せいたろ(sitr)
2025-06-30 23:41:16
9744文字
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十三歳の人魚

潮江文次郎の過去語り。大切な同級生に寄せた愛情の発端、四年生の頃を振り返る。

文仙 成人向

※調合に絆があり、おおっぴらです
転載・改変禁止



「もう良いのか?」
「うん。十分食べたよ。」
「文次郎はまだ食べられるの?」
みんなで大皿料理を分け合うとき、不思議に思って聞いたことがあった。一度きりじゃあない、何度もだ。仙蔵と伊作は、低学年の頃から少し食が細かった。特に仙蔵は、好んで食べるものも野菜や果物に軸があって、油の乗った肉は程々で飽きてしまうところがあった。
「お前がそれを好きなら、少し余分に食べて欲しい。私は足りているから。」
一年生のときからそうで、何年もそうだから単に少食なのだとそのうち理解した。食べ始める前から、これは二つもいらないとか、半分食べてくれとか、何か説明をしておかずを俺の皿に乗せることがあった。なかなか食べ終わらなくて、頑張れ、と応援したこともある。
肉を嫌う訳ではないので、好き嫌いとは違った。大は小を兼ねるが、小さな袋は入れられる物に限りがある。
伊作は以前寺で生活していたとかで、精進料理のほうが慣れていると言っていた。ただ、「医食同源」と学んでからは幾らか好みが変わったようで、肉や魚も以前よりは求める様子に変わったようだった。その話をよくするようになったのは、四年生の頃だったと思う。
「同物同治、どこか良くするには、同じ部位を食べるんだって。」
「へえ。もっと走りたいとなれば、もも肉なんかを食べるのがいいのか?」
みんなで肉を食べようと山に狩猟に出て鹿を仕留められたある日、仙蔵は真剣に伊作と話していた。もも肉と心臓を欲しがったので、捌いて焼いたあと、こっそり多めに分けてやった。
同物同治には納得のいくこともあった。確かに俺と留三郎はこういう時肩と腹の肉を取り合うように食べていて、腕力が強く肉付きが柔らかい。背と尻の肉を分け合う長次と小平太は長距離を走るのが上手くて持久力もある。小平太はその他に、横隔膜を好んで食べることが多かった。
横隔膜は、肺を動かす膜だとあとでわかった。重たい肉が詰まった感じがする、小平太の体格。体幹は誰よりも芯がある。果てしない持久力。塹壕を驚く速度で掘っていて、姿勢が低くても切れない息。なるほどと感嘆した。「美味いから食べたい」と本人は言うが、その肉体が求めているものだったのだ。
食べた肉がそこに効くと思ってからは、鍛えたい箇所の肉をよく食べるようになった。
きっと同じ考えをもっている仙蔵が、どんなに小さい生き物でも食べる部位をいの一番に「心臓と脚」と言う様子に、最初の頃こそ体質改善に前向きであると感心していたが、
執着と色気が堪らなく香ると、いつからか思うようになっていた。


ある日の夢で、
海辺から美しい人が俺に手を延べる情景を見た。
波立たず海は穏やかで、水底の砂の色も、揺らめく海藻の長さもわかるほどに澄んでいた。
延べられた手に頬を撫でられて、その人の顔が仙蔵だと気付いて話しかけようとしたが、澄んだ水中に揺らめく下半身が魚だった。
半人半魚の肉体を持つ生き物の話は、二つ知っていた。
一つは、兄妹の半人半魚が王に討たれる話。
もう一つは、人魚の肉を食った女が老いず、死なず、八百年を過ごし尼になる話。
そのどちらも、半人半魚の存在は妖としてそこに棲まう物語だったはずだが、夢の中の仙蔵はこの世の宝石を集めたような鱗を煌めかせて、宙に浮いて見えるほどの澄んだ水を自由に泳いでいた。
俺が背負っている背負子を指されて、下ろしてみると熟れた桃がひとつだけ入っていた。
その桃を一つ取って差し出すと、受け取った半魚の仙蔵は愛おしそうに微笑んで海に沈んでいった。
その波が、泡が消えるまで、ただ水中を見つめていた。


目が覚めて、文机に伏して眠っていたことにため息をついた。振り向くと仙蔵はきちんと布団を敷いて眠っていて、その裾から白い脚がはみ出ていた。
障子紙を越して入る、朝日に白んだ部屋で、その脚を見て欲情した。
なるべく静かに、厠へ行った。


・ ・ ・


「文次郎ー!」
「桃をもらったぞ!食べよう!」
あれからしばらく経っても、あの日の夢は度々思い返すことがあったからギクリとした。平静を装って近くに行くと、よく熟れて赤らんだ桃が、竹を編んだざるに五つ寄り添っている。それと別に、仙蔵が桶から細く水を流して、その流水の下、伊作が手拭いで桃を撫で洗っている。
寄り添う二人には、俺にはわからないことで通じ合っているものがあった。
頬を寄せ合ってくすぐったそうに笑った。
見間違いでなければ、唇でくすぐり合っていた。
「産毛、これで取れたかな?」
「いいんじゃないか。」
一人あたり一つでもらってきたようだ。二人は鹿を狩った時よりも随分嬉しそうにしている。
「全部洗って、産毛もとったからそのまま齧れるよ。」
「私は今食べようかな。文次郎はどうする?」
屈んでいた仙蔵が身体を立てて、俺にはにかむ。確かに美味しそうだ。
「俺も、今食べたい。」
「だよね。僕、みんなに配ってくるよ。」
頼んだ、と、仙蔵が伊作に微笑む。
あっさりと二人は離れた。
伊作は俺と仙蔵に一つずつ桃を渡して、残った四つの桃が乗ったざるを抱えて、たたっと駆けて行った。向こうでは木刀を持った留三郎と小平太が打ち合っていて、軒先で長次が本を読んでいる。
渡された桃が、甘く匂い立つ。
「いただきます。」
かぷりと桃にかぶりつく様子から、目が離せなかった。仙蔵の揃った上前歯が、桃の皮の赤みと、薄黄色の果肉の合間に並ぶ。
少し乱れた下の歯列が、桃の果肉を引き裂く。一口齧り取る。咀嚼して飲み込む。

垂れた果汁を舐める。

脚の代わりに尾鰭を持った仙蔵が、心臓を噛んでいる様が思い浮かぶ。

何でもないふりをして、俺も桃を齧った。瑞々しくて、皮の近くが甘くて、種に寄ると少し酸味があった。
「美味い。果汁がすごいな。」
「よく熟れている。匂いもいい。」
ふふふ、と仙蔵は笑う。
「こればかり食べると、体もこういう匂いになるのだと。」
「匂い?」
「唐の話だ。少女に子供のうちから桃だけを食べさせると、甘い桃の匂いが身体から湧き、体液は不老の妙薬となるそうだ。」
へえ、と相槌を打つ。不老の妙薬。桃と妖が脳裏で結び付く。夢で見た微笑みがありありと呼び起こされる。
「その少女、大人になっても桃を食い続けるのかな。」
「ならないだろう、薬にされるための少女だ。」
ぎょっとして顔を向ける。驚いた俺の顔を見て、仙蔵は笑い出した。
「桃なんて、何ヶ月も保たないじゃないか。身体の匂いが変わるまで食べ続けるなんて不可能だろう。そうなる前に旬が終わる。作り話だよ。」
そう言われて、少しホッとした。
つられるように顔で笑って、そうだよな、と食べながら言う。先にすっかり食べ終えた仙蔵は桶の水で手と口元を撫でて、俺が桃を食べるのを眺めながら雑談をした。残った桶の水で手を濯がせてくれて、種は植え込みに放って解散した。
その日はずっと、桃の匂いが鼻梁に残っているようだった。


・ ・ ・


精通だ、脛に毛が生えた、と身体に変化が出始めたのはろ組が早くて、十二歳、三年生のときだった。背がぐんと伸びて羨ましかった。あとを追うように俺と留三郎にも変化が出た。仙蔵と伊作は、声が一度枯れて、ぐっと低くなった他は、あまり変わらなかった。
十三歳、四年生の秋に、色について実習と報告をせよと教室で言われた。相手は同級生以上の年齢で、学園内の生徒。自分の強みを活かせる内容にしろとのことだった。教員は、監督に呼んでもいいが、相手には選べない。
そういうことに疎い自覚があった。くの一に頼めるようなアテは無い。会計委員の先輩は気難しい。単純に不安も感じた。
隣に座っている仙蔵は黙っている。そのうち鐘が鳴って、教員は出て行った。
仙蔵はどうするんだろう。当時作法委員会は無くて、仙蔵は催し物がある時に人数の少ない委員へ補助で入るのが常だった。仙蔵の方が顔が広いことを頼ろうかと思った。
「どうしようか……
「私がしようか。」
余りにも普通に言うので、聞き間違いかと思った。
「まあ、童貞だが、処女じゃあないんだ。だからお前が上なら、……どこに、どうするかというのは、教えられるよ。」
目を白黒していたと思う。
けれど、
「頼む。」
二つ返事をした。
この時きっと、そういう整理をしていなかっただけで、とっくに仙蔵を好きで仕方なかった。恋心を意識する前に身体へ触れる大義名分が降ってきて、愚かにもそこに手を伸ばした。忍だから当然。忍だから、そういうことも予習が必要。色々な言い訳を自分に言い聞かせた。
それをする日はあっという間に来た。
風呂を済ませて部屋に帰ると、衝立が引き戸側に置かれていて、布団二組は並んでくっついて敷かれていた。枕元には盆が置かれて、湯呑みと鉄瓶、醤油差しが乗っている。文机で読み物をしていた仙蔵が、こちらを向く。
「折角の初物を、私でいいのか?」
仙蔵はどうしてか、すまなそうな顔をして俺に問うた。
「前か後ろかは置いておいて、閨の初めてはこれっきりだぞ。初物を喜ぶ人間だってまあまあ居る。世話になった先輩にやるとか、そういう機嫌取りにもできるのに。」
……機嫌取りに、使ったことがあるのか?いや、あったって当たり前だ。そういうことに使えるということ自体は知っていた。ただ、知識だけだ。もう実践しているのか、ということに混乱した。けれど、そこで違和感を訴えることに、この時の俺は恥ずかしさを感じた。だから、聞き返せなかった。
「お前がいい。気兼ねもないし、世話になった礼にできるならお前にだってそうだ。お前が喜ぶかは知らんが……
「嬉しいよ。」
即答だった。
「お前が初めてを私に任せるというの、嬉しい。」
心臓が掴まれたようだった。
嬉しいのか、苦しいのか、熱いのか、悲しいのか、その全てが腹に重くのしかかる。
恋心とは、甘く晴れやかで匂い立つ物だと思っていた。
仙蔵が読みさしの本を閉じて文机に置く。
立ち上がって、こっちに歩いてくる。
俺に手を延べる。
白い指が頬を撫でる。
吸い寄せられるように半歩前へ出て、両腕で抱き締めて、ぎゅっと、きつく力を込めた。
「んく、 ……おい、苦しい。そんなに力むな。」
わからない。
知識だけだった。何も理解していなかった。眉を下げてすまなそうに微笑む表情の、そのぎこちなさも俺の心臓を打った。緩めた腕の中で、仙蔵は腕を俺の首筋に絡めて、あっという間に顔を間近へ寄せてきた。
恥ずかしくて顔が熱い。
当たり前のように、仙蔵が唇を重ねてくる。首を傾げて、薄い舌が俺の唇をなぞる。どうしたらいい。細い仙蔵の指が、俺の耳の下から伝って顎をなぞる。ずっと一緒にいたのに、ここまでの四年間をそこそこ近い距離感で過ごしたのに、
これは、知らない。
仙蔵との距離に限った話ではなくて、誰かとこういう色っぽい距離感で触れ合うこと自体が初めてだった。何度と口付けは繰り返された。柔らかく、優しく重ねるようにして、時々吸われた。そうされることに少しだけ慣れて、ぎゅっと目を瞑っていたことに気がついて、目を開けた。
仙蔵は嬉しいときの顔でそこにいて、ふっと顔を離して、俺の二の腕に触れた。
布団の方へ仙蔵が俺の手を引く。
引かれるまま衝立の裏、並べて敷かれた布団へ向かう。
俺の布団に立って、仙蔵は枕のある方を背に、俺と向き合った。
「灯明だけでは暗いかもしれないが、じき慣れる。男を迎える時に、身体をどうしているかを教えるよ。お前が、私に反応するようだったら……そのまましよう。」
課題の一つを分け合うような調子で仙蔵は言った。
仙蔵は自ら腰紐を解いて、寝巻きの衿合わせが離れる。越中褌の紐を解いて、衿の合間に仙蔵の裸が覗く。体毛の薄い、白い肌。仙蔵はそうっと腰を降ろして、仰向けで、少し身を捩って、右脚を抱えた。
灯明は布団と衝立の間に置かれていて、仙蔵の白い太腿も、尻も、その合間も、窄まりも、よく照らされていた。
縦長の爪が乗った仙蔵の人差し指と中指が、自ら尻たぶの肉を引き上げる。赤らんだ窄まりが、きゅっと縮まる。
「もんじ、……突っ立っているな。ちゃんと見ろ。」
抗議の声で言われてハッとする。連れてこられたそこに正座する。
「もう、いくらか自分で慣らしておいたんだが、……枕元の油差しには香油が入っている。それを、ここに塗って、ほぐすんだ。」
「丁子油、だったか?」
頷いて、どこかホッとした表情に変わる。
「そう。鎮静の効果があり、痛みを和らげる。丁子を油漬けにしたものだが、漬ける前の丁子の蕾そのものは、清めるために、僧侶が口に含んでいたり、……塗香に混ぜたり、……清浄な、効果があるとされている。」
痛み、と聞いて不安になってしまう。そも、ここは出すところだ。何かを挿れるような器官ではない。
「挿れられるのは、やっぱり痛むのか?それなら俺は……
心配になった俺に食い気味に、
「いいや、コツと、慣れがあるんだ。私は、……大丈夫だから。」
さっと答えられる。その内容に、胸がちくちくする。
「ここに指を挿れてと言おうと思っていたが、……嫌だったら、やめ」
「違う」
仙蔵の言葉を遮って否定した。嫌なんじゃない。負担をかけたくない。痛まないように支度しているのが、もう察してしまうじゃないか。
「お前の、楽なように教えてほしい。まず指を挿れるのか?」
……うん。油は、これだ。」
醤油差しと思った容れ物には丁子油が入っているようだった。仙蔵がそれを取って、自分の右手に傾ける。つっと粘度のある油が垂れて、自ら塗り付ける。灯明の光に、てらっとぬめる。
そこに人差し指を添えると、仙蔵の顔が緊張する。きゅっと唇を結んでいる。ここを触るのは初めてで、加減が無性に心配で、くにくに滑るばかりで、なかなか中に進まなかった。
不安げな表情の仙蔵が自ら尻たぶを掴んで、窄まりが横に伸びる。
「ここに、魔羅が入るんだぞ。お前がそんなでどうする。」
口元で笑って見せてくれる仙蔵への、申し訳なさと、途中で止めることも良くないんじゃないかという迷いとで、心がふらついてしまう。
思い切って、指を進める。温かくて、もう油が塗られていて、挿入ってしまうと難はなかった。
……ゆっくり、もう少し、奥へ挿れて……
言われるまま、進める。
「抜いて、……指、二本にして……
言われるまま抜いて、指を二本束ねて挿れる。仙蔵の息が乱れる。
むちっと弾力があって、柔らかい。ふちが一番きつくて、中はねっとりして滑らかだ。爪で触らないように注意して、ゆっくり押し込む。ゆっくり引く。油を、指を束ねた二本の谷に足す。ゆっくり押し込む。
「 っ ……ん、 ぅ……
真剣に仙蔵の穴を捏ねていて気が付かなかった。ハッとして視線を顔に向けると、眉を寄せて、頬を真っ赤にして、顔を横に向けて、仙蔵は震えていた。
勃起して、てろてろと汁が伝っている。
足の指が、攣った時のように出鱈目に向いて、にぎにぎしている。
俺のすることで、快感に震えている。
その姿に、心臓が、殴られたようで、潰されたようで、鮮やかで、真っ赤で、
捏ねていた仙蔵の肛門は、途方もなくいやらしい入口に見えた。
自分の身体を一つも弄らずに勃起しきった俺は、指を抜いて、褌を取っ払って、そこにそれを押し当てた。
「もんじろぉ……
ほうっと、安心した顔で、仙蔵は俺のすることを待った。
魔羅を押し込む。
コツを駆使された、慣らされたそこは、難なく俺の魔羅を収めた。真っ直ぐに穿って、仙蔵の両腿を抱え込んで、仙蔵の腰が浮く格好になる。仙蔵の尻たぶと、俺の鼠蹊部がぴったりと合わさる。
ぞぐん、と仙蔵の体幹が跳ねて、仙蔵は射精した。
収めただけだ。
俺が奥に収まることで、仙蔵は性感のてっぺんに行き着くのか。
きゅうーっと入口が搾られて、肉がうねる。初めての感触だ。油でぬめる肉が、俺の魔羅を搾る。手淫とは違う、生殖を連想する感触。会陰が痺れる。睾丸がくすぐったいほどにじんじんする。
竿が、ゾクゾクする。
俺の動物の部分が、
俺の大事な、守りたい、白くて細い同級生を
雌と見て、わなないている。
はふ、はひ、と震える息で、仙蔵は抱えた右脚を時折跳ねさせながら、俺に目を合わせる。
…… ぅ れ、し ぃ……
微笑んだその顔を見て、やっと確信した。
どうして、どうして今までわからなかった。
恋だ。
とてつもない後悔と、
途方もない幸福だ。
誰よりも愛おしい。
夢にまで見る男を、どうして恋焦がれていると気付かなかった。
俺はあの時、心臓をもう渡していたと、脳が夢で知らせていた。
もっと伝えることがあった。
そうして、もっと惹き合うように触れ合うべきだった。
教えてもらうだけの口付けが初めてだった。
導かれるまま収まるまで、わからなかった。
腰を揺する。
ひぐ、と悲鳴のような声が漏れる。
けれど止めてやれなかった。
仙蔵はまた魔羅から汁を飛ばしていて、その悲鳴が痛みから漏れたのでないと確かめられたから、うまく話せないまま続けた。なるべく深く、引く距離は浅く腰を揺する。
「もん、 じ、あ っあぅ そこ おくすき、おく 、ぅ 」
こんなに甘く話すのを初めて聞いた。
耳が、その奥が、脳が震える。
竿裏が膨れているはずだ。熱い。気持ちいい。仙蔵を女と見てまぐわう俺の魔羅が、熱くて、熱くて、いつの自慰よりも濃厚な性感が苦しいほどで、中に我慢汁が伝わってゆく感触が性交を余計に強調してゆく。
「ぬる、 ぬ いっぱい っも、 もんじろぉ」
視線を仙蔵に向ける。
ぬちゃぬちゃと抽送の度に音が立っている。
「とろと ろ ……がまんじる、きもちいか ……?」
くすぐったそうな口元で、仙蔵は幸福そうに問うた。
「こんなのは ……初めてだ、仙蔵」
「もんじろぉ の……はじめて」

「もらっちゃった」

どっと、また心臓が打たれた。そこで人が替わったようになった。
ガツガツ突いた。
乱暴だとわかっても止められなかった。犯すというのがどういう事か、わかった。顔をくしゃくしゃにして、もうだめ、またくる、ここへん、こわい、と、いやいやをする仙蔵を強引に抱き込んで、脚を抱え込んで、腰を振った。盛りのついた犬みたいに、振って、振って奥深くに射精した。
二人の汗で、身体の表面がぬるつくほどだった。
射精がひとしきり済んで、仙蔵の脚を下ろして、魔羅を抜いて、抱き合った。
噛み合うように口付けた。
首筋を垂れ落ちる汗がくすぐったかった。

俺の頬を撫でる仙蔵は

夢のまま、髪が濡れそぼって、額に、頬に貼り付いて、

口元はうっとりと幸福そうに微笑んでいた。

「好き」

仙蔵の唇はぽうっと薄く開いている。
「好きだ、仙蔵。」
口をついて出た告白に、眉を下げた仙蔵の表情は、どこか寂しそうに見えた。ゆっくりと笑みが失せてゆく。
……心の話なら」
そうっと、仙蔵が切り出す。
……私も、お前を好きだよ。だから嬉しい。」
含みのある言葉選びに、ざわざわと胸が冷えてゆく。さっきまで灼けた鉄のようだった血が、冷たく降りてゆく。
「でも、連れ合いになったりはしないでおこう。」
「どうして……
一度唇を結んで、仙蔵はすぐ続けた。
「私はお前に、お前自身が気の済む忍になってほしい。お前は優れた忍になる。きっと後陣を導く。そうして中堅になるか引退したら、子を持て。」
はっきりとそう言って、さっきまでの蕩けた瞳も、声も、そこには無かった。
「連れ合いになんかなったら、私は、お前に執着してしまう。お前の足を引っ張る。お前にとんでもない我儘を言って囲いたくなる。」
「そんなこと……
「ある。共に死のうと宣う日が来る。」
台本があるかのように、言葉が並ぶ。
「お前に妬いて、羨んで、焦がれて、でも同級生だから耐えられる。けど、それよりも近い関係は、私は……
「妬く、って、羨むって、なんだ。」

「わからないのか。お前が持って、私に無いものを、どれだけ私が歯噛みしているか。」
仰向けの仙蔵の両の目尻から、つっと涙が流れ落ちる。こめかみへ転げ落ちてゆく。一筋貼り付いた髪の毛を伝ってゆく。
「私が心臓と言う度、腿と言う度、わかったと言ってくれただろう。身体の根源が弱い。鍛えようと走っても、私の渾身がお前の日常だ。ただ呑気に生きているよりかは百倍精製した。それでもお前には根源で及ばない。」
何も言えない。
仙蔵は、甘えてなんかいない。
けれど、どうして細いのか、どうして遅れるのか、どうして息が切れるのか、根本的なことは想像できない。この白い美しい身体は、俺と別物であると、ただそう納得しているからだ。
仙蔵の肉体強度の水準のずっと上に、俺や留三郎や、長次、小平太の水準がある。皆高みを目指している。
食べて、走って、泳いで、苦しんで、その対価を得てきた。
この細い身体には、もう放り込めない。
小さな袋には、もう何も入らない。
だから厳選した。心臓を食べたい、腿を食べたい、脚を食べたい。

わかっていた。

食べたものが身体を巡る。血と肉になる。それを支える根源は、生まれ持った骨格と、親の体格に引っ張られる。

仙蔵はどんなに鍛えても、分厚い体格になったり、身長がどんどん伸びたりということが無い身体の持ち主だ。どんなに頑張っても得られる対価は、俺たち四人よりもずっと少ない。

「欲しいもの……ここにあるんだ、お前みたいな、厚くて、太くて、いくらでも走れて、なぁ、文次郎」
この身がお前にとって針の筵である日があったって知らなかった。
くしゃくしゃに歪めた眉で、いつも綺麗な白目が赤く滲んで、潤んで、鼻梁に皺が寄って
唇が左右に引かれて、濡れた声で、耐えかねて横を向いた。
「どうしてわたしは、こういうからだじゃないんだろう」

俺は抱き締めるのを躊躇って、

仙蔵は俺の寝巻きの背中をくしゃっと掴んで引き寄せた。俺の胸元に縮こまったその身体が、一段熱くなった感じがした。

心から血が出るなら、そうすることでもっと血が出ると思いながら、
いつも「綺麗だ」と思っているそのしなやかな身体を
ようやくぎゅっと抱き込んだ。



「少し、疲れた……
腕の中でそう言い残して、仙蔵は眠ってしまった。
少しも動かせないと、そうとしか思えなかった。そのまま俺の布団で、絡み合ったまま眠った。
人生で一番悔いた夜だった。

俺の心臓を渡した、美しい同級生が
もっと望む日々を送れるように
尽くせることを尽くしたいと、思い直した夜だった。


この日のことは確かにあって、俺たちはその上に日々を重ねた。無かったことにはせず、課題の提出物にはお互いの閨を綴った。仙蔵は前よりも俺に触れるようになって、口付けることも、目合う夜もあるようになった。
俺が普通の顔をして世話を焼くのを一番喜んでいると感じた。
毎夜、髪を拭いて梳かした。夜にできなければ朝梳かした。
果物があれば剥いて分けた。
魚や肉は、脂の少ない、焦げずに焼けたところを分けた。
部屋を片付けて、床を拭いた。
服を洗って、よく振り捌いて干してやった。
面白い本があれば、そのくだりを読み聞かせた。
お前を好きだと言えば仙蔵はその流れを冗談に変えていたが、
その身体に無駄が無くて綺麗だとか、良い友であるとか、髪が美しくて惚れ惚れするとか、そういう「恋心」を切り離した評価ならば、俺の好きな仙蔵を伝えても得意げに笑ってくれた。

恋とは、実らず、離れて抱える切ない想いを指すのだという。
側にいて、大切に尽くそうという気持ちは、愛なのだという。

一つずつ、確かめよう。

お前が厚い肉を持たなくたって、
骨が細くたって、
俺にとって理知に満ちて優れた忍であると
引け目に思うことなんか一つもないと
俺が知る真実を、一つずつ。