ゆうひです
2025-06-30 09:19:37
1851文字
Public 小説
 

★風∞降 暑い夜

小説。事前ネタ。パンイチの降谷さん。

 じめつく空気を少し鬱陶しく感じる夏の夜。風見は降谷が拠点としているアパートを訪ねた。
 薄明りのなか開いた扉の向こう側に、下着一枚だけを身につけた降谷の姿があった。
「ちょっと降谷さん!」
 風見は慌てて部屋の中に入りドアを閉める。
 風見が「なぜそんな格好をしているんですか」と訊くと、「暑かったから」と降谷は答えた。「自分じゃなかったらどうするんですか」と訊くと、「風見だと分かっていたからそのまま出ただけで、そうじゃなければ普通に服を着て出ていた」と答えた。
 風見が呆れてため息をつくと、
「僕が家の中でどんな格好をしていようが僕の勝手だろう。服なんか三十秒もあれば着られる」
と変なところが強情だった。
「目のやり場に困るんですよ」
 部屋の冷房はついているが設定温度はあまり低くしていないようで、降谷の綺麗に鍛え上げられた身体はやや汗を帯びている。下着だってその布の下の形がはっきりとわかるボクサータイプだ。二人はもう何度目か数えるのをやめてしまったくらいの回数はベッドを共にしたけれど──したからこそ、余計に──降谷の美しい褐色の身体は風見を平静でいられなくするものだった。風見が目を逸らすと、降谷はふうんと鼻を鳴らし、しぶしぶといった様子で適当な部屋着を着た。
 風見は降谷に背を向け、「これは差し入れです」と持参したいくつかのアイスクリームたちを冷凍庫に入れた。

 二人でいくらか仕事の話をした。必要な情報のやりとりや今後の計画の確認など。
 ひと段落ついたところで、降谷は風見がさきほど差し入れとして持ってきたいくつかのアイスのうち、二つに割って食べるタイプのものがあったことを思い出した。
「君、これ一緒に食べるつもりだっただろ?」
 降谷がパのつく名前のそれを取り出してきて風見に見せると、風見は悪びれもせず「それ、たまに無性に食べたくなることありません?」と返した。降谷は軽く同意して二つがくっついた形のアイスの容器を割り、風見に片方を渡した。それまで大人しくしていた飼い犬のハロが、人間の食べ物を欲しがって風見にまとわりつく。
「ワンちゃん、これはダメだよ」
 犬に襲われている風見を助けるために、ストックしておいた犬用おやつを少しだけやることにする。
──夏の夜、冷房の効いた部屋でアイスを食べて、犬のふさふさの尻尾がそこにある。それから、目の前に風見がいる。この感じ、俳句や短歌の一つでも詠めそうなもんだな。
 降谷の視線の先、風見は大きな手で結露したアイスの容器を掴んでちゅうちゅう吸っていた。
「君って、僕の裸を見て欲情したりするのか?」
 降谷の唐突な質問に風見は吹き出して、手に持ったアイスを取り落としそうになった。
「あの、そりゃあ……。なんでしないと思うんですか」
「そういう雰囲気のときならともかく、まだ見慣れてないのかと思って」
「見慣れる見慣れないとかの問題じゃあないでしょう──降谷さんこそ、自分が裸で部屋ウロウロしてたら何か文句言いそうですけど」
 きっちりした性格の風見が下着姿でうろうろするなんて、それこそ事後くらいしかありえない。そうでなければ、よほど気を許しているとき。
「僕は自分がやることを君がやったからって文句なんて言わないよ。むしろやってほしいくらいだね」
 しませんって、と風見に少し睨まれた。風見が自分に呆れるような怒るような目をすると降谷は少し嬉しくなる。
「よくわかりませんが、したいならしたいって言ってください。こっちにも心の準備があるので……
 風見はアイスを食べ終わって、ぺたんこになった濡れた容器をゴミ箱に捨てるため立ち上がる。
 今夜セックスをしたいかどうかの意思表示を求められ、
「今日は絶対したいとは思ってなかったが、そう言われたらしたくなってきたな」
そうつぶやきながら残り少ないアイスをじゅっと吸い尽くした降谷を見て、風見は藪蛇だったか、と気まずそうな顔をする。
「もちろん無理強いはしないけど──ううん。君がしたいなら、君が僕の服を脱がせてくれ」
 降谷は決定権を風見に委ねる。委ねるふりをした命令に近かったが。
 風見は一瞬止まり、戸惑っているようだった。しかし風見が降谷の素肌を見て揺れたことを口にした時点で、これはもはや既定路線だったのかもしれない。ずるい人ですねと言いながら風見は降谷のそばにかがむ。
 めくれた服の下から、さっきまで口にしていた氷菓と同じチョコレート色の肌が見えた。