ライジングボルテッカーズの活動資金を稼ぐため、リコとロイは農家のお手伝いのアルバイトに向かった。この時期は主にシシトウを取り扱っているらしく、今回は既に出来上がった分の収穫と次の時期に収穫する野菜の種まきを行うようだ。
現地に着くと、畑の持ち主であるおばあさんとパートナーのドータクンが出迎えてくれた。
「こんにちは、今日はよくきてくれたね」
「こんにちは!ロイです!精一杯働きます!」
「リコです。よろしくお願いします」
「ふふ。元気な子たちだねぇ」
おばあさんはニコニコと笑っている。穏やかな雰囲気にリコとロイの表情も緩む。するとそこに別の声がした。
「おーい!ばあちゃん、その子たちがバイトの子?」
「そうだよ。ロイさんとリコさん。あんたたちも挨拶しなさい」
おばあさんの元にやってきたのは濃い赤の髪に同じ色の瞳を持った男女。年頃はリコとロイと同じくらいだ。
「こんにちは。俺はシンク。こっちは双子の妹のヒイ」
「私たち、よくここに来ておばあちゃんのお手伝いしてるんです」
「そうなんだ。じゃあ分からないことがあったら聞いてもいいかな?」
「はい!なんでもどうぞ!ロイさん!!」
「ロイでいいよ」
「ありがとう。二人も俺たちのこと、呼び捨てでいいからね」
挨拶もほどほどに、早速農作業の始まりだ。おばあさんから簡単な説明があった後に、リコとシンク、ロイとヒイに分かれて作業が始まった。まずはシシトウの収穫だ。ハサミを使って実を収穫していく。
「わあ!ロイ上手上手!」
「あはは。そうかな?」
「うんうん。もしかして経験ある?」
「シシトウは初めてだけど…僕、島の出身だから野菜収穫する手伝いをしたことはあるよ」
「そうなんだ!私もこの田舎出身だからシンパシー感じちゃうな…」
この子、さっきからちょっと近いな…ロイはヒイと話しながらそう思っていた。なにせ肩と肩が触れそうな距離だ。大したことはしてないのにやたら褒めてくるし、不思議な子だなあと感じている。一方、離れたところで作業していたリコもまた、ヒイに対して思っていた。ロイに近づきすぎだ、と。別にロイと付き合ってるわけじゃないし文句を言う権利はリコにない。しかしそれを分かっていても、ロイに近づくヒイを見て、リコは頬を膨らませていた。そんな彼女にシンクが声をかける。
「どう、慣れてきた?」
「あ、はい…なんとなく」
「そっか。リコも手際がいいね。前にもこういうのしたことある?」
「いえ…今日が初めてで」
「じゃあ才能だね。今日だけと言わず、ずっとここにいてくれたら嬉しいなあ…」
「え?」
「ああ、いや、冗談だよ。はは」
「あはは…」
なんか、狙われている気がする…というのは自意識過剰かな。うん、きっと気のせいだ。リコは頭に浮かんだ考えを捨てて作業に意識を戻した。しかしロイはリコの方をチラチラと見ては感じていた。シンクはリコのことを狙っているんじゃないかと。なにせ元々この分け方を提案したのはシンクだ。その前にヒイとこそこそ二人で話していたし、なんか怪しい。アルバイトで来ているのに変に疑うのもよくないとは思いつつ、ロイはシンクがリコに変なことをしないか気が気でない。
「ロイ、次はこっちだよ〜」
「あ、うん」
まあ、マスカーニャもそばにいるし…そこまで心配しなくてもいいか。ロイは次の苗の方へ進んだ。そうして作業が進んでいくと、一つ、トラブルが発生した。
「きゃっ」
「わわっ…ごめんヒイ。大丈夫?怪我してない?」
「うん…」
流れはこうだ。ロイが担当していた苗のシシトウを取り終えて振り向くと、そのとき後ろにいたヒイとぶつかって二人して転けてしまった…というかロイが押し倒したような状態になっている。至近距離で見つめ合った状態になり、ヒイはすっかり惚けている。
そして、逆のペアでもちょっとしたハプニングが起きていた。こちらはリコがハサミでシシトウを苗から切り離す際、誤って指を少し挟んでしまい出血していた。シンクがポケットから消毒を取り出して処置をしている。
「ごめんなさい…」
「いいよ、気にしないで。俺とヒイも昔はよく怪我したから、今もこういうの持ち歩いてるんだ」
シンクはリコの人差し指に丁寧に消毒をした後、包帯をゆっくりと巻いていく。巻きながらリコの左手全体に触れていき、終いには軽く両手で握った。
「リコって手細いね…女の子らしい」
「へ…?」
「ああ、ごめん。変な意味は無いから」
不審がるリコはなにか視線を感じてその方向を向いた。するとロイがシンクをじっと睨んでいる。しかしリコもまたロイに対して怪訝な顔を見せた。なぜならロイは未だにヒイに覆い被さった状態だからだ。リコは今、やっとロイの状況を確認したのでロイがヒイを押し倒して跨っているようにしか見えていない。正確にはロイの足はヒイの体の左側にあるのだが。ロイに限ってそんなこと、ましてや仕事中にするわけがないとは思いつつも、怒りは抑えられない。
かくしてシシトウ収穫が終わり、少し休憩となった。シンクとヒイがおばあさんと共にお昼ご飯の準備をしに行ったところで、リコはロイの手を掴んで引っ張っていった。ロイがどうしたのと聞いても返事をせずリコは歩く。しばらくしてロイはリコの手を振り払った。
「もう…ほんとにどうしたの?リコ」
「…ロイ、さっきヒイに何してたの」
「え…?なにも…してないけど…」
「押し倒してたよね?」
「押し倒すって…あれは事故で二人して転けただけだよ…」
「ふーん…」
ロイが嘘を言っている目じゃないのは間違いない。でもそれはそれとしてもやもやする。リコは不服な顔のままだ。すると今度はロイが聞く。
「リコこそ…シンクとなにしてたの。手繋いでたけど…」
「あれは私が怪我したから包帯を…ほら」
リコが人差し指に巻かれた包帯を見せると、ロイの表情は心配のそれに変わった。
「怪我してたんだ…大丈夫?」
「うん。消毒もしてもらったから平気だよ」
「そっか…でも、やっぱりリコがそばにいないとちょっと不安だな…知らないところで怪我してたら嫌だよ…他の人に手握られてるのも」
「私も…ロイが私の見てないところで変なことになってたら嫌だ…」
ここで改めて言っておくが二人は付き合っていない。しかし楽しい農作業の合間に起きた出来事がお互いへの気持ちを昂らせて正直にこんなことを言っているのだ。話していると、おばあさんが二人の元に来た。
「あらあら、二人とも両手を合わせちゃって…キズナが強いわねえ」
「あ、いや!これは!」
「け、怪我見せてただけで!」
「右手も怪我してたかしら?」
「…いえ…」
「ふふふ。そろそろご飯ができますからおいでなさい」
おばあさんについていき、二人は食事をするテーブルに戻った。配膳を手伝い、リコとロイは隣どうしに座った。そのことにヒイは少々不満を抱えた様子だ。サラダや野菜の天ぷらなど、この一帯で収穫された野菜を使った料理は新鮮でとても美味しい。リコとロイの機嫌もすっかりよくなったところで午後の作業だ。今度は種まき。始まる前に、リコとロイはお互いの名を呼んだ。お先にどうぞを繰り返して結局リコが先に言った。
「ロイ…今から私のもと離れるの禁止ね」
「同じこと言おうと思ってた」
リコとロイは両手を重ね、口角を上げて見つめ合った。それからおばあさんの説明を受けて作業が始まった。シンクは先ほどのペアに分かれることを提案したが、リコとロイは別の提案をした。
「僕とリコのペア…シンクとヒイのペアでどっちが種まきを早く終われるか勝負はどうかな」
「え、なんで…?」
「その方が楽しくできると思ったんだ!」
「ロイが言うなら…お兄ちゃん、がんばろ」
「そうだな。ベテランの意地を見せるぞ」
かくして勝負開始。普段から作業に慣れているシンクとヒイはやはり早い。しかしリコとロイも息の合ったコンビネーションで徐々にスピードを上げていく。それに負けじと赤い双子もペースを上げる。勝負は激しくなり、そして…
「シンクとヒイの勝ちだね」
おばあさんがそう言うと、二人は肩を組んで歓喜の声を上げた。リコとロイはぜえぜえ息を吐きながら負けたねと笑い合っている。
「いや…でも二人ともスゴかったよ…初心者なのにあんなに早くできるなんて」
「ほんと。すごく息合ってたし…」
「この子たちはキズナが強いからねえ」
「リコとならできないことだってできる。そう思ってるから」
「私も。だからロイのそばにいたい」
リコとロイは晴々とした顔でそう言う。シンクとヒイはそんな二人を見て敵わないなと感じた。その後リコとロイは報酬といくつかの野菜を受け取り、飛行船への帰路についた。お互いのもとを離れない約束を守ったまま。
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