ortensia
2025-07-13 07:44:55
14116文字
Public 未完
 

うるとら2

プラズマスパーク事件追放後レイブラッド星人に支配されなかったベリアルさんとそこに預けられた少年ゼロのストックホルム症候群みたいな話?

 少年が物心ついた頃からそばにいた男は、なのに父親ではないらしい。
「なーなあ!アンタ、本当にオレの父親じゃねえの?」
 自分の記憶は、もう何百年もの間ずっと、この男ばかりなのに。
「ベリアルってば!」
「うるせえぞ!ゼロ!」
 次に着陸する星への航路を確認すると言ったくせに、横になったまま動かない、銀の体に乗り上げる。けれど背鰭を摘まれて、ぽいと投げ飛ばされる。宇宙船の部屋の床を転がり、逆さまになった視界に映るのは、逆さまの銀色だけでなく、それとは似つかない小さな青い足、少年の、自分の足だ。
「ったくお前は何百年も同じことを何万回もよくもまあ飽きずに……。」
「だって気になんだもん!」
「何遍でも同じ答えなのにかよ。」
「だって納得できねんだもん!」
……二万年でも経てば、納得出来る時が来るかも知れねえだろ。」
「んなに待てねえ!」
 目付きが悪くて広い口が、呆れている。
 今まで何遍でも聞いた答えの中に、似てないだろう、と言うものも含まれていた。もっともだ。強いて上げるなら目付きの悪さだが、悪いは悪いでも、自分達はそれぞれ、別の目付きの種類だ。
 親子でもないのに、物心ついた時にはずっとこの男といる。一つの星に落ち着かず、見た目は小さな宇宙船で、たったの二人きりで、宇宙をぐんぐん進んでいる。
 立ち寄った色々な星では、少年達は色々な親子にも出会った。色々な親子の形があった。だったら、自分達も親子と呼んで良いのではないかと思う。
 なのにその親子の片方が、それを絶対に否定するのだ。これでは親子になれるもんも、なれはしない。
「じゃあオレの親ってどんなヤツだったんだよ?」
「教えねえ。」
……ちぇ。」
 だから、少年には親がいないのだ。
 そうやって何度でも少年を転がして来た男は、それでも子供だからと侮った返事をしたことは一度もなかった。嘘を言ったこともなかった。
 少年は覚えのない記憶、男は少年を預けられた時のことをよく覚えている。腹が立っているからだ。なんで自分が。そばにいてやれないからと、代わりに世話をしてくれと預けて来た、赤い腕。
 男は、赤い腕の男と少年の星、自分の故郷を追われた身だった。それは戻る仕事もないということ。それで何処から居場所を嗅ぎつけられたか知れないが、やることもないだろうと、ベビーシッターを押し付けらえたのだ。いきなりやって来て、風来坊のような男だった。
 国を追われる程の悪人、しかも光の国最初にして唯一の悪に、よくもまあ頭まで下げて大事な息子を預けようなどと思ったのものだ。そう言い放てば、奴はなんて返したと思う。
「私は……とある星の、先住民を名乗る人々を滅ぼしました。僕の勝手な、今いる星人達が好きだからという、酷くて身勝手な理由で。私だって危険なことに力を振るう、貴方のやったことが、僕のやったことかも知れないと、何故言い切れないと言うのです。」
 頼み込んで来た男の、下げた頭の宇宙ブーメランが見えるばっかりで、それも特徴であるはずの真っ赤な体の記憶が、あんまりない。
 だから少年のスラッガーを見ると、嫌でも思い出すのだ。
 よく似た子供だと思う。
「次はあの星に降りるからな。」
「おっ!どれどれ?今度はどんな星なんだ!?」
 星や宇宙に興味津々の子供は、子供らしいと言えばそうだが、何よりも子供の親を思い起こさせた。
……ま、あの国で一人で腐ってるよりいいだろ。」
「なんか言ったか?」
「別にぃ。」
 しかしそんな旅も、いつまでも子供連れというわけにはいかない。男、ベリアルには追放された身でありながら、全くやることがないというわけでもなかった。
 追放され、周囲の目がなくなったタイミングで、レイブラッド星人の因子を植え付けられてしまっていた。しかし流石の究極生命体も、光の国の人間をそう簡単には支配出来なかったらしい。追放される前にケンにエネルギーを万全の状態にされてから見送られたおかげだとは、考えたくない。あるいは、プラズマスパークが、拒絶したくせに防衛力のエネルギーだけは与えた、とか。
 だがそれでも、いつ乗っ取られるか分かったものじゃない危険性を消すには、今のままぼんやり過ごしているわけにはいかない。
 色々な星を巡って、どうにかこの因子を取り除けないか、それぞれの科学力を尋ねた。
 それが身を結びそうなのだ。
 とはいえ油断は出来ない。そろそろ実験段階に入れそうだ、という話だ。
 そこに子供が、ゼロと共にあることは出来ない。
「もうお前連れて宇宙のお散歩することもねえんだ。お前がいても退屈なのはお前自身だっつってんだよ。」
「なんだと!」
 そしてその時は訪れた。
「このカプセルをお前の故郷に送る。」
「なんも入ってねえのに?」
「お前を入れるんだよ。」
「え!?」
 ゼロを光の国に帰す時が来た。
「待ってくれよ!オレは別に、もう旅が出来なくたって、アンタと一緒なら……!」
 何処かの星に定住してベリアルと暮らす、それも良いじゃないか。もしかしたら、本当の親子になれるかも。そんなゼロの期待と希望は、最近は目まぐるしく成長している少年の体を、それでも以前と変わらず、ひょいとつままれて、一緒にカプセルの中に放り込まれてしまう。
「そんな……!頼む!ベリアル!」
 どうか頼む、ベリアル。
「ゼロ。」
……?」
 ゼロを、父親に返す時が来たのだ。
「お前、大きくなったな。」
「ベリアル!」
 ゼロの悲痛な訴えも、素気無く閉じられたカプセルによって遮られる。
 閉じられたカプセルの中では、直ぐに睡眠薬が投与され、光の国の人間でさえ、それもまだ子供であれば、瞬く間に休眠状態に入ってしまう。
 これで、目覚めた時には光の国だ。
 意識が戻った時の、ゼロの怒り狂った顔が目に浮かぶようだった。
 そうなれば、光の国へ行っても、みだりに悪人の、ベリアルの名を出すこともないだろう。思い出すのも腹が立つはずだ。
 カプセルの外側には、サインを記しておく。カプセルは、移動中は極小化され、強固で速い。光の国に着くまでは、ベリアルの手元にある機器で、居場所と安全が遠隔で分かり、何かあればテレポート出来るようにしてある。無事光の国に着いたならば、光の国の人間であればカプセルを開けられる。あとはケンなりマリーなりがなんとかするだろう。
……ぐっ。」
 カプセルを遠くに見送った銀色の姿は、漆黒に変わった。幼い光の国の子供の目がない以上、一般的な光の国の人間の姿、かつてのベリアルの姿を繕う必要もない。だがゼロはその姿に慣れては駄目だ。これからあの子供は、光り輝く住人達と共に暮らし、彼自身も輝かしい成長を遂げるのだから。
 ゼロを送り出したベリアルは、あとはもう自分のことだけだ。ストルム星人と共に研究している、レイブラッド星人の因子への対処。この研究によって、ウルトラマンジードが未来に誕生することは、まだ運命しか知らない。
 それから幼かったゼロは成長した。
 光の国で、だ。
 今ではもう、宇宙船で過ごしていた年月をはるかに超えて、光の国という一所で暮らしている。
 ゼロは幼少のみぎり、とある悪人と過ごしていた。と言ってもこの国で悪人など、たった一人しかいないが。
 けれどゼロは、その話をすることは少なかった、事情を知らぬ者には全く、知っている者にもあまり。
 ベリアルが悪人であることは、本人から聞いていた。共に宇宙船で旅をしていた時のことだ。幼いゼロがなんでも知りたがった。宇宙に果てがないように、好奇心を膨らませて。ベリアルはそんなゼロの宇宙に応えてくれた。ベリアルは多くのことを知っていた。けれど親のことだけは絶対に教えてくれなかった。ベリアルに自分を預けた人のことは。
 けれどベリアルは、幼いからといってゼロを侮って誤魔化したりは、決してしなかった。言えないことは言えないと答えた。そういう男だった。あるいは、もっと賢く騙す、子供だからといって甘く見ず、完璧に。そういう男だった。
 ゼロは、自分と一緒にいて、大抵のことはなんでも教えてくれる世話まで焼いてくれるベリアルが、悪人だなんて思えなかった。けれどベリアル本人がそう言って認識しているようで、ゼロがそれとなく良い奴だと呼んでも、決して同意しなかった。それなのに、こうも言っていた。
「悪だ正義だなんて、別の奴から見りゃ、簡単にひっくり返る。んな脆いモンだったら、どうせなら自分で決めろ。」
 ベリアルにとっての正義とはなんだったのだろうか。それが、光の国にはあると思った、けれどそれで光の国に行きたいとは思っていなかった。ベリアルが一緒でないのなら。
 けれど今、ゼロはここにいる。一人で。この国は光であふれていてあたたかいけれど、ゼロはひとりぼっちだった。ベリアルと一緒に宇宙船にいた時は、こんな気持ちちっとも感じなかったのに。急に手を離されてしまった。
 光の国に送られて目覚めた時、こんなにも光輝くあたたかな国なのに、不安でいっぱいになってしまった。この国に、自分の本当の父親も、いるはずなのに。
 その時救助に加わって、この国で暮らせるようにしてくれたウルトラの父も母も、宇宙警備隊の人間達も、ベリアルの事情を知っている者はいたが、あまり話す気にはならなかった。宇宙警備隊の創始者、その名を全宇宙に轟かせているウルトラ六兄弟を束ねる偉大なあの人は、いつでも来てくれとは言っていたけれど、そんなわけにもいかないし。あの男のことを、教える気にも教わる気にもなれなかった。口にしたら、あの二人だけの思い出が、こぼれ落ちて萎んでしまう気がしたから。
 周りは口数の少ないゼロに対して、余程あのベリアルとの暮らしを思い出したくないのであろうと憶測した者も多かったようだが、その逆で。あの記憶は、ゼロにとってこの国より輝かしいものだった。互いに光の国というところの出身であることもベリアルから聞いて知ってはいたが、ゼロにはこの国は、どうにも居心地が悪かった。
 今のゼロは、ベリアルから教わった基礎鍛練を、思い出を手繰るように続けていた。宇宙警備隊にでも入って、みんなに、この国に自分の力を示せば、認められるだろうか、虫の居所は良くなるだろうか、いつかベリアルにもこの名が届くだろうか。今は何処にいるとも知れない、あの男に。力があれば、もっと、強くなれる力があれば、全部思い通りになるのだろうか。ゼロは、この国で一等輝きを放つ、プラズマスパークを見上げた。
 結果的に、ゼロはアーマーで拘束されたまま、修行と言う名の折檻を受けていた。プラズマスパークに触れることすら叶わなかった。拒んだのはプラズマスパークではなく、強くて、でもあたたかな手だった。赤い腕。何故止めたんだ、よりによって、あの六兄弟の一人。
「ウルトラセブン……。」
 あの男と同じ経験をすることは出来なかった。そのおかげで追放は免れたとも言えるが、それにしてもこんな仕打ち。
「六兄弟のウルトラセブンの弟子だか知らねえが、こんなもんかよ!ベリアルならオレのことひょいひょいつまんで投げてたぜ!大したことねえなあお前なんか!全ッ然!」
 だからつい言ってしまった。
 何もかも上手く行かなくて、苛立っていた。
「なんだと!」
「それは単にゼロが小さかったからでしょ?」
 子供のような言いように、レオがまた叱り付けようとしたところを、もっと冷静にアストラが告げる。けれど仕方がない、ゼロの中では、ベリアルと対峙する自分は、ずっとあの頃のまま記憶は更新されず変わらないのだ。
 そんな状況が、いつまで続くのだろうかという中、その時は突然訪れた。
「これは……!」
 ウルトラセブンの宇宙ブーメランが、ゼロのもとに現れたのだ。
 どうやら、とある星に多数の凶悪怪獣の存在を確認した宇宙警備隊が、セブンと共に調査と戦闘に向かったところ、全身が黒い人物と交戦になったと報告が入った。その黒い姿は、色こそ漆黒だが、自分達光の国の人間に近しい姿だったとのことだ。
 そしてその相手を、セブンはベリアルと呼んだらしい。
「ベリアルだって!?」
 セブンはベリアルと面識があったらしかった。それもそうだろう、幼いゼロをベリアルに預けた父親は、セブンだ。ゼロには納得の行くところだった。しかし納得が行かない、黒い姿とはどういうことだ。
 そしてどうやらベリアルは怪獣達を従えているらしいかった。ベリアルは光の国で元々実力のあった人物だ、その上怪獣達と来ては、その時の警備隊の備えでは無理があった。セブンは自分を囮にして他の警備隊を光の国に帰した。幾らウルトラ六兄弟の一員とは言え、今セブンは多勢に無勢だ。
 ゼロは目の前のセブンの武器を見詰める。
「ウルトラセブン……。」
 そこで漸く、自分の二本のスラッガーが、セブンのそれとよく似ていることに気付く。
「ウルトラセブンは……ゼロ、お前の父親だ。」
 ゼロは、父の武器を抱え、望んだ。
「オレに、ウルトラセブンを……オレ親父を、助けに行かせてくれ!」
 自らの実力でアーマーを破ったゼロは、ウルトラセブンの救助に向かった。
 ウルトラ六兄弟を筆頭に、レオやアストラ達と宇宙警備隊の先鋭と共に、ゼロはくだんの星に降り立った。
「なんだコイツら!?」
 その星では、聞いていた通り怪獣達が暴れ回っているに加え、報告には登場しなかった、大量のロボット兵士まで闊歩していた。
 そのロボット達は、ゼロの姿に酷似していた。
「ゼロ!怪獣やロボット達はこちらで対処する、お前はセブンを!」
「レオ!」
 他の宇宙警備隊達が怪獣やロボット達と交戦に入る中、ゼロはセブンの武器を通して、セブンの居場所を探った。
「こっちか……!」
 スラッガーに導かれるようにして、怪獣とロボットの合間を縫うように辿れば、敵の光弾を次々と浴びせられるセブンの姿があった。
……親父!」
 その時セブンがゼロを見た。
 迫り来る光弾をセブンは素早く避け、中空を飛びながら躱してゆく。ぐんぐんと飛びながら反撃したり、念力で光弾を操り同士撃ちさせたりしながら、流石の戦い振りを見せていた。けれど相手の数が多いことと長時間の戦闘もあって、真紅のファイターもぼろぼろだった。
 何より最悪の相手が立ちはだかっている。
「フハハハハ!ロボットとの戦闘が弱いのは相変わらずのようだなウルトラセブン!?それともなんだ、息子の姿に似せた余計にか!?」
「ベリアル……?」
 記憶の中にベリアルの声がした。確かに黒い姿で、一般的な光の国の人間よりも大柄で刺々しい体躯になっているが、確かにベリアルのようだった。
 ゼロが忘れもしない、ベリアルによく似ていた。
 黒い姿の赤み掛かった目がゼロを見た。
「なんだ、ほら。やっぱり似てるじゃねえか。」
 赤い目が、ゼロを見て笑っている。
「ゼロ。お前、大きくなったな。」
 ベリアルだ。
 ゼロは思わず、セブンの武器を抱え込んだ。
「ベリアル!その姿、どうして!?お前もウルトラマンだろう!?」
「ウルトラ……?ああ、そう呼ばれ、そう名乗っているんだったか……。ふん、俺はそんなもの。何万年も前に、光の国の甘ちゃんな連中に合わせてやるのは辞めたんだよ。捨てたんだよ、ウルトラマンの、ウルトラ戦士の心なんざ!」
「そんな、なんで!?」
「ふん。理由を問わない信頼は、やはり父親の方に向くか。」
「ちがう!でも!」
 黒いベリアルの赤い目は、ゼロの記憶とは段違いに吊り上がっていた。
「でも!お前はオレに沢山のことを教えてくれたじゃねえか!」
 それを聞いたベリアルは、凶悪に笑んでいたような雰囲気を、途端に落ち着かせた。
「ゼロ!」
 雰囲気が変わった瞬間、セブンがゼロを案ずる声を上げる。
「チッ、興醒めだ。良いデータが取れると思ったが。まあ良い。……俺様はただ、この星の怪獣の面倒をみてやるから、お前らは黙って手を引けっつってるだけだ。」
「どう言うことだよ!」
「そう言うわけには行かないと言っているだろう!」
 ゼロが問い掛け、セブンは抗った。
 ベリアルはゼロの方に向いた。
 怪獣達もロボット兵達も、ベリアルの意思に従っているのか、三人の邪魔をする者はいなかった。
「この星には、元々怪獣なんかいなかった。だがとある星が、自分達の星に出現した怪獣を、手に負えないからと、どんどんこの星に移住させたんだ、勝手にな。」
「そんな……。」
 べリアルは腕を組みながら話し、ゼロはそれを聞いて項垂れた。怪獣達は、何も好きでこの星で暴れているわけでも、そもそも自分の意思で集まったわけでもなかった。
「なんとかならねえのかよ?」
「ゼロ……。」
 セブンは思わずゼロに呼び掛ける。
「例えば元いた星の星人達が、本当に自分達でどうにも出来なければ、宇宙警備隊の助けが来るだろう。そうでなくても今この星で怪獣があふれかえっている現状は警備隊に危険視され、結果、コイツらは同じ始末を受けることになる。」
 セブンが言い淀んだ内容を、平然のように言ってのけるのがベリアルだ。
……けれどそれが宇宙の平和に繋がると我々は、私は信じている。」
 セブンは悲しみを隠しきれない声で、しかししっかりと断言した。
「だから、それを信じられない俺様が今ここでこうしてるんだろうが。怪獣達を生かしたまま、今後も送り込まれて来るだろう新たな怪獣達も、まとめてこの星で面倒みてやるって。」
「それが危険だと言っているんだ!」
 ベリアルの言い分にセブンが言い返したところで、ご覧の通りだとまるで教え子にするような態度で、ベリアルがゼロを見遣った。
 ゼロはどちらの方法も、理解出来た。ベリアルはセブンの正義を信じていないし、セブンはベリアルより危険性の方の懸念が大きい。ゼロだったらどうするか、自分自身で判断を決めることが出来なかった。
 そんな睨み合いの中、ふとベリアルが話をずらした。
「しっかし、こんな小僧が駆り出されるってことは、他の警備隊の若手も連れて来てるってことだろ。怪獣達に加え、お前らを追っ払うために、こっちはダークロプスも連れて来てんだ、訓練じゃ済ませねえぞ?」
「え?いや、オレ、警備隊員じゃ……。っつーかそのロプス?あのロボット!なんだよ!オレの真似みたいなナリしやがって!」
「良いだろ?アレ。俺様の私兵だ。お前の今の歳だと、こんなもんかと思って作ったんだ。」
「どこが良いんだよ!なんでオレ!」
 周囲で、攻撃は止めても未だ睨みを効かせている様子のダークロプス達が、ベリアルに褒められて、ロボット兵ながらもなにやら喜んでいる気配を感じる。
「私兵のロボットを強く作るのは当然だろ。お前は絶対強くなると思ってたんだからな。」
「え……。」
「見てたぜ。到着して直ぐに分かった。ここを目指しながらも怪獣もダークロプスも薙ぎ払うように道作ってくれやがって。良い戦いっぷりだったじゃねえか。流石はウルトラセブンの息子だ、父親もさぞ鼻が高いだろうな。」
「あ、ああ……、勿論……。」
 突然ゼロを褒めたと思ったら、セブンに水を向けて、ゼロは戸惑ってしまった。まるで記憶の中のベリアルのように、構ってもらえていると思ったからだ。しかし。
「宇宙警備隊の弱い若手を無駄にするだけってんなら、引いてやる。」
 ゼロもまた、ベリアルにとっては弱い若手に過ぎないのだ。その実、警備隊員ですらないというのに。
「だが、今既にこの星に送り込まれた怪獣達は、頂いていくぜ!」
「なにっ!?」
「ギガバトルナイザー!」
 セブンが慌てる間も、なすすべはない。ベリアルが鋭い爪の手を翳すと、そこには黒い棍が握られており、それが怪しい力を強く放つと、怪獣達が皆、吸い込まれるようにしてその棍に消えて行った。
「しまった!」
 そして突如上空に現れたように見える巨大な宇宙船が、次々とダークロプスを回収して行った。宇宙船は、実はずっとステルス待機でそこにあったのだろう。
「なんだと!?」
「この星のことは、後はお前らが好きにしやがれ。あばよ。宇宙警備隊ども。」
 そしてベリアルも、宇宙船に消えて行く。
「そんな、ベリアル!オレ……!」
 声は、また届かなかったのかもしれない。
 こうして星に残されたのは、光の国の人間ばかりとなり、怪獣達もダークロプス達も、そしてベリアルも、宇宙船をワープさせて、何処かへ行ってしまった。もはや追跡は不可能。
 ベリアルの言った怪獣達の面倒が、何か宇宙の平和を揺るがすものでない限り、宇宙警備隊が再び彼と相見えることは、もうないだろう。
 けれどゼロは、ベリアルが何かあからさまな悪事を働くとは思えなかった。今回のような、何か目的のための副産物であるならまだしも。だってゼロを呼んだあのベリアルは、ゼロの記憶で良く知るその人だったのだから。姿形が黒いから、なんだと言うのだ。だとしたらベリアルとは、もう。
「ゼロ……。」
 ウルトラセブンがゼロを呼ぶ。ゼロは顔を上げる。この人が、ゼロの父親なのだ。
「これまでの話を、沢山聞かせてくれ。僕も、沢山話そう。それが終わったら、これからの話をしよう。」
「これからのこと……。」
 昔、ベリアルとまだ同じ宇宙船に乗っていた頃、共にいた、頃。ゼロはベリアルとずっと一緒にこうして旅をするのだと思っていた。しかしそれをベリアルに言うと。そうは行かない、と。
「どうしてだよ!」
「どうして、か。」
 ベリアルは宇宙の遠くを見ながら、言った。
「そういう運命なのかもな。」
 ゼロは自分を見詰める、ウルトラセブン、自分の父親を見つめ返した。
「親父……。」
 セブンはゼロをきつく抱き締めた。父のあたたかい抱擁に、ゼロも力強く応えた。
 ゼロと二度目の別れを終えたベリアルは、これまで旅して来た宇宙の星々から、あらゆる科学力をを蓄えていた。
 科学力を持っていても戦争している星では先ずそれを納め、怪獣対策にばかり科学力を使っている星では怪獣退治をし、星人の特殊能力自体はあれどその発展が止まっていればそれを促し、時に自ら武力を行使しながらベリアルは星々の叡智を集めて行った。
 そうしている間に、同調した星人や怪獣、あるいはベリアルに心酔していると言っても良い、そんな者達が集って、今や巨大となった宇宙船に搭乗し、労働力となって暮らしていた。星々で煙たがられていた怪獣なども、ギガバトルナイザーの力で連れて来ている。
 そうして、当初の目的、自分の中のレイブラッド星人を討つための手段として、ベリアルは一つのすべを手に入れた。
 今ベリアルの目の前には、カプセルに収まった小さな光があった。
 あの頃のゼロよりも小さい。
 そしてその傍らには、四次元怪獣ブルトンがいた。
 ベリアルは、自分の生まれた宇宙を離れるつもりだ。
 独自に人工的に光の国の人間を生み出したとなると、連中が煩い。
「さて。どこへ行きのパスポートとなるか。」
 ベリアルはブルトンを見遣った。すると心得たとばかりに、ブルトンはベリアルの宇宙船ごと、別宇宙へと飛んだ。
 しかし次元移動計画が実行される前に、ベリアルに協力し神聖視している者の一人、とあるストルム星人が、光の国の科学技術局からとある装置を盗み出していた。ベリアルに捧げられるものの殆どは、彼が命じたことではなく、取り巻きがやっていることも多い。しかし光の国由来となると、ベリアルは苦い思いを感じた。
 ベリアルは光の国を追放された身だ。あんな国の力など、借りたくはなかった。
 しかしレイブラッド星人の件に、それは必要な道具だった。時間もそう無い。いつまでも抑え込めるものだと自分を過信しても、失うのはプライドどころか自分自身だ。
 ベリアルは自分の因子で生み出した存在に、レイブラッド星人の因子を分け与え、自分の中にあるレイブラッド星人の因子を減らそうとした。これでレイブラッド星人を倒せるわけではないが、ベリアルの現状は改善される。
 しかし生み出した命は初めから、レイブラッド星人に対抗出来るものとしての目的を達成するため、本来の光の国の人間よりも、少し歪となってしまう。それでもそれは、レイブラッド星人の魔の手に触れた時からベリアルがそうであるのと同じだ。だから新しい命は、ベリアルの息子だった。
 それにここはベリアルのいた宇宙とは別の宇宙だ、この星も光の国の人間は訪れていない。互いに互いのことを知らなければ、その異変も指摘されるものではないだろう。ベリアルの、悪人の息子であるということは、変わらずとも。
 そしてパスポートの末辿り着いたこの星、まだ光の国を知らない星。別宇宙の星。名を、地球と言った。
 一方、ベリアルの生まれた宇宙では、光の国にダークロプスの乗った宇宙船が飛来していた。
 その宇宙船も、また別の宇宙からやって来たものであり、宇宙警備隊は、ゼロをその宇宙に派遣した。
 別宇宙由来とは言うが、ダークロプスはベリアルの創造物だ。別宇宙とは言え、ベリアルに会いに行くこととなるゼロは、気持ちの整理が付かないまま、それでもそこを目指した。
 ゼロが出発する時に、宇宙警備隊の隊長、ゾフィーに、言われたことがある。
「あの人には、ウルトラマンベリアル、光の戦士であってほしいよね。」
 ウルトラマンベリアル、ゼロがいつも思い出すベリアルの手は、ウルトラ戦士の手だった。ゼロの父親、ウルトラセブンの手が、あたたかかったように。
 結果的としてゼロが向かった宇宙、アナザースペースのベリアルは、ゼロの知っているベリアルではなかった。
 ただ、ベリアルの可能性の一つである存在であった。
 ゼロは気持ちを割り切ったと言うより、こんな世界線があることに怒りを覚えた。自分の知っているベリアルとは違う、こんな世界線。ベリアルにこんなことをさせる宇宙に。
 だからゼロはベリアルと戦った。全力で戦った。
 さなかに何度も苦境に立たされながらも、この別宇宙で出会ったかけがえのない仲間達と共に。
 出会いの一つである神話のひと、ウルトラマンノアには、大きな助けを貰った。更に、ノアからは衝撃的な情報も得た。
 ノアはベリアルと出会っていた。ゼロと同じ宇宙のベリアルだ。どの宇宙でいつ出会ったのかは分からなかったが。
 ベリアルは、ノアの助けを拒んだらしい。
「これ以上俺の中に余計なものを入れるな!やめろ!」
 もしベリアルがノアの力を受け入れていたら、今のゼロのように、次元を越える力を手に入れていたのだろうか。
 別宇宙に触れた今、ゼロは、同じ宇宙なら、まだ近い距離にいるほうなのだと思った。
 そして既に別宇宙にいる、ゼロと同じ宇宙の生まれのベリアルは、光の国を知らない地球に降り立っていた。
 姿は、上空に現れた少し不自然な光、通常であれば気のせいだと見逃してもおかしくないそれを、宇宙の破滅かもしれないと浮き足立っていた、ライターのものを借りた。
……あなたは?」
 天文台に立つ姿は、その町の町長から見ても、地球人の女性に見えた。
 ただ彼女は、赤子を抱えていた。
「その子を……置いて行くおつもりですか……!?」
 女性は老人の声に振り向き、町長と向き合う。
「この身は闇に侵されている。」
……ご病気か、何かで?」
「一人残すことが、息子がこの地に馴染む助けとなる。」
「そんな……親御さんと一緒が、息子さんのために一番良いに決まってますよ。」
 町長の老人がそう告げると、女性は自分の息子を見遣った。
 赤子は手足をよく動かしており、じっとしていられない様子は、どうにも微笑ましいものだった。
「必ず戻る。」
 そして赤子を老人、朝倉錘に預けた。
「必ず。」
 思わず受け取った朝倉老だったが、驚きを隠せないでいた。
 女性は笑った。
「やはり、子供を預けられるのは面倒なものか。であれば、この下に戻して置け。」
「そんな!この子はこの町で育てます!」
 女性は笑った。力強い眼差しだったが、不思議とあたたかい笑みだった。
「この子と共に、あなたを待ちましょう。」
……あまり待たせないとしよう。」
 錘と赤子から離れて行く女性を、引き留める。
「お待ちください!この子の名は……!?」
「それもお前に預ける……。」
 そして、町から光が立ち昇った。
 約束が果たされるまで、十九年。
 地球、朝倉リクは親がいなかった。
 リクが聞いた話では、母親のような女性が、まだ赤子のリクを抱いて、天文台に佇んでいたそうだ。その女性はどうやら病気か何かの事情でリクと離れなければならなかったらしいが、今の今まで現れないまま、連絡一つ届かない。
 病の可能性もあるのだから、ひょっとしたらもう。
 それでもリクには名付けの親も育ての親もおり、姉のような人もいる。リクは一人ではない。
 だけどどこか、孤独のようなものを感じていた。自分のルーツが分からない不安、のようなもの。
 ところがある日、日常に怪獣が現れ、住まいも宇宙船暮らしになった。
 Bの因子とは。ウルトラマンベリアルとは。
 宇宙船の声は女性のように思う。なら、かつて赤子だったリクを抱えていたあの人の声なのだろうか。しかし声の主、報告管理システムのレムは、あくまでもベリアルの発明品であり、しかもベリアルは父親らしい。なら、女性の方は母親だろうか、しかしリクは、どうしてだかそれは違うように感じた。
 地球人の姿から変身した自分の姿は、どうにも慣れないものだった。なのに体は自在に動く。まるでこちらが本来の姿だとでも証明するように。なんなのだろう、この戦い方は、この戦うことの出来る自分は。何も心当たりがないのに、記憶喪失にでもなった気分だ。体よりも、心が付いて行かなかった。
 それでもリクは、その日からウルトラマンジードとなったのだ。
 怪獣退治の日々をリクは、幼少の頃からの友人であるペガッサ星人のペガや、育ての家族、周りの仲間達支えられながら、なんとか過ごしていた。リトルスターの影響で怪獣達に狙われる人々、そんなみんなを、地球人を守るために、分からないことが多いながらもリクはウルトラマンとして奮闘していた。
 そうしているうちに、徐々に秘密が明かされてゆく。
 リトルスターの力は、ウルトラマンと呼ばれる、光の戦士達の力だった。
 リクは、自分もそのウルトラマンの一員であることを知ると同時に、それを受け止めきれない気持ちもあった。だって自分は十九年間この地球で育ったのだ。
 そしてウルトラマンゼロと出会った。
 ゼロの存在が、自分とよく似た姿が存在することを知った。そして、それに比べて自分は歪な姿をしていることを同時に知った。
 吊り上がって目付きの悪い形は、ゼロだって目付きが悪いとも言えるが、また違った種類の目付きの悪さだった。それと自分の体に走る、漆黒のライン。自分の姿であるにも関わらず、何か禍々しいものを感じた。それに自分の戦い方は、誰に教わった記憶もないものであるが、ゼロの戦い方を見て、あちらの方が正攻法のように感じた、自分の戦い方は、どこか荒々しい、獣みたいだ。どうしてだか、自分がまるで作り物のように感じた。
 ゼロは、リクが変身する時に使っているウルトラカプセルが彼の故郷からの盗難品であるため、探しに来たのだという。けれど取り返そうとする気はないらしい。そもそもなんなのだこのライザーは、他のウルトラマンのカプセルを融合させないと、ゼロと違ってリクは変身出来ない。
 それに、ウルトラマンベリアルは悪人だ。ゼロはリクのことを一個人として見てくれるが、それでもウルトラマンとしてだ。自分の幼少期は、確かにただの地球人の朝倉リクだった筈なのに、今は全くの別人になってしまった気分だった。
 そうして、ゼロと、ゼロに協力している伊賀栗レイトという人も仲間に加わって、他にもウルトラマンを知る人物との出会いもあった。日々は目まぐるしく過ぎて行った。
「降ろせ。」
「へ?あ、ちょっ、おい!?」
 ゼロはその時、窮地に立たされた石刈アリエという人物を救うため、抱え上げて救出していた。ところが今まで大人しくしていたのが、急にゼロの腕に抗った。
「大丈夫なのかよ?」
 そして自分の足でしゃんと立った彼女は、済ました表情だ。お礼を言えとは言わないから、せめて返事をしてほしいゼロだったが、アリエは一所を見て黙ったままだ。
「大丈夫?二人とも。」
「リク!」
 アリエが見ていた方向から、丁度リクが現れた。
「なんだ、アンタ、リクの前で恥ずかしかったのか?」
 ゼロは、アリエが自分に抱えられているところをリクに見えるのが恥ずかしかったのかと、揶揄った。
 すると、突き上げるように睨まれた。
「私に生意気な口を利くな。」
「生意気って……。」
 ゼロはその雰囲気にどこか既視感を覚えながら、地球人の年齢から考えて、生意気と呼ばれるのも奇妙な感じがしたので、狼狽えた。
 そもそもこの人物、ゼロはどこか知っているような気がしてならなかったのだ。
「二万年早え。」
「な!?」
 けれどその件に関して、彼女は掘り下げる気がないようだった。
「そんなことより、問題はあの伏井出ケイだ。あれじゃマッチポンプだ。」
「えっ?どういう……?」
 アリエの気になる発言を、リクは訊ねようとしたが、彼女はじっと見返すだけだった。
「教えねえ。」
「ええっ?」
「私はまだやることがある。」
 アリエは二人を置いて立ち去ってしまった。まだ危機が完全に去ったとは言えない中だった。迷いなく進んで行くアリエを、二人は見送ることになってしまった。
 そしてゼロは更に既視感を強めることになる。彼女との雰囲気、彼女と話したことがあるような気がした。遠い昔。しかしゼロの目から見て、彼女は地球人だった。もし擬態しているのだとしたら、光の国に匹敵する科学力の持ち主ということだ。
 伏井出ケイことストルム星人がどんどん追い詰められたように行動する中、それは突然現れた。
 地球の上空に巨大な宇宙船。
 ベリアルの宇宙船、情報管理システムレムは断言した。
「ウルトラマンベリアル……!」
 リクは、地球上に突如現れた、その禍々しさすら感じる強大な存在を見上げた。
「ベリアル!本当にこの別宇宙にいるとは!」
 ゼロも、届きそうで届かない、その人を見詰めるように、空を睨み上げた。


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