モンドに雨が降った。ぽつりと落ちて来たそれを、頬で受け止めた時に気付いた。それは冷たいばかりじゃなく、その日は少し温かいくらいだった。そう言う時は、モンドと言えど風が和らぐ。
まるで、雨に降られた哀れな民が、それ以上不運に見舞われないように、風神が気を利かせたように。
あの日の雨は、ずっと冷たく、ずっと風が打ち付けていたのに。
「風邪ひくなよ?」
「ひかない。」
「おいおい。例え英雄様でも、風邪くらいひくだろう。」
風の代わりに現れた声に、振り返らずに答える。声は、風のように飄々としているから、充分だ。
「そうなる前に、もう行くから。」
そう言って足を踏み出せば、何故か着いて来る。
「何か考え込んでいたように見えたんだが?」
そして何故か会話を続けられる。
「別に、思い出していただけだ。」
「ああ……雨だものな。」
そうだ。
「でもそうじゃない。」
「……違うのか?」
幸い足音を雨音が上回ることはなく、少し声が黙したところで、その対象を見失うことはない。
「氷はもっと冷たいものだと思っていたんだよ。」
「それはどういうことだ……?」
一度立ち止まり、振り返る。
その隻眼を見る。確かめるように。
それが済めば、また行き先へと向きを直し、歩みを再開させる。
「なんだよ……。」
相手の足音も続く。
雨は増えることも減ることもないまま、まだ降り続けている。
「君の氷は、思ったより柔らかかった。」
「は?……刃だぞ?」
「確かに鋭い颯のようだが、それでも。舞降る霜の欠片は、風に乗った花弁のようだ。」
「……それじゃ風の神の眼みたいだ。」
「どの元素力の神の眼かは関係ないよ。モンド人らしいというだけださ。」
あの雨の日だって、その氷より、ただの雨の方が、よっぽど冷たかった。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.