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くすり

20250628 第2回オロイフワンライ

「イファ、ひどい顔をしている。いったい何日まともに寝ていないんだ」
「おいおい、そんなにひどいのか………今の俺は」
「ああ、ひどいな。枯れ紫菖がひどく踏みつぶされたときみたいな色をしている」
「どんな状況だ、それ」
 オロルンのいつもの独自の世界観の話にも、うまく笑えているかわからない。
 ひどく痛むのだ。左目が、見えなくなってもう何日たっただろう。

 数日前のこと。
 極めて重篤にアビスに侵されている竜がいる、と伝達が入った。イファはすぐ数人の同僚、伝達使とともに谷を飛んだ。現場に着くや否や。侵食と戦中に受けた傷の痛み、そして幻覚。ひどく脅え、鳴き叫び暴れる竜一匹がいた。落ち着かせようとイファが竜に近づこうとしたときだった、目の前の竜に気を取られていたのだ。地中にいたもう一匹の竜に、イファは気が付いていなかった。地中からアビスの侵食に侵された竜が飛び上がってきた。とっさにイファは受け身を取ろうとしたが、間に合わず目の前がどろりとした赤色で染まる。
 イファ自身はそこからの記憶はあいまいだった。目が覚めた時、こだまの子の集落周辺にいたはずなのに、いつの間にかベッドで横になっていたし、左目の視界は真っ暗だった。なんだこれ、と左目に触れようとしたとき、聞き覚えのある声が制止した。
「まだ触るな、イファ。まだ傷口を術でふさいだばかりなんだ」
……オロルンか、ここは
「ばあちゃんの家だよ。花翼の医者が血まみれで気を失っている君をおぶって山脈を登ろうとしているのが見えたから、止めに入ってばあちゃんと一緒に治療したんだ。」
そうか、……! あのテペトル竜は、どうなった!?」
 イファが声を荒げながら起き上がると、ぐわん、とイファの世界がねじまがった。ぐらりと前方に倒れこんだのを、オロルンがとっさに抱き留めた。
イファ、落ち着いてくれ。君がどれだけ血を無くしたかわかっているのか。君の眼球はかなり損傷してた。君は覚えてないかもだけど、眼以外にも大怪我しているんだ、ばあちゃんがいなかったら、君は今ごろ………
「はは、心配かけたなきょうだい。……すまん
「今はとりあえず寝てくれ、今ばあちゃんが薬を調合してるから。だから今は寝ていてくれ、イファ」

 その日からイファは黒曜石の老婆の家の空き部屋を数日借りて療養した。数日たって包帯が外れるようになったころ、イファは自身の仕事を数日放置していること、そして診療所で世話をしている竜たちが心配で花翼の集いの自身の家に帰宅することを懇願した。しかし黒曜石の老婆は即首を左右に振った。キミが重傷者じゃなれればげんこつの一発でもおミマイするトコロよ!という怒号ののちに、イファの留守中はすべてオロルンがカバーしていると説明を受けたのだった。
 黒曜石の老婆の自宅から花翼の集いに向かうには大きな山脈を越えなければならない。まだクク竜には乗ることも不安が残るし、かといって黒曜石の老婆の自宅にこれ以上居座るわけにはいかない。謎煙の主から花翼の集いまで、徒歩のみで向かうこともできなくはない。だからイファはそれを提案しようとしたのだが、そうはさせまいとシトラリは口を開いた。
「もう数分であの子がくるわ。だからおとなしくしていてチョーダイ」
「あの子って」
「こんにちは。イファ。ということで、しばらく僕の家にいてもらうからな。」
「オロルン
「イファ、ひどい顔をしている。いったい何日まともに寝ていないんだ」
「おいおい、そんなにひどいのか………今の俺は」
「ああ、ひどいな。枯れ紫菖がひどく踏みつぶされたときみたいな色をしている」
「どんな状況だ、それ」
 結局有無を言う隙もなく、イファはオロルンに連れられてオロルンの自宅に入った。長年の付き合いだ、イファはオロルンが自分よりも頑固者であると重々理解している。
 オロルンはイファを椅子に座らせると、イファの目の前に手を出した。
? どうしたんだ、きょうだい」
「ばあちゃんが調合した薬、出してくれ。まともに飲んでいないんだろう。」
……あの薬は
ばあちゃんの調合した薬は、君の体内に入り込んだアビスの侵食を無理やり浄化して追い出す術のひとつだ。君は怪我こそ重症だったが、幸いアビスの侵食は軽傷だった。だからばあちゃんの手助けでなんとかなってる」

でも君はその薬をまともにつけてない。顔を見ればわかるよ、イファ。君は医者だろう、どうしてだ。」
 いつか薬をなだめる竜を叱りながらも飲めた際にはめいいっぱいほめていたイファが、自身の命に関わる薬を拒んでいる。
「なにか不都合があったのか」
なんとなくわかるだろ、お前なら」
「君の口で説明してほしい。」
 オロルンのおだやかだがどこか怒っているような、悟らせるような声にイファは白旗を上げた。
「あの薬の副作用が強いんだ。体が全身で拒んでくるような。アビスの影響もあるかもしれないが、飲んだとたんに意識がなくなって無意識に暴れてるみたいで」
「うん」
「黒曜石の老婆の家で暴れたり巻き込んだりするわけにもいかないだろ、だから家に戻ってちゃんと一人で飲もうって思ってたんだよ。竜たちを避難させたらそこそこのスペースは確保できるからって」
「よし、じゃあ今飲もうか、イファ。」
「おいちょっとまて、人の話聞いてたか?」
「聞いているよ、ちゃんと。」
 そういうとオロルンはイファが持っていた薬瓶を奪うと同時に、イファの膝に上乗りになった。
「君には絶対によくなってほしいから」
おろ、ん……む!!」
 影が落とされた、そう認識する前にイファの口に生暖かくて柔らかい感触と、ぬるい水が流れ込んできた。反射でのけぞろうとしたが、頭部をがっしりとつかまれていて動けない。ぼたぼたと口の端から水が流れる。水よりもぬるくて質量のある何かが、イファの口を割いてもぐりこんできた。
 こいつ、舌入れやがった! そうイファが困惑するのと同時に、歯になにかが掠る感触。それは紛れもない、例の薬だった。
「イファ、だいじょうぶ。怖がらないでくれ。いいこだから」
「ん、ん゛、っ!! げぼ、おまえっ!!」
 ぐわん、と視界が暗くなる。薬がもう効いてきたのだろう、前後不覚になる不快な感覚。揺れる視界の中で、イファは自分の身動きをとれなくしている張本人と目が合った。
……
「はは、きょうだい、なんて顔してんだよ。ごめんなあ、ありがとう