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匣舟
2025-07-04 19:12:58
3816文字
Public
RKRN
空の透くガラス
ワードパレットリクエストのろじ乱です。
夏休みにろじが乱を実家に連れていく話です。
リクエストくださった方ありがとうございました🫶
空の透くガラス
* (思わず・眩しいくらい・きらきら) *
夏の日差しが容赦なく海を照りつけていて、きらきらと水面が輝いている。忍術学園が夏休みということもあり、三郎次は実家へと帰省していた。
「うわあ、きれ〜い。」
「海に入るのは後な。まずは家に帰らせてくれよ。」
「もー、分かってますよぉ!」
そんな子どもじゃありませんよ!といかにも怒っていますよ。という風に頬を膨らませながら、三郎次の隣で先程まで海を見てはしゃいでいたのは、あほのは組と謳われ、特に座学・実技ともに赤点で三郎次が所属する火薬委員会の顧問である土井先生からよく補習をさせられている一年は組の猪名寺乱太郎だった。
そんな乱太郎と手を繋ぎながら三郎次は海辺を歩いている。なぜふたりが、というか乱太郎が三郎次の実家帰省に着いて行っているのか。それは夏休み前の三郎次と同じい組で、乱太郎と同じ保健委員である左近との会話に遡る。
「よ、暇してるか〜?」
「
…
暇じゃないから帰れ。」
今日の医務室の当番が左近であることを知っていた三郎次は、暇だったので医務室へと行くことにした。医務室に行ってみるとやはり急患や怪我人がおらず、ひとりで黙々と包帯を巻いている左近が目に映る。
シッシッと手で三郎次を払いながら早く帰れ。という左近を無視してドカッと腰を下ろして座ると、左近のジト目が三郎次を襲った。
「
…
何の用だよ。」
「いや、暇だから話し相手でもと思って。」
三郎次がそう言うと、左近ははあ
…
。と溜息を吐いて黙々とまた包帯を巻き始めた。きっと諦めてここにいることを許してくれただろうと思った三郎次はそんな左近を笑って、話し始めた。
「左近は夏休みは家帰るのか?」
「
…
帰ると思う。でも、薬草園の管理とかもしなきゃいけないから五分五分だろうな。」
「
…
そうなのかぁ、大変なんだな。保健委員って。」
「お前は?」
「僕は帰るよ。」
父さんの漁の手伝いもしないといけないだろうし。と言うと左近はふぅん。と言って、三郎次の方をチラリと見てすぐにまた包帯へと視線を戻した。そして、少しの沈黙の後口を開いたのは左近だった。
「
…
そういえば、乱太郎はご実家に帰らないそうだぞ。」
「
…
えっ?」
そんなの聞いてないというのが前面に出ている三郎次にプッと笑った左近は、乱太郎の事だし迷惑かけると思ったんじゃないの?と宥めながら話を続けた。
左近の話によると乱太郎の両親が夏休み期間に丁度忍務が入ったらしく、いつ終わるかも予想がつかないということで今回は家を帰ることを見送ったらしい。
畑仕事もしたかったんですけどねえ
…
今回ばかりはちょっと仕方ないですね、薬草園の管理とか薬の補充とかあと宿題も暇つぶしにやっておくので、左近先輩は夏休み楽しんでくださいね〜。と笑っていたそうだ。
それに三郎次は黙り込んでしまった。乱太郎は家族をとても大切にしていることを三郎次は知っている。いつも両親の話になると花が綻んだように笑って家族の話をしてくれるからだ。そんな彼が大好きな両親に会えないなんて。そんなこと絶対辛いに決まっている。
その会話をしていたとき、もしかしたら乱太郎は泣きそうな顔をしながら左近と話をしていたかもしれない。と考えてしまったら、いつの間にか三郎次はグッと自分の拳を握りしめていた。
そんな三郎次を見た左近は三郎次の肩を叩いて、陰気臭い顔するなよ。と軽くチョップをして痛ぇ
…
。と頭を抑える三郎次を無視して話しかけた。
「あのな。別に会えない訳じゃない。いつ忍務が終わるのか分からないだけで、いつかは終わるだろ。だからあんまり深刻になるなよ。」
「でも
……
。」
「
……
。僕が言うのもなんだけどさ。乱太郎のこと心配なら、お前がどうにかしてやるしかないんじゃないか?」
例えば、二日か三日、三郎次の実家に連れてってやるとか。そう言った左近の言葉に三郎次は目を見開いた。
「それ
……
いいかも
…
。」
「だろ?それに乱太郎だって三郎次の実家に行けば少しは気分転換も出来るだろうし。」
めちゃくちゃいい考えだと思うんだけど。どう?と決めたように三郎次を見た左近だったが、三郎次はもしも、断られたらどうしよう
…
。と弱音を吐ききっていた。その姿は左近にとってなんとも情けなかった。はぁ
……
と大きな溜息を吐いて、三郎次の背中をバシッと叩いた。
「
…
ってえな!お前さっきから暴力的過ぎないか!?」
暴力はんたーい!と叫んでいる三郎次を無視して左近は話を続けた。
「最初は迷惑かけるからいいですよ
…
。って絶対乱太郎は言うだろうけどさ、お前が根気強く言えば絶対行くって言ってくれるよ。」
大丈夫だって、自信持てよ。お前と乱太郎は付き合ってるんだろ?そう言って笑った左近に三郎次は力強く頷いて医務室から出ていった。
そしてその後、乱太郎に根気強く一緒に海へ遊びに僕の実家に行かないか?言い続け、最初は左近の言った通り迷惑をかけるからと断っていた乱太郎も、迷惑なんかじゃないし、恋人なんだから乱太郎を独り占めできる日ができるのなら嬉しい。と何度も言い続け、最終的に少し顔を赤らめた乱太郎が首を縦に振ったことで無事に乱太郎が実家に来ることになったのだ。
そのときのことを思い返していると、いつの間にか三郎次はぼーっとしていたみたいで乱太郎が三郎次の顔を覗き込むように首を傾げていた。
「
…
先輩?大丈夫ですか?」
「
…
大丈夫だ。ほら、家はもうすぐそこだからな。」
「はぁ〜い。」
楽しみだなぁ〜。と笑う乱太郎を愛おしく見つめた三郎次は乱太郎と手を繋ぎ直し、家へと足を進める。これから三郎次の実家の手伝いや海へ遊びに行けることができる乱太郎はワクワクとした表情を浮かべていた。
「うわぁ〜!海きれいですねぇ〜!」
「
…
はしゃぎすぎだろ。」
「わー!本当に綺麗!」
「転けんなよ〜。」
「はぁ〜い。」
そう言って海へ走っていく乱太郎を三郎次は微笑みながら見つめた。三郎次の家に着くと三郎次の両親が出迎えてくれた。乱太郎のことは事前に手紙を通して言っていたため、笑顔で出迎えてくれて三郎次はホッと胸を撫で下ろした。
それから四人で昼ご飯を食べて、乱太郎とふたりで両親の手伝いをして一日を過ごしていた。兵庫水軍の人たちと仲がいい乱太郎だから漁を見ることはあるけれど、自分で魚などを釣ったことや、網に掛けたことがない乱太郎は、初めて自分の手で魚が釣れた時大いに喜んでおり、それを見た三郎次と三郎次の両親が可愛い子だねえ。と笑っていたのがつい数刻前の出来事だ。
そうして海辺で潮風を感じながら少しゆっくりとした後、乱太郎が海に入りたいと騒いだので、もう時間も良い頃合いだし入らせてあげることにしたのだ。
三郎次はふふっと笑った。自分も昔は父さんに魚が釣れた時などは今みたいに無邪気に喜んでいたっけ。と思い出していれば、乱太郎がザブンと海の中へ入って行ってしまった。
そして波打ち際にいた三郎次の方へと水をバシャンとかけた。突然のことで何も反応が出来ずびしょ濡れになってしまった三郎次は、やったな?と言いながら同じように乱太郎に水をかけ返した。
それに驚きつつも楽しそうに笑った乱太郎は三郎次の元へ駆けてきた。そうしてしばらく水の掛け合いをしていたふたりだったが、ふいに乱太郎が手を止めて三郎次の手を掴んだ。突然掴まれた手に驚く三郎次を他所に乱太郎はその手を引っ張って、もう片方の手で三郎次の頬に触れた。
「三郎次さん。」
「
…
なに?」
「
…
ありがとう。私をここに連れてきてくれて。」
「お礼を言われることじゃないさ。」
「でも、」
「あー!もう!そういうのはいいから!」
お礼なんか要らないよ。
…
ただ僕が乱太郎と一緒に来たかっただけだから。少しだけ顔を赤らめながらそう言い切った三郎次に乱太郎は顔を真っ赤に染めた。そんな乱太郎を可愛らしいと思いつつも、三郎次は掴まれたままの手を乱太郎から離し、その手を掴み直した。
「
…
乱太郎」
「はい?」
「ほら、言っただろ。乱太郎を独り占めしたいって。」
「そ、それは覚えてますけど
……
」
「だから、お礼なんかいらない。だろ?」
そう言った三郎次は乱太郎の唇にそっと口付けを落とした。突然のことに乱太郎は目をまん丸にさせて固まったが、三郎次が満足そうに笑っているのを見て顔をさらに真っ赤にさせた。そして恥ずかしくなって俯いてしまった乱太郎に三郎次は声をかける。
「はは、照れてるのか?」
「てっ!照れてなんかいませんっ!!」
乱太郎がいじけるのを分かっているのに思わず、嘘つけ。そう言ってクスクスと笑ってしまった三郎次。そんな彼を見て、乱太郎はムッとして三郎次の腕を掴んで引き寄せた。そしてそのまま唇を重ねると直ぐに離れていった。驚きを隠せない三郎次に乱太郎はニヤリと笑って言った。
「仕返しですっ!」
そう言った乱太郎はそのまま三郎次を海の中へ押し込んだ。それに驚きながらも乱太郎を見ると悪戯っ子のように笑っており、三郎次もつられて笑った。
「
…
もう少し遊んで帰るか。」
「はいっ!」
そうしてふたりはまた水を掛け合いながら海へと戻ってゆく。そんなふたりを空から見守るかのように夕陽が眩しいくらいに輝いていた。
了
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