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syanpon
2025-07-08 18:42:59
5318文字
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私の唯一
オトスバ
何でも許せる人向け。
年齢操作、家庭環境の捏造、性暴力の示唆、同一カップリングとみえる描写があります
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「僕は忠告しましたよ」
男がオットーに向けてそう語りかけてくる。スバルの手を取ってからここのところずっとだ。オットーとしてはスバルの手を取ったことに対しては後悔なんて全くしていないためいつも適当に返事をするか聞き流すかしていた。
それが変わったのはいつからだっただろうか。男が恋をやめろと言わなくなったのは。
いつからだったのかオットーには思い出すことができない。
それは帰り道、校門の前でスバルを待っている時に訪れた。
「ねえ僕。あの人
――
僕にくれませんか」
「
……
は」
男はオットーを見ずにそう言った。オットーでない誰かをその視線の先に想起して。ゆっくりと視線がオットーに向けられる。うっとりと目を細めてほんの少し白い肌を上気させてオットーを見て、甘えたような声色でオットーの顔を下から覗き込みながら口を開く。
「恋なんてしたくなかったんですけど」
欲しくなっちゃったんですと悪戯げに微笑むその男が、今のオットーには悪魔に見えてしょうがなかった。温度のない指先がいつものようにオットーの頬を滑って、この数年間で聞いたことのない熱のある声で話しかけてくるのがどうしようもなく悍ましかった。
「別にタダでよこせって言っているわけじゃないんです。ね、何を対価にすればあなたはくれますか? こう見えても僕結構いろんな経験がありますから、あなたの知らないことを教えてあげることだってできますよ」
女の抱き方? 男の抱き方? 抱かれ方? 人の効率的な壊し方? 赤の他人に取り入る方法? 嫌いな男の前での感情の殺し方? それこそ
――
証拠の残らない殺し方だって!
「あ、あ
……
」
オットーは唇を震わせることしかできなかった。
怖かった。
恐ろしかった。
でも、何にこんなにも怯えているのか全くわからなかった。
ビー玉のように綺麗な瞳がオットー以外を映すのを見たくなかったからオットーは目を瞑った。お願い、と掠れた声で囁く声も聞きたくなくて人目も憚らずにうずくまった。
ああ、こんな思いをするのならばやはり本当に何故生まれてきてしまったのか。いっそこの男と溶けて一つになってしまえたらよかったのに!
「オットー」
瞬間、オットーは瞼を開き立ち上がっていた。男の後ろ、学生の向こう側に、あの日のように夕陽を背にしてスバルが立っていた。
――
スバルが、オットーの名前を呼んで立っていた。
「
……
あ」
風に流れる短い黒髪に手を差し入れてすかすと思ったよりも柔らかいそれが好きだ。遠目から見れば真っ黒に見える黒瞳が近くで見るとたくさんの色を反射しているのがわかるところが好きだ。頬に手を滑らせて彼の体温を自分の指先で感じたい。ほんの少しカサついた唇がオットーのそれと重なるその瞬間に、ほんの少し力が入って固まるところが好きだ。不意を狙って唇を奪った時の柔らかさと温度を確かめたい。年相応のほんの少し深爪気味の指先が好きだ。今すぐに人目も憚らずにその腕を引いて自分の胸の中に閉じ込めてやりたい。オットーを待たせていると思って慌ててきたのだろうか、つっかけになってしまっている足先でさえ愛おしかった。
欲望と好意と情動がごちゃ混ぜになってオットーの思考を片っ端から埋め尽くしては流れていく。
「ああ
……
」
あぁ、とっくに自分は恋に落ちてしまっていたのだ。
目を刺す夕陽が眩しくて、頬を一筋涙が伝った。こぼれ落ちてしまったそれは止まることを知らずにオットーの頬を絶えず濡らし続ける。
「行かないで」
オットーが一歩踏み出そうとした時、よく聞き馴染んだ声がその足を止めさせる。白い肌を激情で染めて形のない指先で恋という奈落に向かおうとするオットーを止めようとする男がいた。
オットーはこの瞬間までこの男を友だと思っていた。
ただ、違ったのだ。
細く長い指を愛しいとおもっていたし、あの恐怖心は無くなってただただオットーを止めようとするこの男のことを美しいと思う。
全てを失った破滅という名の地獄に落ちた人間というものはこうも怪しく美しいのだと目の前の男が口もなくその姿のみで雄弁に語っていた。
はじめて彼がオットーの前に現れた時感じた胸のざわめきは恋であったのだろうし、恋ではなかったのだろう。
全部無くした前世の男に寄り添ってやりたい気持ちもあった。一人を支えてくれた男に好いた男の一つ渡してやるのが道理なのかもしれない。
だがスバルの、オットーが見つけたあの星の一欠片でさえ渡してやりたくなんてなかった。
あの声で名前を呼ばれるのはこの男ではなく自分なのだとそう心が叫んで止まらない。
これが、恋か。
同じ魂の男にさえ渡してやりたくないと思ってしまうこの傲慢さが恋というのならば、恋を知らせてくれた前世の魂ですら振り切り、裏切ってしまう薄情さを恋と呼ぶのならば、確かに恋なんてものは地獄に落ちることよりも重い奈落なのかもしれない。
実体のない体はオットーをすり抜けていく。突然涙をこぼし始めた男を心配するようにスバルがオットーの頬に触れた。
その手のひらの温もりに擦り寄ってオットーは言葉を紡ぐ。
「好きです。ナツキさん」
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