青と黒、ついでに銀。肉球のついた小さな手が見た目にそぐわず小器用に動いては色とりどりの毛糸を三つ編みにしていくのをウルピアヌスは見る。時おり機嫌が良さそうに長い耳を震わせるふわふわのドクターとは裏腹に、足の間で座るもう一人の小さなドクターはウルピアヌスの髪を手にしては不思議そうに首を傾げている。
「やり方がわからないのか」
大人の姿であればたやすくできるだろうに、見学していた訓練にて誤って放たれたアーツによって幼い頃に戻ってしまった今のドクターはそうではないらしい。隣で手本がわりに編まれる毛糸を見てはいるもののどうにも理解が追い付かないようで、何回か編もうと試みてはさらさらと髪を撫でるだけに終わってしまう。見た目相応の五歳程度までに知性も記憶も戻ってしまったというのだから、三つ編みができないのも致し方のないことだろう。
どうしようと困ったように低い位置から見つめられてしまうものだから、常ならば口から漏れるため息を押さえた。柄ではないとは思うものの、幼子を傷つけるのもまた本意ではないのだからしかたない。それが想い人であるのであればなおさらに。
「手を貸せ、ドクター。共にやればすぐにわかるようになる」
ドクターの小さな手の上にウルピアヌスは自身の手を重ねた。大人の時の血色が悪くぬるい手を想像して、けれども触れた手は年相応にやわらかくあたたかい。ーーーこの人にもこういった時期が確かにあったのだ。殺戮も権謀術数も知らず、ただ人の身にはあまる使命も抱えずにいた頃が。
「ウルピアヌス?」
どうしたのと見つめる瞳はただただ、いとけない。なんでもないと小さく首を振って重ねた手を傷つけないようにゆっくりと動かしてやる。
「髪を三つに分けて、左右を交互に編み込む。よく見ていろ」
三つに分けた髪を小さな手とともに、軸にした髪に左右の髪を編ませていく。なるほどとでも言いたげに目を瞬かせるのが愛らしい。
「理解できたか?まずはお前だけで続きをやってみるといい」
そう声をかけてウルピアヌスは重ねていた手を離す。いつの間にやら隣で手を止めていたふわふわのドクターの頑張ってとでも言うような鳴き声に促され、小さな手がウルピアヌスの手付きを思い出すようにおそるおそる動いていく。
つたなく、迷いのある手でできる三つ編みはお世辞にも綺麗とは言いがたい。ドクター自身もそれを理解しているのか、少しばかりいびつな三つ編みを見て悲しげに眉を下げてしまう。
違うと首を横に振って髪から手を離そうとするものだから、ウルピアヌスは宥めるようにドクターの頬を撫でた。無数の傷跡のある手は幼子からすれば恐ろしいものだろうに、繰り返し触れる度に穏やかな雰囲気とともにすり寄るのが不思議と成長した姿と重なった。どんな姿であれドクターの本質は変わらないのかもしれなかった。ウルピアヌスに向けるひた向きな思いも、どこかいとけない場所があるところも。
惜しむらくは一日程度で大人に戻ってしまうとの事だから優しい時間のままにはとどめてはやれないことだが、今だけでも穏やかに過ごして欲しいと思いながらウルピアヌスは口を開く。
「はじめてにしては良くできているな、ドクター」
一度で完璧にする必要はない。お前ができるようになるまで傍にいる。頬からさらりと頭を撫でてやれば、合わせるようにふわふわのドクターも小さな手でウルピアヌスの髪を掴んでドクターの手に差し出した。
「みゅみゅう」
おずおずとドクターが差し出されたウルピアヌスの髪を手に取り、もう一度ゆっくりと編んでいく。相変わらず形は歪だが、それでも少しづつ形は良くなっているように思う。そう長くないうちに綺麗な三つ編みが作れるようになるだろう。
「ウルピアヌス」
「どうした」
しらりとウルピアヌスが襟足を撫でるとともに落ちるのは幼いが故の素直な言葉。
「ーーーだいすき」
髪を持ったままに胸元に寄り添うドクターの背にウルピアヌスは腕を回す。ついでにふわふわのドクターも招いてやれば、毛糸の束を放ってドクターの腕の中に潜り込むものだからわわ、と小さな声が上がった。しっかりと抱き止めてやれば漏れるのは安堵の吐息。
「あたたかいね」
「ーーーああ、そうだな」
ふわふわのドクターも頷くように鳴き声をあげてドクターの頬を撫でる。ウルピアヌスの腕の中では愛しい一人と一匹が穏やかに笑い声を上げている。
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