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ふにょり
2021-06-05 23:15:51
4309文字
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迷子
FFTの超短編小説です。
ムスタディオがひょんなことでクレティアンさんに助けてもらうお話。
■ロークレ前提で書きましたがBL要素はありません。
■ほ○とにあった怖い話がモデルの怖くはない怖い話です。
小さな町を照らす穏やかな日射しの中、ムスタディオは一人店に向かって歩いていた。
買い出しはさっき仲間と行ったばかり。
……
しかし、うっかり銃に詰める火薬の予備を買い忘れてしまったのである。そのため一人とっかえしてきたのだった。
一緒に行こうかと言ってくれた仲間もいたが、すぐそこの店に火薬だけ買いに行くだけだからと断った。
「
……
てか、そもそも火薬があれば良いけどな」
独り言を呟いた直後、どこかから声のようなものが聞こえた。
「
……
?」
ぴたりと足を止める。風が吹き抜けていった。
気のせいか、と思いかけた時。
えーん、えーん
……
「子供
……
?」
らしき泣き声が聞こえる。辺りを見回しても木々と道の両脇に生い茂る草しか見えない。
辺りに民家すらない。それなのに子供の声が聞こえている。
ふと不安になった。もしかして迷子だろうか。
まだゴーグにいた頃、小さな子供がスラム街に迷い込み、誘拐されて売り飛ばされたという大事件があった。発覚した頃にはすでにその子を乗せた船は見えなくなっていたといい、子供がどうなったのかは未だにわかっていない。
泣き声はまだ聞こえる。放っておくことも出来ず、ムスタディオは道を外れて声の主を探しに行くことにした。
声を辿って少し歩くと、共同墓地にでた。こんなところに墓場があったのか。この町に入ってきたときは全く気付かなかった。
子供の声はだんだん近くなってきた。どうやらこの墓地にいるらしい。墓参りだろうか
……
?
墓地に生えている木の影に、小さなシルエットが見えた。あれが声の主のようだ。
そっと近づくとそこにはうずくまって泣いている幼い男の子がいた。
「お母さん、お母さん
……
」
母親とはぐれてしまったようだ。周りを見回しても、母親どころか人影一つない。
「どうした? お母さんとはぐれたのか?」
腰を下ろして聞いてみるが、聞こえていないのか子供は相変わらず泣いている。目を押さえる小さな手はぐしょぐしょに濡れており、ふっくらとした顎には大粒の涙の滴ができていた。
反応がもらえずムスタディオは途方に暮れた。
ゴーグでは行くとこ行くとこ自分が一番年下だったが、旅をすれば宿屋に経営者の子供がいることは少なくなかった。ムスタディオが纏う人懐っこい雰囲気からなのか、子供の方から寄ってくるのである。そのため遊んでやることも多かったから子供の扱いに自信がない
……
わけではないが、いかんせんこういう緊急事態に遭遇したことがなかったのでどうすればいいのかさっぱりわからない。
とりあえず無理はさせずに落ち着くのを待つか。だが泣き止む気配もない。
うーんと考え、とりあえずまた声をかけてみることにした。
「そんな泣くなって。どうしたんだ?」
肩を軽く叩くと、子供はやっと泣くのをやめて涙でびしょ濡れになった顔をあげた。
「お母さんとはぐれたの?」
できるだけ優しく、さっき言ったことをもう一度言うと、子供はこくんとうなずいて、また「お母さぁん」と叫んで泣き始めてしまった。
「そうか
……
。それなら、お母さんを探そう。兄ちゃんも一緒に探すからよ」
「お母さん、お母さあん
……
」
参ったな。ムスタディオは頭をかいた。
一度宿屋に連れていってラムザたちにも母親の捜索に協力してもらおうか。だがこの様子ではこの子は立つことすらままならないかもしれない。
だからといってこのまま放っておくこともできない。どうすれば──
「
……
何をしている」
後ろから声が聞こえた。振り向くと、白いローブを纏い、短い赤みがかった茶髪をオールバックにした細身の男が立っていた。顔は美しいが
……
なんだか圧を感じる。そういえばここは墓地だ。こんなところで騒いでいては、気を悪くする者もいるだろう。
「あ、すいません。この男の子が母親とはぐれちゃったみたいで
……
」
すると何故か男は怪訝そうに眉を寄せた。
「
……
この男の子、とは?」
「へ?」
言われている意味がわからず、気の抜けた返事を返してしまった。
だってここに
……
と足下を見下ろしたら、うずくまっていた筈の男の子の姿がない。
「え、あれ!? どこいった!?!?」
きょろきょろすると、すぐ近くの木の影で半ば隠れながらこちらの様子を眺めている男の子がいた。ただでさえ心細い中知らない人に声をかけられて、次はこの男が現れたせいで怯えてしまったのだろう。
すぐに駆け寄って小さな肩に手を置いた。
「大丈夫だよ。あのおじさんにもお母さん探すの手伝ってもらおう」
おじさん、と言ったとき男がますます不快そうな顔をしたのが視界の端に見えた。そう呼ぶには遥かに若そうなのは分かっているが、幼い子供を安心させるためだ。勘弁してほしい。
ね、と促すと、子供はまた無言で頷いた。
それを確認して、優しく背中をさすりながら男の前に子供を出した。
「この子! この子です! この子のお母さんを探したくて」
男はどういうわけか、戸惑ったように男の子を見、それからこちらの顔を見る。それから何かを悟ったようにほんの少し顎を上げ、くるりと背中を向けた。
「そういうことならついてこい」
それだけ言って勝手に歩き始めてしまった。
もしかして何か知っているのだろうか。淡い期待を胸に、ムスタディオは男の子の手を引いて追いかけた。
***
「ここって
……
」
案内された場所は、小さく古ぼけた三角屋根の建物だった。屋根の上には鐘がついている。
前を行く男は迷わずその建物の扉を開けながら答える。
「教会だ」
「いやそれはわかるんだけど
……
」
教会に良いイメージはない。そもそも教会が説く聖アジョラの伝説や神の話など胡散臭い物語にしか聞こえないし、聖石騒動で自分と父を酷い目に遭わせたのも教会が絡んでいた。そういえばあの男、高貴そうなローブを着ているが
……
まさか僧侶だろうか。
立ちすくんでいると、入りかけた男がこちらを振り向いた。
「何をしている。早く来い」
ぶっきらぼうにそう言ってさっさと入ってしまった。
どうにもならない。一応警戒だけしておこう。
腰にある銃の存在を確かめ、男の子を連れて建造物の扉を開ける。
外装は大分古そうだったが、中は案外きれいだった。町の教会という言葉がぴったり当てはまる、小さく素朴なチャペルだった。
男は何やら小道具を取り出して、ステンドグラスが掲げられた祭壇の前に立つ。
「私の背後に。二人は手を合わせて目を閉じろ」
「いやあの、この子のお母さんを──」
探したいんですけど、という言葉は振り向いた男の威圧的な目によってさえぎられた。「文句を言うな、黙って従え」という圧に飲み込まざるを得なかったのである。
「あまり機会はなかろうが、時には大いなる父の声に耳を傾けて見るのも良かろう」
「えぇ
……
」
正直面倒くさい。ましてやこういう宗教染みたことは胡散臭いとしか感じないので抵抗もある。
だが男は無視して前に向き直り、手に持った小道具を天に掲げる。
隣にいる子供は素直に胸の前に両手を合わせて目を閉じた。それを見たムスタディオも釈然としないながらも渋々同じようにする。
やがて、前に立つ男の声が詩うように礼拝堂に響いた。
「
……
大いなる父の祝福を受け、汝の肉体は大地へと戻らん。願わくば聖アジョラのご加護によりかの者に天の導きを与えたまえ
……
ファーラム」
何故か屋内なのに優しい風が吹き抜けたような気がした。神の存在をそれほど信じていない自分でも、心なしか穏やかな気持ちになれた。
「
……
目を開けて良いぞ」
その声に従って瞼を開ける。
それから何となく男の子に目を移そうとして
……
目を見開いた。
「あれ!?」
隣にいた筈の男の子が忽然と姿を消していたのである。目を閉じていた間、足音など聞こえなかった。礼拝堂のどこを見渡しても、姿は見えなかった。
「あ、あの!? 男の子がいなくなっちゃって
……
!」
「その子供なら、母親のもとへ行った筈だ」
男は落ち着きはらった様子でそう言いながら、持ってきた小道具を祭壇に並べ始めた。
訳の分からない返答にムスタディオは首を傾げるしかない。まだ母親を探していないのに、母親のもとへ行ったとはどういうことなのだろうか。
男は状況が理解できていないこちらを見、向き直った。
「私には、最初から子供など見えていなかった」
「え」
「
……
恐らくその子供は、おまえの優しさに頼って来たのだろう」
「
……
」
そこまで言われて、漸くあの男の子が何者だったのか察しがついた。あの子は、本来行くべき道に行けず迷子になっていたのだということも。
彼は恐らく、男の子にその「行くべき道」を導いたということだ。
そう思うと何とも不思議な心地がして──ムスタディオは頭上のステンドグラスを眺めた。
***
「今日はありがとうございました」
日が傾きかけた空の下、サロペットを着た青年はそう言って人懐っこく笑い、ぺこりと頭を下げた。
こちらが少し笑って頷いてやると、彼はすがすがしい笑顔で去っていった。
少し赤みがかった空を見上げる。無事あの若者が連れてきた子供は母親に会えただろうか。
「
……
クレティアン」
名前を呼ばれて振り向く。青みがかった緑のローブをまとい、フードを深くかぶった騎士が立っていた。
「ローファル。戻ってきたのだな」
言うと、彼はゆっくり近づいてきた。
「ああ。
……
参拝者でも来たのか」
「いや──少し迷子の対応をしていてな。無事解決したところだ」
「迷子?」
ローファルは相変わらず無表情だが、少し不思議そうな表情を浮かべた。その顔がいつもと比べて幾分か間抜け面に見えて、クレティアンは少し吹き出しそうになってしまった。
「何が可笑しい」
「すまない。何でもないんだ」
胸に手を当てて深呼吸する。あまり彼の機嫌を損ねたくはない。
一方ローファルは特に気に留める様子もなく、話の続きを始めた。
「それにしても珍しいな。おまえがそのようなことをするとは」
「迷える魂を導くのも聖職者の役目だ」
答えると相手はそういうことか、と口の中で小さく呟いていた。
自分はローファルとは違い、まだ人の心を持っている。自分が人間であるかぎり、捨てきれるものでもないのだろう。
「それより、明日はヴォルマルフ様もいらっしゃる。今の内に準備を」
「そうだな」
二人は並んで建物に入っていった。
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