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ゆうな
2025-07-09 22:00:51
4262文字
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おまえのためにとっといた
付き合ってる学生爆轟の初キス話。
書きたいとこだけ書きました。
◆Pixiv:ログ3に格納済み
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26846867
「おまえキスしたことあんの?」
机上を踊る0.5ミリがポキリと折れる。
今日も今日とて爆豪の部屋を訪れ、課題のプリントにせっせとシャーペンを走らせている最中だった。
付き合って2ヶ月。高校2年も終わりかけという思春期真っ只中の歳にもなって、爆豪と轟は未だ手を繋ぐ程度の慎ましさでお付き合いを続けていた。キスだなんて、話題どころか単語すら上がったこともない。今日だって喋る時間を増やしたい一心でもう最後のページまで辿り着いたところだったのに。
思考が止まる。得意なはずの英語の長文が知らない言語の羅列に見えてくる。
ぐぐ、と錆びついたネジのようになんとか首を左に向けると、轟をそんな風にした張本人は変わらず机に視線を落としたまま、左手でぎこちなく課題を解いていた。
そんな、醤油取って、みたいなテンションで訊いてくる男のことが不思議な生き物か宇宙人のように見える。
「いや
……
ねえけど」
本当だ。だって爆豪が初めての恋人だ。初めて好きになった人なのだ。キスをするような相手なんて居たこともない。
素直にそう答えると「ふーん」と爆豪がまた何でもないようなトーンで返すから余計に困惑する。もう折れた芯の行方なんて頭の片隅からも消え去っていた。
「爆豪はどうなんだ」
声が少し上擦った。人に訊いておいて自分は答えないつもりなのだろうか。いや、でも、もししたことがあるだなんて同じテンションで言われてしまったら、チクチクと何かが胸に刺さってしまうような気がした。知らなければ良かった、なんて思うかもしれない。後悔がちょっとだけ顔を出す。
――
かっちゃん? いやあ、女性には結構距離置かれてたし
……
。
緑谷の苦笑いが頭をよぎる。高校入学まで爆豪の浮いた話は聞いたことがないと。でも、幼馴染だからって何でも知っているわけでは無いというのは爆豪から教えてもらった。緑谷が知らないだけで、実際は誰かとそういう関係だったのかもしれない。
轟が一人でぐるぐると考えていると、爆豪が手を止めて顔を上げる。にや、と口の端を上げる男は、そんな轟の心中なんて勿論知るはずもない。
「知りてえの?」
焦らすような口ぶりで犬歯を覗かせる。
知りたいような、知りたくないような。
普段会話がぽんぽんと続く二人にしてはだいぶ長い、たっぷりとした間に、爆豪が痺れを切らしたようにペンを置いた。
「轟」
胡座のまま、体ごと向き直る。
「キスしてい?」
猫背の男がちろりと見上げる。首を傾げると前髪がさらりと目に掛かって、黄金色から赤が透けた。
「う、ん」
答えが気になるのに、こんなにはっきりと切り出されると条件反射で頷いてしまう。
それからようやく意味を理解して、自然と心臓が駆け足になっていく。
答えを聞いた爆豪が、ずい、と顔を近付けてくるから、轟も横を向いて待ち構えた。
爆豪の顔が迫る。こんな時、どうやって待てばいいのだろう。恋人に今からキスされるとわかっていても、初めてのことに頭が真っ白になる。どうすれば良いのかまるでわからない。
膝の上でささくれを弄る爪先を、爆豪の手がそっと覆う。とん、と中指が触れ合い、ゆっくりと、丁寧に指先が絡む。いまだにどこかむず痒い手を繋ぐという行為でさえ、こんなものはキスの前座なのだとじっくり教えられているかのようだった。
じっと見つめてくる爆豪が少しだけ唇を開けたのに気付いて、目を奪われる。奥に見える前歯や暗がりにちらつく赤い舌。今からここが自分の唇に触れるのだと思うと、緊張が一気に押し寄せてきて、轟はたまらず目に映る愛おしい色を全部まぶたの裏に隠してしまった。
なかなか訪れない感覚に焦れて、まだか、まだか、とじんわり汗をかく。たったの3秒の待てすらもできないくせに、耐えきれず目を瞑ったのは逆効果だったかもしれない。気持ちばかりが急いで、爆豪の周りをぐるぐると飛び回っている。
もしかして、キス、しないつもりか?
そうっと、赤と白の睫毛が視界に被るくらい細く目蓋を持ち上げる。思ったより全然近くに白い肌があって、轟は心臓が飛び上がるのと同時に慌ててまたぎゅっと目を閉じた。
今のは何だ、頬か、顎か、はたまた額か。すぐに閉じてしまったせいで爆豪がどんな顔をしていたのかも、どこを見ていたのかとかも、そんな些細な事すらなんにもわからなかった。
なのに。すぐ近くでフッと笑う気配がして、その吐息が口の端に当たるから、くちびるがとんでもなく近い位置にあることだけは分かってしまった。
しかも今の轟の一連の行動は全部見られていたに違いない。羞恥心が心臓をきゅうと締め付け、壊れそうなスピードで胸を打ち続ける。
右の個性をこっそり使ってしまえば体温なんていくらでも調整が効くというのに、長年当たり前にしてきたことですらこの時は思い付きもしなかった。ばっくんばっくんと意味がわからないくらいに鳴り続ける音は、もう爆豪に聞こえてしまっているかもしれない。
それに、唯一触れている指先が追い詰めるように指の間を這ってくるから、轟はもう限界だった。
まぶたを透過する光が遮られる。
爆豪の影が、轟の顔に落ちた。
「ま、ってくれ!!」
勢いよく腕を突き出すと、どしんっと爆豪がひっくり返った。
胸筋に指が沈むのを感じる暇もなく、慌てて傷だらけの腕を引っ張り体勢を戻す。明らかに不機嫌になった顔が目の前に現れて、轟は少しだけ身を引いた。
「わりィ爆豪」
「こんの馬鹿力
……
」
「今日はちょっと
……
無理かも知れねえ、緊張しすぎて」
「てめー手ェ繋いだ時もそんなこと言ってなかったろ、今更どうした」
「友達とも手は繋ぐ。キスは、違うだろ」
「いざとなったら誰が相手でも人工呼吸くらいすンだろ」
「人工呼吸とキスは別物だ!」
珍しくボケてねえじゃねェかと舌打ちをする爆豪を、おまえは俺を一体何だと思ってるんだと睨みつける。
「キスされるって分かって待ってるこっちの身にもなれ」
普段より少し大きな声が出た。
爆豪はそんなこと気にする様子もなく、また醤油取ってみたいなテンションで、
「じゃ、おまえからして」
と、赤い双眼をまぶたで覆った。
待つ側のキモチ知りてえ、なんて無防備な顔で言われたら、そんなの、無理だなんて返せない。
「
……
わかった、」
轟が頷いた気配に爆豪が少し眉を下げる。
自分のタイミングなら多分、大丈夫。
ふう、と息を吐いて、恋人の顔を真正面から捉える。
頬に残る傷に睫毛の影が揺れるのを見ながら、そっと左手を添えた。親指でその痕をなぞるように触れると、ぴく、と反応した爆豪が口をもにょもにょと動かした。
「どうした爆豪」
「
……
なんでも」
「言えって」
「言っていーの」
「気になるだろ」
薄い上唇が弧を描く。どうやら笑いを堪えていたらしい。
「おまえ、キスするとき相手の顔掴んで逃げられねェようにすんだなって思っただけ」
揶揄うような声に轟の頬がカッと熱くなる。立て続けに「なんかエロ」とか言われて、ついに反論もできなくなってしまった。
手を添えただけで、そんな言い方。もしかしたらあと数センチで頬に触れそうなこの右手にも気付かれていたかもしれない。がっついていると思われたみたいで恥ずかしい。
未遂に終わった片手をそっと下ろし、んん、と咳払いをして気配をかき消す。
「黙って、待ってろよ
……
」
「へーへー」
顔を近づけ、唇の位置を合わせる。目を閉じる。
意を決して、こくりと唾を飲んでからゆっくりと爆豪のくちびるに触れた。
触れた、というか、押し当てた、のほうが正しいかもしれない。むに、と不思議な感触がした。手のひらと何ら変わりない人肌なのに、唇、というだけでなんだか温度も湿度も少しだけ高い気がした。
顔を離し目を開けると、爆豪の瞳もぱっちりと開いていて、今度は轟がひっくり返りそうになった。
「ぉ、待つ側、ど、うだった」
なんとか声を絞り出すと、爆豪は自分の唇をぺろりと舐めて、涙袋で赤を押し上げた。
「こーやっておまえが唇湿らせてたのも、睫毛ぷるぷる震わせてんのも、初めてのキス顔も、全部見えてスゲー良かった」
「、おまえ
……
!」
無意識の仕草までバッチリだ。見てるなら言えよ、と喉まで出かかったが、そんなこと、キスする直前に言われてしまったらそれこそ本当に今日は無理だったかもしれない。
「でも」
ぐい、と手を引かれ、体勢が崩れる。
轟の頬が爆豪の首筋に触れ、そのまま背中に手を回された。
「いつされんのかわかんねェの、やっぱドキドキした」
耳元で内緒話するみたいに静かに囁かれて、鼓動が体に響いてくる。その速すぎる心音が自分のものなのか爆豪のものなのか、轟にもわからなかった。
「
……
爆豪、余裕そうだったからしたことあんじゃねェのか。俺ばっか緊張してた」
「これがしたことある男の心臓の音かよ」
「
……
安静にしてくれ」
「てめェ次第だろ」
半端な胡座を居心地の良いものに変えながらしっかりと抱きしめ合う。
熱い、けど、それはやがてぬくもりへと変化し、あんなに激しかった脈も徐々に落ち着いていく。
ほ、と息を吐き、轟は爆豪のシャツの襟に鼻を埋め、そのにおいを堪能する。風呂上がりの清潔な香りに少しだけ甘い匂いが混じる。
「そういえば、ハグもしたことなかったな」
俺の初めてがどんどん爆豪で埋まってく、と頬を寄せれば、爆豪もこてんと紅白に頭を預けた。
「あ、俺まだおまえにやってねえハジメテあったわ」
なんだ、と口が動く前に顎を掴まれ、湿った唇が轟の唇に触れた。
目の前で金色の睫毛が上下に瞬く。視線が一瞬絡んだかと思えば、すぐにまぶたの裏側に隠れていった。
あ、これが。
「キス顔」
どだった? とプリント一枚分の近さで独り言のようにきかれて、うーんと考える素振りをしてみせる。
真っ直ぐ見つめてくる瞳とかち合うと、さっきのキスの感触が蘇ってきて、轟の顔にじんわりと笑みが浮かぶ。
「すげえ良かった」
「ハッ、語彙がカス。さっき覚えたばっかのくせに」
「おまえも同じ感想だったろ。じゃあ俺のはどうだったんだ?」
そう尋ねると、爆豪は轟がしたみたいにんー、と一瞬視線を彷徨わせてから
「忘れたからもっかい」
と、まだ目も閉じていないのにすぐに唇を重ねてきた。
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