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スヲマシ
2025-06-27 16:54:09
3649文字
Public
柴チヒwebオンリー
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無意識と
柴チヒwebオンリー作品①
雨休みの日にちょっと悩む柴さん
隣で静かに眠るチヒロくんの顔を見て決心する。
今日、どこかで改めて「好き」って言おう。
「雨、降りそうやな」
薄暗い空を車から降りる際に見上げて、一人呟く。さっき聞いた天気予報は曇りのち雨。浮かぶ雲は確かに水分を溜め込んでいそうな色と厚さ。梅雨入りしてからずっとこんな調子だ。
鬱屈とした空とは反対に俺の心は晴れやかだった。久しぶりにチヒロくんとゆっくり過ごせる日だから。
雨で予定していた外出がなくなったとかで、二人揃って出向くはずだった護衛の依頼は昨日の夜時点で中止。突然のことで代わりの予定も入れられず、二人一緒に遅起きした代償にやれることは自ずと少なくなった。半日潰れた後にしたいことを尋ねると、チヒロくんから返ってきた答えは、『夕飯を少し豪華にしたい』。
近くのスーパーにチヒロくんは一人で行くと言っていたが、俺が今日は一緒にいたいと言えば、照れを隠しながら了承してくれた。その頭を撫でてから、車に乗せて、今に至る。
先を歩くチヒロくんは傘を持って降りなかったはず。車に積んだままだった二本を持って後を追った。
冷房の効いた店内は、空模様を反映してか空いている。
すぐにチヒロくんを見つけて近寄ると、カゴにはもういくつか野菜が入っていた。普段から買う食材の他に和食が多いチヒロくんの献立では中々使われないレタスやトマトがいる。メインとなるだろう鮮魚・精肉コーナーに行く前だが、夜は洋食のメニューだろうかと、当たりをつけてみた。
重そうな物はないけれど、
「持つよ」
一言だけ添えてチヒロくんの持っていたカゴを取ると、自然な流れのまま
「ありがとうございます」
の言葉と共に渡してくれる。その後、ハッと何かに気づいて僅かに唇を尖らしていた。それくらい持てると言いたげな口だ。そんな仕草がかわいくて、外じゃなかったらキスしてたと思う。
……
外でのキスは好きの証明にならんか。チヒロくん嫌がるし、あかんよな。
口頭で伝えると、起きた時に決めたばかりなのに、チヒロくんがかわいくて、口より先に手が出そうになる。最悪な大人の横で、チヒロくんは俺からカゴを奪い返すことは諦めたらしく、野菜を真剣に吟味していた。
牛ブロック肉をカゴに足して、無くなりそうだった調味料も入れて、乾物を手にした先で、チヒロくんは足を止めた。
俺は欲しがっているであろう物を予想して先にそれに手を伸ばす。
「この銘柄、チヒロくん好きやったやろ」
「柴さんほとんどコーヒー淹れないのによく覚えてましたね」
「チヒロくんの好きな物覚えるんもう癖になってな。合ってたならよかった」
六平家に通うようになってから嫌われたくなくて、ちょっとでも喜んで欲しくて、チヒロくんの好き嫌いを把握せんとする癖がついた。
その癖は今でも続いている。
買い物はチヒロくんが一人で行くことも多かったし、俺はほとんどコーヒーを淹れることはなかったけれど、いつも置かれてる銘柄くらいは分かっている。
「ありがとうございます」
微笑んで受け取ったチヒロくんを満足して見つめた後、はたと気づく。
……
今の好きって言うタイミングだったんちゃうか。好きな子の好きな物は覚えてる、とかそれくらいのことなら言えたと思う。いや、でも、改めての告白がスーパーの店内ってのもどうなんやろ。
自分でも納得できる良い言い訳が浮かんだので、たった今チャンスをふいにしたことは水に流してしまおう。
会計を終えて外に出ると、思った通り雨がぱらついている。
店から車を停めた場所までは走って行けばそこまで濡れないだろうが、荷物もあってややめんどくさい。それに、チヒロくんを走らせたくない。妖術を使ってしまえばひとっ飛びなのだが、周りを驚かさないことと、万が一の襲撃に備えるため不必要には使わないようにしていた。
持ってきた傘は二本。
ちょっとでも濡れて欲しくないので、大きい方の傘をチヒロくんに渡して、右手一本で残った傘を差す。左手に持っていた買い物袋を濡れないように気持ちばかり内側に入れて歩き出した。
チヒロくんは黙ってついてきたが、大きい傘を自分が使っていると気づくとまた不満そうな顔をする。
「俺の方が傘大きいんですし、荷物持ちますよ。店でもずっと持ってくれてましたし」
「俺がこうしたいねん。チヒロくんは優しいなぁ」
気持ちを汲み取ってくれたのだろうか。腕を伸ばしてきたり、強引に買い物袋を取ろうとすることはしなかった。
「どっちがですか」
小さい声で抗議が聞こえたけれど、笑顔を浮かべることでかわしておく。
夕飯は牛肉を使ったレアカツだった。付け合わせはレタスとトマト、その横にポテトサラダが添えられている。レアカツは初めて食べる料理だったけれど、本当に絶品で、あのどこにでもあるようなスーパーで買った材料から作られたとは思えなかった。
「美味しい」と何度も伝えると、チヒロくんはその度に笑顔を返してくれる。
最後に出してくれたデザートのさくらんぼまで食べ終えて、俺が満たされた顔で
「また作ってくれる?」
と、甘えると
「分かりました」
って快く返事してくれた。
お礼というには釣り合ってないし、そもそも俺の家事担当である皿洗いをしている途中で、今日決心したあのことを思い出す。
チヒロくんが作ってくれる最高の食事は一つだけ問題がある。というか、これは完全に俺の問題なんやけど、美味し過ぎて、ご飯に集中し過ぎて、それ以外のことを忘れてしまう。
……
また、伝えそびれた。
チヒロくんに呼びかける。
「皿洗い終わったよ」
「ありがとうござ
……
「風呂は?一緒に入る?」
食い気味に尋ねると、顔を赤くしたチヒロくんに、上擦った声で拒否された。
「昨日の今日なのでいいです」
断った勢いのまま、チヒロくんは風呂に向かってしまったので、一人リビングに取り残される。
……
一緒の浴槽の中ならいくらでも好き好き言えた思うんやけど。
そんな言い訳がまた浮かぶ。ただ、決心した言葉が言えなかったことよりも、一緒に風呂に入れなかったことの方が残念に思えたので、流石に自分の心を戒めた。
「次、どうぞ」
「ん」
風呂の順番を待つ間、見ていなかったけれど、なんとなくでつけていたテレビを消してソファから立ち上がる。頬の紅潮したチヒロくんは普段より柔らかく見えて、これまたかわいい。
ちゃんと乾かしたか確認も兼ねて頭を撫でる。シャンプーのいい香りが漂って来て、乾かしたてのふわふわした髪が指をくすぐった。
「先に寝ててええよ」
そう言うと、チヒロくんは首を振った。
「明日早くないですし、柴さんと寝たいので待ってます」
「ほんまにかわいいな」
意識する前に言葉が口から漏れる。
……
夜のチヒロくんは素直さが三割増しや。
抱きしめてしまいたかったけれど、風呂上がりのチヒロくんにまだ風呂に入ってない俺が抱きつくのはまずいと思って、ギリギリ踏み止まった。
「なら、良い子で待ってて」
「はい」
素直な言葉を聞いてニコニコとも、ニヤニヤとも言えない笑みを浮かべて風呂場に向かう。
好きと言うチャンスだったと分かったのは、チヒロくんのかわいさを十分噛み締めた後の髪を乾かしている時だった。
リビングに戻ると、チヒロくんはさっきの俺と同じようにソファに座って待っていた。
「上がったよ」
声だけかけて、そのままキッチンに行く。
チヒロくんがコーヒーを飲んで眠れなくなった話は聞いたことないけれど、寝る直前のこういった時はコーヒーよりかはいいだろうとホットミルクを作ることにしていた。
手早くバニラエッセンス入りのそれを作る。
料理とは名乗れないが、これを作るのばかりは得意になった。自分の手際の良さからチヒロくんがこれを気に入った夜を思い出して、顔が綻ぶ。
「おまたせ」
その言葉で近付いたホットミルクを持つ俺を、チヒロくんが見上げる。バチっと目が合って、俺が笑顔を浮かべると、チヒロくんが口を開いた。
「俺、柴さんのこと本当に好きです」
「え!?」
急な告白に想定外の声が出てしまった。
それはこちらから言う予定だったのに。今日一日、機を窺っていたのは俺の方だったはずだ。
驚きから来た揺れを抑えて、なんとか溢さずにミルクをソファの前のローテーブルに乗せて尋ねる。
「嬉しいけど
……
。突然どうしたん?」
「ミルクもそうですけど、柴さんの今日の行動から俺を大切にしてくれてるのが伝わって来て。それに応えられてる自信がなかったので、せめて言葉で伝えようと思って」
どうやら行動に俺の気持ちは漏れていたらしい。
「ありがとう、嬉しいわ。俺からも言わせて」
かわいい告白を聞いたからには、朝決心した言葉をチヒロくんに今、言わなきゃ。
「俺もチヒロくんのこと本当に大好き」
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