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けいじ
2025-07-12 22:16:48
3525文字
Public
ああリンゼル
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血に塗れたリンゼルを読みたいんです
イフに捏造、その他なんでもいける方のみどうぞ
東の果て、霧深い寒村に育った少年は、生まれたときから剣しか知らなかった。
冬は寒さに凍え、春は山の獣に怯え、夏は飢えをしのぎ、秋は戦に駆り出された。
そんな村から、奇跡のように召し上げられた。
王都の城に呼ばれ、王女ゼルダの近衛に選ばれたとき、リンクは十七になっていた。
目立った功績があったわけではない。だが退魔の剣を握れば、誰もが彼を英傑と認めた。
ゼルダ姫は姫巫女の血を引く身でありながら、女神の封印の力に目覚めなかった。
幾度も祈祷師に囲まれ、神殿にこもり、聖なる泉に身を沈めても、力は訪れなかった。
「無才の姫」
——
そう陰で呼ばれていることを、本人も知っているようだった。
それでも彼女は祈りをやめなかった。
毎朝、夜明け前に目を覚まし、神殿の階を昇り、たったひとりで女神像の前に立つ。
誰もいない早朝の回廊に、その背を追いかけることがリンクの日課になっていた。
あるとき、ふとゼルダが言った。
「あなたは
……
わたしの背を見て、なにを思いますか?」
「立派なお方だと、思います」
それは、護衛としての回答ではなく、本心だった。純粋に国を思って祈る彼女は何よりも尊かった。
剣しか持たぬリンクが、姫に想いを抱いてはならない。それでも彼女を目で追い、声を聞きたくなり、そばにいたくなる。
言葉にはしなかった。
心の奥底に沈めるしかなかった。
だが、彼女もまた同じ思いでいると気づいたのは、ある秋の日のことだった。ゼルダは庭の月を見上げながら、ぽつりと言った。
「
……
もし、すべてを捨てられるのなら。わたしは、ただ、あの山の向こうに行って、誰かと静かに暮らしたいのです」
リンクは何も答えられなかった。
ある日、王から政略結婚の命が下った。
相手は、名門貴族の嫡子。
血を正しく継ぎ、ゼルダに次代の姫巫女を産ませるためだという。封印の力に目覚めぬゼルダに、王家は「血統の証」を求めたのだ。
ゼルダはその夜、城の裏庭にリンクを呼び出した。花の匂いが、悲しいほど濃く香っていた。
「わたしは
……
あなたに、抱いてほしかった」
リンクはその言葉を、心に突き立てられるように聞いた。だが、彼女の願いを叶えれば、失うのは国そのものだった。
「俺には
……
お応えできません。それでもあなたから決して離れません」
そして、婚礼の日が来た。城には鐘が鳴り響き、祭の音が流れていた。
花嫁衣装に身を包んだゼルダは、まるで彫像のように美しかった。
リンクは一人、自室にこもっていた。
彼女が、他の男に抱かれる。肌が触れ合い、唇を重ね、脚を開く。声をあげ、涙を流し、身体の奥を満たされる。
すべてが「知らない男」のものになる。
そう思っただけで、息が詰まった。
胸が焼け、頭が割れそうだった。
拳で壁を殴り、棚を蹴倒し、木片を踏み砕いた。
骨が軋み、血が滲んでも、彼女の声は脳裏から消えなかった。
その晩、愛が忠誠を殺し忠誠が愛を腐らせるのだとリンクは知った。
婚礼の後、ゼルダは夜ごと静かにリンクの部屋を訪れるようになった。髪を下ろし、白い衣を脱ぎ、声を震わせて言う。
「わたしには
……
あなたしか、いません」
リンクはその言葉に心を裂かれながら、ついに彼女を抱いた。
だが、彼女の身体はすでに他の男のものだった。触れるたび、喘ぐ声を聞くたび、脳裏にあの夜の幻がよぎる。
——
この姿を、夫にも見せたのか。
——
この涙も、あの男の前で流したのか。
それでもゼルダは言う。
「わたしには、あなたしかいません」
リンクはそれを信じたかった。
だが、どうしても、心が追いつかなかった。
だから、彼女の中に出すことはなかった。
恍惚とした彼女の胸に、腹に、吐き出すたびに、呪いのような言葉が浮かんだ。
——
いったい何が、女神の血か。
リンクは、絶望のなかで、それでもゼルダを離すことができなかった。
そうして、ふたりの密やかな夜が始まった。
ゼルダの懐妊が明かされたのは、静かな春の日だった。王国中が祝福し、神官たちは口をそろえて「女神のご加護だ」と言った。
封印の力に目覚めなかった姫が、いまようやく王家に子を授かった
——
と。
リンクは、ただ沈黙した。誰も、子の父が誰かなど問わなかった。王配は何も疑わぬ顔で、ゼルダの腹を撫でていた。
——
あれが俺の子ならどうする。
そんな声が胸の内で響いた。だが、そんな疑念はゼルダのために口に出すべきではない。
彼女はある夜、ふたたびリンクの部屋に現れた。柔らかな衣をまとい、豊かになった胸を隠すように腕を組んで、そっと言う。
「
……
もう、怖くないのです。わたしの中にあなたをください」
妊娠したことで、子を成す恐れがなくなったのだ。それが、皮肉にもゼルダにとって自由だった。
リンクは、ためらいながらも彼女を抱きしめた。今まで吐き出す場所を求めて彷徨っていた精液を、ついに彼女の奥へと注いだ。ゼルダは涙をにじませた。
「
……
あなたとの子供が欲しかった」
その言葉に、リンクの心は深く裂けた。
許されざる願い。叶わぬ夢。
だがそれでも、彼もまた同じ祈りを抱えていた。だから黙って、彼女の中にすべてを吐き出した。
——
もし、この子宮が空だったなら。
愛ではなく、呪いのような願いを何度も注いだ。
ゼルダの産後もふたりの関係は続いた。
王配はそれに気づき始めていたのかもしれない。ある日、リンクを呼び出し、真顔で迫った。
「姫と、なにかあるのか」
「
……
滅相もありません」
「そんな馬鹿な。あんな女を前にして、一度もそう思ったことがないというのか?」
リンクは何も答えなかった。
「
……
なら、ちょうどいい。今晩、閨の護衛を任せよう。お前のような堅物なら、安心だからな」
閨の番。それは、老いた既婚の近衛が務める、王家の私的領域の見張り役。若い男が就くものではない。それは、明らかな悪意だった。
その夜、リンクはゼルダの寝所の外に立った。扉一枚隔てた奥で、微かな吐息と衣擦れの音がした。やがて、聞き慣れた声が切なげに喘いだ。
その声は、リンクの心を焼いた。爪が皮膚に食い込み、血がにじむ。その場に立ち尽くしながら、リンクは耐え続けた。
数日経っても、ゼルダはいつものようにリンクを訪れようとしなかった。リンクがやっとの思いで彼女の元を訪ねると、彼女の声は震えていた。
「
……
今日は、お会いできません。あなたにだけは、聞かれたくなかった」
リンクは、ゆっくりと扉を開けた。ゼルダは顔を伏せていた。
「
……
わたしのような女を、軽蔑したでしょう」
「しておりません」
「淫らで、恥知らずな女だと
……
思ったでしょう」
リンクは首を振った。彼女の肩に手を置き、ただ言った。
「あなたをお慕いしています」
ゼルダは泣き崩れた。
その夜、ふたりはすべてを許し合い、未来を誓い合った。
「
……
娘が成人したら。王配がいなくなったら。わたしの願いを叶えてくれますか?」
リンクはうなずいた。
「その日まで、守ります。何があっても」
ゼルダの娘は成長した。王家の後継として聡明に育ち、姫巫女として民の祈りを背負うようになった。ゼルダは、娘とともに神殿で祈る日々を過ごしていた。
ある日、娘が尋ねた。
「お母様は、なにをお祈りしていたの?」
ゼルダは微笑んで答えた。
「あなたが産まれてから、ずっと同じことを祈っていますよ」
娘は、自分への祈りだと信じた。だがゼルダの心には、別の願いがあったのだ。
それから間もなく、王配は若くして命を落とした。
病とも毒とも知れぬ死だった。
火葬の煙が空へ昇っていく日、ゼルダは誰にも見られぬように、小さく呟いた。
「やっと
……
わたしの祈りを聞き入れてくださったのですね」
イーガ団が現れたのは、その数月後だった。
「王家の血を断つ」と叫びながら、ゼルダとその娘に刃を向けた。
リンクはふたりの前に立ち、剣を抜いた。
刃が交わるたび、心が軋んだ。
——
王家の血が憎いのは俺も同じだ。
迷いが剣筋に現れたのか、ゼルダと娘が危機に瀕する。ゼルダが娘を抱きしめて叫ぶ。
「リンク! 娘を
……
!」
怯える娘の瞳に「他の男」が重なって見えた。それでもリンクは、剣を振るった。
憎しみよりも、忠誠よりも、深いところで、彼は娘を守った。
娘が成人を迎え、姫巫女として即位する日、ゼルダは静かに王冠を外した。その夜、城の裏庭で、リンクが待っていた。
ゼルダは笑った。
「ようやく
……
約束の日が来ましたね」
リンクはゼルダの手を取る。
「山の向こうに行きましょう」
ふたりは誰にも知られず、誰の目も届かない場所へと向かった。
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