いさき
2025-07-11 15:02:25
2070文字
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東ブレ二次 もめ(+キザミ)

血表現アリ
千代田王は処刑がお好き

 石造の冷たい部屋。ひとつだけ置かれた立派な彫刻の施された椅子は王が座するに相応しく、厳かな雰囲気はここが千代田王の間であることを表していた。ここ千代田区で一番王に相応しい場所、そして一番命を吸った場所だ。
 部屋の隅に並べられた松明に順に火がつけられていく。轟々と燃える火がここの人間の野蛮さを表しているように思えた。
 部屋には大きくはない舞台があった。といっても、一段二段と床より高く誂えられただけの簡素な造りで。
 その舞台に両手足を拘束されたキザミが眠っている。
 高みに座する千代田王が高らかに声を上げた。

「構えよ」

 王は余興が好きなお方だ。乗り込んできた馬鹿な鬼を処刑するのを特に好む。
 意識のないキザミが二人がかりで持ち上げられる。王に向かい合うように支えられ、首を差し出すように体勢を整えられる。隣に立つ者は極楽天女を携えていた。剣主の首をその盟刀で切り落とそうとするなんて、本当に。
 良い趣味をしている。

「鬼の首を落とせ!」

 千代田王の号令が部屋に響く。
 これでキザミの顔を見なくて済むようになると思うと清々する。自分は強いと嘯いて、助けてやると手を差し伸べるその傲慢さが誰より、嫌いだった。
 ゆっくりと極楽天女が引き抜かれる。ひとたび鞘から抜かれた瞬間に見る者の視線を奪う豪快な炎を纏っていた刀身は、ただの人の手に握られた今はそこらへんの鉄の塊と同じだった。

 虚しいな、 極楽天女お前も。

 極楽天女が振り上げられる。部屋を照らす炎を透かして見える物静かな刀は、彼の最期には似合わない気がした。

「あーあーあー!こほんこほん」

 気付けば踏み出していた。
 低い舞台に足を掛け、処刑人の前に滑り込んだ。

「すみません、千代田王。やっぱりコレ、僕が貰っても構わないでしょうか」

 王の側近や周りの者がざわりと響めく。知らぬふりして千代田王に真正面から深々と頭を下げた。

「実はコレ、僕が首を落とし損ねた鬼でしてね。今でも夢に見るほど悔しくて仕方ないのです。良ければ私めのこの夢、叶えさせて頂きたいのですが」

 王は先ほどよりも厳しい顔でこちらを見下ろす。もう遅い後悔の汗が額を滑った。

……ソレがお前の弱みか」

 千代田王が口元を小さく歪める。ぞわりと悪寒が走った。

「いいえ、いいえ! 弱みなんて物じゃない。僕はただ、コレが目障りで仕方ないのです」

「ではお前がソレの首を落とせ」

 何をしているのだろうと、自分でも思う。こんな男、死んでしまった方が僕の気も済む。ただ見守っているだけで気分の良いように進むはずなのに、どうしてこんなにも口を挟んでしまうのか。
 キザミという存在が消えることにどうしてこうも胸の内がざわめくのか。

「いいえ、これでは満足できません。彼に刀を握らせて、それごと砕いて、やっと僕は満たされるのです」

 こんな一方的に屠られるやり方は気に食わないのだと、適当に言葉を並べて間を繋ぐ。心変わりなんて期待していないけれど、理由のわからない胸焼けのような気持ち悪さに、ただこのままこの状況は受け入れられなかった。
 千代田王が厳かに唇を動かした。

……お前の弱みを知れて、残念だよ」

「弱みだなんて————ッ!」

 口八丁を綴ろうと王に向かって前のめりに身を乗り出した。大袈裟振って手のひらを当てた胸が、急に熱くなった。
 油断していたつもりはなかった。
 痛みと咽せる血の味が遅れてやってくる。
 胸に当てた手まで届く刃先は、しっかりと体を貫いていた。

「ではなぜソレに背を向けた」

 ずるり、と肉の間を鉄が抜けていく。その勢いにつられてふらりと揺れる体を踏ん張りながら、迫り上がってくる鉄の味を堪えた。
 突き抜けた刃先だけでも充分わかっているのに、つい後ろを振り返る。
 いつの間にか拘束を抜けたキザミが赤い血に汚れた極楽天女を握っていた。人を背後から刺し殺そうとする割に虚げなキザミの表情を見て、ああ、と理解する。

 盟刀の力か。

「ッ……やはり、もう一本あったんじゃないですか」

 嘘つきジジイを睨みつけると、王は愉快そうに口元を歪ませた。

「さあほら! 刀を握っているぞ! 殺してしまえばいいだろう!」

 いくら胸を押さえてもぬるい血が溢れてくる。傷口が熱い。
 くすくすと囃し立てる声が聞こえる。

「何を馬鹿なことを。これはアンタらの傀儡で、コイツの意志じゃない」

 余興の準備は整ったらしい。踊らされていたのは僕の方。
 要らないモノをまとめて処分する良い機会だったということか。

「意志もなく刀を振るうキザミになんか、何の価値もないんですよ」

 手のひらを覆い尽くし滴る鉄臭い滑りを服で拭って、汚れた手で流水死命を引き抜いた。まだ踏ん張れる両脚に力を込めて切先を千代田王へと掲げる。

「余興を遮ったお詫びとして、私の舞などご覧に入れましょうか」

 もういい。

 全員殺してやる。