とはり
2025-07-01 02:23:24
5400文字
Public ひめこは
 

【ひめこは】昨夜はお楽しみでしたね?

二日酔いのめるが目覚めたら隣に片想い相手のこはがパンイチで寝てた話
⚠年齢操作、飲酒表現

好きシチュって言い続けてるくせに書いたことないな、と思ったので書いた
上半期の書き納めにするつもりが間に合わなかった 残念
落書きしてる場合じゃないのにね、書いちゃった

「HiMERUはんのえっち♡」って揶揄うこはが書けて満足 成仏
でも「えっち」より「すけべ」って言ってくれる方が好き



 頭が重い。身動ぐと鈍い痛みがこめかみを襲って呻き声が喉から漏れた。
 目を開けるのも億劫で、枕元に置いてある端末を手探りで引き寄せる。が、いくら頭の周りで手を動かしても硬い板の感触が指に触れる気配がない。どこに置いたんだったか。

 昨夜は多忙を極める仕事の疲れと身を焦がすほどの片想いへの鬱憤が蓄積して呑まずにはいられなかった。
 というのも、近頃はソロの仕事が多く、こはくとはまともに顔を合わせない日々が続いていた。本来なら今日はスイーツ会の集まりに久々に参加してこはくとゆっくり語らう時間があったはずなのだ。それなのに明日に予定されていた撮影が今日に前倒しになり、サークル参加はキャンセル。撮影が前倒しになったことにより明日は久々の休日となったが、当のこはくは仕事が入っているという。とことんスケジュールが噛み合わない。楽しみを取り上げられた絶望と苛立ちに、気づけば贔屓にしているバーの前に立っていた。
 こはくに会えないのなら時間が空いたって意味などない。だから、自棄酒をすることを決めたのだ。HiMERUならば多少無茶をしたとしても一日あればコンディションを整えられる。その自信はあった。
 ショットグラスを呷る毎に意識が泥のように重たくなって、心地よい酩酊が訪れる。人肌が恋しくなって、片想いをしているこはくのことを頭に浮かべた。最近は文字での簡単なやり取りしか出来ていないが、元気だろうか。仕事の合間にこはくの出演している番組や配信を見る限り息災そうではあるが、やはり直接会って声や温度を感じたい。あわよくば付き合いたい。もういっそのこと告白してしまおうか。
 アルコールの回った脳が思考を飛躍させる。その間も酒を呷る手は止まらない。とうとう思考することもままならなくなって、意識がゆっくりと暗闇に沈んでぷつりと途切れた。

 まさか出先で意識を手放すとは迂闊だった。あれからどうやって帰ってきたか全く覚えていない。そもそもこのシーツの感触、本当に自室のベッドなのだろうか。
 ほんのりと嫌な予感を感じながら手探りを続けていると、指先に何かが触れた。端末ではない。もっと柔らかい、なにか。無機物ですらない、命の息吹すら感じるそれに背筋がゾッとした。記憶にある限り、自分の部屋に生き物がいるはずがないからだ。
 絶えず頭の内側からガンガンと打ち付けてくる痛みに抗いながら瞼を持ち上げる。細く切り取られぼやけた視界に淡い色彩が浮かぶ。自室にはないはずの色だった。微睡みと二日酔いの狭間で錆びた歯車のように鈍りきっていた思考が少しずつ回り始める。
 目を凝らしてしばらく見つめていると徐々に焦点が合っていき、よく知った色と輪郭を浮かび上がらせる。
 それは同時にHiMERUへ底知れぬ恐怖と混乱に陥れた。
「え……?」
 目の前にあったのは桜河こはくその人の顔だった。目は閉じられていて、眠っているようだった。こはくの寝顔がすぐそばにあって、夢でも見ているのかと疑ったが、襲ってくるひどい頭痛はそうではないと確かに主張している。
 あまりに現実味のない光景に、精巧な作り物なのではないかとも疑い、その輪郭に恐る恐る手を伸ばす。触れた頬はすべすべとした柔肌で、確かな体温を感じる。本物だ。その事実が一番怖かった。心臓がドクドクとその存在を思い出させるかのように脈打って、頭痛が悪化する。ぐらぐらと脳が揺れて吐き気すら催してきた。
 周りを見渡してもこはく以外見覚えのない景色が広がっている。知らない部屋、知らないベッドで目覚め、隣にはこはくの寝顔。
 現実に起こっていることが信じられなくて、呆然としながら現実の輪郭を確かめるようにこはくの頬を柔く揉んでいると、「んん……」と声をこぼしたこはくの瞼が震えた。
 薄く開いたすみれ色がHiMERUの姿を捉えて綻ぶ。花開くような可憐さに心臓が高鳴った。ときめいている場合ではないというのに。
「おはよ、HiMERUはん」
「おはよう、ございます……おうかわ……
「えー、もう昨日みたいに『こはく』っち呼んでくれへんの?」
「は……?」
 同じ布団にくるまって上目遣いに首を傾げるこはくの愛らしさを堪能する余裕などないほど、聞き捨てならない言葉が聞こえる。
「ちょっと待ってください、昨夜何が……っ」
 動揺し半身を起こしたはずみで掛け布団の縁が剥がれ、その下からはこはくの白い素肌が現れる。空気に晒される肩から鎖骨のラインに目を奪われて絶句した。こはくは少なくとも上半身の衣服を身に纏っていなかった。
 警鐘を鳴らすように痛みを訴えるこめかみにも構わず勢いよく体を起こすと、自分もまた服を着ていないことに気づく。
 混乱に目を回すHiMERUの横でこはくはシーツにしっとりと体を沈めながらくすくすと肩を揺らした。
 まさか、と思い布団を持ち上げて下半身を確認する。辛うじて下着だけは身につけてはいたが、それだけだった。お互い下着一枚で同襟していたという事実にさらに思考が掻き乱される。
 まさか、酔った自分がこはくに手を出してしまったのか。彼の名を呼びながら……
「っふふ……ふふ」
 布団の中を凝視しながら硬直するHiMERUを見ながら、こはくは体を丸めて笑いを噛み殺していた。噛み殺しきれていない笑いが口の端から零れる。
「そんなに見つめて……HiMERUはんのえっち♡」
「な……っ!」
 悪戯っぽく細めた目で見上げられてギクリとした。笑いすぎたせいで潤んでいる瞳がまた心臓を波立たせる。
 頭を抱えて項垂れることしか出来ない。何をしたのか欠片も記憶がなく、胃の底が重たくて仕方がない。
「ほんまになぁんも覚えてへんの?」
「あ、ぇ……ええ……お恥ずかしながら」
「聞きたい?」
……はい」
 返事を聞くとこはくは視線を上に向けた。昨夜の出来事を改めて思い返しているようだった。
「HiMERUはんどこまで覚えとる? わしに電話くれたことは?」
 その言葉に「え」と声が漏れる。
「HiMERUが呼び出したのですか?」
 返答を聞いたこはくは苦笑いを浮かべた。
「そこから? ほんまに覚えてへんのやね」
 さっきからそうだと言っているが、流石に予想外だったらしい。呆れたようにため息をついたこはくは昨夜のことを順を追って話し始めた。
「呼び出されたわしは、グラス片手にうとうとしとるぬしはんと合流したわけや。泥酔も泥酔。わしが隣に腰かけるなり抱きついてくるし」
「抱……っ」
 全く心当たりがなくて頭を抱えた。呼び出したあげく抱きつくなど欲望に忠実すぎる。
「このままじゃ寮に帰るんは無理やと判断して、わしは何やもにょもにょ言いよるぬしはんを引き摺ってここのホテルに来たわけやけど。部屋に着くなり、暑いとかなんとか言うて服脱ぎ出すやんか」
「そんな……
 自分の痴態がこはくの口からつまびらかにされていくのが恥ずかしくて情けなくて仕方ない。耳を塞いでもう一度布団に潜りたくなったがこはくの話はまだ終わらない。
「突然脱ぐからシャワーでも浴びるんか思うたら、わしを抱きしめてベッドに引きずり込みよるんやもん。驚いたわ。あぁ、わし、HiMERUはんに貞操奪われるんやな、っち思うたわ」
 さぁーっと全身から一気に血の気が引く。いっそもう一度気を失えたら楽だった。
「そ、それで……?」
 こはくの口がにまりと弧を描いて。そして。
「それだけや」
「は?」
「なぁんもないよ。HiMERUはん、わしを抱き込んだまま満足そうに夢の中に入ってもたやん。人を抱き枕みたいに扱いよってからに……。わしは抱き枕と違うよ」
 言ってこはくは口を尖らせた。
「で、では桜河は何故、服を着ていないのですか?」
「その方が面白いかと思って。現に慌てふためくHiMERUはんが見れたしなあ」
 コッコッコ、とこはくは心底楽しそうに笑った。
 酔った自分をホテルまで運んでくれたこはくを抱き締めて眠ったところまでは残念ながら事実として、取り返しのつかないところまで強行してしまったのではないかという心配が杞憂に終わった安堵に体から一気に力が抜ける。倒れた体をベッドのスプリングが受け止めてくれた。
「ありゃ。二日酔い酷いみたいやね。お水もって来たるわ」
「う……
 こはくがベッドから腰を浮かせた弾みでスプリングが揺れる。その感覚にも頭痛が誘発されて呻きが漏れた。無駄にヒヤヒヤさせられた分、体調はさらに悪化していた。普段ならかわいい悪戯だと流せるところだが、二日酔いがもたらす不快感が寛容さを奪っていた。
 恨めしい気持ちで薄く目を開くと、こはくのシルエットがゆらゆらと揺れているのが映る。ベッドから離れて、また傍まで戻ってきた。水を取ってきたのだろうか。
「お~い。HiMERUはん、生きとる?」
 視界の先で首を傾げたこはくが苦笑しながらひらひらと手を振っている。愛らしい仕草と降ってくる声に、目の前にこはくがいるのだと改めて実感して、心が勝手にほどけていく。弄ばれた怒りすら容易く宥めていくこはくの小悪魔的魅力とそれにすっかり虜にされている己の情けなさがくやしい。
 こはくの顔から腰骨までのラインを目で追う。くやしいついでにそれに手を伸ばして思い切り引き寄せた。
「うひゃっ!?」
 素っ頓狂な声がこはくの口から飛び出て、その体がベッドに倒れ込んでくる。
「ななな、なんや急にっ! すけべ!」
 じたばたと慌てふためく様子にしてやったりと溜飲を下げる。さらに強く抱き寄せるとぬくもりが肌に密着して、心地よさにゆっくりと息を吐いた。
「まさかまだ酔っとるん!? もう堪忍してやぁっ」
 顔を赤くしてじたばたと腕の中でもがくこはくの大袈裟な反応に違和感を抱く。いくらなんでも動揺しすぎじゃないだろうか。
「桜河」
「なっ、なに」
 上擦る声に、自分の中で生まれた疑念が徐々に質量を増していく。
「本当は他にも何かあったのではないですか?」
「え? そ、そんなことは……
 顔を強ばらせ目を泳がせる。こはくには何か隠していることがあるのだと確信する。
「言ってください。知らなければあなたに謝ることもできない」
「別に謝ってほしいとかそんなんやないけど」
「あったんですね、HiMERUの犯した余罪が」
「余罪、っちいうか、うーん……
 ぽろぽろとボロを出すのはこはくらしくない。かなり動揺しているようで、だからこそ本当に手を出してしまったのではないかという懸念がどんどん大きくなっていく。
「桜河は俺に責任も取らせてくれないのですか」
「せ、責任って……そんな大袈裟な」
 言い淀んだこはくは舌の上で言葉を転がしているようで、その続きをじっと待った。沈黙が延びるほどにすみれ色の瞳がゆらゆらと忙しなく動き、まるでこちらがこはくを追い詰めているようで少し心が痛む。けれど、聞かなければ前に進まない。全身を苛む痛みに耐えながらその時を待った。
 やがて、沈黙に耐えかねた唇がゆっくりと開く。
「き、きすは、された、けど」
「きっ……
 ちゃっかり手を出してるじゃないか……! 明かされた罪の形に落胆する。可哀想なくらい真っ赤になっているこはくの反応から見るにかなりディープな口づけを与えてしまったのではないだろうか。最悪だ。
 昨夜のことを思い出したらしいこはくは赤く熟れた頬に手を当てて俯いている。……頬?
「ち、ちなみにキスはどこに?」
……ほっぺた」
「口には?」
 ふるふると首を振るのを確認して、大きく息を吐く。安堵ついでに意識が体から抜けてしまいそうだった。頬へのキスくらいで真っ赤になる様子はうぶで大変可愛らしいが、紛らわしい反応をしないでほしい。心臓が止まるかと思った。
「好き、好きって言いながらキスしてきおって……
 終わった。
 きっちり告白まで済ませているとは我ながら抜かりない。いやむしろ、間抜けでしかないのか。
 それにしたって泥酔中でもキスするのが頬だけって、どれだけ理性が働いているんだ。意気地がないだけか?
 次々に明らかになっていく事実に酔いすら吹き飛ぶほど驚愕し、思考が至るところに散っていく。
 しかし、それならそれで新しい疑問が浮かぶ。
「それなら腹でも殴って抵抗すればよかったのでは? あなたなら酔ったHiMERUをいなすなど造作もないでしょう?」
 知らぬ仲ではないにしろ、襲われたこはくが無抵抗で流されるとは思えなかった。こはくの身体能力と体術をもってすれば酔っぱらいの一人や二人、退治することなど訳ないはずなのだ。
「べ、べつに抵抗する理由なんかなかったんやもん」
「それは、どういう……?」
……っ!」
 首を傾げると肩に衝撃を受けた。どうやらこはくに殴られたらしい。予想外の痛みに声すら上げられず目を見開く。
「そんなん、お得意の推理で暴いてみたらどうなん!?」
 水の入ったペットボトルをHiMERUの胸に力一杯押しつけて怒鳴るこはくの顔は熟れた果実よりもずっと真っ赤に色づいていた。
 肌を濡らす結露の冷たさがHiMERUの思考を徐々に覚醒させて、のぼせるような恋に気づいていく。