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しゃどやま
2025-07-01 22:00:13
3779文字
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【LQL】キャンディケイン
現代ファンタジーパロの角折られ舐めLQL
ボクたちは鏡に写したようにそっくりな存在だった。忌々しいことに身長も顔つきも、髪の色も
――
角だって。小鬼(インプ)として生まれたボク、Qから作られたのがランス。あるいは逆。そのへんは今はまだはっきりしないとしても。
小鬼は長い尾と、頭の上に二対の角を持つ種族だ。ルーイや阿形松之助のような鬼人(オーガ)とは違って小柄だし、戴天や雨竜のような龍人(ドラゴニアン)とも違って枝分かれもしていない。そのぶんキュートで気に入っている。現代の虹顔市には、こっちのほうが似合うし。ランスと同じ角なのは嫌なんだけどね。ランスのフリをする時ぐらいしか役に立たない。ボクたちは呆れ返るぐらいそっくりな見た目をしている。
「だから
……
一緒に歩きたくないんだけど」
ボクはため息を吐いた。ここは人の欲望が作ったカオスワールドで、まだ中に何がいるのか、誰が作り出したのかわかっていない。まるでファンタジーRPGのような中世風のマップが広がっているけど、それだけだ。石畳の道を、ただ道なりに進んでいく。空は曇っていて、テンションは上がらなかった。
ランスは、同じくため息を吐く。真似しないでよ。
「それは僕だって同じさ。けど、カオスワールドを一人で探索もさせられないよ」
「でた、いい子ぶりっ子。お小遣いでももらえるの?」
ボクの煽り言葉に、ランスはゆるく首を振る。
「カオスワールドが危険だからだ。見捨てるほど非情じゃないよ」
「情けなんてかけないでくれる?」
ランスは呆れ果て、ボクより先を歩きだす。霧が出てきたカオスワールドの中で、ボクに背を向けた。蹴り飛ばしてやろうかな。
「君への情けじゃない。ルーイや静流が悲しむからね」
「ふん。じゃあやっぱりいい子ちゃんだ」
ボクは小走りになって、ランスを追い抜く。振り向いて後ろ歩きになって、ランスへあかんべーをした。そのまま吐き捨ててやる。
「言っておくけど、ボクは
――
」
「Q! 危ない!」
ボクの言葉をランスが遮ったのと、ボクを背後から何かが突き飛ばしたのは、同時だった。
油断した。霧には足音を消す力でもあったの? いや、きっとこれは、ゲームの「ランダムエンカウント」だ。一歩踏み出した瞬間、いきなり戦闘になるアレ。ボクはうつ伏せに倒れながら考える。ランスが飛び退り、二体の使い魔を呼び出す。
「ぐぅうっ!」
ボクの背中を、多分ガオナクスが踏んでいる。呼吸ができない。ランスのやつ、攻撃を躊躇してる! ボクは、バカランスと叫ぼうとした。
ごりゅ、と右の角に何かが触れる。横目で見上げると、ガオナクスが持っている武器がわかる。切っ先がノコギリのように削れた、巨大な剣。
「が
……
っ
……
?」
ボクの角に、十五センチぐらいしかないボクの角の付け根にそれを当てて。
ガオナクスは、一気に引いた。
「が、あああああっ!」
焼けるような衝撃。ボクの角越しに、ゴリゴリと、ガリガリと音が頭蓋骨まで響く。ガオナクスは、ボクの右角を削ろうとしていた。
「ふざけ、ぐ、ふざける、なあ
……
!」
ボクは尾をガオナクスの身体に突き立てる。エナジードレインを始めるけど、ガオナクスの動きは止まらない。二往復目が、始まった。ぱらぱらと細かい粉が、ボクの顔に落ちてくる。ありえない。本当に、削れている?
「く、うううっ!」
ボクのエナジードレインが効いたのか、ガオナクスの姿勢が崩れる。ボクは手足をばたつかせる。ガオナクスが大きく傾いだ瞬間、ランスの攻撃がガオナクスを突き飛ばした。ボクはすぐ転がり、ガオナクスの足の下から抜け出した。
「はああっ!」
ランスが続けて畳み掛け、ガオナクスを踏みつけてビームを放ち、消滅させる。敵は、一体だけだった。
「はあ、はあ
……
っ」
ボクは乱れた吐息を整える。感謝なんかしない。でも油断したところを見せてしまった。無様に地面に這いずった、ボクはどう振る舞えばいい。まず起き上がろう、なんでもないというところを見せよう。
ボクは腕に力を入れ、身体を起こした。
かつん。
――
石畳に、何かが落ちる。
奇妙な形をしたものだった。弧を描いた、石のようなもの。付け根には割られたように、亀裂が入っていた。付け根
――
ボクにはそれが、付け根にくっついていたとわかる。
「え?」
でもここに、それがあるはずはない。こんなところにあるはずがない。
ボクは自分の頭上に手をやる。髪の手入れをするように、頭を撫でた。
小さな段差があった。右角があった場所に、小さな、角かどうかもわからない、段差が。
「え
……
あ
……
」
だからこれは、ボクの角だ。ボクに、生えていた角だ。
ランスが遠くで何か叫んでいる。いまそれどころじゃない。
「ボク、ボクの角!」
ボクは角を拾い上げる。断面を、ボクの頭に残った付け根に押し付ける。異物が頭に触れる感覚がある。ボクの角なのに、石を頭に押し当てているような感覚だ。違う。これはボクの角なのに。ボクが生まれた時から、ボクの身体の一部なのに。
「く、くっつけ! くっつけよ!」
ボクは叫ぶ。何度も押し付けると、ガキンと硬い音がする。頭蓋骨まで染みる音。ぱらぱらと、細かい欠片がボクの眼の前に散った。硬質な音を立てて、ヒビが入る。
「Q、もうやめるんだ!」
ランスがボクの手を抑える。ボクは振り払う。
「うるさい! ボクの角だ!」
ボクの角だ。ランスとおんなじでも、ボクの角だ。ボクがランスとそっくりで、嫌いだったとしても、立派で好きなボクの角だった。
これじゃランスと入れ替われない。ボクだとすぐバレてしまう。
――
それって、嬉しいことか?
ボクは唯一人のボクになりたがっていたじゃないか。ボクは、ボクになりたがっていたじゃないか。よかったね。あはは、ボクは、ランスとそっくりじゃない、ボクになれたんだ。
視界が涙で滲む。ボクはボクになった。ランスから引き離されて
――
ランスより劣った、ボクになった。
「あ、ああ
……
」
ボクの手から、角が滑り落ちる。ヒビが入っていて、砕けかけていて、情けなかった。
ランスは、ボクの傍に膝をついて、ボクの肩を抱いていた。
「Q。大丈夫だ。ここをでて、医者に見てもらおう」
ランスは正しいことを言う。ボクは首を短く振った。そんな動作も、頭のバランスがおかしくて、目が回りそうだった。
「こんなの、もう、駄目だよ」
「まだわからないよ。繋げるかもしれないし、再生できるかもしれない」
「駄目だよ。ボクは
――
負けたんだ」
ランスは眉をひそめる。立派に二対の角のあるランスが、悲しげに言う。
「ガオナクスは倒された。生き残ったほうが勝ちさ」
「違う!」
ボクは落ちた角をつかんで、地面に叩きつける。
「負けたの! ボクは、ランスに負けたの!」
情けなさに、また涙が溢れる。ランスの胸ぐらを掴んで、ボクは泣きながら叫ぶ。
「角無しになって、ボクは、ランスに、負けた!」
ランスの顔が見えない。涙で光ってぼやけて、二本の角があることしかわからない。
「ボクは、もうランスに勝てない! 劣った存在、なんだよ!」
わあああ、とボクはランスの胸に顔を埋めた。何も考えられなかった。ボクの涙は血みたいに熱くて、ぼろぼろと流れていく。
ランスはボクの背中に手を回す。ぽん、ぽんと叩いた。
「大丈夫だよ」
穏やかな声で、ランスが言う。ボクの額に、子どもにするようにキスをした。しゃくりあげるボクにゆっくり言い聞かせる。
「君は魅力的だ。十分、素敵だ」
ボクは答えない。そんなの、でまかせだ。角がないボクなんて
――
ランスと引き離さたボクなんて、素敵なはずがない。ランスは、ボクに囁き続ける。
「なんなら
――
僕も、右の角を落としたっていいよ」
ランスはなんてことのないように言いながら、ボクの折れた角にキスをする。そのまま、ボクと同じ小さな唇で食んだ。短い角の付け根を、あむ、あむと噛む。そして、飴玉にするように舐めた。キャンディケインを味わうように。頭皮がランスの熱を感じた。
「そうすれば、僕たちは」
ランスの吐息が、濡れたボクの角に吐きかけられる。ボクは抵抗することも忘れて、ただランスのシャツを握りしめた。
また、ランスがボクの角を舐める。傷口を舐める獣みたいに。子猫の毛づくろいをする母猫みたいに。
「ん
……
っ」
ボクはぶるりと尻尾を震わせた。ランスの暖かさがうつってくるようで、身体が弛緩していく。ボクはボクの体温じゃなくなっていくようだった。ボクは、ゆっくりと顔を持ち上げる。ランスは顔を離して、どこか名残惜しそうにボクの顔を覗き込む。
「は、はは
……
お人好しも、ここまでくると呆れる、ね」
ボクは目を擦る。笑みを浮かべる。Qは小悪魔で、強いから。ランスをからかうような、余裕のあるキャラだから。
「いいよ。医者にいこう。その後で、いい子ちゃんのランスの角を両方折ってやる」
ボクは拳を握って、立ち上がる。ランスの力は借りないで。ランスは少し驚いた顔をして、でも片頬に笑みを浮かべた。二本角のランスは、首を傾げる。
「はは。できるかな?」
ランスは言いながら、ボクの角を拾った。
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