匣舟
2025-06-28 15:57:59
4174文字
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きみがかわいいってこと

スイパラの絵を見て妄想した勘乱。途中から久々乱も少し入る…かも。ギャグ甘で終わらせるつもりだったのにいつの間にか勘乱←久々になってました……なぜ……??
奇妙な夢を見た乱が勘と久々の部屋に突撃しに行く話。


「らんたろう。俺さ、桃の妖精なんだよね。」
 乱太郎の両手に納まる桃をかぷりと口を大きく開けて食べてそうあっけらかんという彼の言葉に、ああ、これは夢だ。と乱太郎が思うのには時間がかからなかった。
 今日の夢はやけに鮮明で、奇妙な夢だった。乱太郎の恋人である五年い組の尾浜勘右衛門が乱太郎の両手に納まる桃より小さくなっていて、自分の正体は人間じゃなくて本当は桃の妖精で、乱太郎とは生きられないんだ。ごめんな。さようなら。と言いながらパタパタと蝶みたいに羽を広げて乱太郎の自室の部屋から飛んでいってしまう夢を見た。
「勘右衛門さんっ、まってっ、まって!」
 乱太郎が一生懸命手を広げて勘右衛門を捕まえようとしたけれど、勘右衛門はごめんなと言いながら窓の外へと行ってしまい、そこで乱太郎は目が覚めた。
……っ、う」
 いつもなら夢なんか見たとしても起きたらすぐ忘れるのに今日の夢は起きてからもずっと覚えている。変な夢だったと思うのに、あれは夢であると自覚しているのにもかかわらず、乱太郎の心は起きてからその人の姿をちゃんと見るまでは落ち着かなかった。
 心臓がバクバクと音を立てていてうるさい。まだ早朝にもかかわらず寝間着姿で一年長屋を抜け出した乱太郎は韋駄天の走りで夢に出てきた人物の部屋まで突っ走る。
 もし本当に勘右衛門が桃の妖精で、もうどこにもいなかったらどうしよう。と泣きそうになりながら乱太郎が廊下をひたすら走って着いたのは五年長屋のい組の部屋だった。
 五年い組の部屋に来たのは、勘右衛門がちゃんといることを確かめるためである。
 スパーンっ!と音を立てて開いた襖に、部屋の住人である久々知兵助と尾浜勘右衛門はなんだなんだ、敵襲か!?とまだ眠っていたいと閉じていこうとする目をこじ開ける。
ら、乱太郎……?」
 ふたりの目に映るのは、寝間着の後輩の姿だった。勘右衛門が彼の名前を呼ぶと、飛びつくように勘右衛門に抱きついて、乱太郎は震えた声でこう言った。
「か、勘右衛門さんは人間ですよね……?」
?う、うん、正真正銘の人間だけど……?」
どういう会話なの……?」
 いきなり早朝にここに来て、訳のわからぬことを言う後輩の様子に、兵助が戸惑ったように勘右衛門を見る。
 兵助に見られている勘右衛門も乱太郎が何故自分のことを人間ですよね?と至極真っ当なことを聞いてきたので困惑はしているが泣きそうになっている恋人の不安を煽らないようにと背中を撫で続けていた。
 ふたりが戸惑うのも無理は無い。乱太郎は、今、自分が見た奇妙な夢のことをふたりに言っていないのでこんなにも場が混沌としているのに爆弾発言をした乱太郎は、ちゃんとここに勘右衛門がいた事を確認できたことと、勘右衛門の口から人間であることを言って貰えた安心感で勘右衛門に抱きつきながら、勘右衛門さんが桃の妖精さんじゃなくて良かったぁ。と言って眠りに落ちてしまった。
その乱太郎の言葉を聞いたふたりは顔を見合わせる。
か、勘右衛門が桃の妖精さん……???」
「ど、どういうこと?」
 乱太郎が襲来してきたことと、乱太郎がすごく気になる言葉を残して寝てしまったことであんなに寝ぼけていたのにもはや覚醒するしているふたり。
 同学年が気になる言葉を残して寝てしまったのなら叩き起すぐらい造作もないが、まだかわいい一年の忍たまのたまごで、しかも勘右衛門の恋人である乱太郎となると起こすのも憚られてしまう。
と、とりあえず寝る……?」
「乱太郎が起きてから聞くしかないもんな。」
 すやすやと勘右衛門の腕の中で眠る乱太郎を他所に勘右衛門と兵助のふたりは結局、朝まで一睡も出来なかったという。
「ほ、本当にごめんなさいっ!!」
「わーっ、土下座なんかいいから!ほら顔上げてっ!」
 結局、乱太郎が起きてくるまで一睡も出来なかった兵助と勘右衛門は、各々いろんなことをして気を紛らわせていた。
 兵助は豆腐のレシピを考えたり、教科書を読み返したりしていたし、勘右衛門は自分の布団に寝かせた乱太郎の寝顔を愛おしそうに見ていたり、図書室で借りた本を見ていたり。
 乱太郎が目を覚ましたのはそんなときで、起きてすぐに兵助と勘右衛門に土下座をして謝る。
 乱太郎の土下座は、自分が夢を見て勝手に不安になって勘右衛門のところに来たからで、一睡も出来なくて寝不足なふたりを困らせたと反省してのことだった。
 乱太郎は本当に申し訳なさそうな顔をしていて、兵助が慌てて顔上げて!と言ってようやく顔を上げた。そして冒頭に戻る。
「まあまあ、乱太郎。兵助もそう言ってるんだし顔上げて?」
 勘右衛門は乱太郎に、ね?と優しく言って、乱太郎はおずおずと顔を上げて兵助を見る。
 その不安そうな目に兵助は安心させるように微笑んでから、ふたりが気になっている事を聞いてみることにした。
「あのね、乱太郎。起きがけに申し訳ないんだけど……。」
 ここに乱太郎が来てからね、勘右衛門に人間ですよね?って聞いてたり、勘右衛門に桃の妖精さんじゃなくて良かったあ。って言ったったり乱太郎が寝ちゃったんだけど
どんな夢を見たの?」
 兵助のその問いに乱太郎は、えっと……と口籠る。夢の内容を思い出して恥ずかしくなったのか、顔が赤くなっていた。
 乱太郎のその様子に、勘右衛門は兵助と顔を見合わせてから、乱太郎にもう一度、夢の内容を聞いてみてもいい?と聞く。すると乱太郎は顔を赤くしたまま笑わないでくださいね。と言って恥ずかしそうにしながらこくんと頷いた。
「あの、えっとぉ……勘右衛門さんが、私の両手に収まるぐらいの背丈になってて、桃を齧ってたんです。」
 それで、むしゃむしゃと自分の背丈より大きい桃にかぶりついて居た勘右衛門さんがね、私の方を振り向いて、こう言ったんです。
─らんたろう、俺さ、桃の妖精なんだよね。
「だから、人間のお前とは一緒に生きられない。って言われて、窓の外に飛び去っていったんです。」
 夢だと分かっていたんです、これ夢だって。でも、勘右衛門さんの姿を見るまでは気がすまなくて。お二人の睡眠を妨げてしまって本当にごめんなさい。ととても申し訳なさそうに勘右衛門と兵助に謝った。
 それを聞いて、ふたりは思わず顔を見合わせる。そして、どちらからともなく笑い出した。
……ふ、ふふ……っ!」
……あはははっ!」
「あーっ!笑わないって言ったのに笑ったぁ〜!」
 いきなり笑い出すふたりに、ひどいです〜!と言いながら乱太郎が顔を赤くしたままむくれる。だってね?と笑いながら兵助が言って、それに勘右衛門も頷く。
 ふたりのその笑顔は、夢の内容を聞いて笑っているというよりは何か微笑ましいものを見るようなそんな笑顔で。
これは流石にかわいいね……。勘右衛門。これは、認めるよ。」
「な!やっぱりそうだろ〜?」
「え?え?」
 ふたりが何に対して笑っているのか分からずに乱太郎が困惑していると、勘右衛門が乱太郎を抱きしめて言った。
「兵助がいつも豆腐のことを話すのに変わって俺はさ、かわいいかわいい恋人のことをいつも兵助に話してるんだ。」
 勘右衛門は愛おしそうに乱太郎の頭を撫でながら兵助に、な?と聞く。すると、兵助も笑って頷いた。
「毎日ね、あんなところがかわいい、こんなところがかわいいって聞かされてて、乱太郎を見る度にそういう所もあるんだ……って思ってたんだけど、今日めちゃくちゃ思ったよ、乱太郎って可愛いんだって。」
 兵助がそう言った途端、乱太郎の顔がボフッ!と音を立てたみたいに顔が真っ赤になる。そんなかわいい乱太郎な兵助は笑って、勘右衛門は兵助を睨んでいた。
「ちょっと、俺のかわいい乱太郎取らないでよね。」
 もう、俺のものなんだから、兵助にだって譲らないよ?とわざと乱太郎の耳元で言って、乱太郎の反応を兵助に見せる勘右衛門。そんな宣戦布告とも取れる発言に兵助は、はは。と笑みを零した。
今はでしょ、今からはどうなるか分からない。」
 なら、まだ俺にもチャンスはあるってことだろ?と勘右衛門の宣戦布告を受け取った兵助はふわりと笑った。そんな兵助の言動に勘右衛門は乱太郎を抱きしめる力を強める。
 まだ勘右衛門の耳元攻撃でふわふわしている乱太郎は自分を巡ってふたりが戦っていることを知らないでいた。
「あ、かわいいかわいい妖精さんだ。」
「本当だ。今日は何があったの?」
 四年い組の穴掘り天才トラパーのタコ壺にハマってなんとか抜け出してドロドロになった頭巾を脱いでいると、乱太郎の傍に勘右衛門と兵助が寄ってきていた。
「もう、また言ってるんですか先輩方!」
 頬をふくらませてぷりぷりと怒る乱太郎は、全然怖くなくてむしろかわいい。わしゃわしゃと乱太郎の頭を撫でてやると、それで機嫌が治ると思ったら大間違いですからね!と怒って廊下を走っていってしまった。
 多分、あれだけ泥だらけならば風呂に入るはずだから、一緒にでも入って機嫌を治せばいいか。と乱太郎の去った方向へと着いていくことにした。
「あーあ、勘右衛門のせいで行っちゃった〜。」
 そう言いながらも兵助は勘右衛門と同じく乱太郎が駆けて行った方向へと歩いていく。
ちょっと待て兵助。まさかお前も風呂入るとか言わないよな?」
 怪訝な顔をして尋ねる勘右衛門の隣で兵助は入るけど?とさも当然のように言い放った。兵助が言い放った瞬間に、勘右衛門は、はぁ!?と声を上げる。驚きっぱなしの勘右衛門を見て、兵助はふふ、と笑った。
勘右衛門、精々俺に取られないように気をつけてね。」
 じゃあね〜!とサッと音を立てずに更衣室へと走っていった兵助の後を勘右衛門は般若の姿を背負っているかのような顔で追いかけた。
 のちに、更衣室で服を脱いでいる乱太郎の所に、爽やかな顔をしている兵助と、そんな兵助を睨みながら乱太郎に抱きついて牽制している勘右衛門が居たそうである。
(こんなことになるならば、お前に、自慢しなければよかった)
とのちに勘右衛門は乱太郎のことを抱き寄せながら語っている。