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匣舟
2025-07-01 15:40:33
3332文字
Public
RKRN
秘密の園で会いましょう
ふたりだけの秘密の園の続編。成長if。数乱
委員長代理になって無理している数を攫う乱の話
秘密の園で会いましょう
三年生から四年生に無事進級した数馬は進級してホッとしたのもつかの間、目まぐるしい日々を送っていた。
自分がいちばん尊敬していた保健委員会委員長である善法寺伊作が卒業し、自分が保健委員会の中で一番上になったことで委員長代理として来たる予算会議の予算表作成や、新しく入ってきた新入生への薬草の煎じ方などの基本的知識を教えるのに加え、四年生になると過酷な任務が増え、徹夜漬けをする日々が増えていた。
徹夜をするのは先輩方が実習から帰ってきた時に夜通し手当をするのが当たり前であったから眠れないのは全然苦ではないが、こうした目まぐるしい日々を過ごすことでひとつ数馬の中で懸念されているのは、全くと言っていいほど恋人である乱太郎とふたりきりになる時間が無いことだった。
保健委員会の当番で一緒になることがあっても自分は委員長代理という立場であり、まだまだ前委員長であった伊作と比べ物にならないほど技術も技量も委員長代理としての器が足りないと毎日身に染みて感じているので、一緒にいたとて一年前の時のようにふたりで抱きしめあったり、愛を囁いたりなどできずにただひたすら薬を煎じて、塗り薬を量産していたり、包帯を巻いていたり、薬草園の手入れに出かけたりと忙しく、薬草園の奥にある、数馬と乱太郎だけしか知らない秘密の園でゆっくり恋人とおしゃべりする時間が殆どないのである。
ああ、いますぐに乱太郎に会って、癒されたいし、抱きしめて乱太郎に膝枕をしてもらいたい。
目の下に酷い隈を作りながら、医務室の机に齧り付くように座っている数馬は、初めて委員長代理として参加する予算会議に向けて予算表作成をしているところであった。
「
…
あれも足りないし、これも足りないのか
…
。」
足りない薬草や備品の数と予算を何度も照らし合わせてみたが、何度見ても予算オーバーになってしまっていて、何度目か分からないため息を零す。
いくら予算委員会の委員長が十キロ算段を持っていたギンギーン!という言葉が口癖の潮江文次郎から自称アイドルの田村三木ヱ門に変わったとて、簡単に予算が貰えるわけが無いのだし、数馬は何度目か分からない頭を抱える羽目になった。
「数馬先輩、大丈夫ですか?」
予算表と向き合い、頭を抱える数馬の背中に声をかけたのは数馬がずっと会いたいと願っていた乱太郎だった。
「ああ
……
乱太郎か。」
「お茶をお持ちしました。」
数日ぶりに見かけた乱太郎の姿に数馬は心を躍らせながら、ありがとう。と言って乱太郎からお茶を受け取った。湯飲みを口につけて、ほうっと息を吐いた数馬を見て、乱太郎はちょっと申し訳なさそうに数馬のことを見た。
(なんで、そんな目で見るんだろう
…
。)
なんて考えているうちに、数馬の意識はどんどんと微睡んでゆく。
「ら、らんた、ろ
…
う、」
なにを
…
したの。という前に乱太郎のごめんなさい。という声が聞こえて、数馬は意識を手放した。
草木の揺れる音と誰かが自分の頭を撫でているぬくもりを感じて、数馬は目を覚ました。
まだ覚醒しきっていないぼんやりとした頭の中で自分の頭を優しく撫でるのは一体誰だろうかと考えて、横で寝ていた自分の体を仰向けにするとそこには数馬の事を愛おしそうに見つめる乱太郎の顔があった。
「
…
らんたろ?」
「
…
あれ、もう起きちゃいました?」
まだ、寝ていても良かったのにと言わんばかりの表情を浮かべる乱太郎に数馬はまだ半分寝ぼけている頭で、ここは
……
?と問いかけると、私と数馬先輩しか知らない、薬草園の奥ですよ。と答えた。
数馬は薬草園の奥と乱太郎が言ったので飛び起きて辺りを見渡すと、ようやく今自分がいる場所が乱太郎と数馬しか知らない秘密の園だと認識した。なぜこんなところで寝ていたのか記憶を手繰り寄せていくうちに数馬の脳裏には予算表と向き合っていた時に乱太郎にお茶を持ってきてもらったことを思い出した。
「ああ
……
もしかして僕、眠り薬でも飲まされた
…
?」
また膝枕の体制に戻った数馬の問いかけに乱太郎は申し訳なさそうにしながら、数馬先輩がずっと眠ってらっしゃらないからお茶に一服盛らせていただきました
…
。と白状した。
そっか
…
。と数馬は呟くと改めて乱太郎の方に視線を向けると申し訳なさそうな顔をして数馬のことを見つめていた。
「
…
そんな顔しないで。むしろ心配かけて悪かったね。」
それでも申し訳なさそうにしている乱太郎を見かねて、数馬は仰向けのまま両手を伸ばし、おいで。と乱太郎を呼ぶ。
乱太郎はそれに応えるように数馬の体を抱き起こし、そのまま自分より少し大きな数馬のことを抱きしめた。
数馬は乱太郎の背中に腕を回しながら、乱太郎の首筋に顔を埋める。ほんのりと香る乱太郎自身の香りとお日様の匂いに数馬は安堵のため息を零し、乱太郎の頬に自分の頬を擦り寄せた。
柔らかいほっぺたの感触が気持ち良くて何度もそれを繰り返していると、擽ったそうに乱太郎が笑って、数馬先輩ったら。と言いながら数馬のことを抱きしめ直した。乱太郎は数馬の肩に顔を埋めながらぽつりと独り言のように呟く。
「数馬先輩が、伊作先輩のように頑張ろうとしているのは知っています。」
そんな乱太郎の言葉に数馬はぎゅっと乱太郎を抱きしめる力を強くした。
「でも
……
最近の先輩は自分を追い詰めすぎています」
乱太郎は数馬から離れるとまっすぐ数馬の目を見つめながら話を続ける。
「四年生で委員長代理という立場になって、必死になるのはわかるんです。私たち下級生を引っ張っていこうとする数馬先輩の気持ちもすっごく分かります。
…
保健委員会は他の委員会より出番が多くありますから。
…
でもね。」
数馬先輩が一人で背負うことでもないと思うんです。確かに私たちはまだ薬草の煎じ方だって、包帯の巻き方だって完璧じゃないかもしれない。だけど。
「同じ保健委員として、あなたの頑張りを見ている恋人として少しぐらいは力になれると思うんです。」
乱太郎はそこで一度言葉を切ると数馬の手を自分の手で包み込みながら、こう言った。
「たまには頼ってください。そして、私に甘えてください。数馬先輩。」
ずっと数馬先輩が目の下に隈を作って、窶れていくのを見ているだけは嫌です。ねぇ、数馬先輩。私も一緒にあなたと頑張りたいし、あなたの力になりたいんです。私では、私たちでは頼りないですか?
そう懇願する乱太郎の言葉を聞いた瞬間、数馬の目から涙が零れ落ちた。今までずっと我慢してきた感情が堰を切ったように溢れ出てくるのを感じる。数馬はそのまま乱太郎の事を力いっぱい抱きしめた。
「
…
ありがとう。」
小さく呟いた数馬の言葉に乱太郎は優しく微笑みながら返事をするように数馬の背中を撫で続けた。ひとしきり泣いた後、数馬は恋人の前で泣いてしまった恥ずかしさで乱太郎から体を離しながらも、乱太郎を見つめながらありがとう。ともう一度お礼の言葉を言った。乱太郎はいえいえ。と言うと、数馬の目尻に溜まっていた涙を拭ってあげた。
「数馬先輩に頼ってもらえるよう、私も色んなこと頑張りますねっ!」
そう言ってニカッと笑う乱太郎に数馬は眩しそうに目を細めたあと自分も釣られて微笑んだ。
「うん。僕も乱太郎や保健委員のみんなに頼るようにするね。あのね、さっそく頼れる乱太郎に、一つお願いがあるんだけど
……
。」
さっそく数馬先輩のお役に立てるのか!とわくわくした乱太郎はなんですか?とすこし興奮気味に聞くと、数馬は少し躊躇しながら口を開いた。
「もう少しだけこのまま膝枕してくれないかな
……
?」
少しの間だけでいいから
…
。と言う数馬の言葉に乱太郎は満面の笑みでもちろんいいですよ!と答えた。
「乱太郎、ありがとう。だいすき。」
「
……
私もだいすきです。数馬せんぱい。」
「ふふ、ずっと前から知ってるよ。」
「
…
もう。数馬せんぱいったらぁ。」
それからしばらくの間ふたりは秘密の園の中でお互いの温もりを感じながら静かに過ごした。次はいつここで落ち合おうか?とふたりで笑いながら。
了
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