頻子
2025-07-06 02:44:38
3603文字
Public KODR二次
 

無料配布石の回収(KODR)

ウルニュ(ウルハム視点)
付き合ってないけどちゅーしてる!!
めずらしくニュートが積極的(ちょっと悪い子)

「それと……本日は、ニュート様からの魔界の石炭の配布がありますわ」
 今日のお仕事。
 締めくくりにフランが言って、僕を含めて、家臣たちにささやかな緊張が走る。僕は固いパンをスープで流し込む。
 魔界再建もあとちょっと……と、言ってからが長いのだけれど。
 新魔界を倒し、ようやく地盤を盤石のものとしたニュート様は、本格的に魔界王のお仕事をこなすべく、魔界王様と一緒に、魔界の石炭を増やす練習をしているのだ。
 といっても、増やすのはほんのちょっとであって、城にいる魔物たち全てに行きわたる量ではない。
 ありがたくも最初からの家臣である僕たちは、ニュート様からの恩寵を、真っ先に受け取ることができるというわけだ。
 これが、嬉しいばかりでもないのだ。
 ニュート様の石炭は、未熟でやわらかく、削りにくい。ガリっとやりすぎれば、タダではすまない。背後には魔界王が控えていて、臣下の行いをしっかり見張っている。
 魔界王の機嫌を損ねればおしまいだ……
 とても緊張する。

 ベーケス2世が、拳くらいの大きさの魔界の石炭の欠片を持って部屋から出てきた。いいなあ。いつも、ベーケス2世は一番を譲らない。僕が先に並んでました、とは言えない。
「あの、2世。僕にも見せてほしいんですけど……あ、はい。なんでもないです」
 透かすように窓に掲げてじっと見入っていたベーケス2世は、僕の方を見て、意地悪く笑った。僕に対してではない。
「それっぽっちか?」
 スケルナイトが出てきたところだった。
 スケルナイトの持っていた魔界の石炭は、指輪にはめられそうなくらい少しだけだ。その代わり、透き通っていてとてもキレイだった。これも、いいなあ、と思った。
「ニュート様が苦労して増やした石炭でしょう? ご無理をさせてはいけませんから。自分のことばかり考えていては、国は成り立たないものですよ」
……
 険悪な気配を察して、僕は巻き込まれないようにそっと気配を消す。
 ベーケス2世とスケルナイトはいつも仲が悪い。
 マーメルンとか、デビイとか、魔界の石炭が必要のない家臣たちはやってこない。
 ウィンチは、一応、やってはくるものの、魔界の石炭にはあまり興味がないはずだ。この前、すり鉢と乳棒でごりごりと砕いているのを見た……
 と、いうわけで、ようやく、僕は、部屋に入ることを許される。
 部屋の中にはニュート様がいる。
「ニュート様、ありがとうございます」
 ニュート様は得意げに、僕に対して、にこっと微笑んだ。
 見えないけれど、魔界王もいる。
 気のきいたことの一つも言えないのか、という魔界王からの圧を感じて、嬉しいです、と付け足す。あれほど翻訳の仕事をしてきたのに、言葉はちっとも自由にならなかった。
 工具を手に取って、そっと原石に触れる。
……丁寧に扱わないとならない。
 ニュート様と同じように、ニュート様の増やした魔界の石炭は脆いのだった。
 僕は、ニュート様と入れて嬉しいけれど、ニュート様とはちょっと気まずい。
 前の満月の夜、僕は、ニュート様に人狼一族の目的を明かして、噛んでしまおうとしたのだ。結局、できなかったけれど。ニュート様はぴゅーっと逃げていってしまった。僕はとてもほっとした。
 別に、処されることもなかった。ニュート様の立場だったら、下っ端の人狼なんて、いくらでもどうにかできるはずだ。
(許された、ってことなのかな)
 でも、それから、距離がある気がする。この前の奪還に連れて行ってもらえなかったし、週末のお願いもされなかった。
 というわけで、ほどほどの距離を保ちながら過ごしている。
……ニュート様の安全を考えればその方がいいんだけれど。っていうか、ニュート様は、警戒心がなさ過ぎる。
 もう、あんなことは2度としません、って言ったら、ニュート様は許してくれるだろうか。
「あっ」
 考え事をしていたら、がりっと、思ったより大きく魔界の石炭が削れてしまった。魔界王はなんだか機嫌が悪くなった気がするけど、ニュート様は許してくれる。ウルハムにあげるために増やしたものだ、ととりなしてくれている。
 たくさん取っても、怒られない。
 これが僕の取り分。
 愛されている分。
(でも、残りでしかないんだよなあ……
 キレイにカットされた面と、ぶきっちょに砕かれた面が残っている。それでも、それでも――実はベーケス2世の貰っていたものよりは大きい。事故だけど。
 僕はすこし気を取り直した。
……やっぱり、ニュート様のちゃんとお話したいな)
 前はごめんなさい。もうお酒は飲まないので。ガリアンが、会いたがってて。
 ううん。……なんていえばいいんだろう。
「ニュートちゃま~~!」
「あれ、ゾービナス」
 ゾービナスが息を弾ませて、やってきた。
 もう、謁見の時間は終わっている。
……あら、ゾービナスったら、一等賞ですか? ほかの魔物は怠惰ですわねっ。せっかく、ニュートちゃまが心を込めて石炭を増やしているのに」
「ええっと、もう終わるところだけど?」
「えっ」
 ゾービナスは大きな目を丸くした。
「だって。3時って、たしかに……
「ええっと。13時だよ?」
 あと、一等賞っていうけど、僕もいるんだけどなあ、と、僕は思うのだった。いつだって僕はカウントされないのだ。
……頼んでみたら?」
 僕は手の中にあった魔界の石炭をつい隠してしまった。ちょうだいと言われたら断れない。
 しばらく、うつむいていたゾービナスは、不意に顔をあげた。
「ゾービナス……今日はあきらめます! ニュートちゃまも、慣れないお仕事で、疲れてると思いますし。……そのぶんニュートちゃまが、石炭を増やさなくてもすみますもの!」
(あ……
 ゾービナスは泣いていなかった。笑っていた。

***

 僕は、せめてと思って、ほうきとちりとりで、飛び散った欠片を集めている。
 結局、僕の分の魔界の石炭は、ゾービナスに譲ってしまった。
 でも、まあ。返ってきたのは「あるなら全部寄越しやがれですわーっ!」という反応だった。
 強がりであることは分かる。
 感謝してほしいとは言わないけれど、もうちょっといいことがあってもいいのにな、と思う。
(でも、まあ、僕。別に一族から期待されてないし。怒られても大したことじゃないし……
 不意に、ぽんっと背中を叩かれた。
「あ。ニュ、ニュート様!?」
 僕がニュート様に気がつかないなんて。めったにないことだ。思ってたより落ち込んでいたらしい。たくさん言いたいことがあったのに、上手く言えない。
「何してるのかって? えっと……あはは」
 とられちゃったの?
 聞かれて、僕は、どう答えていいか迷った。
 別にとられたわけではないのだけれど、魔界の石炭が、今、手元にないことは変わりない。そこに、あまり違いはない。持ってないんだから。
「ゾービナスが。えーっと。あの、ニュート様……。いや。なんでもないです、僕……
 ウルハムは優しいね、とニュート様が言った。
 優しい。あんまり良い意味の言葉じゃない。
 おくびょうで勇気がないですね、という意味だ。
 続けざまに、ぽん、っと優しく頭を叩かれる。帽子が凹んで空気が漏れる。そのまま、ニュート様は僕から帽子をするっととってしまった。
 良く分からないまま、返してほしくって、手を伸ばす。変身してしまうのがおっかなかったからだ。
「あっ」
 ニュート様は、そっと僕の頬にキスしてくれたのだった。

***

 それから、僕はなるべく、一番最後に石炭を削るようになった。
 そうすると……そうすると、ニュート様はこっそりご褒美をくれるからだ。ぽんぽん頭を撫でてくれたり、たまにキスしてくれたりする。……たまに。ごく稀に。魔界王様とフランがいないときに限る……
 あれから、僕とニュート様はゆるやかに仲直りして、普通に話すようになってしまった。嬉しかったけれど、なんだかもやもやした。
 僕とニュート様はどういう関係なんだろう?
 そのあたりは、いまだに聞けずにいる。
 だってニュート様は次期魔界王で、僕は人狼一族の下っ端だ。聞いてみて、そうだね、やっぱりやめておこうとか言われたら、いやだ。
……ニュート様は、もしかしたら、誰でもキスするんだろうか。優しければ、誰とでもこっそりキスするんだろうか。
 それはとてもいやだ。
 ウルハム、と、ニュート様がこっそり僕を呼んだ。僕はニュート様を追いかけてひょこひょこついていく。焼き菓子を持ってて、嬉しそうに包みを広げる。
 僕は焼き菓子よりもニュート様が欲しかったので、ニュート様の口にキスした。
 僕のことが好きなのかどうか、まだ聞く勇気はない。