自分の目線よりやや高い位置にある松本のうしろあたまを見上げて、ふうんと息をつく。高校三年間、見飽きるほどに見ていたはずなのに、松本の髪にほんのすこしウェーブがかかっていることすら知らなかった。
まじまじと見つめる一之倉の目の前で、松本がふいにうなじのあたりを撫でた。
「あ」
「あ?」
一之倉が思わず声を上げると、松本がこちらへ振り返った。その頬は河田や野辺に飲まされたビールのせいで真っ赤になっている。
「あ、いや」
「うん?」
「……松本、髪伸ばしてんだなと思って」
「ああ、うちの大学のバスケ部、一年生は坊主って決まりなんだ。今年からようやく伸ばせる」
「へえ」
去年の夏、OB戦のために山王に集まったときに会った松本は坊主頭だった。松本が変わっていないことにほっとしたけれど、そうか、あれは単に部の規則だったのか。勝手に安堵していたくせに、なんだか裏切られたような気持ちになる。
「とは言っても、やっぱり短いほうが楽だからすぐ切っちまうんだけどな」
そう言って、松本はもう一度うなじのあたりを撫でさすった。一之倉も、自分のうしろあたまを撫でてみる。松本よりもよっぽど長く伸ばしている髪が、汗で首筋に貼りついている。
「……松本の坊主頭、オレは好きだったけど」
居酒屋の喧騒にまぎれて、ぽつりとつぶやく。松本の耳には届かないだろうと思っていたのに、松本はジョッキをテーブルに置いて、こちらへ身体を寄せてきた。立ちのぼった汗の匂いは、あの頃嗅ぎ慣れた松本の匂いそのままだった。胸がぎゅっと苦しくなる。
「一之倉は髪、このまま伸ばすのか?」
「あ、ああ……」
松本の右手が伸びてくる。いつもはボールを自在に操る指が、一之倉のえりあしの髪を掬った。
「……俺も、一之倉の坊主頭、好きだった」
お互いの酒臭い息が混じるような距離で見つめられて、身じろぎもできなかった。酒精で潤んだ松本の目に、あの頃より髪が伸びた自分が映っている。
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