九条空
2025-07-03 23:25:22
1581文字
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「ありゃりゃん? オウチに帰ってきたと思ったらん、なんだか大変なことになってるわねん」

脊髄を撫で上げられるような不快な殺気。
粘りつくような喋り方の女の声。
それに思い当たるところがあった私は、顔を引きつらせながら振り返った。

「あらん? あなた、そう……捕まっちゃったのねん?」
「う、あ」

露出度の異様に高い中華服を着た、ボンキュッボンの女性。
暗殺者ギルドのトップランカー、通称「さそり」だ。
ちょうこわい、見られただけで死にそう。
広げて口元を隠していた扇子を閉じると、さそりは死ぬほど綺麗に微笑んだ。

「こういうときって、みんな殺してよかったのかしらん?」

こてり、と首をかしげるその様が、美しすぎる人形のようにしか見えない。
悲しいけどこれ、殺戮人形なのよね。

とりあえず、ぶんぶん首を振ってみた。殺されたくない。

「殺しちゃダメ? そうなのねん? マスターのところへ連れて行けばいいのかしらん」

あ、ああー! 奇跡的に私の首振りを真に受けてくれたー!
殺気は超一級品だが、知能はそうでもないらしい!

いいや、一応、私も暗殺者ギルドの一員ってことになってるから、仲間だと思われているのかもしれないけれど。

「んー、でもん。これは一匹で、十分よねん」

さそりが扇子を振った。
私に見えたのは、それだけだった。

次の瞬間には、私の顔に、おびただしい血が降りかかっていた。

私の血じゃない。

隣を見た。
さっきまで、私の頭を撫でてくれていた、下っ端の騎士の首から上がない。

「ちょっと可愛い顔してるのねん。うふふん」

騎士の頭は、いつの間にかさそりの手の中にある。
両手で頭を持ち上げ、無邪気に眺めているその様からは、狂気しか感じ取れない。
頭を失って絶命した下っ端騎士の体は、ゆっくりと倒れていった。

そうなんだよ。
ここの暗殺者ってばみんな、世間話と同じテンションで人を殺す。

あ、私は、違うけど。

「逃げろ、お嬢ちゃん!」

もう一人の騎士が、剣を構えてさそりに斬りかかる。
同僚がクビチョンパになったのを見てすぐ、こんなことができるなんて、騎士団すごいなあ。

「どうしましょん、殺しちゃっていいのかしらん?」

逃げろったって、私、ぐるぐるに縄で巻かれてるんだけど。

さそりは迷っている。
だから、すぐに彼を殺しはしないだろう。

「ハァアアッ!」
「唾飛ばすのは、なしよん?」

激しい金属音が鳴り、さそりと下っ端騎士が打ち合う。
私にできることは、非常に限られている。

「ああん、忘れてたあん。一応、名乗らなくっちゃねん」

律儀か。

「わたくし、『さそり』というのん。お洋服は目に毒だし、話し方は毒々しいけどん。攻撃に毒は使わないから、安心してねん」

超絶なネタバレだ。

——覚悟を決めた。

私は転がって体勢を変えると、右……は利き手だから、左だな。
左手を、自分で思いっきり踏み潰した。

すり鉢で何かを潰すような、不快な音が響く。

うお、縛られているせいであまり力が入らない。

靴の裏に張り付いたガムをひっぺがすような、そんな乱雑さで。
私は自分の左手を、ゴリゴリと、骨ごとすりつぶした。
肉がちぎれて血が噴き出す。

死ぬほど痛いけど、こんなん、慣れっこだ。

「とってもコンパクトになった左手」のおかげで、無理難題だと思われた縄抜けもできそうだ。
そう、手錠だってね、手首から先を手首より小さくできれば、簡単に抜け出せるんだよ。

それと同じ原理だ。あとは全身のいろんな関節をちょっとずつはずせば完璧。

3秒で抜けれた。
はい、ダッシュで逃げます。

さそりにも下っ端騎士にも、目をくれなかった。

私がいるべきところはここじゃないし、私のすべきことも、ここにはない。


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