Momosei808
2025-07-07 23:46:04
3578文字
Public SD(リョ花)
 

願い、ひとつ

ワンライ:リョ花×七夕
花道視点

「お? 懐かしーな」

大学での練習を終えて家に帰る途中、近所のスーパーに寄ったときのことだ。
スーパーの入り口んところに飾ってあった笹の葉を見て、オレはそのことに気付いた。
今日は7月7日、七夕だ。
笹の傍には、短冊だの折り紙だのが置いてある。
笹にはもうたくさんの飾りや短冊がぶら下がっていた。
どうやら、自由に飾って良いらしい。
入り口近くの台の上で、子供が何人も群がって短冊に願い事を書いたり、折り紙を折って飾りを作っていた。
………
暫く黙って見てたオレは、ガキどもが居なくなるのを見計らって、台に向かって屈んだ。
短冊を一つ拝借して、そこに、用意されたペンで願い事を書いていく。
どうか、誰にも見つからないように。
てめーの手で横から隠すように願い事を書いた後は、誰も届かねーような笹の一番高いところに、短冊をくくりつけてやった。

「まぁ、叶うはずねーんだけどな」

ヒトリゴトを言って、オレはスーパーの袋を持って、その場を後にした。

*******

オレは、高校三年間バスケを続けた後、卒業後は大学に入った。
日本の大学のバスケ部だ。
オレのプレイをそれなりに評価してくれたところの中から、一番よさげなところを、オヤジと相談しながら決めた。
実のところを言うと、そこは第一志望じゃなかった。
本当は──。

……はぁ」

溜息なんて出ちまった。
スーパーから帰って自分のアパートに帰って来たオレは、簡単な晩飯を済ませて、さっき日課のストレッチを終えたところだ。
自分んちの畳に寝っ転がって、天井の模様を見て、それから目を閉じる。
そうすると、じんわり悔しさが蘇る。

本当にオレが行きたかったのは、アメリカだ。
日本よりもすげー奴らが集まるっていうそこに行って、もっとバスケ、上手くなりてー、って思ってた。
去年、高校三年の十一月に、向こうでトライアウトを受けたけど、結果は不合格。
向こうでバスケをする、っていう夢は叶わなかった。
そのことをオヤジに報告すると、オヤジはこう言ってきた。
『まぁ、それも良いでしょう。でも桜木君、君はいずれもっと大きな舞台で羽ばたく。それまでに、日本で鍛えられる部分は多い』
『けどよ、オヤジ……
『君レベルの実力なら、日本の大学なら引く手あまたでしょう。ちゃんと自分に合った大学を選んで、そこで自分の武器に磨きをかけなさい。私も出来る限り協力します』
こんな感じで、オレは日本の大学に入った。
オヤジの言い分は分かる。
オレは、高校入ってからバスケ始めたから、他の奴らより経験が少ない。
他の奴らより、出来る技も限られる。
ルカワや小坊主は、悔しいがそれなりに色んな技が出来る。
だから、あんなあっさりアメリカに行ったんだ。

それに、リョーちんだって。

……リョーちん」

オレの目の前には、リョーちんから送られてきた手紙がある。
つい二週間ぐらい前に送られてきたそれは、奨学金の団体が手配したナントカアカデミーに入って、そこでの練習がどんなもんか、ってのが書かれてる。
リョーちんは、去年の三月に高校卒業とほぼ同時にアメリカに行って、プレップスクール、ってとこに入った。
そこで、アメリカの短大への入学が認められて、今年の五月にプレップスクールを出てからは、語学学校に行ったりしたらしい。
そんで、ごく最近になんちゃらアカデミーに入ってトレーニングしてるんだと。
結局、リョーちんは、忙しいんだ。
こうしてしょっちゅうオレと手紙のやり取りしてるけど、日本に帰れそう、なんて連絡が来たことは無い。
リョーちんはリョーちんで、ハードな環境でやってるのは分かるけどよ。

それでも──。


……気分転換に、ランニングしてくっか!」

普段、早朝ランニングはするけど、夜に走ることは殆ど無い。
けど、オレん中は今、もやもやグズグズした気持ちでいっぱいになってる。
それを振り払うように、オレはランニング用のスニーカーを履いて、アパートを飛び出した。

*******

「はっ、はっ、はっ……

夢中になって走ってると、イヤなことを忘れられる。
てめーの中にあるマイナスな感情を振り切るために、オレは走った。

気付いたら、海岸線沿いの国道脇の道を走っていた。
すっかり夜だ。
国道だから灯りはあるけど、この時間だと車も余り通らねえ。
その分静かで、波の音がよく聴こえた。
汗ばんだ全身に、海からの風がキモチイイ。
べたつくかもしれねーけど、潮風のがよっぽど涼しくて、良い。

オレは、足を止めて海を見つめた。
真っ暗な海と、その上の夜空。
空には、珍しく星がよく見える。
さすがに、天の川みてーのは見えねえけど。


その時だった。


……はなみち?」


突然、横から聞こえてきた声に、オレは全身固まった。
え?
何で??
どーして……
そんなこと考えて振り返ると、其処には──、

アメリカに居る筈の、リョーちんが立っていた。
オレと似たような、トレーニングウェアを着て、ランニングをしていたらしかった。

……リョー、ちん?」

オレが声を絞り出すと、リョーちんが傍に駆け寄って来た。
「うそっ!? マジかよ!! 花道、お前、久しぶりだな~~~!!! お前、またデカくなってない??」
「リョー、ち、何で、」
「あー、その、サプライズ帰国ってヤツ?」
「何だよ、それ……! 手紙にも何にも書いてなかっただろーが!!!」
「だから秘密だったんだって~~! 大学始まるまで間があるし、アカデミーもその気になれば休暇取れたし。一年以上帰ってなかったから、どうせだと思って」
リョーちんはそう言って、あっけらかんと笑った。
街灯の暗い照明の下だけど、リョーちんの様子はよく見えた。
リョーちんこそ、前より背が伸びて、ガタイも良くなった気がする。
ちょっと……一年も会ってない間に、何だか大人っぽくなった。
薄暗いところでも、それは分かった。

……っ、ッ……!」

せっかく会えたってのに、オレの口からは気の利いた言葉が出てこない。
いきなりすぎる再会だった、ってのもある。
にしたって、もっと、こう。

さっきのもだもだした感情が、まだ胸でくすぶってる。
いつも、リョーちんとどんな風に話してたんだっけ……
ずっと、手紙でやり取りしてたのに、直接の会話は本当に、久しぶりで。

オレは、リョーちんにかける言葉を見失っていた。


すると、不意にリョーちんが言った。

「花道、俺さぁ」
……ぬ?」
「俺、何で、日本に帰って来たと思う……?」


リョーちんはそう言って、じっとオレを見上げて来た。
何でもねーような顔してるけど、オレにはわかる。
これは、リョーちんお得意の、何でもねーフリしてキンチョーを隠してる顔だ。
リョーちんの、ふわふわの髪が、潮風で揺れてる。
そういうのが、いつもよかはっきりと見えた。


……わかんねえ」

オレは、素直にそう答えた。
なんで、リョーちんを前にして、こんなにドキドキするのか。
なんで、リョーちんと会えて、こんなに嬉しいのか。
なんで、リョーちんが日本に帰ってきてくれたのか。
分かりたいようで、分かりたくない。
分かってしまったら、何かが、変わっちまう。
そんな気がしたから。

リョーちんは、オレの答えに「……そっか」と言うと、後ずさりしようとした。
なので、オレは急いでリョーちんの腕を捕まえた。
……はなみち?」
「リョーちん、その、いつまで日本に居るんだ?」
戸惑うリョーちんを捕まえて聞くと、少し目が揺れた後、リョーちんが応えてくれた。
「だいたい、二週間ぐらい、かな」
「そんなら……、オレと1on1してくれ。勝負しようぜ、リョーちん」
オレが、喧嘩売るみてーな目で言うと、リョーちんも眉を歪めて柄わりー顔して笑った。
「お? 言うねえ。ボロ負けして吠え面かくなよ」
「リョーちんが知ってるオレじゃねえぞ。そっちこそ負けてもギャーギャー言うなよ」
「言わねーよ!」

そんなことを話してたら、いつの間にかオレたちは海岸沿いの歩道を並んで歩いていた。
まるで、高校の頃に、一緒に帰っていたみたいに。

「そーいや、今日は七夕なんだぜ、リョーちん」
「へ? あー、そうか。今日は七日か!! 向こうだとそんな習慣無えから忘れてた」
「そうなのか? アメリカに七夕って無えの?」
「日本人とか、アジア人が多く住んでる地区なら何かイベントやってそうだけどな」

リョーちんと話しながら、オレが今日書いた願い事が叶ったことは、まだ秘密にしておこうと思った。



『リョーちんとバスケが出来ますように』



《終》