匣舟
2025-07-08 18:50:12
4285文字
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どんな願いも叶えてあげるよ

本当は七夕の日に上げたかったんですけど遅刻です……。七夕の日の伊乱です。

どんな願いも叶えてあげるよ


 忍術学園の庭には七月になると竹笹が出現し、短冊や飾りで色鮮やかになる。七月の頭に全校集会で忍たま全員、先生も含めて忍術学園の庭に笹を用意しておいたから、ひとり一つ、短冊を配るのでその短冊に願い事を書いておくように。という課題が出された。
 イベント事が大好きな学園長の事であるから、これは少しでも生徒達が学園生活を楽しむためにお祭り気分で盛り上がるためというのが表向きで、きっと学園長も生徒たちの願い事を見て楽しみたいに違いない。と忍術学園の先生や生徒誰もがそう思っているはずだ。
 忍たま全員に課題が出され、早速短冊を書き始めるものも居れば、まだ願い事が思い浮かばず考え込んでいるものもいる。願い事を書く時に、友人と見せ合うのも風物詩だ。
 そんな学園中が色めき立つ雰囲気の中、伊作はひとりたくさんの願い事が書かれて結ばれている笹の前に立っていた。
 笹に結ばれている短冊を見てみると、字が上手くなりますように!とか勉強が好きになれますように!というかわいい願い事から、これ以上影が薄くなりませんようにとか輝くスーパースターになれますようにという色んな願いが書かれた短冊が結ばれていた
 一番伊作が気になったのは、彼と同じ六年生の小平太のいけいけどんどん!と書かれた短冊だ。口癖を短冊に書いて何になるんだよ。と少し笑みがこぼれた。
「さて、僕もそろそろ書かないとな。」
 ここに来た目的を忘れるところであったと、伊作は、改めて笹を見上げた。
みんな願い事いっぱいだなぁ。」
 そんなことを呟きながら、笹の隣の机に置いてある筆と、短冊を持って願い事を考える。しかし、なかなか浮かばない。うーん、と言いながら悩んでいる伊作の後ろにちょこんと小さい人影が出来ていた。
「伊作先輩、何を悩んでらっしゃるんですか?」
わ、わぁ!乱太郎か。」
 驚いて振り返ると、そこには同じ保健委員会に所属し、伊作のかわいい恋人である猪名寺乱太郎が立っていた。もう、びっくりしたよぉ。と胸を抑えていると、驚かせてしまってごめんなさい!と笑って伊作に謝っていた。
 そんな乱太郎を笑い事じゃないぞ〜、本当に心臓止まるかと思ったんだからねぇ〜。と頭をわしゃわしゃかき混ぜてやると、きゃーっ!という悲鳴が聞こえる。そうしてふたりで少しの間戯れていると、乱太郎の手には短冊が握られていた。
乱太郎はもう短冊に願い事書いたの?」
「はいっ!ついさっき書き終わりました!」
 色んなことを考えちゃって悩んでたらもうきり丸としんベヱたちは先に結びに行ったって言ってて。だから今私ひとりで結びに来たんです。そしたら伊作先輩が居たので声掛けちゃいました。と笑う乱太郎が書いた短冊の内容が気になって、伊作は乱太郎が書いたその短冊をチラチラと覗き込んでいると伊作の視線に気づいた乱太郎はあーっ!と声を上げる。
「あ〜!伊作先輩、勝手に見ないでくださいよぉ〜!」
「あはは、ごめんごめん。乱太郎がどんな願い事書いたんだろう?って気になっちゃってね。」
 そう言って短冊を覗き込もうとする伊作から身体を捻り逃げようとする乱太郎に伊作がじゃれつきながら問うと乱太郎はよくぞ聞いてくれましたっ!と言って、じゃじゃーん!と声を出しながら伊作の目の前に自分が書いた短冊を見せてきた。
「みんなが健康で、怪我なくいられますように。か。」
「はいっ!」
 それは乱太郎らしく、自分たちが所属する保健委員の願い事としては模範解答のような願い事だった。
 自分より他者のことを願うところも乱太郎らしいなあ。と思って乱太郎が書いた短冊をにこにこと見ている伊作に乱太郎はも、もう〜返してくださいよぉ〜。と照れて、伊作が持っている自分の短冊を必死に取り返そうと必死になっている。
 しかし、伊作の背が高いのでなかなか短冊を取り返せない。乱太郎が必死になって背伸びしたりぴょんぴょん飛んだりしているので可愛くてつい伊作が意地悪していると乱太郎がぷくぅと頬を膨らませる。
「もうっ!伊作先輩!私の短冊返してくださいよ!」
「えへへ、ごめんごめん。あまりにも乱太郎が可愛いかったからさ。」
 伊作が乱太郎の短冊を返すと乱太郎はそれをぎゅっと抱き締めた。そして頬を膨らませて睨んでくる。そんな姿もかわいいなぁ……。と思いながらもあまりに意地悪しても乱太郎に嫌われるかもなぁと思いやめておくことにした。
 いじめすぎてしまったのか少しの間、乱太郎はいじけていたがごめんね?と言いながら伊作が頭を撫でると機嫌を直してくれたようで、頬の膨らみも無くなった。そんな姿もまたかわいいなあ。と思っていると、乱太郎が先輩は願い事書かないんですか?と聞いてきた。
「うーん、僕の書きたいものは乱太郎が書いてくれたようなものだからなあ。」
 六年間保健委員を務めた伊作はこの学園で一番誰かが健康を損なってしまったり、怪我をしている所を見ている自信がある。まだ乱太郎と同じ一年生だったときは、誰かが怪我をして血を流していたり痛がっているのを見るのは本当に辛くて涙が出そうになったし、何も出来ない自分が歯痒かった。
 病人や、怪我人を前に何も出来ないなどということが無いように日々学んで、学年が上がるにつれて出来ないことなどなくなってきた。が、それでもどうしようもないことは起きてきていたし、自分がどうにかできる範囲を超えたこともあった。そういうときは保健委員会の顧問である新野の助手としてサポートすることで精一杯だった。
 人が人である限り、病気はかかるし怪我をしてしまうのは避けられない。そういうことは重々承知ではあるがやはり誰にもそんなことが起こらない世の中であるといいのにとは思ってしまう。
 まあ、そんなことは不可能だということも伊作自身が一番わかっている。人は生きていれば病気にかかるし、この世に戦乱がある限り怪我など無くならないから。そんなことをぼーっと考えていたらいつの間にか乱太郎が顔を覗き込んでいた。
「伊作先輩?どうしたんですか?難しい顔して……。」
「うーん?いやね、願い事は本当になんでも良いって言われると逆に何を書いたら良いのか分からなくなっちゃってね。」
 腕を組みながら延々と悩んでいる伊作がそう言うと乱太郎は確かに悩みますよねぇ。と伊作と一緒の腕組みポーズをしながら言って、あ、でも先輩に書いて欲しくない願い事があります。と伊作の顔を覗き込んで言った。その表情はいつもの可愛らしい笑顔ではなく真剣な顔だったので伊作は少しどきりとした。
「な、なんだい……その願い事って。」
 ゴクリ、と唾を飲み込んで乱太郎を見つめると、乱太郎はうーんと考え込んだ後に口を開いた。
「えっと……。」
「うん。」
………うーん。」
「えっ!!なに?なんなの乱太郎?」
 ここまで焦らされたら、より一層気になるんだけど!?と言いたげな顔で乱太郎を見つめる伊作に対して乱太郎はニコニコと笑っているだけだ。そして乱太郎は意地悪をするかのように伊作に耳打ちしてきた。
……先輩に書いて欲しくない願い事は……。」
「うんうん……。」
 耳打ちをした挙句、いつまで経っても本題に入らない乱太郎のことをを見つめ続ける伊作が焦れったい気持ちになって、伊作は頬をぷくう。と膨らませた。
「もう。いじわるしないでよ……。」
「ふふっ!さっきのお返しですぅ〜!」
ねぇ、僕が書いて欲しくない願い事ってなぁに?」
 もう。と言いながら伊作が怒ったように言うと乱太郎はうふふ!と笑って伊作に抱き着いた。乱太郎の笑顔を見て伊作も自然と頬が緩み抱き締め返す。
「私が書いて欲しくない願い事はですね……。」
「うん。」
「私とずっと一緒にいられますように。っていう願い事です。」
……え?それって……どういうこと?」
 伊作は思わずキョトンとしてしまった。伊作は乱太郎とずっと一緒にいたいと思っているのに、その願いを書いてはいけないとは一体どういうことなのか?と首を傾げて考えるが、伊作にはまったく理解できなかった。そんな伊作の様子を見て乱太郎は伊作のことを意地悪な笑みをして微笑んでこう言った。
ふふ、だって願い事にしなくても、伊作先輩が叶えてくださるでしょ?」
 乱太郎のその言葉で伊作の頬はぶわっと赤くなるのがわかった。まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのだ。伊作はそんな乱太郎の可愛さに悶絶しつつも自分の顔が赤くなっているのが恥ずかしくて両手で覆った。
「本当にきみには敵わないな。」
 伊作が照れてそんなことを言うと乱太郎はふふん!と得意気に胸を張った。そんな乱太郎のことをかわいく、そして愛おしく感じてしまい、思わずギュッと強く抱きしめてしまった。
「ちょっ!?せんぱい苦しいですよ〜っ!」
 乱太郎が苦しい!と訴えてくるのを無視して更に力を入れる。しばらくその状態のまま抱き合っていたふたりだが、どちらともなく離れると乱太郎が伊作の服の袖を引いた。伊作は乱太郎が何をしたいのかわかって、乱太郎の方に屈んであげた。
 そして乱太郎が背伸びをして伊作に口づけをすると伊作は嬉しそうに微笑んだ。そして乱太郎をもう一度抱き寄せて今度は伊作から口付けをした。
 しばらく触れ合っていると唇を離して乱太郎を見つめる。すると乱太郎の瞳には伊作の姿が写っていて、愛しい恋人の瞳の中の自分はとても幸せそうな顔をしていた。
 それを見て更に愛しさを感じてしまい、もう一度口付けると乱太郎はくすぐったそうに身を捩った。そして乱太郎は伊作の首元に腕を回すと伊作の耳元で囁いた。
「ふふ、伊作せんぱい。だいすきですよ。」
「うん。僕も乱太郎のことだいすき。」
 お互いに愛を伝えながら微笑み合うと最後にもう一度だけキスを交わしてふたりで無意識に空を見上げる。
 今日は雲ひとつない快晴で空には太陽がギラギラとふたりを照りつけていた。今日はこんな感じだときっと綺麗な天の川が見られるんだろうなぁ……。思いつつ伊作は乱太郎を見下ろすと乱太郎は満面の笑みを浮かべていた。
 それが可愛くて伊作はもう一度乱太郎の唇に自分の唇を重ねると乱太郎は嬉しそうに伊作の背中に腕を回してきた。乱太郎の短冊が結ばれた笹の葉は穏やかな風に吹かれてゆらゆらと揺れていたのだった。

(きみの願いなら、どんな願いでも叶えてあげるよ)