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悠環 彰
2025-07-03 18:13:20
4736文字
Public
MCU:バキサム
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星に願いを。
一晩無人島で過ごすことになるバキサム。
CP要素薄め。
※ミニイベント【#月いち36の日】掲載作
「サム! やっと繋がった、アンタ今どこにいんの?!」
途切れ途切れにノイズが走った後、インカムの向こうからワッと叫ぶホアキンの声が鼓膜に飛び込んでくる。
「
……
どこだろうなぁ、ここ」
「はぁ?」
それに諦念の籠もった平坦な、いっそのんびりとも取れる声音でサムは答える。視線の先にはどこまでも広がる青い空と、穏やかに凪いだ青い海が水平線を挟んで視界いっぱいに広がっていた。
つい一時間ほど前まで遡ると、その時サムは北大西洋を横断しようとする輸送機の中にいた。
「大人しく引き返して、投降するんだ」
貨物室に所狭しと積まれた武器弾薬の隙間から顔を出して声をかけると、ぎょっとこちらを振り返った男たちが口々にキャプテン・アメリカ、なぜここにと叫び声を上げた。小悪党っていうのは、通り一辺倒の反応しか出来ないもんなんだろうか。これまたお決まりのように、彼らは各々武器を手にしてこちらに向かってくる。
「サム、さっさと済ませるぞ」
今回同行を申し出たバッキーはそう短く言うと、敵を迎え撃つために地を蹴った。
ヨーロッパで活動しているとある地下組織が、勢力図を動かそうと武器商人から武器弾薬を大量に融通してもらった。武器商人は表の仕事として持っている輸送会社の一般貨物に紛れ、その大量の武器弾薬を組織の元へ運ぼうとしている。そんな話が流れてきて、サムはこうしてバッキーと共にその輸送機に乗り込んできた訳だ。
狭い輸送機の中ではウィングが使えないが、代わりにシールドは反射させられる場所が多いので上手く使えばアドバンテージになる。時折バッキーと協力しシールドをキャッチボールのようにしながら、次から次へと現れる戦闘要員を蹴散らしていく。
「これでも食らえっ!」
突然、貨物室の奥からビームのようなものが放たれた。咄嗟に避けると、背後の壁がぼんと煙を上げ、溶けていく。
「いやいや、それはオーバーテクノロジーだろ、どっから調達してきた!」
「こんなところでソレを使うな!」
仲間の慌てた声も錯乱したその男には届かないらしく、続けざまに二射目、三射目が放たれる。一つは天井に穴を開け、もう一つはバッキーが隠れたコンテナに当たった。爆薬でも入っていたのか、一拍置いてコンテナが爆発する。
「ぐぁっ」
バッキーは吹き飛ばされ、壁に激突する。助けに入ろうとサムが立ち上がるのと同時に、敵の一人が近くのボタンを拳で殴るように押した。
「っ、おいおいおい、嘘だろ!」
ガコ、とバッキーの背後の壁が割れ、気圧差に強い風が吹き抜ける。貨物の出し入れ口が開き、その先に空が見えた。慌てて立ち上がりその場から離れようとしたバッキーの目の前で、再びコンテナが爆発する。
「バッキー!」
爆風で飛ばされた体が、一度床にぶつかり跳ね、そして空中に投げ出された。サムは脇目もふらずそれを追いかける。コンテナは狭い貨物室の中で一つ、また一つと連鎖的に炎を上げ始めていた。
落ちていくバッキーを目視で捉え、出し入れ口の端を蹴る。その一瞬に、背中のウィングパックをビームが掠めていった。構わず飛び出したが、すぐにサムは異変を感じて舌打ちする。
ウィングが開かない。
「サム!」
まずはバッキーを捕まえるのが先決だと、頭を下に極力空気抵抗をなくす格好で弾丸のように空を降下する。両手両足を広げて落下していたバッキーに追いつくと、お互いぶつかり合うような形で合流した。
「
……
サム?」
「バック、手を放すなよ」
「は、おい、なんでウィングを開かない
……
ちょっと待て、っ」
体勢を整えながら、緊急用のボタンを押す。ぼんっ、と音がしてパラシュートが蜘蛛の糸のように伸びていき、開いた。傘が風を受け重力に反して引っ張り上げられるような強い衝撃に、ずるりと手を滑らせかけたバッキーが慌ててサムの首にしがみつくので、サムも腰の辺りに腕を回し彼のベルトを掴むと足を絡めるようにして堪えた。
上空で、どんと大きな爆発音がする。はっと見上げると、例の輸送機が炎と煙を上げながら海へと向かって下降していた。これは、問題にはされるだろうが、まぁ武器弾薬の輸送は阻止したのだから最悪のことにはならないだろう。多分、おそらく。
「ちゃんと掴まってろよ、バッキー」
そう声をかけバッキーが改めてサムの体にしがみつくのを確認してから手を離すと、サムはパラシュートを操作して手近な陸地を目指していった。
そうして、辿り着いたのがココだったという訳だ。
「うーん、なるほどね
……
話は分かったけど」
一通り経緯を話すと、ホアキンは渋い声を上げて唸った。シグナルを彼が追ったところ、どうやらサムとバッキーが降り立ったのは大西洋にある小さな無人島らしい。
「なーぜか突然爆発炎上して大西洋のど真ん中に不時着した輸送機があるらしくてそっちの救助に人が割かれてるから、迎えに行くまで少しかかるかも」
「具体的には」
「ええと
……
たぶん半日ぐらいかな」
返答に、ふむと現在時刻を確認してサムは腕を組む。
「なら、明日日が出てから迎えに来てくれ」
えっ、という声はインカムの向こうとこちら側、両方から上がった。
「なんだ、爺さんはサバイバルには自信がないか?」
「いや
……
まぁ、最悪一晩ぐらい飲まず食わずでもなんとかなるが」
本当にいいの、とホアキンが尋ねてくるので軽く笑って「大丈夫だ」と答えた。例の輸送機は大陸から離れた所に墜落したから、救助と積荷の残骸などを捜索するとなるとかなりの手間と時間がかかるだろう。まずはそっちに集中してもらったほうがいい。
「夜間飛行させるのも気が引けるしな。じゃあホアキン、悪いが迎えは頼んだ」
そう言って、サムは通信を切った。突然二人きりで無人島生活を一晩過ごす事になって呆然とするバッキーの隣で、よしと気合のひと声を上げてサムが立ち上がる。
「まずは水源と寝床の確保。それが済んだら食材だな」
運のいいことに水源は、島の中心へ向かって少し分け入るとそう時間のかからない内に見つかった。湧き水だ。伸ばしかけたサムの手を制してバッキーが片手で掬って口に含み、問題なく飲めそうだと確認する。寝床は一晩だけなので、大きい葉をいくらか拝借し、枝と蔦を使って雨と日差しよけだけ作った。
「バッキー、そっち行ったぞ!」
ばしゃん、と水を跳ね上げてサムが顔を出す。バッキーはじっと水面の先を見つめて機を伺うと、一気に両手を突っ込んですくい上げた。岩場に打ち上げられた魚がピチピチと跳ねている。
「流石。やっぱり気配を殺すのに慣れてるからか?」
「
……
関係あるか、それ」
「魚って結構鋭いからな。お前、釣りとかも向いてそうだ」
海から上がりゴーグルを外して首にかけたサムは、石を積んで作った簡易の生簀に拾い上げた魚を入れてやる。魚が四匹に貝がいくつか。水源の辺りで山菜とキノコも見つけたので、それなりに腹は膨れるだろう。
「手際がいいな、色々と」
興味深げに生簀の中を覗きながらぽつりとバッキーが呟いた。
「あー、まぁ軍時代に一通りサバイバルの知識と最低限の技術は叩き込まれたからな」
従軍時代には使う機会がほぼなかった知識と技術が、まさか退役して何年も経ち、こんなところで今更活用される日が来るとは思わなかった。日差しで焼けてしまいそうだからと上着を羽織ったままのバッキーとは反対に、サムは海に潜るためにいつもスーツの中に着ているアンダーを下だけ穿いただけの状態だ。下着も濡れたが、後で絞っておけば夜までにはそれなりに乾くだろう。
「後はチビの頃にキャンプに行ったりしてたし。バッキーだって、ある程度はできるだろ」
「まともに覚えてそうなのは火起こしぐらいだな」
スーツと一緒に放っておいたアンダーの上を着ながら、サムは笑う。
「じゃあ、後で存分に火起こししてもらうか」
ひと休憩取って、二人は火を起こして獲った魚やキノコなどに火を通す。もちろん味付けなんて海水の塩気ぐらいしかなかったが、不思議と悪くないと思えた。目の前に広がる水平線に、ゆっくりと日が落ちて水面がキラキラと光り、やがて燃えるような赤になり、淡い紫から青へ、そして濃紺へとグラデーションしていく。
パチパチと火花の爆ぜる音と、波の音が世界を満たす。
「ビーチで焚き火して、海と星空眺めて」
何やってんだろうなぁ、俺たち。サムが呟くと、バッキーも確かにと言いながら肩を竦める。明日には救助が来る、と確定しているからかサバイバルと言っても大した焦りもなく、どうにものんびりとしてしまってまるでバカンスに来たみたいだ。
「先にピックアップしてもらって、救助を手伝うべきだったか?」
「いいんじゃないか。ウィングも壊れてるんだろ」
「あぁ、ワカンダに修理を頼まないとなぁ
……
怒られるかな」
「大丈夫だろ
……
お前なら」
ざざ、と沈黙の間を流れる穏やかな波の音。日が落ちると砂浜は少し冷えてきていて、サムは腰の辺りまでスーツを着た状態でいる。
「ああでも、こんなにたくさんの星を見るのは初めてだ」
バッキーが砂浜に寝転がりながら、どこか浮足立ったような興奮混じりの声で言った。サムも同じように寝転がる。視界いっぱいに星空が広がっている。DCやブルックリンなどの都会ではそうそう見られない。
「昔、故郷でキャンプをした時もこれぐらい見えて感動したのを思い出すな」
「へぇ
……
いいな。今度俺も見てみたい」
それもいいな、とサムも思った。バッキーと二人で船を出して、釣りをして、焚き火を囲んでキャンプをして、故郷の星空を見上げて。あまりにもありふれた、眩しいほど普通すぎる夢。お互い時間が取れるか分からないが、いつか実現したらいい。
「お、流れ星」
すぅと夜空に尾を引きながら星が流れていく。
「願い事は?」
「
……
議員当選?」
「星に願うな。そこは自分で叶えろ」
「サムがワカンダに怒られませんように」
「おいこら。大丈夫だって言っただろさっき」
「じゃあ
……
帰宅後俺の好物が夕飯に出ますように」
「お前なぁ
……
」
呆れた顔でサムが視線をやるのと同時に、バッキーもこちらを向いた。ばちり、と視線が合って、しばらくしてどちらからともなく笑い出す。まるで、長期休みのティーンみたいだ。満足するまで笑って、はぁと息を吐きながら再び空を見上げる。
また一つ、星が流れていく。
「
……
サムが、いつでも、必ず、無事に帰ってきますように」
ぽつ、と波の音に紛れてバッキーの声がした。
「
……
バッキーが、二百歳の大台に乗りますように」
サムも、ぽつりと星を見ながら呟いた。おい、と恨めしそうな声。
「二百は流石に無理だろ。せめて百五十」
「せっかく目指すんなら上がいいだろ。ギネスに乗るんじゃないか」
焚き火もだいぶ火が弱まってきた。夜の闇に包まれる前に、雨よけを作った寝床に戻らなければ。そう思うが、このまま砂浜で並んで寝てしまうのもいいかもしれないなんて思ってしまう。
「二百目指してもいいけど、その時はお前にも付き合ってもらうからな」
バッキーが言った。それを考えると、百五十くらいの方がよかったかも知れない。
「そうしたらサム、お前も百歳超えの超高齢者だ」
「ふ、はは
……
そうだな」
叶うなら、それもいい。キラキラと流れていく星に願いをかける。
願わくばこのまま、こうして時に並んで星を眺めるくらいの仲で、いつまでも。
「おっ、二百歳二百歳二百歳」
「おい、くそっ、百歳百歳百歳」
共に白髪の生えるまで。
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