横井
2025-07-01 22:44:57
2284文字
Public CONCLAVE
 

ベニロレAUのネタ

小説じゃなくてネタ。ベニロレの歴史AU見たい〜

ハプスブルク家とメディチ家の権力争いの末、教皇の座に据えられたのは、齢七にもみたない子どもであった。幼い教皇の遊び相手として、良家の子息の中から一番歳が近いトマスが選ばれた。
十八歳になるトマスは、ローレンス家の四男として生まれた。兄弟の中で飛び抜けて賢かったトマスは兄たちから疎まれ、家臣たちからは家督を狙うようにそそのかされてウンザリしていた。後継者争いに巻き込まれるのを厭い、早々に神学校に入った。しかし、権力に目が眩んだ父は、トマスを神学校から無理やり連れだした。権力を嫌って逃げ出したのに、結局また権力に近しい場所に連れてこられてしまった。トマスは絶望し、怒りすら覚えていた。
いや、しかし、真に不憫であるのは、教皇の座に据えられた子どもである。まだ見ぬ幼い教皇を想像しては、悲運に心を痛める。
使徒宮殿の奥まった一室に通される。そこに、侍女と遊ぶ子どもがいた。侍女に声をかけられ、子どもが振り返る。肥沃の大地を思わせる褐色の肌、黒い巻き毛、神秘的な瞳。子どもはトマスを見た瞬間、花が綻ぶように微笑んだ。
「あなたがわたしのお友達になってくださるのですか?」
そこには、不憫な子どもも、悲運に翻弄される子どももいなかった。ここにいるのは、愛されるべき可愛らしい子どもだ。トマスは子どもの前で膝をつき、小さな手を取った。
「トマス・ローレンスと申します。あなたのお名前をお伺いしても?聖下」
「ヴィンセント・ベニテス」
ヴィンセントは、照れくさそうにはにかみながら言った。トマスは小さな手にはまったブカブカの指輪に、永遠の忠誠を誓いキスをした。

ヴィンセントは賢く、聞き分けがよかった。すぐに聖書を誦じてみせたし、神学者相手に討論してみせたりした。だがときには、子どもらしく慎みがないこともしてトマスを煩わせた。しかし、そんなところも可愛らしいと思えるほど、トマスはヴィンセントを愛していた。
トマスはヴィンセントの友であり、兄であり、臣下だった。癇癪を起こすヴィンセントを叱り飛ばしたり、夜半「眠れないの」と言って部屋を訪れた子どもをベッドに招き入れた。教皇として表舞台に立つときは、いつも横に付き従った。教会を牛耳るのは、ハプスブルク家とメディチ家、両家の出身である枢機卿であり、ヴィンセントはお飾りの教皇として豪奢な椅子に座っているだけだった。それでも、彼は彼なりに教皇とはなんたるやと日々学んでいた。その姿勢がまたトマスの胸を打った。

それから十年、二人は仲睦まじく過ごしていたが、次第に暗雲が立ち込め始めた。教皇の名声を借りて政治に口出ししていたローレンスの父が、次第に疎まれ始めたのである。邪魔な芽は根から断つべしと、トマスの悪評が次第に流れ始めた。悪評に最初は耳を貸さなかったヴィンセントだったが、トマスの部屋から教皇暗殺を匂わせる手紙が発見されると、顔色を変えた。
「トマス、これは真実ですか?」
その顔には、疑念が浮かんでいた。十年間培ってきた友情にヒビが入った瞬間が、はっきりとわかった。
「こんな手紙、見たこともありません」
トマスはヴィンセントに縋ったが、彼は首を横に振った。
「眺めのいい場所で静養でもしてください。子どものお守りは疲れたでしょう」
返ってきたのは、拒絶だった。

トマスは失意のまま、ローマをあとにした。あんなに離れたいと思っていたローマだったが、ヴィンセントを残して去るのが心苦しかった。トマスは教会に戻った。トマスが教皇の暗殺を企てたという噂は教会にもまわっており、迷惑そうに迎え入れられた。トマスが誰も行きたがらない教区への赴任を願い出ると、喜んで送り出された。

それから三十年が経ち、トマスは赴任地を転々としながら生きていた。最初の十年はなぜあのときもっとヴィンセントに縋らなかったのかと後悔して、次の十年は己の罪を振り返り、最後の十年は、ただヴィンセントの幸福を願って過ごしていた。
トマスがいるのは、地の果てにある村だった。数年前神父が逃げていったきり、誰もいなかった教会にトマスはいた。
夜半、ほとほとと戸を叩くものがいる。
「宿をお借りしたいのですが」
旅人もこないような土地に、一体誰だと思いながらも、トマスはその人を迎え入れた。ドアを開けた瞬間、あまりにも見覚えのある面差しに、ハッと息をのむ。褐色の肌、白いものが混じった巻き毛、トマスをじっと見つめる瞳。その人は、武器を持たないことを示すように、両手を前で組んで立っていた。擦り切れたカバンに、何回も洗ったような服。トマスが覚えているその人と比べるとあまりにも粗末で、老け込んでいた。
よく似ていたが、あの人ではない、と即座に否定する。こんな場所まで会いにきてくれるなんてことはない。トマスのような、裏切り者に会いに。
招き入れた人は、長いこと沈黙を貫いていた。トマスも一言も口を聞かなかった。口を開いたら、この均衡が崩れてしまうような気がしたのだ。
「トマス」
「わたしを覚えていますか。ヴィンセントです」
「自由になって、あなたを探していたら、こんなに時間がかかってしまいました」
沈黙が部屋を満たしていた。
暖炉の前で項垂れるトマスの前に、ヴィンセントが膝をついた。シワだらけの手を取ると、恭しくキスをした。
「どうか、わたしに許しを与えてください。そして、あなたに永遠を誓わせてください」
許すもなにも、トマスはなにも恨んでなんかいないのだった。
ヴィンセントの名前を聞いた瞬間、歓喜に体が痺れて、なにも言えないのであった。