moto
2025-07-12 23:19:00
842文字
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消えることなく

さまささワンドロワンライお題「たこ焼き」


ついにこの夏祭りのメインイベントである彦星VS織姫が始まる。気合いを入れ直し、着替えのために控え室へと向おうとした三人を男が呼び止めた。
「あの、白膠木さん、これを」
 頭にハチマキを巻いた法被姿の青年が袋を差し出している。
「左馬刻さんからの差し入れっス」
 簓がビニール袋を受け取ると、青年はぺこりと頭を下げ走り去った。
 首を傾げながら中身を確認して、簓はアッ!と叫んだ。
「なんや?」
 盧笙と零も袋の中を覗き込む。袋の中には六個入りのたこ焼きが三パック入っていた。
「あ〜!さっき碧棺くんとこのたこ焼き屋、行列で食えへんかってん!」
「気が利くねえ」
 せっかくの差し入れである。控え室で着替える前にたこ焼きを食べることにする。プラスチックの蓋を開けるとふわりと湯気とソースの良い匂いが部屋中を満たした。まん丸なたこ焼きは、箸でつまんでもしっかり形を保っていたが、口に入れると中はトロリとしていて、大きなタコも食感がとても良い。
「うまいなぁ。ブラックマターオクトパスインフェルノのろっちゃんの血が騒ぐわ」
「ますますビールが欲しくなるな」
 なかなか上手くひっくり返すことができなくて、小さなたこ焼き器に向かってキレ散らかしていた左馬刻が簓の思い出の中にずっといる。簓が二本の竹串を駆使してクルクルと綺麗にひっくり返していくと合歓が手を叩いて喜び、左馬刻も目を丸くする。褒めちぎられると嬉しいもので、簓は調子に乗り、三人では食べきれない程のたこ焼きが出来上がった。次の日の合歓の弁当にもたこ焼きが入ったという。碧棺家に簓が持ち込んだたこ焼き器はどうなったんだろうか。口の中で熱々の生地が大暴れして少しだけ涙が滲む。ハフリと息を吐く。ぱちぱちと瞬きをしても鮮明なまま、笑い声が響いている。
 これは回らない寿司と酒と、タコパも追加してええかな。最後のひとつを口に入れる。いつの間にか口元が緩んでいたらしく、何にやにやしてるんだ?悪巧みか?と零が物知り顔で笑っている。