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g_negigi
2025-07-05 23:11:49
2671文字
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サプライズ
五歌ワンドロワンライお題「サプライズ」
歌姫と連絡が取れない五条は、医務室で硝子と会話をし、あることに気づきます。
五条悟は焦っていた。
この男が焦ることは滅多にない。伊達に最強の名をほしいままにしているわけではない。彼を焦らせることができる人間など、一人しかいない。
そう、恋人の庵歌姫だ。
歌姫と連絡が取れない。
五条が家入硝子にそう打ち明けた時点で、彼の恋人はもう二週間も音信不通の状態だった。
「それで私にどうしろって?」
硝子は医務室の椅子に座り直しながらそう言った。目の前に仁王立ちになった五条は眉間に皺を寄せた。
「どうって、わかってるでしょ。っていうか、歌姫から何か聞いてるんでしょ」
「何かって?」
「だから、何で二週間も音信不通なのか、その理由を聞いてるでしょって」
五条は問い詰めるような調子でそう言った。硝子は「はーっ」とため息をつくと、付き合いだけは長い同期に向かってこう返した。
「あいにく、私は恋人同士のいざこざに首を突っ込むような野暮はしないことにしててね」
「その言い草はやっぱり何か聞いてるんだ」
五条はなおもたたみかける。
硝子は今度は何も言い返さず、自身の机に向き直ってノートパソコンを開こうとした。それを五条の大きな手が阻止する。
「ちょっと。無視しないでくれる」
「あのな五条」
硝子は今度はまっすぐ五条の目を見た。
「歌姫先輩の事情を私が知ってるとして、私にどうしてほしい?歌姫先輩と連絡が取れないのは、君と歌姫先輩との間の問題だろ。まずはその原因を考えるなり解消するなりしなよ」
「
……
原因は、わかんないよ。二週間前までは本当に普通だった」
そう、二週間前。五条はちょうど京都出張で、歌姫の部屋に泊まった。その時は歌姫に変わった様子はなかった。仕事を終えて出張の時はいつもそうするとおり一緒に夕食を食べて、シャワーを浴びて、恋人同士の時間を過ごした。喧嘩もしていないし、気にかかるようなことは何ひとつなかった。
五条がそう話すと、硝子はまた「はあ」とため息をついた。
「何もなかった?本当に?」
「
……
なかったよ、思い出せる限りは」
五条はもう一度、歌姫と最後に言葉を交わした二週間前の朝を思い出してみた。あの時、歌姫に何か異変があっただろうか。
そういえば、いつもは朝、五条が東京に帰る時はどんなに早くても必ず玄関まで見送ってくれるのに、「最近すごく眠いのよね、朝起きられなくて」と言っていたとおり、声をかけても起きなくて、五条は歌姫の頬にちゅっとキスだけして「またね」と言って部屋を出た。でもそれが原因なんてことはないだろう。
「他には?何か気づいたことは?」
「
……
そういえば、なんか急に甘いものがほしいとか言って、僕が食べようと思って買ったシュークリームぺろっと食べちゃって。それについてちょっと文句は言ったけど、別に喧嘩ってほどじゃ」
五条はそこまで言うと、ハッとした様子になった。硝子はやれやれという表情になって、今度こそ自分のパソコンに向き直っってしまった。
「
……
硝子。まさか」
「私は何も言わないよ」
硝子はパソコンのスクリーンを見つめたままそう言った。
「ただ、君が今思いついたとおりだとして、先輩が君に連絡しないなら、それは君に問題があったんじゃないの」
「
……
硝子、どうしよう」
「どうすべきかは、自分でわかってるだろ」
五条は硝子の言葉を聞くと、しばらく逡巡して、無言で医務室から去っていった。
京都。歌姫の部屋。
歌姫はトイレの前でうずくまっていた。
一週間前までは眠気と、異様に食欲が湧くくらいで済んでいたのに、今は胃がむかついて何をしていても吐き気がする。今日もほぼ、水しか口にできていなかった。
へろへろになった体を引きずるようにしてトイレから出ると、玄関のドアの鍵がガチャっと開く音がした。
五条だ。そう思うと同時に、歌姫は寝室へと駆け込んだ。ベッドに倒れ込み、布団を被る。彼とはもう二週間連絡をとっていなかった。それなら当然、こうなることはわかっていたはずだった。だって五条はこの部屋の合鍵を持っているのだ。
トットッという足音が響き、寝室のドアの前で「歌姫?」と呼ぶ五条の声がした。
返事はできず、歌姫は布団を被り直した。
かちゃっと寝室のドアが開き、五条は歌姫のベッドの側まで来て、枕元に屈んだ。
「
……
歌姫」
歌姫はやはり返事ができなかった。五条は布団の上からそっと、歌姫の体に触れる。
「歌姫。
……
気分悪い?」
「
……
」
「
……
歌姫。
……
赤ちゃん、いるんだよね?」
五条の声は優しかった。その声を聞いて、歌姫はそっと顔を布団から覗かせた。目には涙が浮かんでいた。
「
……
僕と歌姫の子ども、お腹にいるんだよね」
歌姫の目から涙が溢れ、こくこくと頷いた。
五条の大きな手が、歌姫の頭を撫でた。
「
……
歌姫、」
「
……
ご、め、んなさい
……
」
歌姫は子どものようにしゃくりあげた。
「私、五条に言わなきゃって思ってて、でも、どうしてもいえなくて、」
「
……
僕が前、言ったこと気にしてた?」
「
……
う、だ、だって」
付き合い始めた頃。五条と二人で話したことがあった。
「僕、本当に親と過ごした記憶がないからさ。自分が親になるって想像ができないんだよね」
二人で散歩していた公園で、小さな子どもを連れた夫婦を見かけた時だった。
「結婚しても、歌姫と二人だけで過ごす方が、なんかいいかもなって思うよ」
二人で手を繋いで歩きながらしたそんな会話。歌姫はそれを覚えていたのだ。
「あ、あんたが、子どもは欲しくないかもって、父親になりたくないかもって思ったら、言えなくて、」
「うん」
「別れようって、言われるかも、おろしてほしいって、言われるかもって、」
「歌姫」
五条の指が、歌姫の涙を拭った。そして、五条の唇が歌姫の頬に触れた。
「僕、今でもちゃんとした親になる自信なんてないけど、
……
でも、歌姫となら、頑張ってみれるかもって思ってるよ」
歌姫の瞳が大きく見開かれた。
「歌姫と、一緒に過ごしてきて、歌姫と一緒なら、親になれるかもしれないって思う」
「ほ、んと」
「本当」
五条はまだしゃくりあげている歌姫の唇に、一回だけちゅっとキスを落とした。そして歌姫の体に覆い被さる。
「
……
ありがとう。一番嬉しいサプライズだよ」
そう呟いた五条の声は、歌姫が今まで聞いた中で一番優しかった。
ブルルッと、高専の医務室にいる硝子のスマホが震えた。
歌姫と五条から、同時にメッセージが来ていた。
内容も全く同じ、「ごめん。硝子、ありがとう」と言う文面だった。
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