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匣舟
2025-07-02 22:22:00
4926文字
Public
RKRN
唯一無二の一番にして
リクエスト作品の成長ifで庄乱。庄の告白現場を目撃してしまった乱が庄を避けて問い詰められる話。
「黒木先輩
…
。わ、私と付き合ってくださいませんか
…
!」
乱太郎が恋人の告白現場を目撃したのは、偶然だった。今から夏風邪が流行ってくるだろうと見越して今日保健委員の当番だった乱太郎は、風邪薬に必要な薬草を採取しに行こうと薬草園へと足を向けたときだった。
今日は確か六年生が実習から帰ってくるということを土井先生から聞いたので、風邪薬の他に止血剤や鎮痛剤などいろいろな薬を作らないといけないということであまり時間をかけられないと人気の少ない近道を走り去ってしまおう。と駆けていた時に偶然、その現場を目撃したのだ。
咄嗟に木の影に隠れてしまった乱太郎は、こんなことなら目もくれずに立ち去れば良かったと頭を抱えていた。
…
よりよって乱太郎の恋人である庄左ヱ門の告白現場を目撃してしまったのだから。
黒木庄左ヱ門といえば成績優秀で冷静沈着では組の頭脳とも呼ばれ、眉目秀麗で非の打ち所がなく、下級生の忍たまからもくのたまからも人気だった。
そんな庄左ヱ門がモテないわけがなく、今までくのたまに呼び出されたり恋文が届けられたりとあったらしいのだが、それらを乱太郎は今日という日まで見たことがなかったのである。
そういった場面に乱太郎が出くわさなかったのは、恋人の庄左ヱ門を始めとしたは組のよい子たちの努力の結晶によるものなのだが、張本人である乱太郎はそんなことなど露ほども知らない。
庄左ヱ門と乱太郎は付き合う前からそれはそれはふたりでいるときは甘い空気を漂わせて、ふたり以外のは組のよい子たちがやきもきしており、ふたりがくっついた時、本人たちより喜んでいたのはは組のよい子たちだ。
自分たちが両片思いであることを分かっていない庄左ヱ門と乱太郎には組のよい子たちが一致団結して、まずはふたりに恋を教えることから始め、すれ違いや勘違いなど本当にいろんなことがあったが、は組のよい子たちの弛まぬ努力と団結でめでたく付き合うことになったのだ(その努力を座学にも使え!と土井先生は叫んでいた)。
特にふたりが付き合った時、庄左ヱ門と同室である伊助、乱太郎と同室であるきり丸はやっと無自覚惚気話から開放される
……
っ!と握手をして喜びながら涙を流していたのも記憶に新しい(しんベヱは逆におしげちゃんとの惚気話を言うためノーダメージである)。
これほどふたりがくっつくことに協力したのだから、よほどの事がない限り別れられたら困る!とこれまで庄左ヱ門の告白現場から乱太郎を遠ざけたり、乱太郎の知らないところで恋文を処分したりとよい子たちが奔走していたのにも関わらずその努力の結晶は今、打ち砕かれてしまった。
そっと木陰から様子を伺うと、一学年下のくのたまの子が俯きがちに立っていた。緊張しているのか拳を握りしめてぷるぷると震えている。その子に真正面に向き合っている庄左ヱ門は何か思案するように顎に手を当てて目線を下に向けており、庄左ヱ門の表情は読み取れない。
このままここに居ても仕方がない。見つかったら気まずくなるだけであるし、薬草を取りに行く時間もなくなってきてしまっているし、これ以上は乱太郎自身が耐えられそうになかった。
(もし、あの子と付き合うから別れて欲しいって言われたらどうしよう
…
。)
なんていう考えが乱太郎の頭の中にずっと巡っていた。そんなことありえないと分かっている。庄左ヱ門はいつだって乱太郎の事を大切にしてくれているし、いつだって乱太郎のことを愛してくれている。だけど、乱太郎の中の不安は消えなかった。
ここで色々考えたところで答えなんか出ないだろうと思った乱太郎はこの場から逃げるように薬草園の方へと駆け出した。
「はあ
……
。」
あの告白現場を見てから数日後。乱太郎はため息をこぼしていた。あれから乱太郎はずっと心ここに在らずな状態でいる。授業中でも委員会中でも何をやっていてもどこか上の空なのだ。ぼーっとしすぎて何度も授業中に土井先生に注意されたし、委員会中にはぼーっとしすぎて委員長である左近におい、ちゃんと当番の仕事を全うしろ。と苦言を呈されたほどだ。
あの告白現場を目撃して以来、庄左ヱ門とは会えていない。いや、正確には会えていないのではなく会うのを避けているのである。この数日間、乱太郎は庄左ヱ門の事を無意識に避けてしまっている。
庄左ヱ門が乱太郎に話しかけようとしても、話しかける前に別の先生や同じクラスの子などに用事があったからとその場から立ち去ってしまったりと理由をつけては庄左ヱ門のことを避けているのだ。そんなことしても何も解決しないし、いつかは話をしなければならない。それは分かっている。分かっているのだが
…
。
「なんで庄ちゃんがあの子と付き合っているところを想像しちゃうんだろう
……
。」
なんて独り言を呟き、またため息をこぼす。最近よくため息をつくようになってしまったと自覚しているものの一向に減ることはなく逆に増える一方である。
それに加えて最近眠りが浅くなった気がする。原因はおそらくあの場面を見てしまったことだとは思っているが、どうしたらいいか分からないのである。
庄左ヱ門のことを信じたいのに信じることができない自分が情けなくて仕方がない。自分のこんな気持ちに気づかれたくなくて、嫌われたくなくて、会いたくて、会いたくなくて。どうしようもない気持ちを抱えたまま日々を過ごしていくことしかできなかった。
「あのとき、なんで見ちゃったんだろう
……
。」
また、あのときの告白現場のことを思い出しながら乱太郎は、庄左ヱ門と話せるようになるのはいつになるのだろうと思いながらまたひとつため息をこぼした。
その翌日、今日は珍しく保健委員会の仕事が休みだったので乱太郎は委員会活動をする他の委員会の邪魔をしないように校庭の隅の方でぼーっと雲を眺めてながら、気晴らしにでも裏山に行ってスケッチでもしようかなあ
…
。と思ってぼーっとしていた。すると背後から力強く自分の名前を呼ばれる。
「っ
……
乱太郎!」
名前を呼ばれ振り向くとそこには庄左ヱ門が息を切らしながら立っていた。久しぶりにちゃんと庄左ヱ門の顔を見れた嬉しさと同時に避けていたことを責められるのではないかという恐怖も感じてしまい思わず後ずさってしまう。逃げようと思っても、庄左ヱ門の真剣な瞳に射抜かれたようで足が竦んで動けなかった。
すると、そんな乱太郎の反応を見て庄左ヱ門は悲しそうな顔を浮かべた後、意を決したような表情をして口を開いた。
「
……
ねぇ乱太郎。最近僕のこと避けてない?」
いきなり、乱太郎の核心を突くような質問に一瞬身体が強張ったがすぐに冷静さを取り戻すことができた。ここで焦った素振りを見せてしまっては怪しまれてしまうだろうと考えたからだ。なのでできるだけ平静を装いながら答えることにした。
「うーん、別にそんなことないと思うけどなぁ。」
「嘘つかないで。最近全然目が合わないし会話もろくにしてないじゃないか。」
「
…
そ、それはたまたまだよ。最近忙しくてなかなか会えなかっただけだよ。」
そう言うと納得していないのか眉間にシワを寄せてこちらをじっと見つめてきた。その視線が痛くて思わず目を逸らすとそれを見逃さなかった彼はさらに詰め寄ってきた。
「やっぱり何か隠してるでしょ?教えてほしいんだ。
…
僕たち付き合ってるんだから隠し事は無しだよね?」
「
……
。」
「
…
乱太郎?」
黙り込んだままの乱太郎に対して不思議そうに首を傾げる庄左ヱ門に対してなんと言ったらいいのか分からなくなってしまう。もういっそ言ってしまった方がいいのだろうか。
あなたの告白現場を目撃して、不安になりました。と。でも言ったって呆れられる未来しか見えなくて、乱太郎はまた黙り込んだ。このまま黙っていても埒が明かないことは分かっているけれど、どうしても言葉が出てこないのである。
どうしようかと思っていると突然両手を掴まれた。驚いて顔を上げると真剣な眼差しでこちらを見つめている彼と目が合った瞬間心臓が大きく跳ねたような気がした。
そのまま引き寄せられるように唇を重ねられると頭が真っ白になった。突然のことに頭がついていかず固まってしまっている乱太郎に対して庄左ヱ門はもう一度優しく触れるだけのキスを落とした後、ゆっくりと身体を離していった。
「
…
っ!」
恥ずかしさと驚きで顔が熱くなっていくのが分かる。きっと今、自分の顔はりんごのように赤くなっていることだろう。と乱太郎は 自分がされたことなのにどこか他人事のように思っていた。
そんな様子を見た庄左ヱ門はクスリと笑みをこぼして再び乱太郎の手を取った後指を絡めるようにして手を繋ぎ直す。
「
…
行こう。」
「
…
えっ?庄ちゃん!まってっ!」
庄左ヱ門に強く手を引かれて連れて来られた場所はなんと校舎裏の人気の少ない所であった。
「ここなら誰も来ないと思うから。」
庄左ヱ門は乱太郎と繋いでいた手を解くと壁際に追い詰めるような形で立つと壁に両手をつき逃げられないようにすると真剣な眼差しで見つめてきたので乱太郎は思わずたじろいでしまった。
だが庄左ヱ門の目は乱太郎を捉えて離さなかったため逃げることができない。そのまましばらく見つめ合っていたが先に沈黙を破ったのは庄左ヱ門の方だった。
「
…
乱太郎。なんで僕のこと避けるようになったの?僕、何か嫌われるようなことした?」
悲しげに目を伏せたかと思えば今度は懇願するような瞳を向けてくるものだから良心が痛んでしまう。でも正直に話してしまうと呆れられるかもしれないと思った乱太郎は言葉に詰まってしまっていた。しかし、庄左ヱ門はそれを許さないというように問い詰めてきた。
そんな庄左ヱ門に乱太郎は根負けしてしまい、とうとう観念することにした。そしてぽつりぽつりと言葉を紡いでいった。
「
…
この前、庄ちゃんがくのたまの子に告白されているの見ちゃったんだ。それで怖くなったんだ
……
。庄ちゃんがあの子と付き合うんじゃないかって思って
…
。そんなこと庄ちゃんがしないって分かってたのに、っ、
…
!」
そこまで言って言葉に詰まる。自分で言っていて情けなくなってきたのと同時に涙が溢れてきて止まらなくなったのだ。
こんな顔、庄左ヱ門に見られたくないと思っていると突然抱きしめられた感覚がしたため驚いて顔を上げるとそこにはとても優しい表情をした庄左ヱ門の顔があった。
「
…
あれ見てたの乱太郎だったんだね。誰かいるとは思ってたんだけど、きみだとは思わなかったよ
…
。ごめんね、不安にさせちゃって。」
そういうと乱太郎の涙を拭ってくれた。その優しさが嬉しくてさらに涙が溢れ出してしまった。そんな乱太郎を宥めるように頭を撫でてくれる彼の手つきはとても優しくて心地よかった。
「あのね、乱太郎。僕はきみ以外を好きにならないよ。こんなに僕の心をぐちゃぐちゃにして、惑わせてくるのもきみだけだ。こんなに僕の心を鷲掴みしてるのに、きみ以外なんかに目移りなんかしないよ。」
「
…
っ、」
庄左ヱ門は乱太郎の頬に手を添えると親指で目元に溜まった雫を拭うように撫でたあとそのまま優しく唇を重ねてきた。触れるだけの口付けだったがそれでも十分すぎるほど幸福感を感じることができた。唇が離れると今度は額同士をくっつけて微笑みかけてくれた。それが嬉しくてつい笑みがこぼれてしまう。
「乱太郎。僕はね、きみが思っている以上にきみのことが大好きなんだよ。だからもっと自信を持って欲しいし、もっと僕に頼って欲しいんだ。」
庄左ヱ門の言葉を聞いて胸がいっぱいになった乱太郎は彼の背中に腕を回して強く抱きしめた。庄左ヱ門はそれに応えるように抱きしめ返してくれる。
「
…
庄ちゃん、ありがとう。
…
今までずっと避けててごめんね。」
─だいすき。乱太郎はそう言いながら彼の胸に顔を埋める。庄左ヱ門は乱太郎の言葉に微笑みながら、応えるように僕もだよ。と言って優しく抱きしめてくれたのだった。
了
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