緋を纏う白炎

MHRウ教×マイハン♀。両片想い。
ウ視点。

マイハン♀の防具が『それ』なのは。


天気が良いと、キミは特に見つけやすい。

西洋が香る白い甲冑のような装備は、里ではよく目立ち、また眩し過ぎて、陽の光もよく跳ね返すから。

集会所の屋根上からだと、更に、とてもよく分かる。
本来は船着き場の警戒や周辺の哨戒のために立っているのだが、キミの姿があると意識はつい、そちらに向かってしまう。

毛氈もうせんが敷かれた茶屋の縁台に腰掛け、元気いっぱいに大きなお口を開けてうさ団子を頬張るキミの隣に座る少年は、最近俺に『弟子入り』をしたタイシだ。

並んでうさ団子を齧りながら座っている二人は、何か話しているようで。
耳をそばだてれば、その声は花風に乗ってこの耳に届く。

「センパイ! 自分、前から気になってんスけど」
「ん、むぐ。……ん、なぁに?」
「センパイは、どうしてカムラノ装を着てないッス? その装備、ウツシ教官とか、里長の装備ともちょっと違うッスよね」
「そうだね、カムラノは結構前に脱いじゃったなあ。今の装備はアケノシルムだよ! お気に入りなんだー」

答えながら、桜を映す夕日色の瞳を意味深に伏して、笑みを浮かべるキミの横顔が、俺の目にはよく見えた。

ふわりと、たおやかに、桜の花びらが蒼穹そうきゅうを舞い散る中、キミはまた、うさ団子にかぶりつく。

タイシは「そうなんスか!」と元気に頷きながら「その色、目立つッスよねぇ」と、湧き上がった言葉を無邪気に、彼女にぶつけ続ける。

「センパイ、そんなに目立つ装備でいつも狩猟に出てるんスね」
「そうだよ、カッコイイでしょ」
「あ、確かに! カムラノと雰囲気違うから、カッコイイッス! けど‥その姿じゃ、すぐモンスターに気付かれちゃうんじゃないッスか?」
「あはははっ、そうだね。目の付け所がいいねえ、タイシくん。夜でもすぐ見つかっちゃうことが多いよ、基本的に夜に活動するモンスターは目も耳も良いのが多いからねえ」
「カムラノ装の方が目立たなそうスから、戻した方が良いんじゃないッスか? あ、もしかして、そのアケノシルムのは、防御力がめっちゃあるとか!?」

疑問と、鋭利な正論が混じるタイシの一言に、キミはうさ団子をごくんと飲み込んでから「そうでもないなぁ」と最後の問いにだけ答え、小さく笑った。

タイシの無邪気な質問は、どういうわけか俺の心をじわじわと、妙に締め付けた。

キミが何故、カムラノ装を脱いだのか。

キミは一切語らないが、俺は、何となく察している。

俺だけではなく、恐らく里長も、ヒノエさんもミノトさんも──百竜夜行が襲来した際、里守として前線に、翡葉ひようの砦に出陣する里のみんなが、分かっているのではないかと思う。

里に近い後方の補給線で手伝いをしてくれているタイシは、知るよしもないのだ。

「何でセンパイは、そんな目立つ格好を?」

真っ直ぐで、無垢な問いに、うさ団子を食べ終えたキミは「んふふ」と喉の奥に笑声しょうせいを秘めた。
タイシの方にゆっくりと顔を向けたキミは、零れ桜の中で、優しく目を細めて微笑む。

「カッコイイ、でしょ!」

キミの言葉に呼応するように、桜の花びらが儚く、美しく、圧倒的な存在感と共にふわりと舞い上がって、彩るようにキミの傍を流れていった。

最小限の、先ほどと同じ答えだけを告げたキミは、ゆらりと縁台から立ち上がる。

「さあて、腹ごしらえも完璧! そろそろ狩りに行って来るよ! またね、タイシくん!」
「あっ……ハ、ハイ! センパイ、お気を付けて! お疲れ様ッス!」

キミに見惚れていた様子のタイシが、齧ったうさ団子の残った串を軽く振って見せた。

それにも笑顔で手を振り返したキミは背を向け、流星のような銀髪を揺らして駆けて行く。

キミが目指すは、生命をす過酷な狩場。 

里や山道を抜けてそこへ向かうには、髪色と共に眩い朝暉ちょうきを跳ね返す白い甲冑は、そう、やはり、あまりにもよく目立つ。

(……キミは……キミは、本当に……)

強いね、優しいね、などという言葉が浮かんだが、その全てが陳腐な気がして、俺は思わず首を横に振ってしまった。

小さくなっていくキミの姿を見つめる中、ふと──百竜夜行での、翡葉ひようの砦でのキミの姿を思い出した。

──大量のモンスターたちを前に、怯えを殺して奮い立ち、兵器を用いて必死に戦う里守たち。

ハンターではない彼らが、雪崩なだれのように押し寄せるモンスターたちを前にした時の恐怖は、言葉に形容し難いものがあるだろう。

それでも里のためと、懸命に戦って傷つき、恐怖心が芽生えかけた彼らの前に立った者。

誰よりも目立つ白の甲冑を纏い立ち、誰よりも高らかに、凛然と声をあげたのは、キミだった。


──ボクを見ろ!!

──ボクを、殺してみせろ!!


その言葉は、その姿は、モンスターたちだけでなく里守たちを、俺をも衝撃と共に惹きつけた。

キミはあえてモンスターたちの前を、愛用の弓を片手に翔蟲を用いて飛び回り、その注意を引いた。

砦の場所は、切り立った崖の狭間の谷底に建設された光の少ない場所。モンスターたちの目にキミの『白』は、どんなに捉え易かったことだろう。

モンスターたちの炎、牙、爪、風、全ての矛先は、キミに向かった。

その間に、怪我人が砦の奥に退避する時間が、壊れた兵器を配備し直す時間が、前線に立つ里守が回復薬を流し込む時間が。

全てを立て直す時間が、生まれた。

モンスターたちの怒涛の中でも、キミという炎は決して屈さず、愛弓で旋風を起こし、俺たちを鼓舞するが如く、天を突き抜けんばかりに強く燃え上がり続けていた。

あの光景を、俺は生涯、忘れないだろう。


──気焔万丈おおぉぉッ!!


キミのあの声は、あまねく命を震わせた。

あの時に俺は、キミの色を、心を理解した。だからこそ、決意も誓いも、想いも、新たにできた。

(俺が……! 俺が、必ず、守るよ……)

白銀を包み込める色は、決まっている。それよりも強く眩い、雷光のような白か、あらゆる場所に溶け込み、気取けどられぬ黒。

幸いにも、俺はその両方を持っている。

(何より、俺は──キミを……!)

そう、一番はそれ・・だ。

前者は、どうしていつも自分の側にいるのかとキミに問い詰められても伝えられる、建前のようなもの。

本音は、誰よりも先に、最初の盾になろうとする『何より大切な人を、この手で守りたい』から。

他の誰にも、例え里長であっても、長年の竹馬の友であっても、これだけは、譲りたくないから。

「──俺は、ずっとキミを見守っているよ……愛弟子」

想いが溢れたような、誓いも秘めたこの声は、きっと、桜の中に埋もれたことだろう。

まだだ、まだ、この想いはキミの耳には、届かなくていい。

白き強者ツワモノ『猛き炎』を守るのならば、俺も、もっともっと強くならねばならない。

家族を失い、涙の枯れたキミを守り、その顔に本当の笑顔を宿すには、その心を人生の喜びで満たすには、まだ、俺は弱い。
力も、優しさも、知識も、経験も、何もかも足りない。あるのは、覚悟と決意だけ。

里を、里の人々を包む守護の白い炎は、今、この時も俺の視界にある。

里の門を抜けて、方向的に大社跡へと向かうキミは、景色の中に浮かび上がるように、まだまだ、しっかりと見えていた。

その光景に、ほっと胸を撫で下ろす。
 
愛しいキミは、とても見つけやすい。

生涯、決して──何があろうと、見失うまい。




@acadine