深くなるキスの合間に覗き込んだ青い瞳が涙の膜を湛え熱を帯びる瞬間が好きだった。二回り近く年上の恋人に求められている、自分だけが焦がれこの先の行為を望んでいるのではない事実がたまらなく嬉しい。
「んっ・・・」
分厚い舌を吸い上げ軽く歯を立ててやると無意識に腰が揺れ動いていることに炎司さんは気が付いてないだろう。明日は俺が一日オフなのできっとそのつもりで準備していてくれている。性急に押し倒したくなる衝動をなんとか抑えて唇を離した。
「・・・? どうした啓悟、布団に行くか?」
今いるのは炎司さんの体格も考慮して選んだリビングの大きなソファの上、ここで事に及んだことも両手では足りないほどだがやはり汚れることが気になってしまうのだろう、どんなにいい雰囲気になっても炎司さんは布団に移動することを拒まない。けれど一旦止めたのはそういうことではない。今日の俺には目的があった。
「炎司さん、俺をその気にさせてみてくれませんか?」
その時の炎司さんの怪訝な顔と言ったら、先ほどまでとろんとさせていた瞳が険しくなり眉間に皺が寄る。
「なんだお前、したくないのか?」
下ろされた視線は俺の股間へ。もしここで俺の愚息が既に勃っていたら「すでにその気じゃないか」と鼻で笑われて終わっていただろうがキスの間も意識を股間に全集中させていたので辛うじて耐えていた。
「いーえ、ものすごくしたいですけどたまには炎司さんからおねだりしてほしいな~って」
そう言って甘えるように鼻をすり合わせれば、炎司さんは少しの間なにか考えた後、「はぁーー」と深々とため息をつき「少し待ってろ」と俺を押しのけて別室に消えていってしまった。
「・・・まずったか」
炎司さんが部屋を出て行って十分ほど経った。未だに戻ってこないことに焦りを覚えソファから立ち上がりウロウロする。
(せっかく炎司さんその気になってたのに止めたから怒ったのかな?けど待ってろって言ってたし・・・ああ~どげんしよう!!謝ればお預け回避はできるか!?)
正直おねだりが見れないことより気分を害した炎司さんに一人寝を申し付けられる方が辛すぎる。久しぶりの休みで時間を気にせず過ごせるはずだったのに自分で不意にしましたなんて元支持率ナンバーワンヒーローの名が廃る。などと悶々と考えやっぱり謝ろうと扉に手をかけた瞬間、勝手に開いた扉に態勢を崩しそうになった。
「・・・?何してるんだ」
不思議そうな顔をした炎司さんは、うん多分怒ってはいない。一人寝は回避できたかもしれない!と喜びも束の間、炎司さんが着替えていることに気が付いた。
「なんでパーカー着てるんですか?」
落ち着いたえんじ色のジップパーカーは以前俺がプレゼントしたものだ。若者ぽ過ぎるとあまり着てくれていなかったが、それを今なぜ?疑問符を浮かべている俺を見下ろした炎司さんが無言のまま顔を寄せてきて、気が付いたらソファに押し倒されていた。
「え?え?え?ちょっ、炎司さ・・・!?」
言葉は大きな口に飲み込まれ熱い舌が侵入してくる。
「んぶっ、はっ…ちょっ、と、んん…!」
突然のことに呼吸が乱れ、情けない声が漏れるのが恥ずかしい。そんな俺にかまうことなく口内は蹂躙され足の間に挟まれた膝がグリグリと股間を刺激し余裕のない俺を青い瞳が余すとこなく楽しそうに見ている。このままやられっぱなしは男が廃る!とパーカーの裾から手を差し込み、歳を重ねて現役の時より線は細くなったが衰えることのない滑らかな筋肉と慎ましいお臍を可愛がってやろうとした時、唇が解放され悪戯しようとした手は捕らえられてしまった。
寝そべっている俺に馬乗りの状態な炎司さんを部屋の明かりが照らし影を作る。その状態をまじまじと観察するとパーカーの下に首元まで覆うハイネックが見て取れた。その襟元にどこかで見たような・・・と考えていると炎司さんは最近ではあまり見せない口端だけを上げて相手を見下す女王様のように笑う悪い顔をしていた。
「その気にさせて欲しいんだろう?大人しくしていろ」
口調もどこか粗野で昔のエンデヴァーさんを彷彿とさせた。何が始まるのだろうと期待九割不安一割で言われた通り大人しくする。炎司さんの手がパーカーのジップにかかり器用に片手で焦らすようにゆっくり下ろす様はまるでストリップのようで包紙の中から何が出てくるのかプレゼントを開けるときのような高揚感、とでも言えばいいのだろうか。ゆっくりと開いていく隙間から現れたのはボディラインにぴったりと張り付く紺色の少し光沢のある布地、そして真ん中でクロスするオレンジのラインに驚愕した。
「嘘ぉ!まさかっ、旧…ヒロス!?」
興奮で頭が浮き、上擦った俺の声に炎司さんは鼻で笑う。ジップが最後まで下ろされ割れた腹筋の凹凸を一つ一つが浮き上がり豊満な胸に浮き上がった二つの突起に無意識にごくりと唾を飲み込んだ。素肌はほとんど隠されているのにこの艶めかしさ。
(なんやこん人!エロ過ぎる)
思った以上にノリノリな炎司さんに恐る恐る縋るように伸ばした手は今度は拒まれることなく腹筋から下へと夢ではないと布の感触を楽しみ、スウェットに隠されている下半身も確かめたくてウエストのゴムを指を引っ掛けた。
「おい」
静止の声と共に既に苦しげにズボンを押し上げている俺の股間にぐりっと腰が押し付けられる。お預けされたり許されたり、思い通りにいかないもどかしさもこの場では興奮材料としかなり得ない。上目遣いで女王様に御伺いを立てれば、また鼻で笑われた。
「その気にさせてみろ、だったな?若造」
どうだ?と言わんばかりの挑発的な目元、そこにチリッと一瞬だけ灯った炎に俺は完全に白旗を上げた。今度はこちらが強請る立場になったことを思い知らされる。
「さすが俺のナンバーワン、敵いません」
炎司さんの手を取り恭しく爪先にキスをし、その身を貪るタイミングを見計らった。
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