himuri
2025-06-29 10:58:43
2489文字
Public #鋼徹ワンドロワンライ
 

【村荒】好きな人の好きなもの

第七回鋼徹ワンドロワンライ お題「映画」



 荒船は映画が好きだ。
 とはいえ、なんでも観るタイプではなく、好きな映画を繰り返し観に行ったりするタイプだ。
 これまでも何度か誘われて、予定がない限りはなるべく誘いに乗っている。
「学校で映画上映? 楽しそうだな」
 興味津々という様子の荒船に、村上も一歩身を乗り出す。
「ただ、何を上映するかは生徒が決めるんだけど、最終的に学校側の許可が取れるかが問題で
「あー、本当に観たいやつが通らない可能性か
 このイベントの担当委員は立候補制で、村上は立候補はしなかったものの、穂刈たちからの推薦があっての結果だった。
 普段から学校行事で運営側に回ることはあまりなかっただけに、今回のイベントは大変ながらも楽しい学校生活、なわけで、できるだけ良いイベントにしたい。
「荒船ならいろいろ映画に詳しいだろ?」
 そんなわけで、村上は意気揚々と荒船のもとを訪れたのだった。
 無邪気な村上の言葉に、荒船は苦笑気味だ。
「俺は映画が好きだけどな、基本的にアクション映画だぜ?」
 荒船がアクション映画が好きなのはよく知っている。とはいえそんなジャンルの事はどうだっていいのだ。なぜならその理由で荒船と会えたので。
「アクション映画でも面白いやつはいろいろあるだろ?」
 荒船は少し困った様子だった。腕組みしつつ、自分の中の映画を思い起こしているらしい。
 それからスマホを取り出して、どうやら自分で書き留めている映画の感想などをザッと読み返しているようだった。
「教師のウケを狙うなら、世代に合わせたらいいんじゃないか」
「え?」
「俺が好きな映画並べたところで却下されやすいと思うんだよな」
「たとえば?」
「暗殺者の話とか?」
 ほら、と差し出されたスマホには、最強の暗殺者を有名な俳優が演じた作品のタイトルがあった。コアなファンがついていて、続編も次々作られているものだ。
まぁ確かに却下されそうではある。
 とはいえ、村上は意外だった。もっと荒船が乗り気であれもこれもと提案してくれるものだと思っていたのだ。
……もっといろいろ直球で来るかと思ってた」
「万人受けする、シリーズものじゃないやつとか結構難しいんだぜ。ちょっと前に話題だったやつも過去作品の続編だしな」
「あ、あれか。スタントを自分でやる
「そうそう」
「一緒に観に行ったよな?」
「ああ。それに有名なやつすぎると結構観たってやつも多かったりするしな」
「なるほど
「ニッチすぎてもダメだろ? そうなると、狙い目は教師の年齢に合わせた作品だと思うんだよな」
 荒船の言葉に村上は唸った。確かに荒船の言う通り、教師の許可のとりやすさを考えると、そうなるのかもしれない。
 とはいえ、当初の目論見が外れた感じがして、村上はちょっと残念な気がする。
 もっと楽しそうに自分の好きな映画について語る荒船が見れると思っていたのだ。
 特に、二人で映画館に行く時の、俳優についてやシリーズの話、監督の話をしてくれる荒船のような。
 高揚した様子で語る荒船を見るのが好きなのだ。
「このあたりどうだ?」
 そんな村上に気づいているのかいないのか、荒船が提案してきたのは刑事ドラマの劇場版一作目だった。
「あ、これ荒船のところで観た」
「ドラマからな」
「古いけど面白かったな」
「だろ?オススメだぞ。たぶん教師たちの許可も降りるし」
「候補にしておくよ。他には……
「教師と関係ねぇけど、女子ウケしたいならこの辺りじゃないか?」
「でもこれ不良ものだから
「難しいか? 勢いあっていいけどな。スピンオフでとっつきやすいし」
 荒船が出してくるタイトルはどれもわりと有名な作品だ。口コミで話題になったもの、人気ドラマの劇場版で大ヒットを飛ばしたもの。
 意外と村上も話題についていけている。
「あ、これどうかな?」
 荒船のスマホからちらりと見えたそれも、二人で映画館で観たものだった。
「スーパーヒーローものか
「面白かっただろ」
「面白かったけどシリーズラストだろ。配給会社飛び越えてまで作った力作で最高だったけどな」
「そっか、一作だけだと難しいか……
「ならこっちはどうだ?」
……こっちのスーパーヒーローはちょっと暗いというか、重いというか
「けど最高に面白かったじゃねぇか」
「そうなんだけど」
「なんだよ」
「見た後にどっと疲れた記憶があってさ」
「まぁ、そうなるよな」
 結局そのあともつらつらと映画について語って、アニメ映画も候補に挙がりつつ。
 ふと気が付くと、ほとんどの映画の話題についていけているのだった。
「俺、結構映画観てるんだな……
「当たり前だろ?」
「え?」
「俺が鍛えてんだ。詳しくなってて当たり前なんだよ」
 自信満々な様子の荒船に、村上はハッとした。
 荒船に興味がある映画があれば、大体ついていっていた。もちろんその中には村上が観たい作品もあったのだけれど、大体荒船に影響されて、同じ傾向のものを好んでいたのだ。あまり気づかなかった。
 ただ、楽しそうに映画について語る荒船が好きで、何でも聞いていれば、サイドエフェクトのせいでどんどん覚えていったし、荒船もきっとやりがいがあったに違いない。
……気づかなかったな……
 なんでもそうだけれど。興味を持って知識をつけていけば楽しいもので。
「鈍すぎだろ」
「だ、だってさ。好きな人の好きな映画の話聞きながら観てるって感じだったから」
「まぁ、動機はなんだっていいだろ」
「そうかな」
「そうなんだよ」
 言うと、荒船はニヤリと笑った。次はこの映画観にいこうぜ、と言った彼の言葉に、抗えるわけもなく村上は頷く。
「俺もそう言おうと思ってたんだ」
 結局好きな人の好きなものを好きになれるのは最高なんだな、と。
 帰り道、一人になってしみじみと思うのだった。




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