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九条空
2025-07-07 01:36:11
2361文字
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炎熱ヴィラン・インフェルナ
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分解ヒーロー・D.E.T.O.N.A.T.E.
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大妖怪・すだま
警戒しておくべきだったのだろう。
デルタの口はうまく、カリスマがある。
あらゆる犯罪者予備軍をスーパーヴィランに仕立て上げられるような手腕。
そんなことは知っていたはずなのに。
デルタならば、一度はヴィランになりかけたインフェルナだってヴィランにしてしまえると、想像しなかった俺が悪いのだ。
それなのに俺は焚き付けた。
デルタを倒すという目的があれば、雛も変な方向に走り出してしまうことはないと思ったのだ。
だがデルタの方が、俺より口が上手いらしい。
ごうごうと青く燃える雛は、俺を見て喜びの声を上げた。
「ああ、祈さん! 私、あなたのためなら頑張れます!」
「おおう
……
」
極まってんな。
いつもの俺なら軽々にそう口にしていただろうが、口を開けば口内が焼けただれそうだった。
それほどの熱気。
「祈さん助けてーっ! 雛さんがおかしくなっちゃったーっ!」
雛が上げ続ける周囲の気温をなんとか下げながら、雪狐が助けを求めに来た。
青い炎をまき散らしながら、雛は言う。
「おかしかったのは前の私で、今が正常なんだよ」
何を頑張った結果、こうなってしまったのやら。
もともと真面目で、頑張りすぎるやつだった。
会ったときには既に限界を超えていて、限界を超えたことによって常に軋んでいた。
一度罅の入った心は完全には治らない。
傷の治らないまま、充分な治療をされないままにここまで来た。
いつかはこんな日が来ると思っていたからと言って、実際そうなるところを見た時の気持ちがマシになるわけではない。
いつかこうなってしまうかもしれなくとも、そのいつかを永遠に引き延ばそう
――
そう思って付き合ってきたのだ。
俺には荷が重かったということだろう。
なにしろ自分のことで手一杯だ。父を救うための治療薬の開発、頭の中はそれでいっぱい。
雛のことを考えてやれる時間がどれほどあっただろう。
「澪、消火活動頼めるか?」
「目の前にヴィランがいるのに、その場を離れる護衛がいるかしら?」
「でも雪狐がかわいそうだろ」
「いえなんとかするんで! でも限界近いんで! できるだけはやく雛さん正気に戻してください!」
「努力はするけどよお
……
」
実質デルタとの戦いだ。
俺とデルタ、どっちの口が上手くて、どっちが雛の心を揺さぶれるかの勝負。
自信ねえよ、デルタってラスボスじゃん。
ともに過ごした年月の長さでなんとか乗り切れるか?
会ってから1年も経ってねえけどデルタよりは長そうだしなんとかなりますか?
あまり悠長にはしていられない。
雪狐は既に限界が近そうだし、澪も俺を守ることを優先して街が燃えるのは放置しそうだ。このヴィラン気質め。
「世界を変えましょう!」
意識がたけえなあ。政治家とかに向いてるのかもしれない。
未だに無職のまま次の仕事を見つけられていない雛は、声高に理想を語った。
「こんな狭くて、苦しくて、窮屈なのはやめて、誰もが自由に暮らせるようにするんです!」
今まで見た、どんな雛より楽しそうで、希望に満ち溢れていた。
「異能者だけ残して燃やしてしまいましょう」
揺らがない目的を見つけたのだ。
こういう言葉でデルタは雛に語ったのだろうか。
選民思想、世界征服、そういう悪の組織のテンプレ理念を。
「私の熱に耐えられない異能者も焼いてしまいましょう」
我慢をしなくて良くなったのだ。
かつては意気地がなくてできなかったと言っていた雛は、暴れることを覚えた。
「世界は私と祈さんだけでいい。一緒に幸せになりましょうよ、祈さん」
雛はようやく自分の幸せを考えられるようになったのだ。
そこに俺がいるのは光栄なことだが、俺以外がいないのが問題だ。
インフェルナによる熱気に抵抗し、温度を下げ続けている雪狐は、自分を指さして叫んだ。
「俺は!?」
「幸也くんも凍れるから、頑張れば燃えないもんね。一緒に暮らそうね、きっと楽しいよ」
「やったあ!」
幸也はやけくそで叫んだ。もう限界らしい。
あーあ、本当に嫌なんだけどな、こんなことをするのは。
ため息ついて、気合いを入れ直した。一歩踏み出す。
「祈、それ以上はアタシも近づけないわよ」
フラックスにとって、雪狐もインフェルナも鬼門だ。
液状であり続けなければならない澪にとって、温度変化は大敵である。
こないだ面影と戦った時も、同化する液体がなくなれば自我を失うと言っていた。
気絶すれば人間に戻るようだが、蒸発や凍結はまた別ということなのだろう。
「ああ、危ねえから離れてろ」
澪にそう言って、ふらりと雛に近づけば、炎の頭はきょとんと首を傾げた。
「お前が何もかもを燃やすつもりなら、俺だって燃えるんだぜ」
俺はそのまま、雛に抱きついた。
体全体があまりの高温になっている雛に体を密着させるよう抱きついたのだ。
俺は一瞬にして焼け焦げた。
「ああうそ、いや、いやあ!」
絶叫。
初めて会ったあの日、うっかり俺の腕を焼いてしまったときとは比にならないほどの悲痛な叫びだった。
雛がようやく見つけた幸せへの道に、水を差して申し訳ない。
だが、この願いは熱すぎる。
すべてを燃やし尽くしてしまうほどに。
私の熱に耐えられない異能者も焼いてしまいましょう。雛はそう言った。
ならば俺も焼かれるべきだ。
俺は熱に耐えきれない。ただ再生するだけだ。
雛がこの世のすべてを燃やし尽くすというのなら、俺も燃えるのだ。
理想は想像するだけならば容易く甘美だ。
実際辿らなければいけない道のりを経験してようやく霞む。
俺は大人だから、若者に現実ってやつをみせてやらなきゃならん。
嫌な役割だぜ、まったく。
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