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店員さんとお客君
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店員さんとお客君+④【皆最後は記憶の中】
いなくなってもそれはずっと頭の中にはいる訳だ
接客業というのは本当に本当に色んな人と簡単に出会える場所だと思う。
毎日決まった行動、決まった言葉、刻まれた笑顔とイントネーション。
これらを数えてないけど何十人と繰り返す。
で。問題なのは我々が機械ではなく人間であることだ。
顔を何度も見ればなんとなくまた来てくれたんだなって覚えるし、特に少し特徴的な人程印象を持ちやすい。
だからこそなんだが来なくなったら不意に「あの人見かけなくなったな」って思い出すことがある。
従業員でも知らない間になんか辞めちゃってる人だっているし。
もうあの人がどんな顔だったかなんて忘れてしまったな。
「きたっ
……
!て、店員さんっ今日もおつかれさまで
……
ぐギィっ!!舌嚙んだ
……
」
あ。お隣さんの法月さんだ。この人毎日来てくれるなあ。
店としてはリピーターさんは有難いんだよなあ。大事にしないといけませんね。
「いらっしゃいませ。こんばんは。お仕事終わりですか?」
「あ
……
はい!今日もお仕事でした!それでえっと
……
あの
……
」
「お買い上げ有難う御座います。
―――
円です。お支払方法は現金でよろしいでしょうか」
「あ、あ!えっと!実はあの!アプリで!す!いれました!お願いします!」
慌てた様子で携帯を操作する法月さんがこちらに最近流行ってるアプリの支払い用のバーコードを見せてくれる。
俺はいれてないけどこれ便利なのかな~。ちょっと気になってるんだよな。
「ではこちらの機械にかざしてください」
「あ!こっち!わ、わかりました!」
かざして数秒後、独特な決済音が鳴る。
「有難う御座います。こちらレシートになります」
「わー!わー!すごい!できました!す、すごいですね!ね、ね!」
「そうですね~」
「じゃ、じゃあ!頑張ってください!また来ます!」
なんだか今日はやたらと元気な気がするがひょっとして春だからだろうか。
あ。そういえばあの人の名前ってはるさんだったっけ。なるほど
……
。
……
ってあれ?かご置いてそのまま嬉しそうに走り去っていこうとしてる。
「お客様ー!?商品忘れてますよー!」
精一杯の声で叫んでみるけど、法月さんは携帯を両手で嬉しそうに握りしめてスキップで外に消えて行ってしまった。
「
…………
とりあえず、一旦忘れ物として預かってもらうしかないか」
こういうハプニングは法月さんだけではなく時々あることだった。
トイレットペーパーとか置き忘れて帰っちゃう人がいるから落し物預り用の棚が埋まってたこともあった。
そうこうしてるうちに次のお客さんがもう待っている。
「あ、失礼しました。いらっしゃいませー」
―――
仕事が終わって。
とりあえず連絡先を知ってる法月さんに忘れ物について教えてあげた。
『すみません
……
ご迷惑をおかけして
……
すみませんすみません
……
』
『まだ店開いてる時間ですから取りに来てくれればすぐお渡しできますよ』
『店員さんはお店にいますか?待っててもらっていいですか?一人だと私お店の前で茣蓙を敷いて切腹しちゃいそうなので
……
』
『それは迷惑なのでやめてください』
待てと言われたのでとりあえず店の近くで携帯でもいじって待っていることにした。
いや、俺もう退勤してるから渡すのは俺じゃないんだけどな。
そうして、30分くらいは経った。駐輪場や入口から人がいくら行き来したろうか。
仕事してる時は愛想良く挨拶してくれるお客さん達も制服を脱いだ俺とはただの他人に過ぎなくなる。
まあ時々話しかけられることもあるけれど
……
ほんと時々。
俺も仕事終わりの同僚の人とかがそのまま買い物しに来てくれてても全く気づかずお客様として接客して終わるし。
喋りかけられないと気づけない程、皆が他人。
なのに、時々不意に思い出せない誰かが蘇ってくるのってなんだろうな。
興味があるんだかないんだか自分でもよくわかってないが。
「ひぃ、ひぃ
……
すみまぜぇぇ
……
ん
……
お、おまたぜぇぇ
……
しましだぁぁ
……
」
「あ。どうも。カウンター行って落し物のこと言ってきてください」
「て
……
店員さんもついてきてください
……
」
「え。はあ。まあいいですけど」
がしっと手首を掴んで離さない法月さんにそのまま連れていかれた。
大分息切れしてるのか顔は真っ青だし掴んでる手から微弱な振動が伝わってくる。
「げっでた」
カウンターにいた先輩を呼ぶと、どちらに対してなのかすごい顔で迎えられた。
いくら同僚相手とはいえ隣はちゃんとお客さんなんですからその応対は駄目ですよ先輩。
「あ、あのぉぉ
……
おどじもの
…………
したんですけど
…………
」
「落し物の詳細について教えていただけますでしょうか?」
「お茶とおにぎり
……
」
「かしこまりました。確認しますので暫くお待ちくださいませ」
「先輩、そこにあるお茶だと思います。おにぎりはさすがに生ものだから別室で保管されてると思いますけど」
「ああ。これか。じゃあ持ってくるからここに受け取りのサインだけしといてもらえる?」
「はい」
「ずびまぜん
……
やはり切腹してわびまず
…………
」
「やめてください」
「あ
…
ひ
……
ずびまぜん
…………
」
先輩がカウンターに受け取り確認用の用紙を置いて急いで裏へと走っていき、プルプルと震えながら法月さんがサインしているのをなんとなく見つめていた。
「うう
……
こんな恥ずかしい
……
もう明日から私これませぇん
…………
」
「ええ。そんな。気にしなくていいんですよ」
「だ、だってだって
……
こ、こんな大変にご迷惑をおかけしたのに私が何事もなかったかのように来たら「あ。あいつ!性懲りもなく来やがって!」って
……
怖い顔で睨まれちゃいます
……
」
「誰もそこまで法月さんに興味ありませんから大丈夫ですよ」
「い、言い方が鋭いです
……
悲しいです~~
……
」
「店としてはお客さんが来てくれなくなる方が悲しいですよ」
「そうですか
……
?じゃ、じゃあ店員さんのことも、かっ
…
悲ませてしまうんですか
……
っ!?」
「んーどうだろう。俺個人はなんとも」
「あ
…………
そうですよね
……
わ、私なんかいてもいなくても、変わりませんからね
……
へへ
…………
へ
…………
ぐす
……
」
「いえ。そんなことはありませんけど」
「
…………
少しは変わってるんですか?」
「まあ、はい」
「にへへぇ
……
ぐ、具体的にどう変わってます?」
「どう?えっと
――
」
「お待たせしました!こちらですね?」
「あ。それですそれ」
先輩が冷えたおにぎりを持ってきてくれた。冷凍室から持ってきたからしょうがない。
温めて食べれるやつだから温めればほかほかに戻って美味しいだろうな。
「あ、有難う御座いまず
………
」
「はい!他にご用件はありますでしょうか?」
「い、いえ大丈夫、です
……
」
「かしこまりました。では、有難う御座いました~!」
お手本のようなにこやかさで笑う先輩に、こちらも軽く礼をして出て行った。
「それ、晩御飯ですか?」
「え。あ、はい」
「じゃあ早く帰って食べないとですね」
「あ、あのぉ
……
さっきの
…………
」
「さっきの?」
「い、いえ、なんでもないです。明日も喜んで来店させていただきます
……
」
「はい。店員としてお待ちしております」
「あ。明日もシフト入ってるんですね
……
」
営業外でのスマイル。勿論時間外なので0円だが。
なんだか法月さんは家について別れるまでもずっともじもじしていた。
どう変わってるか、かぁ。
いてもいなくても変わらないなんてことはないだろう。
そこに一度でも存在してしまったら、なにかは生じてしまうのだから。
だからまあ。
見かけなくなったら、ああ
――
いなくなってしまったんだ、と思うのだろう。
夢にくらいは出てきそうな程度に。
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