つぐころね
3295文字
Public √Eden
 

ストロベリームーンが見守る独り言


 
 次の欲望飲み込む受け入れる為には、今ある欲望はきちんと飲み干さ昇華しないといけない。あの時言われたのはそういう事、でいいのかなどうだろ、違う気もする。
 ――そんな事を苺みたいな赤みがかった満月を、ひとり見上げながら思う。

 物や広さに限りがあるように、想いを抱えるのにも限りがあるのなら、入れ替えたり、捨てたり忘れたり圧縮したり隅に寄せたりしていくものなんだろうか。記憶は薄れるものとは言うけれどヒトの子らは自然とそれらを行えている、の

 手元の氷だけが残るグラスを揺らし、カラリと音を響かせ遊びながら。発露しそうなアレコレを飲み干す為に縁台に置いた瓶へと手を伸ばし、グラスへと注いで。

 (アノ子ごと、かぁ

 トロリとした梅酒がグラスの中で氷が揺らすのを眺めながら考えるのは、千颯に言われた言葉。未だに飲み干せない想いや願いが混ざりあったアノ子への気持ちごと、受け止めてくれるヒトがいるのかはサテオイテ。受け止めてもらうには、それを言葉にしないといけないわけで。あの日、あの夜、混乱した頭のまま吐露めいた言葉を漏らしたような気がしないでもないけれど。それを意識ある状態で言えるかは――別の話で。
 や、近い事は酔いに任せてポロポロと溢してる気もしないでもないけれど。たぶん、それとも違う話のハズで。

 膝を抱えるように座ったまま、自分の膝に自分の手ごとグラスを置き。はぁと溜息を吐いてから、甘ったるいくらいに甘い梅酒を喉に流し込む。酔いたい時に酔いが来ないのは、なんなんだろう。誰もいない今なら、誰にも迷惑をかけずにいられるのに。

 お行儀悪いと嗜める相手がいないのをいい事に、足を放り出して座り直し。縁台に背中を預けて空を見上げる。太腿に当たるグラスから伝い落ちた結露の雫が、スカートを濡らした事にも目を逸らす。

 そういえば、アノ子とも幾度も月も星もみたけれどストロベリームーンは見たことが無かったな。そもそも、あの時代にこの呼び名が伝わっていなかった可能性もあるけれど。更に過去へと遡れば『赤い月は不吉の前兆』とか言われていた時代もあるわけだし。それが今では『一緒に見られれば恋愛成就』みたいな扱いなのだから時代の流れって面白い。

 「好きな人と結ばれる、ねぇ

 ぼんやりと苺色の月を見上げ、グラスを両手で持ったまま。ほろ酔い未満ではあるけれど、少しふわりとする思考を揺蕩わせる。

 好き、は分かる。たぶん、愛も――わかる。
 でも恋は、分かるような分からないような曖昧さで。ヒトの数だけ違うな、ヒトの子らが恋をした数だけ、色んな形の恋があって、恋し方があって。いくら創作物を読んだり見たりしても、ヒトの子の話を聞いてみても、いまいち自分に置き換える事は出来ないし、コレがアレがそうだと言い切れない。きっと答えなんてないものな気がする。

 そんな事を考えていたら、唐突に頭を過ったのは二つ並んだ紫色と苺色。そんな彼らと話した恋バナで。無意識に目元も口元も笑みをつくってしまう。
 
 嗚呼、そうだねぇあの頃、学生の頃に出来なかった『同世代と気兼ねなくはしゃぐ』なんて事が出来ている今なら。もう少し違ったコイビト同士が出来るのかも、だよねぇ。正直、愛だ恋だではないとしても。家族(の心配)と天秤を掛けるような相手なんて、できると思わなかったし。

 でも、それでも――何かが引っかかって、二の足を踏んでしまう。立ち竦んでしまう自分から、踏み出せなくて。それの理由がわからなくて、ただ同じ場所をぐるぐると巡ってしまう。

 カラリ、と音をたてて梅酒の海で溺れる氷へと視線を落とせば。ここ最近ずっと躓き続けている心のしこりに小石を投げたくなってくる。 何度も何度も躓いている理由こそがアノ子への愛故で。思い出せない掠れて霞んでしまった約束の為で。それに目を背ければ楽になる気はするのに、背けない理由を本当は分かりかけているのに。でも、でも、と子供のように駄々を捏ねている自分にも、いい加減、気付いてしまって。

 「情けないなぁ

 そう呟き、手元のグラスの中身を一気に煽り。喉を通り抜けていく、とろりとした甘さに「あま」と呟いて。グラスの中に残っていた氷も口へと放り込んで噛み砕く。
 苺色の月は、そんなボクに応えも答えもくれるはずもなく、ただ静かに見下ろしているだけ。

 「...あーあ...」

 わざと不貞腐れた気分のまま、それを隠さずに声に乗せる。
 きっと、たぶん、ボクは...アノ子以外を愛さなきゃ・・・・・とは思っているけれど、誰かに恋したいと思った事がなかったのだなぁ――と、最近の自分との対話的なアレコレ的に、そうなのだろうなぁ...と思い至る。
 だったら...アノ子へのような粘着質なこのオモイではなく、彼らと話したような楽しむ為の恋なら?と思うけど。思うけれど、どうなんだろう。出来る、のかな。出来そうな気はするけれど...わざわざ”ソレ”を手繰る寄せる努力をするよりも、今ある縁を大事にしたい気もする。
 たぶん今のボクには、ボクからはそれが限界な気もしてしまう。

 正直、今のこの堂々巡りしているグダグダ感は、気付いてしまった故の一過性のようなものだとも思うし。最終的に、どう思おうと、どうしようと、どう転ぼうと――ボクのアノ子への執着は変われないし、変えたくないし。それすらも変えてしまうようなナニかなんて怖くて堪らないし。
 そんな状態が平常で恒常であるのが今のボクなのだとしたら、現状維持に逃避している事が無難、な気すらして。

 「あーあ」と、もう一度。もどかしいもの総てを声に少し強めに乗せてから立ち上がる。

 嗚呼、ダメダメ。こういう時は楽しく酔えるお酒が飲みたい。誰かに連絡をするか、ふらりと何処かに行くかしようかな――と、思った所で「藍花?」と千颯の声が聞こえた気がして思い止まる。
 うん、お説教されたばかりだからね、自重しないとね。そう思うものの誰もいない家は、寂しいわけで。

 可愛らしい苺みたいな赤を、八つ当たり半分にジトリと睨め付け、はふりと溜め息ひとつ。

 とりあえず縁台周りを片付ける片手間に妖怪スマホを取り出して、月の寫眞をパシャリと一枚。ぼんやりとして赤いかも怪しい絵面になったけれどまぁ、話のネタには良いだろう、と小さく笑って。一歩踏み出す。

 家に入れば、一匹で寛いでいるウチの子にゃんこがいるだろうし。そのうち白磁の媛が現れるかもしれないし。気まぐれに千颯や咲良彩が帰ってくるかもしれないから。そんな“もしも”の積み重ねに期待する事にする。
 それに、いざとなったら迷惑そうな顔したとしても通話に出てくれそうな悪友ついんずに頼ってしまうのも楽しそうだし。素直に千颯と咲良彩に「帰って来て!」と泣きつけばいいだけなのだし。

 答えが出なくても、進めなくても、変われなくても。ボクの今日も明日も続いていくのだから、もうちょっとテキトーでいてもいいのかもしれない。そう、なんとなく思えるような気がした。


~終...?~
独り言 ストロベリームーンのスレ終了後なイメージの小噺でした、とさ?

 暫くぐっだぐだにくだを巻いていた堂々巡りはこれで一区切り出来ないかなぁ、と思った次第で。
 郷愁は変わらず在り続けるだろうし。切っ掛けがあれば、揺れたりブレたりするだろうけど。藍花さんにとって、どんなに悩んでも、考えても、『答えはでない』が今だせる答えなんじゃないかなぁと。割り切れはしないけど、少しでも『まぁ、いっか』となれれば、平常モードに戻れるよね☆という期待を込めてみました。

 ああ、でも物思いに耽らなくなるとただの夜遊びだらけな不良娘なだけになりかね、ない? というか此処数か月ずっとですね。という事は思ったよりバレてないんじゃないかな、良かったね。藍花さん。(๑❛ڡ❛๑)テヘペロ☆



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√Eden 藍花 / 藍苺堂