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kr0mm333
2025-02-15 10:13:07
3638文字
Public
バチ
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傷跡
以前フォロワーさんとお話しさせてもらっていた、型月的(?)過去視を持つ座村さんの話。
60話のシーンで書いてますが、書きたいところだけ書いた感じなので急に始まって終わります。
書かせていただいてありがとうございます!
書き始めたはいいものの、ずっとコレじゃない感で書いては消してを繰り返してたんですが、一昨日くらいに急に降ってきたので勢いでガッとやってしまいました。
だいぶ気分よく書いてたので色々おかしいかもですが、生暖かい目でスルーしてください😇
タイトルは大好きらっきょの主題歌から。
「もう、何もしなくていい」
荒くなった息遣いが聞こえる。
踏み込み、刃と鍔の震え、踏み込みの甘さ、動揺の音があらゆる場所から聞こえてくる。
踏み込みの音は板張りと地面の差はあれど、初めて会った時に聞いた踏み込みの音よりも格段に甘い。それほどまでに狼狽
……
否、錯乱していたのだろう。
皮膚を裂き、筋繊維を断ち、骨を砕く。そして、刃先が臓器に触れる感覚を思い出す。肺と肝臓。どちらも生命を維持するには不可欠で損傷すれば死は免れない。今のような状況では特に。
漆羽の時もそうだったが、知っている人間を斬る感触は本堂で殺したフリーの妖術師達よりも妙にリアルに感じられた。
ザザっ、ザザッーー
……
閉じたはずの目、正確には脳内で様々な映像が再生される。
山の中、木々に埋もれるようぽつんとそこにある一軒家。その隣には六平鍛刀場と書かれた看板を掲げる小屋があった。
ーーチヒロ!
煩いくらいに大きくて、よく響く男の声。それに続く、覚えのある声。
ーーまたお前の声が聞けるとはなァ
……
記憶の中にあるものより精悍になった顔つき。出会った当時は髭など生やしていなかったはずだが、個性的な形に少しだけ笑いそうになってしまう。
もう二度と聞くことはないと思っていた声の懐かしさに目元を緩めそうになるが、それよりも先にするべきことがある。
振り返り、血を流す千鉱に向かって一歩踏み出すと、座村ァ! と自分を呼ぶ声を聞いた気がした。
この世には、妖術の他にも特殊な体質の人間というものが存在する。
鏡凪一族がその最たる例だが、座村も他人にはない能力を持っていた。
過去視。
予知の逆で、対象の過去を見ることができる能力。見る内容の取捨選択はできないが、戦争中も時に敵の記憶を見ることで次にどこを攻めようとしているかという情報を得ることもあって役に立った場面も多い。
幼い頃は無差別に相手の過去を見てしまい、口に出したせいでトラブルになったこともある。しかしどうやってもこの能力を無くすことはできなかった。無くせないなら、飼い慣らすしかない。
そう思ってこの能力を制御できないかと苦心し、様々な事を試した結果、自身の極める剣術を使ったときのみ発動する程度にまで抑えることができるようになった。
試し斬り用の藁束を斬るだけならば万が一に発動したとしても問題はない。藁束を作り、運送され道場の倉庫に保管される。見えるとしてもその程度。
孤高の剣術、居合白禊流の師範代であるだけならばそれでよかった。
しかし、斉廷戦争が始まるとすべてが一転する。
突如現れた小国との戦い。
戦いは主に妖術師達によって行われていたが、白禊流を修めた座村もまた前線にいた。
限界まで刀に込めた玄力を抜刀と共に解放する白禊流は居合いというだけあり、対人戦となると一刀で敵を斬り伏せる。
初めて人を斬った時は血と肉の断面に動揺してその人間の過去を知覚している暇はなかった。
しかし、同じことを繰り返しているといつかは慣れてしまうもの。
一人斬る。座村の脳内に相手の過去が映し出される。
また一人斬る。血と肉になった敵の姿に重なって相手の直前の会話が見える。自分達はここを、だからそれを陽動として向こうを攻めろ、そう言っているのが見えた。
斬る、斬る、斬る、斬る。血飛沫、肉の断面、見覚えのある誰かの死に顔、誰かと談笑する声。
自分が斬った人間の死だけでなくその人間が殺した別の誰かの死に様、自分が殺した相手が同じように生きてきた人間だったのだと見せつけられ、頭が狂いそうになる。
だから、目を閉ざした。
こんな目があるから要らぬものまで見えてしまう。
言ってしまえば自暴自棄。
頬を伝うのが血か涙かなんてどうでもいい。
これでもう肉の断面も、他人の過去を見ることもなくなる。解放される!!
治療系の妖術師に傷を癒してもらい、経過観察を経てまた戦場へ戻る。不謹慎とは知りながら、あの忌まわしい能力と決別できたことを確認できると期待しながら向かってくる敵を斬った。
ザザッ、ザザッーー
……
頭の中にノイズが走る。
見えないはずなのに。自分の目にはもうなにも見えないはずなのに。
そう考えた瞬間、目蓋の裏で映像が流れた。
血飛沫と断面、笑顔、足元に落ちた黒と放射状に広がる赤色、白色、ピンク色、生い茂る木々の向こうに見える海、赤く染まった地面に立って刀を構える黒服の男。
目を閉ざせば見えなくなると思った。
視力を奪えばこんなものは見えなくなると、盲目的に信じ込んでいた。
なのに、座村の目には今だに斬ったものの過去が映し出される。
ほんの一瞬だけのものが何度も展開されるこもあれば、数は少なくても長く感じるもの、短いものがほんの少しだけ流れるものと様々。
一人斬り、その人間の過去が流れ込んでくる前に次の一人を斬る。その繰り返し。殺した人間の姿と過去を見たくなくて目を閉ざしたはずなのに、人間を殺し続けることで過去から逃れることができるようになった。
どうしてまだ過去が見えてしまうのか、その答えが判明したのは戦後。
自身も特殊な体質を持ち、それを研究する妖術師に会った時のこと。
過去や未来、透視、千里眼のように視覚に映し出される能力は視力を奪ってしまえば見えなくなると思いがちだが、実際はそんなに単純なものではない。例えるならば映画のようなもの。脳という映写機が他人の過去というフィルムを読み取り、視覚がレンズとなって見せているだけ。
その話を聞いた時に愕然とした。
いくら目を閉ざしても脳が機能していれば見えてしまうという事実。
戦時中、一人斬るとその人間の過去が見えた。妖刀を持つようになるとその能力で大勢を一斉に殺すことになり、頭の中で洪水が起こったかのように多くの人間の過去が流れ込んでくる。
それは情報の洪水のようで、一人の過去が一瞬見えたかと思えば、もう次の誰かの記憶が流れ込んできて直視などできたものではない。
戦争が終わらない限り敵は殺さなければならず、飛宗を振るえば大勢の敵という人間が死ぬ。最初は戸惑い、頭が割れるように痛んだが、ただ斬り伏せるのとは違い、一つ一つを直視しようとしなければ過去が流れ込んできても脳がそれを処理しきれなくなって記憶には残らない。
ただ斬るよりも妖刀の方がマシだ。そう割り切って人間を殺す罪悪感と他人の過去を見なくて済む安堵に苛まれながら、それでも座村は妖刀を振るった。
そして、他人の過去に苛まれ続けながらも座村が刀を振るい続けられた理由。
それは、
ーー悪を滅し、弱者を救う
流れ込んできた記憶の中にあったその言葉を境に、場面が切り替わった。
さっきまでそこにあった家屋は無惨に倒壊し、炎に包まれている。
見下ろした視界は歪んでいるが、腕の中にいるのが自分のよく知る男だというのはすぐわかった。炎に照らされた血の赤、そして薄く開いた目蓋の向こうに濁り始めた瞳で本当に男がこの世からいなくなったことを理解させられた。
『
…
父さんの
…
信念を、分からせる
…
ッ俺が
…
』
譫言のように呟く声は悲しみよりも怒りに満ちている。
『
…
俺が殺らないと』
お前はそんな事をしなくてもいい。
それを最後にブツリと途切れた映像は現実には瞬きほどの長さだろう。
それでも、その死に顔が座村の記憶に焼きつくには十分だった。
倒れた千鉱き歩み寄る。その傍には、噂に聞いていた七本目の妖刀。
戦後六本の妖刀を回収した国重が七本目を生み出した理由は知れない。彼のことだ、能天気に見えてもちゃんと意味はあるのだろう。
自分達のような罪人が振るった六本と、なんの罪もなかったはずの子供が振るう七本目。
「こいつがあるからいけねえ」
抜き身の刀に手を伸ばす。
自分達が罪人となったように、この子供を罪人に仕立て上げる刀などないほうがいい。
正しく振るうための導き手となる大人がいないのなら、こんなものは存在しないほうがこの子供のためだ。
罪人である自分も、子供を導ける大人にはなれない。ならせめて彼の罪を濯ぎ、ただの子供に戻してやるのが大人としての役割だろう。
様々な音が聞こえる。木々のざわめき、鳥の鳴き声、風に揺れる板がぶつかる音。その中でいっとう大きく聞こえる荒い呼吸。
この子供はもうすぐ死ぬ。
そうすれば、妖刀から解放される。そして今度はその妖刀と自分が契約すれば、この子供が復讐に囚われていてもその手段はなくなることだろう。妖術師になるという手もあるが、玄力を扱うことはできても妖術の発現には相当な修練が必要となる。それを待つまでもなく、自分が全てを終わらせばいい。
あと少しで触れる。
その瞬間、横から伸びてきた手が刀を奪って消えた。
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