袋小路みけねこ
2025-06-27 23:09:10
11942文字
Public
 
1494234

パパトセルクとママゼムと新しい家族

エメアゼ♀前提親子夢! アゼ♀の容姿性格ねつ造あります

アステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリアアステリア 定時で仕事を終えて、向かう先。足は自然と早足になる。……当然のことだ。そちらには私の、私たちの家族が待っているのだから。
「あ! パパ! パパー!」
 アゼムにそっくりな私の娘が、見つけるなり私のところに駆け寄ってくる。ここは保育園。今まさに私の手を握って嬉しそうに笑っている娘が、日中の大半を過ごすところだ。
アステリアちゃんパパ、こちらをどうぞ。アステリアちゃんのスケッチブック、またいっぱいになったのでぜひ、おうちでご覧になってくださいね」
「ああ、お気遣い感謝する」
 持ち運びやすいようにクリスタルの形にしてくれた保育士に礼を述べる。この小さなクリスタルに、娘が心底楽しそうに描いた作品たちが詰められていると思えば、娘の一部のように愛おしい。感慨に浸りそうになった私を、引っ張る手が現実に引き戻した。待ちくたびれた娘がむくれてる。そうだな、おうちに帰らなくてはな。
「せんせ、またね! みんなもまたねー!」
 保育士たちや友人たちに手を振りながら、娘は私と共に歩き出した。行きと違って、娘の歩幅に合わせてゆったりとしている。
「今日は何をしたんだ?」
「んとね、おうたうたって、えほんつくってた! けるべこちゃんの!」
 けるべこちゃん。前にアゼムが旅先の土産で持ってきた、頭が3つある赤い牛みたいな置物のことを、娘はそう呼んでいた。頭をつつくと頷く機構をいたく気に入って、娘の部屋にけるべこちゃんは滞在している。
「けるべこちゃんの絵本? それは、どんなお話なんだ」
「けるべこちゃんが、みんなのびょうきをなおしてたびするの! うんうんってみんなでいっぱいかんがえて、なおしてあげるんだよ……あ!」
「どうした、アステリア
「ねたばれげんきん、だった!」
 ネタバレ厳禁。そんな言葉どこで覚えたんだ。アゼムだな。こういう言葉はだいたいがアゼム、次いでヒュトロダエウスが教え込んでる。その是非は一旦置いておくとして、だ。
「そんなに気にするな、まだパパしかそのお話の内容は聞いていないのだから」
……ママにはまだないしょね」
「ああ、約束しよう」
「うん、やくそく!」
 小指を絡ませ、すっかり安心した様子の娘に、私もまた安心感を覚えた。不意に娘がきょろきょろとあたりを見渡したかと思えば、目を見て話した名残で屈んだ私に両腕を伸ばしてくる。
「パパ。……だっこ、して」
 ……ああ、成程。周りを気にして照れくさくなるくらいには成長していても、まだまだ甘えたい年頃なのだ。包んで、抱き上げてやると、満足そうに目を細めた。成長している証に重みは増えているが、ぬくもりは変わらずそこにある。そしてそのぬくもりが愛しいのも変わりはないのだ。むしろ年々増している。
「ママのだっこはたのしくて、パパのだっこはやさしいんだよ……
「それなら、またママにも抱っこしてもらおうな」
「うん! ママ、あしたのあした……あさってにかえってくるよね?」
「ふ……そうだな。あさって帰ってくる」
「へへ、たのしみ! ……おけが、してないといいな……
 漏れ出た、その小さな声。抱き上げてやらなかったら聞こえなかった、滲んだ不安を拭ってやりたくて、より深く包み込んだ。
「大丈夫だ、ママは強いからな……怪我をしても、すぐに元気になっただろう?」
……うん、そう、だね……でもね! わたし、ママのたびのおはなしだいすき! パパは?」
「パパもだ。同じだな」
「へへ……はやくあさってになってほしいなー」
 いつもの調子を取り戻した娘の頭を撫でながら考える。……アゼムが帰ってきたら、怪我を優しいアステリアにあまり見せないように言い含めておこう、と。この時の私はまだ、娘が抱え込んだものの大きさを知らなかった。
 
 待望の我が家……さっきまで人の気配がなかったその家に着くと、娘は私の腕から降りて、そんな家にもただいまを渡した。こういうところはとてもアゼムらしいと感じる。倣って、ただいまを言ってやれば、アゼムに似た顔で笑んでいた。
 私の妻で娘の母親でもあるあいつは、第14の座、アゼムに座する者だ。しばしば旅に出て、問題を拾い集め……そこで解決してしまう。一応、本人なりにバランスはとって1か月会わない日は作らないようにしているしその通りにはなってはいるが、どうしても家を空けがちだ。だから当然、アゼムがいない間のすべての家事は私の役目となる。今は夕食づくりに取り掛かっているところに娘の声が飛び込んだ。
「パパ、わたしもおてつだい、したい!」
 ちょうど葉物野菜を切っていたそれを見て、おねがいおねがいと娘がねだってくる。……正直に言うと、刃物をあまり持たせたくはない。指でも切ってしまったらと思うとなおさら厭だ。だが、料理が出来れば娘の助けにもなるし、なにより家族の助けになりたいという想いも無下にしたくなかった。
……分かった。ただし、これは使うのに注意の要るものだ。だからパパも一緒にやる。いいか?」
「うん!」
「まずは片っ方の手をこんな風に丸くして――
 娘用の踏み台を創り、包丁を娘が持ちやすいように創りかえる。そのうえで後ろから娘の手を包むように支えてやる。しゃき、と葉物野菜が切れる音がしたと思えば、見なくても娘が喜んでいるだろうというのが分かった。笑みがこぼれる声を聞きながら、最後まで一緒に野菜を切っていった。……そこまでは、良かった。
「わあ! いっぱいある……
 二人分作ればよかったものを、アゼムの分まで作ってしまっていた。気でも逸ったか。保存しておいて本当にアゼムの分にしてしまっても良かった……が。
「おやさいシャキシャキのまんまがいい……

「それで、ワタシにお誘いを?」
「パパといっしょにおやさいきった! おいしいうちにごしょうみあれ、ひゅーちゃん!」
「ふふ、それじゃあ、ご相伴にあずからせていただこうかな」
 タイミングよく空腹の「ひゅーちゃん」ことヒュトロダエウスを捕まえた私たち親子は、せっかく二人で作った夕食を無駄にせずに済んだ。
「ん、美味しい!」
「やったー!」
「ふふ、エメトセルクってば、当然だろって顔してる」
「それがどうした?」
「ううん、親友の新しい一面が見れて、ワタシも嬉しいなーって」
 まったく何を言っているんだか……朗らかで面白いことが好きなこいつは、案外情に深くストレートに伝えてくる。私と同じような目で、より遠く正確に視られるのはこいつの方だ。こいつの方に先に回っていた、次代エメトセルクの話を蹴って私にお鉢が回ってくることになったのも懐かしい。でもまあ。それでも楽しくやっているというならば、私も悪い心地ではなかった。……話題はその親友の勤務先、創造物管理局でのイデアの話になっていた。
「そういえばね、面白いイデアが申請されたんだよ、ほらこれ!」
「それなに!?」
「ピラヴロスっていうんだって。創った人が言うには、すっごく速くて、宇宙にも飛ばすことが出来る! ……らしいよ」
 ヒュトロダエウスが取り出してみせたイデアクリスタルが映し出したのは、筒状の小さくて細い金属の何かが空に向かって打ち上がっていくさまだった。周りに注意して遊ぼう!という注意書きを添えて。つまりあれか。おもちゃか。
「とばせるの? おもしろそう! おっきいはなびみたい!」
「確かに! 大きい花火も打ち上げるもんね」
「あ! それなら、はなび、うちゅうのひとにもみせてあげたい! いろんないろで、ひかってきれいだった!」
 去年やった花火をそんなに気に入っていたのか。そしてそれを「うちゅうのひと」にも見せてやりたいのか。昔から娘は心優しいと思っていたがここまでとは。伸ばした手の下でくすぐったそうに娘が笑っていた。ハーデスって娘のことになるとバグるよねという親友の言葉は無視した。
 それから食事はつつがなく終えて、今は余暇の時間。保育士から渡されたクリスタルから、娘の作品いっぱいのスケッチブックを広げている。ヒュトロダエウスにも「ネタバレげんきん」の緘口令を敷いたうえで絵本を見せようとしたので、私と娘、ヒュトロダエウスの順番で横に座りながらスケッチブックの中を見ていた。そのすべてが可愛らしいのはもちろんだが、表情が特によく描けていると思った。主人公のけるべこちゃんが旅に出て楽しい気持ちも、病気の人を見つけて心配そうに思い悩むのも、なんだかんだあって病気を治せて嬉しい気持ちも、娘の解説なしでも伝わってくる。絵本は、そのけるべこちゃんを見つめてる白い赤べこ――白べこになるのだろうか――の姿を見せて終わった。
「どうだった!?」
「けるべこちゃんの気持ちが伝わってきて良かった。病気を治せたときはパパも嬉しくなった。それに、アステリアがとても楽しく描いたんだろうってこともな」
 私の感想を伝えると、へへ、と照れくさいけど嬉しい気持ちが漏れ聞こえた。
「この、白いのはどんな子だ?」
「このこはね、けるべこちゃんみたいになりたいっておもってるこ!」
「その子、ワタシも気になってた! ね、アステリアはパパとママのこと好き?」
「うん、すき!」
 どうしてそんな質問するの、という目線を向けられるとヒュトロダエウスは続ける。
「ワタシは、けるべこちゃんがパパとママに似てるなあって思ったんだよ。旅をするのが楽しいのも、悩んでも話し合って、解決しちゃうのもね!」
 そう言われれば、確かに似ていると感じた。アゼムが問題を見つけて、十四人委員会は話し合って、解決する。もっとも、アゼムの奴はある例外を除いてだいたい持ち帰らずにそこで解決してしまうが、な。嘆かわしいことにその悪癖は現在も続いている。そうなると、白べこは。咄嗟に口を隠す。柄にもなくにやけた口を。娘は頬を赤く染めて。
「むー……ひゅーちゃん、いやだ……このこはこのこだもん……
「ふふ、ごめんね。そうだね、この子はこの子だ」
「んもー!」
「じゃあこの子じゃなくて君に質問! アステリアはパパやママのお仕事、やってみたい?」
「やってみたい! たび、たのしいってママいつもいってる! けど……
 けど。一瞬の曇りが娘の顔に流れた。それを振り払うように首を振ってみせてきた。
……うん! たびして、いろんなのかいてみたい! そしたらみせてあげる!」
「ああ、楽しみにしている……ところでアステリア、」
 娘の真意を探ろうと口を開いたその瞬間、金色の文様が白い光と共に私を捉えた。これは召喚術だ。それも、アゼムの。アゼムはだいたいの問題を現地で解決してしまう。その例外がこれだ。今、現地では私の力が必要になっている。だから喚ばれている。
「ヒュトロダエウス」
「分かってるよ。この家とアステリアは任せて」
「ああ、頼んだ。……アステリア、悪いな。ママを助けに行ってくる。お留守番していてくれ」
……うん」
 曇り顔に戻ってしまった娘は、一度は頷いた。これまでと同様に。娘もこれを何度も見てきて、どこかで分かっているのだろう。私を引き留めることはしないでくれていた。だが今日。つづきがそこにあった。
……わたしも。わたしもいっしょにいく」
「駄目だ。アステリア、分かってくれているだろう? 危ないところに子供は連れていけない」
 曇り顔が今にも雨になりそうなのを、娘自身がこらえている。こらえようとしている。だが、ついに溢れてしまう。怒りと共に。
「いやだ! ぅ、いっつもおけがしてかえってきて、でも、いかないとママがおうちにかえれなくて、だから、だから……!」
「それでも駄目だと言っている。いくらでも怒ればいい、泣けばいい。だが命を危険にさらす真似はするんじゃない! ……分かったな?」
 娘までもが「おうちにかえれない」事態になってみろ。妻と娘を喪ったその先でどう生きればいいのか分からなくなる。善き人でいられないかもしれない。想像するのも厭になる。……もう行かなければ。召喚に応えられなくなる。
……ヒュトロダエウス、面倒をかける」
「いやだ、いやだ、なんで……う、う……
 あふれ出してしまった娘の泣き声を振り切り、アゼムの召喚術に応えた。……今は切り替えろ。父母二人で無事に帰ったあとにだけ、娘の涙を拭ってやれるのだから。
……さて。アゼムの奴はどこにいる? ……は?」
 うっそうとした森の中の、岩場が見える少し開けた場に降り立った。その直後は気づかなかったが、何かが近づく音がする。音のする方に目を向けると、轟音の中になぜか牛の鳴き声、しばらくして爆発音。そして。とてもよく見知った、それも、さっき別れたばかりの、薄青色のエーテル。娘と同じ魂の色。……そんなわけはない。第一ここから、娘がいるはずの自宅は遠く離れている。加えてヒュトロダエウスだってそこにいるはずだ。それでも最悪の想像が離れず轟音が向かったほうに行くと、そこには聞いた覚えのあるおもちゃのイデアが地面に突き刺さっていた。そしてそこにへばりついていたのは……羽が生え、青い星柄がひとつ付いた、見覚えのある手のひらサイズの白べこだった。こいつから確かに娘のエーテルを感じる。……とりあえず、最悪の事態は回避された……が。もう使い魔を創れるというのか。
「んも! もー!」
 その使い魔は私を見るなり飛んでへばりつく。首を横に振って、離れないと言わんばかりのホールド力だ。……ヒュトロダエウスの差し金だな。いつもアゼムのひらめきに悪ノリをする奴だが、今回ばかりは強く言えない。
「おい、お前」
「んも」
「もうお前をご主人のところに返してやれる時間はない。だから危なくなったらすぐ逃げろ」
「もー! もー!」
 望むところだと言わんばかりに、今度は首を縦に振った。私の肩に乗りなおした青星のべこは何かに気づいたように頭を持ち上げた。今度こそ、探していた魂の色が視えた。
「アゼム、状況は」
「良かった、来てくれて……止めてはいるんだけど、全然力が削げなくて……
 いうなりアゼムの身体がふらつく。咄嗟に敵の攻撃を大剣で受けなければひとたまりもなかっただろう。アゼムの頬は明らかに赤く、発熱しているのが分かった。得物の刀を支えにしていなければ、立っているのも厳しいのだろう。ひとまずは私が敵を引き付けておくしかないか。目の前の敵、牛にも似た黒い存在は呻き、首を横に振り、角を振り回した。纏っている黒いもやは、取り込んだら私までアゼムのような惨状になりかねないと予期させた。
「あの子が、皆の病を治し続けてて……こらえきれなくなって、それで……
「溢れて巻き散らかすようになってしまった、か……本来なら癒し手が欲しいところだぞ、なぜ……
「んも! もー、もー!」
 青星のべこが肩から後ろに退避させたアゼムのもとへ向かう。魔法を使う気配を感じるや否や、先ほどの発熱が嘘のようにピンピンとしたアゼムが前に飛び出してきた。
「敵視もらった! 癒し手はこの子だ!」
 魔法を使う気配。こいつが回復魔法と弱体解除を使ったというなら、この状況に納得がいってしまう。事実私の傷もじわじわと回復している。青星のべこの回復圏内にアゼムも私もいるのだから。癒し手として申し分ない働きだ。……だが。
「今なら私にも分かるよ、この子、アステリアの使い魔だよね。だからエメトセルクが躊躇う理由は分かるよ。私はあの子の母親だし、君はあの子の父親だもん」
「だからこそ、今はあるものなんでも使おう! 使い魔で我慢してくれたんだ、私よりよっぽど聞き分けいいよ、アステリアは!」
 大きなため息が私の口からでた。大剣を杖に持ち替える。守り手をアゼム、癒し手が青星のべこが担うなら、必然私は魔導士――攻め手だ。敵は未だ病魔をまき散らしている。それを娘の使い魔が即座に回復し、アゼムが盾として立ちはだかり続ける。そうだ。父母ともに帰って、娘の涙を拭ってやらねばいけない。なら、私のやることは1つだ。アゼムが引き付けている隙に、最大火力で苦しむ敵を燃やしてやること。
――これで終わりだ」

 燃やし尽くしてやったのち。青星のべことそう変わらないサイズの牛……いや、べこが姿を現した。周りを覆っていた病魔は消え、そのべこは安心した顔でアゼムに抱き上げられていた。視てみれば、もうすぐに冥界に還ってしまいそうなほどに弱まっていた。
「よく、よく頑張ったね……もう寝たい?」
 べこは迷ったのち、縦に1回首を振った。そのさまがどうしてだか、娘を思い起こさせた。優しい眠りであってほしい、と。
……安心しろ。お前がちゃんと眠れるように見守っていてやる。私はエメトセルクなのだから」
 私の言葉を聞き、身をゆだねるように目を瞑った。手を触れ、エーテルに還してやると、小さな星が冥界へと流れていった。
「君もお疲れ様! よく頑張ったね!」
 青星のべこはアゼムに撫でられると嬉しそうにぱたぱたと羽を羽ばたかせた。今回は癒し手になったこいつがいたからこそ勝利をもぎ取れた。逆に言えば、こいつがいなかったら危なかった、ということになる。
……さて、エメトセルク。疲れてるかもしれないけど、緊急夫婦会議をしようか」
「そうだな……それならまず、こいつが生まれたと思われる事態から説明させてもらおう」
 場所をこの地のアゼムの拠点へと移動し、会議を始める。議題は、私たちの娘について、だ。娘と再会する前に、これは済ませてしまいたかった。
――そっか。ずっと我慢させちゃってたんだね。なんだかあのべこに似てるかも」
「奇遇だな。私も同じことを思っていた」
 あのべこもずっと我慢して病を吸い続けた。その結果、溢れて、あのべこも望まぬ事態を引き起こしてしまった。……娘は、私たちが怪我をするのが厭だと言っていた。以前まではそれを飲み込んで私たちを見送ってくれていた。今回ついに堪えきれなくなった。それでも送り込んだ使い魔には癒しの力をこめて。……つくづく、私たちの娘は優しいらしい。ただ。
「本当に勝手だなあって自分で思うけど、アゼムの座は降りたくないんだよ。旅が本当に楽しいからさ……どうしても危ないことに直面しちゃうから、これからは怪我しないっていうのは約束できないんだ」
「もっと気をつけろよ、といいたいところではあるがな……気を付けたとしても危険は拭えないというのはそうだろうな」
 それに、広い世界に目を輝かせて、綿毛のように世界を舞うこいつに惹かれたからこそ、夫婦となって娘に巡り合えた。その在りようを否定するなど、出来るはずもない。
「そうなると……何かで埋め合わせる方向にどうしてもなっちゃうな……私って自分勝手だ」
「はっ、今さらだな」
「なんだとー! ……あ、待てよ? そうだ……私が自分勝手するなら、娘にも……ねえエメトセルク」
 何かを閃いたアゼムが発言権を求めて手を上げる。発言を許してやれば、1つの案が可決されることになった。家庭内のルールにひとつ加わることになったその内容は、「二人で家を空ける事態になったら、その事態を解決後、娘のしたいことを二人で叶えてやること」だ。
「すこしはこれで、発散させられたらいいんだけどね」
……そうだな。まずは、これを本人に聞いてみることからはじめてやろう。お前も……私も、な」
「そうだね……ね、青い花柄のべこくん」
「んも!?」
「何を言っている、こいつの柄は星柄だろう」
「星っぽさもあるけどさ、ちょっと丸いから似てる花があるなーって思ったんだよ、それでつい……
……まったく。まあ、それも本人に訊いてみるか」
「へへ、そうだね」
 それからは、私たちの家と娘を守っているだろうヒュトロダエウスへの埋め合わせも考えて、報告もしておいた。
『ゆっくり帰ってきて。疲れて帰ってきたらまたアステリアが心配しちゃうよ』
「ほんっとごめん! ありがとう! お土産何がいい?」
『しいて言うなら皆とのごはんの時間かな……あとイデアをこっそり使ったことを黙ってもらうとか』
「おっけー! 美味しいの探しておくし黙っとくね!」
「軽々しく了承をするな。特に後半」
 
 親友のアドバイス通りゆっくり帰ってきた私たちを出迎えたのは、涙の跡が少し残った娘と少し眠たげな親友だった。私たちを見つけた娘はまっすぐ駆け寄り、抱きついて離さなかった。
「パパ……ママ……ごめんなさい……
「ごめんなさいを言うのは私たちの方だ。……アステリア、我慢をさせたな」
「ううん……いかなきゃいけないのはわかってるもん……あぶないからおうちにいてほしいのもわかってる……だいすきだからそうするんだって……
 潰さないように、小さくて優しい娘を抱きしめ返す。アゼムの手と私の手が娘の頭や背中を撫でていく。……ああ、そうだとも。私たちはお前のことがだいすきなんだ。
「ごめんね、アステリア。また我慢させちゃう。怪我もしちゃうかもしれない。それがいやだって思うのは、君が優しくて、ママとパパのことがだいすきでいてくれて……
「もー! ママがないてどうするの!」
「へへ……ごめんね。それでね……二人で決めたことがあるんだ。どうだろう、聞いてくれるかな?」
「いいよ。どんなの?」
 先の緊急夫婦会議で決めたこと……「二人で家を空ける事態になったら、その事態を解決後、娘のしたいことを二人で叶えてやること」を娘に伝えた。それを聞いた娘は、少し考えたのち口を開いた。
「なんこでもいいの?」
「何個でもいいよ。一日で出来ることだったらね」
「じゃあ、じゃあ、きょうはさんにんでねたい! あおほしちゃんもいるから、さんにんといっぴきね!」
 あおほしちゃん。それがこの白いべこの名前か。ご主人の元に戻ったあおほしちゃんは、腕の中で抱っこされて労われた。
「おでかけもしたいし、あと、みんなでごはんたべたい! ね、ひゅーちゃん!」
……ワタシ!? いいの? せっかく家族みんないるのに?」
「だって、イデアかしてくれたもん! ピラヴロス!」
「あっ」
 やはり噛んでたか。アゼムはさくっと許したが私はそうはいかないぞ、という目線だけくれてやる。……まあ、結果的にはそのイデアが無ければ、あおほしちゃんが私たちのもとに合流できずに敗北を味わう可能性もあったことを鑑みれば、許さざるをえないのだが。
……良かったな。親友二人が優しくて」
「本当にね。その上ごちそうもしてくれるなんて、なんて優しい親友家族なんだろう!」
 内緒にしてやるの、やめてやろうか。そう思うだけ思って、アゼムと娘の方を見ると、すでにキッチンに立っていた。土産としてここへ帰る間に手に入れていた桃を早速パイにするらしい。甘い匂いが食卓にまで届いた。
「おお、甘くて美味しそうな匂い……
「ヒュトロダエウス、お前眠そうだな……悪い、面倒をかけたようだ」
「そこは全然! むしろえらかったんだよ――

 ――時間はエメトセルクがアゼムの召喚術と共にこの場を去ったころに戻る。ヒュトロダエウスはわんわんと泣き続ける親友の娘をなだめようと口を開いた。
……意地悪で置いていったわけじゃないんだよ……パパもキミとママを守りたくて、きっと焦っちゃったんだ」
「う、ぐす……そんなこと、わかってる……!」
 少しだけ波が落ち着いた娘が続ける。
「パパとママが、わたしをまもりたいのとおんなじように、わたしもパパとママをまもりたいって、どうしてわからないの……!? わからずやにもほどがある!」
 今度は怒りが強くなった娘だが、なにやらスケッチブックを取り出す。時折流れる涙をぬぐいながら、新しいページにヒュトロダエウスにも見覚えのある白いべこの姿が描かれる。白地に青い星の柄が1つ、背中には翼が生えた――のちにあおほしちゃんと呼ばれる――べこである。怒っていてもちゃんと自分を落ち着かせる方法を分かっているんだなあとヒュトロダエウスが感心したのも束の間、そのべこがスケッチブックの中から飛び出してきたのである。視れば、そのべこからは確かに親友の娘、アステリアと同じエーテルを感じた。娘も初めての現象なのか、涙を忘れ目を丸くしている。
「ええと……君は、この子の使い魔?」
 そのべこは力強く、そうだという風に縦に首を振った。
「ひゅーちゃん……つかいまって?」
「君の力になってくれる子のことだよ」
……わたし、パパとママをたすけたいっておもいながら、かいてた……たすけて、くれるの?」
「んも! んもんも、んもー!」
 またもそのべこ――アステリアの使い魔は力強く頷く。そして涙をぬぐうように、その使い魔はアステリアの頬に手を添えながら抱き着いた。抱きしめ返しながら、アステリアはやっと笑顔を取り戻した。
……へへ、ありがとう……あおほしちゃん」
 ご主人に似て優しい使い魔の目が細められた。そして何やら魔法を使うと、さんざん泣いて赤みがかっていたアステリアの目が、きれいな白色に戻っていた。あおほしちゃんと名付けられた使い魔の回復魔法。それと自身が持っているイデアクリスタル。ヒュトロダエウスは何かを思いついたように笑みを浮かべた。
「ねえ、アステリア
「なに、ひゅーちゃん?」
アステリアとあおほしちゃんが協力してくれたら、パパとママのこと、本当に助けられるかも」
……! ほんとう!? ねえ、どうやったらいい!?」
 ヒュトロダエウスのその言葉に、娘は大層目を輝かせた。ヒュトロダエウスは二人の親友が無事に帰ってくると信じていたが、それはそれとしてさらに支援ができるならそうした。なぜなら二人は親友だからだ。そうしてもたらされた作戦が、ピラヴロスにあおほしちゃんを載せて、エメトセルクとアゼムのいる方向へ飛ばすという単純明快なそれだったのである。
 
……確かにお前なら私たちのいる方が視えるだろうし、そんなに荒唐無稽ではないな」
「もう、買いかぶりすぎだよ……
「それで? お前が眠い理由がまだ見えてこないのだが」
「ああ、それはね……
 ピラヴロスが無事二人の方向へまっすぐ打ち上がったあと。娘を寝かしつけた後にヒュトロダエウスは思ったらしい。私とアステリアの怒り方がとっても似ていたな、と。
「なんだその理由は。心配して損した」
「心配してくれたんだ?」
「うるさいとっとと食らって帰って寝ろ」
「なになに、何の話!?」
 出来立ての桃のパイを持ってきたアゼム達も参戦して、一気に食卓がうるさくなった。まあ、でも。アゼムもヒュトロダエウスもアステリアも笑うこの空間は、厭ではない。
 
 その後ヒュトロダエウスは寝直しに自宅へ帰り、おなかいっぱいなのと緊張の糸がほぐれた娘も眠そうに舟を漕いだ。三人と一匹で寝る準備はもう済ませてある。私とアゼム、あおほしちゃんに包まれながら、娘は笑顔で眠りに包まれた。次いであおほしちゃんがご主人の眠気に釣られた。まだ起きているのは私たち夫婦だけだった。
「ねえ、ハーデス。あったかいね……
 日の光を浴びながら、私たちの娘を優しく包んでいればそうもなる。アゼムの猫っぽい目が今にも閉じそうになるのも自明の理だ。私だって、そうなのだから。
……親としては、まだまだ不出来だと思うけど、でも……この子が来てくれて、本当に嬉しいんだ……
 この子にとっては、どうかな。飲みこんだ不安が手に取るように分かってしまう。手を伸ばし、アゼムの頭に触れる。
「私もそうだ……だから、親は二人いるんだろう……精進、し合うんだろう……
 名前を呼ぶ。ご両親からもらった方の、私にとってはなじみの深い名で、妻を。妻もまた、両親にもらった方の名で私を呼んだ。安心にとろけた顔をしながら眠り、私もそれにつられて眠った。

 起き抜け、星みたいな花があると聞いた娘は早速その花を見たがった。ツィーディアとも呼ばれたその花は確かに、あおほしちゃんの柄に似ていた。
「かわいいおはなだね!」
「へへ、そうでしょー!」
「けど、あおほしちゃんはあおほしちゃんだよ、ね!」
「んも!」
 そうです!という風に頷くべこの使い魔に、アゼムは笑いかける。
「そういえば言ってなかったかも……我が家にようこそ、あおほしちゃん! ご主人のママとパパのこともよろしくしてくれると嬉しいな!」
「んも、んもももも!」
 お辞儀のつもりか、いつもより長めに頭を下げるあおほしちゃんに言ってやる。
……お前のご主人は、まだ子供だ。そしてお前が見た通り、私たちにもいたらないところはあっただろう。それでも、私たち家族と共にいてくれるか」
 目を丸くするあおほしちゃんが、何回か瞬きをした。何を言われるのかと思ったのかもしれない。そのあと、娘と似た笑顔で強く強く頷いた。今日、共に食べた桃のパイの匂いが香る。私たち家族に新たな一員が加わった、明確な瞬間だった。