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しらかば
2025-07-08 22:04:17
9829文字
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地獄を舞え雷鳴が如く 下
鷺内和希×小鳥遊玲依。続き。
鷺内和希×小鳥遊玲依
「地獄を舞え雷鳴が如く」
注意
・和玲が恋人を装いイチャイチャする話の続き
・闇深シリアスバトルもので胸くそ悪いです(人体実験、子供の亡霊などの要素あり。前半より暗いです)
・まさかの二部構成
!和玲の過去の話が含まれます(割とえげつないです)
大丈夫な方のみどうぞ
【玲依ちゃんはいい子だね】
【この化け物!】
【あんたなんか産まれてこなければ良かった!】
【お前は小鳥遊家の恥だ!】
【二度と顔を見せるな、人殺し!!】
私はその一瞬で、大好きな人たちに拒絶されたらしい。
【貴方はあんな化け物じゃないのよ、和希】
【能力者なんてただの化け物だ!】
【どうしてお前だけが生き残った!?】
【鷺内の血で能力者が出るはずがない!】
【お前は悪魔だ、早く消えろ!】
俺はその一瞬で、全ての血縁を失ったらしい。
私はあの方に救われた。
俺はあの人に救われた。
そして今
――
隣には、頼れる相棒がいる。
私は一人じゃない。
俺は一人じゃない。
貴方となら、君となら
――
例え地獄であろうとも。
負ける道理など、ありはしない。
【地獄を舞え雷鳴が如く 下】
時刻はすっかり夜になった。
「
……
成程、例の犯人が人造人間であり、摘発対象の研究所で作られた可能性を読んでの事か」
作戦を開始すべく二人を迎えに来た黒いワンボックスカーの中で、立てられた端末には望月の顔が映し出されている。好きにしろ、と声が聞こえた。
「可能性は高いと思うんですよねー、人体実験ってのも辻褄が合うし。ありがとうございます、団長。確かに受け取りました」
団員に手渡された解毒剤を飲み干し、慣れた2丁拳銃を握ると軽く構え、感触を確かめる。
そうしている間に玲依は愛用の刀を手にし、靴をスニーカーに履き替えていた。
「やっぱり動きにくいものは履くべきじゃないわ」
「えー、似合ってたけどな」
そう言いながら和希は眼鏡を外した。
「
……
その、さっきのだけど」
玲依の脳裏にはつい先程の人の変わったように冷めた瞳を向けた和希が頭から離れない。あれはまるで、戦場で敵を殺すときの己のようで
――
「この国は
……
世界は、まだまだ能力者への差別意識が強い。異能がある人間なんて化け物と同じだからね」
自ら「化け物」と言いながら、その瞳は揺らいでいた。
「そういう子供は捨てられる事も普通で、身寄りのない子供を保護するという名目で手を差し伸べて、人体実験をしたとしたら?って言うのが俺の仮説だよ」
あまり詳しく語らないのは、和希と玲依が互いの境遇をなんとなく把握していたからである。
小鳥遊玲依は過去にある男に手を差し伸べられ、村を救おうと能力を使い人を殺し、村から追放され、家族からも絶縁されている。その男に救われ、彼女は殺しの道を歩み今に至る訳だが
――
玲依の身体が小さく震えるのを頭に手を置くと優しく撫でた。
「大丈夫、君はもうひとりじゃないよ。どっかのお人好しにも言われてそうだけど」
そんなありふれた言葉をかけながら、和希の脳裏にも過るのは過去の自分だった。
能力者ではないと偽り育てられ、いざ魔物に対峙した時に生き残ったのは親が告げていたのは嘘だったという真実と、能力者である自分のみ。親戚には酷い言葉を浴びせられ、和希に残るのは父親として自分を育てた恩人のみ。その恩人の為に今こうしてここにいる訳だが
――
やはり自分の過去と重なる境遇の存在を利用するクズをあまりいい気はしない。
「
……
クズは結局、死ぬまでクズなんだよ」
自分を否定した後輩が頭に過りぽつり、本音を零すとはっとしてその手を離し、膝の上に置く。するとすぐに柔らかく、小さな掌は和希の掌の上に重なる。
「
……
和希もひとりじゃないわよ、忘れないでね」
「本当に君は
……
」
本当に自分の感情を、自ら言葉にする事が増えた彼女をむしろ尊敬する。それを果たした一端が、あの後輩だという事も彼を認めるに値するだろう。
「
……
任務の前に一つ、俺の昔話。俺の本当の親ってさ、有名な能力者批判派の研究者だったんだ。それで、団長はこの任務を君にのみ出そうとしていた所で、さっきのデート任務があって俺はこっちの任務にも半ば無理矢理参加したって訳」
血に濡れた掌、背負った屍は同じくらいだろうか。それでも今の彼女はどこか暖かく
……
同じ階級の相棒が彼女で良かったとすら思える。
先のデートに絆されたか。これじゃ俺もあの後輩と同じじゃないか。和希は自分を嘲笑うように笑う。
「つまり
……
俺には多分、キレる要素しかないよ。君ももしかしたらそうかもしれないね。けど君となら負けないと思う。だって
……
」
「私達は騎士団が誇る最高戦力。雷霆と戦乙女だもの」
車は目的地へとたどり着く。
そして二人は手をそっと離すと地に降り立ち、口を開く。
「騎士団大佐
――
雷霆、鷺内和希」
「騎士団大佐
――
戦乙女、小鳥遊玲依」
「「これより
――
任務を遂行する」」
――――――
その研究所は山奥にひっそりと存在していた。外見は普通の山小屋にしか見えない。
「これ、作戦指揮は俺でいいんだよねー?とりあえず全員外で待機。俺と小鳥遊で突入する。万が一敵が出てきたら一人も逃がすな、捕縛または処刑しろ」
慣れたように場を仕切り、おそらく外見上は一つしかない扉へと近づく。
「
……
いやいや、稚拙すぎない?」
和希は扉の前で立ち止まるとフッと笑い、掌を伸ばし電流を走らせる。すると山小屋の姿は消え、そこには広大な施設が現れた。
「
……
魔術で隠してあったのね、どうして気づいたの?」
「だいたい、大きな研究所ってのは外部からのカモフラージュを図るものだよ。ここもそうかと思って」
「まあ反対に敵さんにはこちらが来たことはバレた訳だけども
……
いいんでしょう?正面突破で」
和希の返事を待たず、玲依は扉を蹴飛ばすとそこには長い廊下がある。躊躇わず足を踏み入れると、独特の湿気が身体に纏わりついた。
「じゃ、俺達は突入するね。何かあったら連絡を」
和希が団員に振り向くと軽く手を振り、玲依の後を追いかける。
「やる気だねー玲依ちゃん」
「貴方こそ」
殺気は感じない。ただまっすぐ進むと行き止まりに辺り、その隣には再び扉がある。それも躊躇うことなく切り捨てると、そこは普通の小部屋だった。
「ついでにここも軽く見ていこうか、証拠品は押収したいし」
とはいえ、こんな所に証拠品などありはしないのだが
……
「隠し扉でしょう?こういうのって政府の役人が大好きなのよね、隠しておくのに」
机の下。何も変わらない床に玲依は刀を突き刺すとそれを斬り、階段が現れる。
「まどろっこしいのは嫌いよ、さっさと行きましょう?」
「
……
ハハッ、本当に頼もしい相棒だね」
二人がまた先へと進もうとしたその時。
目の前がまばゆい光に包まれ、崩れていく。
「
――
玲依!」
咄嗟に手を伸ばし、玲依の身体を引き寄せるとそのまま身体は地に向かう。
「和、希
――
私はいいから!」
「駄目だよ、けど
……
ちょっと痺れたらごめん、ね!」
このまま落ちれば二人共無事では済まないだろう。
和希は真っ白な地に雷を放つと己の足に稲妻を纏い、電流と同化するように地に瞬時に降り立つ。無事に着地することに成功する。
「
……
良かった、動け
――
ッ!?」
その瞬間、和希の身体が揺らぐ。
「
……
和希?どうしたのよ、ねえ」
玲依が地に降り立つのが分かる。
それ以外が、分からない。
【憎い】
【帰りたい】
【此処は何処なの?】
【痛いよ】
【ねえ、誰か助けて】
【苦しいよ】
「
――
ッ!?」
声が頭に響く。
まるであの公園で対峙したもののような声が。
そしてそれが、どんどん大きくなっていく。
【ホラ早クコロシテヨ】
【タスケテヨ】
「あ、ァあッ
……
」
その怨念が、憎悪が、自分の身体へと登る感覚。
吐きそうなほどにそれは己を蝕み、逃さないようにと絡め取る感覚。
逃げれない。
逃げられない。
どの感覚が正常かすら分からない。
【早クソノ魂ヲタベサセテ?】
「
……
あははっ
……
そうだね、早く
――
殺さなきゃね?」
和希のその身体が大きく跳ね、思わず玲依は距離を取り刀を抜く。
「和、希
……
?」
そこにいるはずの存在は堪えるように顔を手で抑えると大きく笑い、その2丁拳銃を抜いた。
「ああっ
……
ハハッ、早ク殺さナきゃ、オ腹空いてルから沢山食べタいな?」
身体に張り付くような邪気を感じる。いや、明らかに相棒の様子がおかしい。ここに足を踏み入れ、地に着いた時から。
彼はなにかに取り憑かれたように笑いながらこちらにその拳銃を突きつける。
「あははハハ!ホラ、早く遊ボうヨ!」
そして銃弾を放ち、距離を詰める。
「ちょっと、どういう事よこれ!?」
玲依は咄嗟に刀を使いそれを防ぐと、拳銃本体を動かし目の前に現れた存在の攻撃を避けていく。
「しっかりしなさいよ、バ和希!」
交差した拳銃と刀は互いの間を挟むように鍔迫り合う。目の前にいる彼の様子はやはりおかしい。そもそも、気配が別人であるような気がしてならない。
「丁度イイじゃん
……
殺し合オうよ?」
和希が再びニイ、と笑うと玲依の手に僅かに痺れが走り、咄嗟に距離を開けるとその拳銃は雷に包まれ、それを振るうと横一閃に大きな刃が放たれた。
「
……
甘いわよ、バカ」
玲依の刀を地に突き刺せば目の前に氷壁が現れる。それを突き破ると雷はかき消された。
「アレ、避けちゃった?上手ク真似れたと思ったンだけどなあ、この人の戦イ方を」
これで明らかだ。
目の前の男の戦い方は本来のあの男とは異なりすぎる。
「
……
今の、和希なら無理に攻撃を放ちはしないわよ?そもそも、私の得意間合いになんて来ない。いや、来る必要が無いのよ、彼にはね」
しかし男はふと立ち止まり、そして
……
顔を歪める。
「玲、依
……
ちょっと、一発、俺を
……
ッ、本気で殴れ」
震える声で呟く。それは紛れもなく、相棒のもので。
「は?どういう意味よ、それ?そんな事したら
――
」
「頼む
……
命令だ、よ
……
これ、多分、マジでやばい
……
」
そして再び笑うと手にした拳銃を向ける。
「アハハ、まだ抵抗出来るんだ?意識は完全に奪ったつもりだったのに
……
さすが「騎士団最強」だねぇ、博士に聞いた通りだ。早く一緒に死のうよ、【お姉さん】?」
再び和希は豹変した。おそらくは別の何かに。
仮に和希が本当に何かに
……
おそらくは攫われた能力者の子供の亡霊に身体を奪われようとしているとしたら?今ここでやらねば永遠にその身体が違うものになるとしたら?
この存在の告げた「博士」と言う言葉。それがこの悲劇を招いた科学者か。
皮肉にも、和希の立てた考察は間違いではないと己の身体を対価に玲依に伝えている現実。
「あれ?迷ってるの?迷う必要はないよ、殺し合えばいいだけさ
……
いつもそうなんでしょ?」
いや、心配など無用か。
その現実を真実にはさせない。
「
……
和希を貴方なんかにあげないわよ」
誰にも聞こえない、それでも明確なこの想いの答えは知らない。
一つ明らかな事はあの雷霆は
――
私の攻撃などで死にはしない。
「了解よ、雷霆さん?貸一つね」
ならばもう迷いはしない。
玲依は一瞬にして距離をゼロに戻し、銃弾を身体を横に捻り避ける。
「アハハハハ!まさか本気で殺す気?この人間も死ぬだけだよ?」
目の前で響くは雷鳴。それは真横に手を振るえば横一文字に放たれる。
先と変わらない
――
一度通用しなかった攻撃など、あの最強の能力者がやるはずがない。つまり、目の前の存在は違う存在だと再度認識すると刀をきつく握り直す。
玲依の身体を一閃した雷鳴は消え去り、その身体すら幻と消えていく。
すかさず玲依の現れたのは背後。
「
……
何で、足が」
男の足は凍りつき、動かない。
「
……
貴方こそ鷺内和希という男が分かっていないようね、坊や?」
ふわり、風が舞うと四方を囲むは彼女の幻影。
その男は
――
私ごときの攻撃では何を成そうと死にはしないのよ。悔しいけどね。
「
――
幻影と共に散華せよ。幻惑散華」
なんて、自分を変えた後輩のような言葉を添えてみる。少し、勇気が出る気がして。
氷の礫と共にその身体が崩れ落ちるのを見下ろすと、幻が消えるように彼の身体から何かが消えていくのが見えた気がした。ありがとう、と暖かなぬくもりを帯びながら。
「
……
貴重な経験ね、私が貴方を見下す事になるなんて」
玲依は手を伸ばすと、その手を包むのは数刻前と同じ温もり。
「いやー
……
ほんとに本気出す?普通」
「だって貴方は死なないでしょう?峰打ちにしたんだから感謝されてもいいくらいなんだけど」
その手を支えに和希は立ち上がる。
「
……
ほら、やっぱり死んでないじゃない。普通なら死ぬわよ、多分だけど」
「峰打ちだから感謝しろって言ってたよね!?」
当たり前のやり取りすら、嬉しく思うのは何故だろう。
「
……
ありがとう、玲依ちゃん。助かったよ」
彼は優しく笑いながら身体の感覚を確かめるように軽く動いた。
「「
――
ッ!?」」
視線。
玲依が刀に手を触れるより先に和希は一点を睨みつけると威嚇するように銃弾を放った。
「
……
お望みのデータは取れたか?子供達の魂を散々弄った挙げ句、わざわざ能力者の身体を使ったクソ科学者さんよ。さっさと出て来なよ、次は本当に当てるぞ?」
すると風が吹き、辺りの景色は変わった。
そこにあるのは
――
言葉の通りの地獄。
真っ白な空間は現実を取り戻し、視界には灰色の室内にある無数の機械が広がる。おびただしい量の赤に、機械の中には乱雑に検体として集められた何か。それを何だったのか想像する事を二人は自然と拒んでいた。
「まさかまさか、お客様は一人かと思いきや二人がかりだったとは」
そこに現れたのは白衣を着た無機質な男性だった。
「俺の問に答えろよ。お望みのデータは取れたかって聞いてんだよ」
「ああ、やはり子供とは検体に丁度いいな。惜しむ者もいなければ能力者だと疎まれた存在を手っ取り早く処分出来る、私は幸せに使ってあげただけだが?」
「
……
こいつが全ての主犯って事ね?」
もうお前の言葉は聞きたくない。その本音を顕にするように玲依は刀を強く握り、駆け出そうと構えるがそれを遮るように目の前に手が伸びた。
「
……
待って。様子がおかしい」
その研究者は瞳の光が失せ、壊れたように笑いながら電子カルテを打ち込んだ。
「これは予定通りに
――
最終成果を試すべきだ!私が死のうと、あの方の為にこの命を投げ出せるなら本望なのだよ!はは、あははははは!」
そして自らその機械のガラスを割ると、ぐちゃぐちゃと音を立てながら研究者は呑み込まれていく。
「
……
どう読む、和希」
辺りが揺れ、ドロドロと流れ出る赤黒い物体は全てを呑み込むとその身体を大きく増していく。
「
……
あの中にあるのが俺を侵そうとしたのと同じ子供の怨念だとしたら、多分自分の身体を喰わせて俺らを実験とやらに使う気だろうね。一つ解るのはこれが外に出るのはまずいよ、玲依ちゃん」
「さあ、死ぬまでこの地獄に溺れるがいい!無力な騎士団ども!はははは!」
逃げ道はこの化け物を殺す以外にない。
おそらくは逃さないようにわざわざ地下にある施設に誘導したのだろう。
「
……
仮にこれも子供達であろうと私はただ、殺すのみよ。それでしか救えない」
「うん、きっともう人として助からないなら
……
せめて、楽に眠らせてあげよう」
思わず、自分を重ねてしまうのだ。この怨念が昔の自分と同じ、誰かに捨てられた存在だとしたらこの結末はあんまりだと。
「
……
生きていればきっと、あなたの手を取る人はいたはずなのに。それを壊すのはいつの世も
……
人なのね」
私は戦うことしか知らないけど。それでも、今は一人じゃないのだと思えるから。私を示す為に、負けはしない。玲依は再び刀を構え直すと呼吸を整え、和希の隣に立つ。
「とりあえず、敵に攻撃が通用するか試してみても?」
「うん、それが先かな。敵の出方を見て戦おう」
「
……
ねえ、さっき私は貴方を殴ったはずよ?まだ戦えるの?」
「どっかのかわいい誰かさんが手加減してくれたからギリギリ戦えそうだよ?まあ、あんまり長いことは戦いたくないけどね」
いつものように軽口を叩きながら、敵を観察する。大きさは二人の3倍ほどに落ち着いたか。巨人のように、赤黒い人の形をとるそれは行く道を溶かしながら歩み寄る。
「
……
触れるとヤバそうだね、あの身体。直接斬るのは試さない方がいいかも」
直接武器で触れて溶けてしまえば攻撃の手段が減る。なんとかその身体の熱を奪う策を。そもそも身体は熱か、はたまた毒か。
「でも2対1なら好都合じゃないかしら?」
玲依はそう言うと刀を地に突き刺し、敵との間に巨大な氷壁を作り出す。
「これで出方を伺えばいい」
その氷壁はすぐに消え、代わりにその空間を支配したのは霧。つまり、熱を帯びている計算になる。
「
……
直接攻撃を届かせようとしたら、君にかなり無理をさせないといけないね」
「構わないわよ、地獄の底まで付き合うつもりだもの」
「
……
了解。じゃあ攻撃に移ろうか、さっさと終わらせたいから俺はいきなり全力で行くよ
――
合わせろよ、戦乙女様?」
和希の雰囲気が冷ややかなものに代わり、思わず玲依は笑う。
「当然よ、雷霆様?」
互いに地を蹴る。
和希は手に雷を纏うと行く先を塞ぐように次々とそれを散らす。まるで動きを支配するように。
そして巨体を囲むように形成されたのは、氷。敵は腕を振るうとそれを触れるのみで溶かし、視覚からは銃弾。
動けば雷の餌食。その先で敵は足を止め、うめき声を上げると波のように黒い液体は襲いかかる。
波を切り裂いたのは眩い雷鳴。
当たりに飛び散るそれを一瞥すると巨体を射抜くように再び雷の矢が放たれた。
「準備運動はこれくらいでいいか?」
和希が視線を移すと、玲依の刀は敵の足元に突き刺していた。
「貴方自身が凍ればどうなるのかしら?」
僅かに動きが止まる瞬間、敵の身体は凍りつき、辺りは冷気に包まれた。
しかしそれも身体の熱ですぐに溶け、敵は地を覆うように漆黒を流していくが、玲依はそれを避けることなく笑う。遥か天空、雷鳴を纏う男を見据えて。
「科学者なら承知だろう?濡れた身体には
……
電気がよく通るってね」
和希は手を降ろす。
「
――
雷光よ、彼の者に裁きを。迸れ」
天空から雷は放たれ、その巨体を撃ち抜く。
「
――
穿て、雷槍」
そして手を握ると撃ち抜いた雷を中心とし四方から
……
己の散らしていた雷とその身体を結ぶように無数に雷の槍は身体を貫く。幾度となくそれを繰り返すと巨体は剥がれ落ちていき、残るは黒く変貌した人間の身体。
「まだだ!こんなところで終わる訳には
――
」
その存在は和希を殺すべく再び形を作ろうと蠢く。
「いいや、もう終わりだよ
――
」
僅か一瞬。
「俺の相棒が君の魂を刈り取りに来ているのに、それに気づいていない時点でね?」
白銀は地を舞い、その刃は音もなく。
漆黒の身体から首が断たれ、血しぶきが舞う。
「
……
任務完了」
血塗られた刀を虚空に振り、鞘に刀を収めるのは戦乙女。
「ふぅ、お疲れ様。さすがだねー」
ふわり、と地に降りた和希の身体がふらつく。
「
……
全く、無茶しすぎよ」
その身体を抱き寄せる形で支える玲依は笑った。
「アハハ、ついかっとなっちゃったねー。ありがとう、ちょっと休んだらデータとやらも確保しないとね。犯人は殺しちゃった訳だし」
「私がやるからいいわよ、ゆっくり寝ていれば?」
「ほんと?じゃあお言葉に甘えて俺は休んでいようかな
……
」
そんな他愛ない会話をしていた時、ふと焦げ臭い臭いが鼻腔を擽る。
「
……
なるほど。まだ休ませてはくれない、か」
その瞬間に、目の前にあった機械は同時に爆発した。それは燃え広がりながら空間を炎で覆い尽くす。
「証拠隠滅って事よね!?それより早くここから出ないと
……
和希?」
「
……
うん、分かった。これが一番早いよね?」
和希は玲依の身体から離れるとその身体を
――
いわゆるお姫様抱っこの要領で抱きかかえた。
「ちょっと!?こんな時に何を
――
」
「最後にちょっと無茶するから、報告は宜しく」
ここは地下。来た方法すら、敵が突き落としたからに過ぎない。おそらくは先の戦闘で部屋が壊れていない事から、かなり頑丈な部屋である事がうかがえる。外を燃やし尽くすのは、二人が焼けた後だろう。
困惑する玲依を他所に、和希は駆け出す。ただ一点、先に男が立っていた場所を目掛けて。
「待ちなさいよ!そこに何が
――
」
「大丈夫、俺を信じて」
目の前にはただの白い壁。
「奴は俺と君が殺し合う姿を
……
入ってきた隠し扉の前で見ていたんだって。生き残った方を逃さない為にね。そう、教えてくれた」
そこに足を雷で纏うと白い壁を蹴破る。
炎から逃げるように飛び込むと、身体がふわりと浮くような感覚が支配する。一瞬に近い時間を終えるとその先には見覚えのない森と、夜の空が広がっていた。
視界の遥か先では建物が炎に覆われている。
「
……
とりあえず、外に出れたね」
「ちょっと、いつまでそうしているつもりなのよ!?」
「え?ああ、ごめんごめん」
玲依の抗議を聞きながら和希は彼女を降ろすと、大樹を背に座り込む。
「
……
さすがにきついかな」
「当然でしょう、私と戦ってあのデカブツを倒して、その前だって戦闘をしたばかりで。貴方は本当に無茶をするのね?」
玲依もそれに習い隣に座ると、和希は小さく笑った。
「
……
玲依ちゃんがいたから俺も無茶を出来たんだよ?ありがとう」
「ばっ
……
!バ和希だから、仕方なくよ!?」
「はははっ、やっぱり君はかわいいとこあるよね?」
うるさい黙りなさい殺すわよ!?と、顔を真っ赤にしながら隣で叫ぶ彼女にどこか安心してしまう。
「
……
ところで、あの科学者。正気じゃなさそうだったね」
戦いを思い返せば、虚ろな瞳で己を犠牲にしたあの男の違和感へと思考が戻っていく。
「仮にあの科学者が死んだら証拠を消す為に機械が爆発する仕組みだったとしてもあの方ってのが気になるし
……
この件にはまだ裏があるのかしら」
「
……
どちらにせよ、奴の行動は救いようがなかった。被害を考えたら俺達にはあの場で殺す事しか出来ない、真実は闇の中
……
考えても何も証拠はない訳だし、俺達に後できるのは報告書を上げて裏にいる何者かの尻尾を掴むのを待つだけだね」
それでもこの選択が間違いではなかったと思うのは何故だろうか。長年の経験なのか、はたまた隣にいる存在のおかげなのか
――
「
……
本当に、君がいてくれて良かった」
和希は隣の彼女に聞こえない程に小さく呟くと、空を見上げ小さく笑った。
「
……
ねえ、和希。さっき言っていた「教えてくれた」って、もしかして私達を助ける為に子供達の亡霊が貴方に話しかけたの?」
「
……
」
「
……
和希?」
肩にかかる体温。ふわりと薄茶色の髪が凪いだ。
すう、と寝息を立てて彼は目を閉じていた。
「
……
全く、お疲れ様。今日の和希、かっこよかったわよ」
玲依はフッと笑うと動かないようにそっと視線を動かした。
「
……
またデートの続きに行きましょうね、和希。まだディナーが残っているもの、何処へでも付き合ってあげるわ」
和希が幸せそうに微笑んだような、そんな気がして玲依はその手を優しく重ねた。
相棒と過ごすこの穏やかな日常も悪くはないのかもしれない。そんな言葉は隠したまま、彼女は、そして彼は微睡みに幸せな夢を見ていた。
完
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