうさま。腹一杯になった」
「あ、うん。お粗末さまです」
 
 おれが1人脳内で暴れている内に、露伴はおれの作ったお粥を全てたいらげていた。忘れない内にとおれはビニール袋を漁り、風邪薬を開けて露伴に飲ませる。薬も1人じゃ飲めないなんて言われたらどうしよう?なんてドギマギしてたけど、そこはすんなりと飲み下していた。
 
「じゃあ、ゆっくり寝てくださいね?洗い物しておれ帰るからうわっ!?」
 
 突然にも腕を掴まれ、食器に手が当たりそうなのを慌てて避けた。いきなり何すんだよ。露伴の方を向いてそう言いかけたけれど、おれは口を噤んでしまった。おれの腕を掴む手の弱々しさもそうだけれど、何よりむくれた露伴の目が、寂しいって訴えてたからだ。
 
 
「行くなよ。なんで帰るなんて言うんだ」
「へっ?」
「ぼくが寝てる間も傍にいろよ」
 
 拗ねた口ぶりと表情は、いつもネチネチとおれを責めてくるときよりずっと幼い。こんなふうに直接的に甘えてくるなんて初めてで、おれはさっきまでの暗い気持ちなんか吹き飛んでしまった。だって、露伴は好きって言葉すら滅多に言ってくれねえのに。今、おれに傍にいてって言った?マジで?
 
「な、なあ、露伴」
 
 メールでは来るななんて言ってたけど、本当は具合悪いときに一人ぼっちは寂しかった?でも素直に甘えられなかったんですか?来てみれば意外とすんなりおれを家に上げたのも、元気が無かったからじゃあなくて、おれが傍にいて欲しかったからじゃあないの?続ける言葉は沢山浮かんで、今の前後不覚な露伴に聞けば素直に答えてくれるかもしれねえ。だけど、
 
「?なんだい」
ううん、なんでもねえ。……ただ、」
「うん」
「おれ達って思ってたよりお似合いなんだなって、嬉しくなったんです」
 
 露伴の言うことを聞かなかったから、おれは結果として露伴の弱いところを見られたってことだ。今日のところはそれでいい。今ここで露伴に直接本心を聞かなくても、おれの勝手な行動で、きっと露伴はいずれボロを出す。
 おれは思わずきひひ、と悪い笑みが浮かびそうなのを頬を噛んで持ちこたえた。だってさ、「きみはぼくの言うことと違うことをする!」なんて露伴は怒ってっけど、案外そのおかげでおれ達のバランスは成り立ってるってことだ。おれは気にせず好きに露伴を振り回していいんだ。
 
ふふ。露伴、風邪治ったらデート行きましょうね」
「む何かごまかしてないか?」
「さー?どうでしょーね?さあ風邪っぴきさんは寝た寝た!」
 
 何か言いたげな様子の露伴に構わず布団をかけてやり、おれもベッドに腕を置いて突っ伏した。ちょうど家に帰っても誰もいねえし、今日は一晩くらいここで過ごしてもいいかも。ああおれまで眠くなってきちまった。露伴の匂いが染み付いたシーツに呆気なく眠りを誘われていると、頭上から「仗助、来てくれてありがとう。すきだよ」なんて、やっぱり舌っ足らずな声が聞こえた気がした。やっと言ってくれたの?おれもだよ、とか何とか返そうと口を開いたまではいいけど、眠気が先に来ちまって言葉にするのは叶わなかった。でもいいんだ。起きたらおれもいっぱい言ったげるから。
 
 そして、今からお前の記憶を消す、と背後に禍々しいオーラを宿し、鬼気迫る形相の露伴に追いかけられるのは数時間後の話。