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かのまる
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伊剣ワンドロワンライ「七夕」
滑り込みセーフです。
時間は1時間半くらい。
時代考証はふんわり見てください。
カプ要素は薄めです。
「イオリ、あれは笹か
…
?何か紙のようなものがひらひらしてるぞ!」
セイバーが屋根より高く掲げられた大きな笹を指さして、目を丸くしている。
「ああ、今日は七夕だったな。通りで町が賑わっているわけだ」
事も無げに、伊織は笹飾りを眺めた。
もちろん初めてきく『七夕』に興味津々だった。
「タナバナ!!もっとその話を聞かせてくれ。あの色とりどりの紙は何故笹に下がってるんだ?」
伊織の袖を掴んだセイバーが、きらきらと無垢な瞳で見つめてくる。
「ん
……
。では七夕の謂れを語ろうか」
伊織は笹飾りがよく見えるよう、団子屋の縁台に腰掛けた。思いがけず団子にありつけたセイバーは、もちもちと団子を頬張りながら次の言の葉を待っている。
「これは唐の国から伝わった話だ。昔々、天に織姫と彦星という夫婦がいたんだが、まあ余りにも仲睦まじいものだから仕事をサボるようになったそれに怒った天の神が二人を引き離したんだ。だが、見かねた神は七月七日だけ鵲(かささぎ)が橋をかけてくれて二人は会う事ができるようになったとさ」
滔々と、だがセイバーにも解りやすいように伊織は噛み砕いて説明してやった。
「ほうほう。仕事をせぬのは感心しないが、媛が夫に一年に一度しか逢えないのは気の毒だなぁ」
「はは、皆がそう思ってきたと思うぞ」
伊織は珍しく口角を上げた。
「して、あの紙は??」
「短冊だ。織姫は機織りが得意だったそうだから、物事の上達を祈るらしいな」
おお、とセイバーが興奮したように足をばたつかせた。その次に出る言の葉は絶対外すまいと伊織は確信する。
「私もタンザクにお願いをするぞ!それを天の哀れな媛達に届けるのだ」
団子を口に押し込んだセイバーは、早速立ちあがる。
「まずは笹の用意だ。イオリ」
近所の竹林で伊織は軒下にも飾れる手頃な高さの笹を買ってきた。これで笹は節約できた。
何せ幽霊長屋には物干し台など無いのだから、大きな笹を飾れないのだ。
屋根にくくりつけるとセイバーは張り切ったが、瓦が落ちてきそうだからと、何とか伊織は宥めすかした。
短冊は家に余っていた紙を細長く切った。
「色が寂しいぞ!!」
セイバーは不満気だったが、伊織は首を横に振る。
「明日具無しの御御御付けで良いなら、買ってくるがな」
「ぶー。オミオツケを人質
……
に取るとは」
解りやすくセイバーはいじけたが、はっと何かを思い出したようにぽんと手の平を打った。
「忘れてた、私は当世の文字が書けぬ。イオリ、代筆を頼んだ」
露骨に面倒くさそうな顔をした伊織に、セイバーは赤くなって反論した。
「イオリが書かねば誰が書く?私はタナバタとやらを楽しみたいだけなのだ」
その瞳は真剣そのもの。好奇心旺盛なセイバーは、江戸の行事を何でも知り、楽しみたいと常々思っているのだ。
「冗談さ。好きなだけ願いを書くといい。俺たちだけの笹飾りだから、気兼ねする必要はないぞ」
蓮の花がふわりと開くような笑みを浮かべたセイバーを見たら、笹の調達も代筆もお安い御用だと思えてくるから不思議だ。
「うーん、まずはイオリやカヤが安全に過ごせますようにかな。家内安全だ!!」
「うむ、無難だが良い願いだ。カヤには危ない目に遭ってほしくはないからな」
「そもそも、民達は具体的に何をこれに願うのだ?」
「芸事の上達や、字や裁縫がうまくなるように、かな」
「私にはどちらも関係ないな」
セイバーは何故か得意気に胸を張った。
「ならば好きな願いを書くぞ。イオリのオミオツケが毎日飲めますように」
「それを俺に書かせるか」
苦笑いをするが、伊織も満更では無いらしい。
「あとは、商売繁盛。そう
……
一等、大切なものがあった。江戸の民の平和だ」
何度も再利用されて濾された古ぼけた紙を愛おし気になぞる。
「
……
それは大切な願いだ。必ず天に届くよう一番高いところに吊そう」
「うむ、よろしく頼む!きみは何も願わぬのか?剣術が上手くなるとか」
「随分幼い頃に祈った記憶があるな。まあ師匠に毟り取られたが」
伊織は苦笑いするが、セイバーはツボに入ったのか大笑いしている。
「ふふ、あはっ。きみにもそんな青い時があったのだなぁ。うん、何だか安心した」
「だが、俺の此度の願いは秘密だ。くずし文字で書くからそうそう読めまい」
「ずるい!!私にはきみの願いが解らぬでは無いか。不公平だぞ」
「散々笑った仕返しだ」
伊織はさらさらと短冊に文字をしたためると、裏返しにした。
「ふーんだ。じゃあ、私も自分で書くから良い!!字なら少し慣れた。短い文ならそれらしく書けるだろう」
筆を伊織から奪い、一字一字たどたどしくも短冊に想いを刻もうと必死で筆を動かす。
その間、伊織は邪魔をしないように外で笹の葉の枝切りなどをしていた。
「出来たー!!」
「お、完成か。では短冊を飾っていこう」
すっかり剪定されて短くなった笹に短冊をくくりつけていく。
お互い最後の一枚になった時に、二人は『一番下の目立たない所が良い』と同時に言い出した。
少し揉めたが、か細いく分かれた枝にそれぞれ願いを託すことに決めた。
伊織の願いは『少しでも長くセイバーと共にいたい』
セイバーの願いは『いおりとずっといっしょにいたい』
寺子屋で字を習い始めた童のような字だったが、なんとか伊織は読む事ができた。
それでは不公平だと思い、セイバーにも自分の願いを伝えるべきだと伊織は考えた。
「少しこっちに来い」
伊織にひそひそとと耳打ちされる。その瞬間、セイバーはバネのように飛び上がり、真っ赤に染まった顔を見られないように顔を覆う。
「まあ、そんなモノだよ。願いなんて、他愛ない。けれど大切なものだ」
伊織が発した言葉は、まるで自分に云い聞かせてる様に、セイバーは感じた。
伊織は鍋を取り出す。
「さあ、七夕と云えば素麺だ。これは淡白だがなかなか味わい深いぞ」
「ソーメン!?涼やかな響きだな。じゅるり」
よだれを拭い、竈門を覗き込むセイバーはいつも通りだった。だが、まだほんのり首が赤い。
少しだけ触れてみたくなった。首すじを頸椎を辿るように指で触れれば、コツンと首飾りに当たる。
「またそういう事をきみはこの蒸し暑い中、平気でやるんだから!!もう良い、ソーメンができたら教えろっ」
引き戸をピシャリと閉めてセイバーは出ていってしまった。
伊織はしまった、せめて肌に触れる許可を取るべきだったと額を叩いた。
笹飾りの前にしゃがんで、伊織と自分の願い事を見比べるセイバー。
この願いが叶わぬと知っていても、それでも伊織が同じ思いを抱いてくれた事が今は嬉しい。
伊織のお呼びがかかるまで、セイバーはずっと短冊を眺めていた。
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