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tonami
2025-07-03 23:38:10
3483文字
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たぶんずっとこのまま
⚔️に髭が生えない話。無自覚特大マウントを取る🕒を添えて
サニー号の男部屋には小さいながらも洗面台がある。朝起きたらすぐに身支度ができるように備えつけられたそこには、当然ながらカミソリや髭剃りもあった。起きたら無精髭が生えているのが男というものである。人数相応に置かれたそれらに、ローは無言で顎を擦った。
ドレスローザに向かう道中、サニー号に居候することになったローの荷物はほぼ存在しない。そういったものはパンクハザードの研究所に置いてきてしまった。手元にあるのは愛用の大太刀くらい。着の身着のままで麦わらの船に乗り込んだローは、身なりを整える物を持っていなかった。
ふむ、と顎に指を当てたまま考える。能力を使えば髭くらい片手間に剃れるが、こんなことに使うのも馬鹿馬鹿しく感じる。それにいまはできるだけ体力を温存しておきたい。相手はあのドフラミンゴなのだから、むやみやたらに使いたくはない。ということは、誰かの予備を貰うほかないだろう。
「おう、トラ男。おはよう」
ちょうど男部屋に戻ってきたゾロが、そのまま自分のボンクに向かおうとする。そういえば昨夜は不審番だったか。ちらりと見えたゾロの顎は綺麗なものだった。先に整えてきたのかもしれない。
「おはよう。ちょうどよかった、ロロノア屋」
「なんだ」
「お前、カミソリの予備を持ってねェか。髭剃りたいんだが、ぜんぶ置いてきちまってな」
「
……
予備はねェな。そういうのはコックに訊けよ。あいつなら持ってんだろ」
不自然に空いた間が気にかかったが、持っていないのなら仕方ない。ゾロの言う通り、男連中で一番身なりに気を使っているサンジならば、予備の一つや二つ持っていそうだ。
「わかった。寝るところだったのに引き止めて悪かったな」
「いや。
……
一つ聞きてェんだが、いつからそんな風なんだ?」
「そんな風?」
問い返すと、ゾロはローの顎を視線で示す。その先には、毎朝整えている顎髭とまばらに生えた無精髭。
「髭なら、二十歳過ぎたくらいでいまの形に落ち着いたな。生え始めたのは十八かそこらだったと思うが」
ふうん、と興味があるのかないのか生返事をして、ゾロはボンクの中に潜っていく。その姿を見ながら、ローは一人、首を傾げた。
「ほら」
「ああ、ありがとう。助かる」
「いいってことよ。別に男の容姿なんざどうでもいいが、汚ねェのを視界に入れたくないからな」
ついでに髭剃り用のクリームも少し貰って、手早く髭を剃っていく。てっきりキッチンに戻るのだと思っていたサンジは、なぜか後ろで見学している。
「人の髭剃り見てんの楽しいか?」
「別に。
……
マリモ、なんか言ってたか?」
「なんかって」
「髭がどうたらとか」
「ああ。いつから髭生やしてんのかは訊かれたな」
「ふーん。いつからなんだよ?」
「ロロノア屋といい、なんで他人の髭にそんなに興味あるんだ
……
?」
疑問に思いながらも、ゾロに答えたのと一言一句違わず告げる。生え始めたのは十八かそこら、の時点で噴き出した麦わらの一味のコックへ、ローは胡乱な視線を向けた。
「なんなんだよてめェらは。普通そんなもんだろ?」
「悪ぃ悪ぃ。お前の言う通りだよ。普通はだいたいそのくらいで生えてくんだよな、普通は」
サンジは何が面白いのか、くつくつ笑いながら静まり返ったボンクのほうへ一瞬目を向けた。そこにはゾロがまだ眠っている。同盟とはいえ、他船のローがいるのにすやすやと健やかな寝息を立てている。警戒心が強い人間だと思っていたが、そうでもないのか。
「うちのクルーは見ての通り特殊な奴ばっかだろ。船大工はサイボーグだし音楽家は骨だし、船医はトナカイで船長はゴムだ」
「改めて聞くと情報量が多すぎてわけわからねェな」
「骨のブルックとトナカイのチョッパーはともかく、おれ含め他の奴らは生身の人間だ。
……
いやフランキーは半分だけか。まあとにかく、生身のおれらは髭が生えるだろ。ルフィはいまは生えてねェが、あいつのじいさんと親父さんを見る限り将来的にはちゃんと生えるだろうしな。おれとウソップは見ての通り。毎朝ケアが必要だ」
サンジが顎髭を撫でる。ローとは形は違うが、丁寧に日々手入れされているものが立派に蓄えられている。
「だがな、マリモだけは違う。
――
あいつ、生えねェんだよ」
──生えない。何が?
……
髭が? ルフィのような年齢的な問題ではなく、チョッパーのように種族的な問題でもなく、同じ男なのに生えてこないと?
「
……
冗談だろ?」
「だと思うよな。おれも最初はそうだった。でもマジで生えねェの、あいつ。二年前はまだおれ達も十代だったからそこまで疑問には思わなかったが、再会してから一度もあいつが髭剃ってんの見たことねェ」
「んな人間いんのか
……
」
「すぐそこにいるんだわ。しかも驚くことに、うちの剣士様は脛も腋もつるっつるなんだぜ。髪だってちゃんと毛量あるし、あんな睫毛もバシバシなくせに」
やべェよな、と紙巻をふかすサンジに、ローもまたやべェな、と頷く。
──そうか、つるつるなのか。
脛も腋もとくると、そのままあらぬところが脳裏に過ぎって、ローは頭を振って想像を打ち消した。ただの同盟船のクルーに抱く感情ではない。
(いやでも、一回でいいから見てみてェな
……
)
初めて会った時には興味を、再会してからは加えて下心を抱いている相手なのだから、ついつい想像してしまうのも致し方ないことでは、あった。
「マジでお前生えねェんだなあ」
「
……
どこ見て言ってる」
「ゾロ屋の一等美味そうなとこ」
「お前、時々変態くせェぞ」
寄るな、とベッドの端に逃げる体を抱き寄せて、腕の中に閉じ込める。ついでにするりと片腕を動かして、鼠径部へ。指を這わせても引っ掛かるものはなにもない。あるのはつるりとした肌だけ。ちくちく感すらしない。
「髭も一向に生えてこねェし、脛も腋も相変わらず綺麗なもんだ」
戦いの際についた傷はあれど、ゾロの体はどこもかしこも滑らかだった。懇ろの関係になってから何年も経つが、そこまで体毛が濃くないローと比べても、ゾロの体のなんと綺麗なことか。吸いつくようなしっとりした肌の感触が直に味わえるのが、ローのお気に入りだった。
ごろんとこちら側に寝返りを打ったゾロの顔を眺める。顔立ちは年々精悍さと色気を増していくのに、相変わらずその顎にはミリ単位ですら髭が生えてこない。あのルフィでさえも、最近は髭を生やし始めたのにもかかわらず。髭生えてきた! と突撃を受けた時のゾロの顔は、いまでも簡単に思い出せる。あの日の夕食はルフィの好物で埋まっていたが、実はゾロの好物もいくつか混じっていたことも。サンジなりの励ましだろう。
(
……
黒足屋と言やァ、あの時おれにマウント取ってやがったな)
ゾロの体毛情報を知った時のことを脳内に呼び起こす。髭を剃るために予備のカミソリを借りた時、ゾロの話になったのだ。曰く、ゾロは髭も生えなければ脛と腋もつるっつるだと。
実際、それは事実だったわけだが、他船の船長に与える情報では到底なかった。自船の二番手の、センシティブな話だ。しかも、常に適切な食事ができるように一味全体に気を配っているサンジだ。日頃から喧嘩ばかりしている相手といえど意味もなく口にするわけがない。
あれはゾロに手を出すな、というあからさまな牽制だ。“うちの”なのか、はたまた“おれの”なのか、いまとなってはどうでもいいが。だってゾロは、何年も前からローの腕の中にいる。
「おれも髭生やしてェな」
「まだ諦めてねェのか」
「ルフィにだって生えたんだ。おれもいつか生えるかもしれねェだろ」
「どうだかなァ。こんな全身つるつるなくせして」
「うっせ。ムダ毛なくていいだろが」
「確かに、触り心地はすげえいい」
再び不埒な指先が動き出す。下から上へ背骨を辿り、うなじから生え際をくすぐり、耳朶の形を確かめ、
顎
おとがい
を指の腹が撫ぜる。くぅん、と子犬のように鳴った喉があまりに可愛らしくて、つい笑みが洩れた。顔を真っ赤にした恋人の反撃を甘んじて受けながら、いつか髭を生やした姿を想像してみる。──悪くはない。悪くはない、が。
「お前はずっと、このままでいてくれ」
なぜか彼の師匠のようになっていくゾロを思い浮かべてしまって、眉を寄せる。やはりゾロには髭はないほうがいい。
絶対に実現してほしくない未来の姿を脳裏から打ち消すべく、ローは不思議そうな顔をする恋人の唇に噛みついた。
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