茶ツキ
2025-06-27 11:52:24
5823文字
Public ブルレド
 

ブルレド文 無題01

ブルレド文。
一応年齢制限付けませんがそこそこ強めの絡みはあります。ただの量産型書き殴り文。

 ミスターブルーは困惑していた。
 双子の実兄、ミスターレッドと本日接する度にそう思う。ざっくりと言えば、妙に距離が近いのである。
 だがこれだけは断言しよう。彼ら兄弟は普段から、体のどこかがくっついた状態で共にゲームをしたり全く違うことをしていたりと、素で距離感がバグっている。ただの授業の合間や歩いているだけの時でさえも、主にレッドの方からちょっかいをかけたりして軽く戯れているものだ。
 そんな兄からの行動に今更何を動揺しようというのか。この違和感の正体とは━━━

「弟。顔に米、ついてんぞ」
「あ……サ、サンキュー、兄貴」

 ……優しさ、だろうか。
 以前同じようなシチュエーションがあった時の彼は、「食い方下手か」と鼻で笑って馬鹿にする、または「あざといんだよ」とうんざりした様子で嫌味を吐く……等、そういった態度だった。
 だが今回は、やたらと穏やかな笑顔で口元の米粒を指先で摘まみ取られた。今日は朝からこのような、温かいというのか、過保護というのか、そんな接触が多いのだ。
 だが、その言葉だけでまとめるのも少ししっくりとこない。
 当然のように指の米をペロリと舌で掬い取ってしまうレッドに、心臓がビクッと小さく跳ねた。ああそうだ、今日の彼はどうにも艶やかな仕草が目立つ。
 まるで恋人……否、落とそうとしている相手に対し行うアピールのようだ。

(まさか兄貴俺のこと…………な、ワケねーよなあ……

 そんな線も自分たちの関係を踏まえるとあり得ない話になってしまうのだが。
 ブルーは実にモヤモヤしている。もしかしたら兄が自分以外にも同じことを仕掛けているのかもしれない、そう思うと尚更。

 複雑な想いを秘めたまま、夜を迎える。
 風呂を終えた後のブルーは就寝までの時間を持て余すようにベッドの上で胡坐をかいて座り、スマホを眺めては大して興味を引かれる情報もなく退屈していた。
 カチャン、と風呂場の方から扉の開閉音が聞こえた後、程なくして薄着のままレッドが寝室へと入ってきた。無意識に目をやったところ、一瞬兄と思えない雰囲気を醸し出していた相手に思わず硬直してしまう。
 一応乾かしてはいるようだがまだ少ししっとりした赤髪が、部屋の松明の火を反射してゆるやかに輝いている。赤いベッドに腰を下ろし、熱を冷ますように溜息した彼の少し伏せられた目の睫毛も同じ色で静かに照らされており、妙に色っぽい。
 ネットのページでは成せなかった釘付け状態に陥るブルー。しかし我に返り、いやいや何考えているんだ、と首を振った。風呂上りの兄なんてもう何千回と目にしてきたはずなのに、今日は何故かいけないものを見てしまった気分だ。

 弟の異様な行動に反応を示したレッドは、「どうした?」とこれまた優しい微笑みでこちらを覗き込んでくる。「いや、何でも……」と言葉を濁すが、何でもなくはなかったのでつい目を泳がせてしまった。
 暫くブルーの方をジッと眺めていたレッドだったが、徐ろに立ち上がると、ブルーの方のベッドへ座る。急に距離を詰めてきた兄にギョッとして目を見開いたところ、さらに顔を寄せられて全身に緊張が走った。

「前から思っていたが……お前の目、いい色してるよな」
「え……、え?」
「もっとよく見せろよ。なあ、ブルー?」
「なっ……何で、名前……!?」

 やはりおかしい。気のせいではなかった。
 このタイミングで急に名前を呼んでくるなんて。基本は三人称まで「弟」呼びで、説明口調になった時稀に「ミスターブルー」と呼んでいる時があるくらいなのに。
 咄嗟に後退りするも、レッドがいるのと反対側のベッドの先は壁で塞がれていて逃げ場なんてありはしない。

「いや兄貴、何か今日、変じゃねえか……!?」

 ついに我慢できなくなり、ブルーは直球で尋ねてしまった。
 優しい兄は本来望むところではあるが、何のきっかけもなく突然そうなられると、何か企んでいるのか、または体調でも悪いのか……否、偽物なのかもしれない。そういろいろと、不安になってしまうもの。

「さあな。俺が変なのかお前が変なのか……試してみるか?」
「え………

 レッドがさらに距離を詰め、もう目前に迫ってきた。
 駄目だ、押し返さなければ。頭ではそう思うのだが、そう鮮やかな真紅の瞳に見つめられると、まるでヘビに睨まれたカエルのように体が動かなくなる。
 兄から目が離せない。顔に熱が溜まり、のぼせそうだ。意識が霞む。

「あ、兄貴……

 ごく、と乾いた喉が上下する。無意識に視線を少し落とすと、ほんのり色付いた唇がそこにあった。ふらりと吸い寄せられるように顔を前へ傾ける。
 禁忌を犯そうとしたその間際、口元が温かい何かに覆われた。

「いや、マジでしようとしてんじゃねーよ」

 レッドの声色が変わった。弟を小馬鹿にするような、聞き慣れた声だ。
 は? と思わず聞き返したが、口が兄の手で塞がれていて音にならなかった。目をぱちぱちと数度瞬かせていると、そっと手が離れたと同時にレッド自身もさっさと身を引っ込め自分の方のベッドへと戻ってしまった。
 見せびらかすように上げた手の中にスマホが収まっている。それはレッドのものではなく、ブルーのものだった。つい先ほどまで自分が持っていたはずなのに、まさか隙を見て奪い取ったのだろうか。彼の盗みのテクニックならそれは造作もないことだろうが━━━

……ど、どういうことだよ」

 意味が分からない。妙に艶っぽかった空気からスマホの盗難まで、レッドが一体何故こんなことをしたのかまるで見当がつかないのだ。
 酷く混乱したブルーからの問いに、レッドは急に「フッ」と吹き出した。そしてついには腹を抱えて「ハッハッハ!」と大声で笑い出す。振る舞いが少々キザっぽい普段の彼は、ここまで大笑いすることは何気に少ないのだが。
 完全に取り残されたブルーは、そんな兄の様子を何か未知の生命体でも目にしているかのような表情で呆然と眺めていた。

「俺が何してたか、教えてやろうか? ハニートラップだよ、ハニートラップ! たった一日でまんまと引っ掛かりやがって、間抜けな奴っ!」

 興奮冷めやらぬといった様子で、レッドは腹を抱えたままこれまでの行動の意味を暴露した。
 ハニートラップ━━━俗に言う、色仕掛けで相手から情報等を抜き取る、スパイ等が駆使する手法のこと。今日の彼の異変は、全てここから来ていたのだった。

……は?」

 怒りの沸点を軽く超えてしまい、逆に静かで低い声が漏れ出た。
 一方のレッドは「腹いってぇ」と声を震わせながらベッドの上を笑い転げている。先程までの彼は別人だったのかと疑いたくなる程、色気の「い」の字もない。
 しかし弟の怒りを感じたためか、まだ笑いが収まりきらず小刻みに震えながらも少しずつヒートダウンさせ、レッドはベッドから上体を起こした。

「ククッ……いや、悪かった。たまたまテレビでスパイ物の映画が放送しててな。俺の特技はそういった潜入向きだろ。ハニートラップをモノにしたら今後コソコソ敵を倒したりしなくても、そいつで堂々何かしら盗み出せるんじゃねーかと思ってな」

 ポイ、とブルーのベッドに奪われたスマホが無造作に投げて返された。これはつまり、ハニートラップ中に奪う戦利品代わりだったということだろうか。
 彼はどうやら軽い気持ちで弟を実験台に選んだのだろう。だが、ブルーがどんな想いを抱えながらそれを受けていたか、恐らく全く考えていない。

「それ……何で試す相手が俺?」
「手近な相手だったからに決まってんだろ」

 実際尋ねてみると案の定いけしゃあしゃあとそんな答えが返ってくる。ブルーは肩を落とした。
 いや、分かっている。兄弟間でそんな、深い意味なんてあった方が問題だ。
 だがどこからともなく湧き上がるこの悔しい感情。その正体が何であるかまでは分からなかったが、酷く不快だった。今のところは性格の悪い兄の戯言にムカついているものとして処理したが。

「だがまあ、実の弟まで落としかけちまうなら上々じゃねーか。才能あり、つってな」

 得意げに語る様子は鼻に付いたものの、レッドの才能については否定出来なかった。
 相手の興味を引く表情、仕草、雰囲気、どれも及第点以上だったと思う。色香に惑わされて実の兄相手に口付けそうになったのも事実。
 だが、ハニートラップの真髄がここで終わるはずもない。レッドが果たしてそれを理解しているのかと、ブルーの胸が騒めく。

「やめとけよ兄貴……そんなこと」
「何言ってんだ、実践もなかなかスリルがあって楽しそうじゃねえか」
……

 軽く忠告してみたが、やはり分かっているように思えない。新たなスリルに目が眩み、肝心な問題を見落としている。
 ブルーは、そう思った。

 スタ、とベッドから飛び降りてレッドの前に着地する。
 突然見下ろしてきた弟に、いつも気怠そうに落ちた瞼がキョトンと開いた。

「弟?」

 流石に様子がおかしいと感じてそう声を掛けてみたが、反応がない。
 ああこれは。実験台にされたことを思ったよりかなり怒っているな。
 弟の異常をそう判断したが、生憎と誠心誠意謝れる素直な心を有していなかった。面倒くさそうに頭を掻き、「マジでキレてんじゃねーよ、だりー奴」等と責任転嫁してそっぽを向く、どうしようもない兄。

 するといつの間にか、レッドの身体がベッドに沈んでいた。

「ん……っ?」

 数秒間時でも止まっていたのかと思ってしまうほど、あまりにも一瞬の出来事で何も反応が出来なかった。
 遅れて少しずつ状況を整理してみると、自分の肩を凄い力で掴む手、伸びる腕を辿ってその主を確認してみれば、そこには神妙な面持ちのブルー。
 ハニートラップ中に散々褒めてやった深い青の瞳が、灯りを反射しているためかいつもと色が違って見えた。どこか激しい感情を渦巻かせ、レッドを見下げている。

「兄貴のハニートラップって、一体どこまで想定したものなんだ?」

 やっと口を開いた彼だが、レッドはその意味を瞬時に理解出来ず「はあ?」と目を細める。
 実験台とは言え色仕掛けした相手に、完全に押し倒されている状況で、何故理解出来ないのか。やはり兄の中では、自分は弟でしかなく、そんな発想に至らないのか。ああもう、何も分かっちゃいない。
 湧き上がる感情の全てを、ブルーは口付けでぶつけた。

「んムッ……!?」

 塞がれた唇が悲鳴を零し、手の中の肩が強張った。
 やっと抵抗らしい抵抗を見せたが、完全にマウントを取られた体勢はそう簡単に覆せない。「おとうと」と呼ぼうと回した舌が食まれ、ぢゅぞ、と音を立てて吸い上げられてしまう。背筋からゾクゾクと痺れるような未知の感覚に襲われ、全身の力が抜けた。

「なあ、こんなことまで許すのかよ?」
………………?」

 こんなにも熱く絡んでおきながら、随分と冷たい声が響く。
 乱れた呼吸が戻らないまま聞き返すレッドに、ブルーはまたうんざりしたように溜息した。

「色気は認めてやるけどさ。それが成功したらこうやってベッドに誘われることだってあるだろ」
「んなの……、上手く躱してやるに決まって
「相手は俺より強いかもだぜ。抱かれる覚悟もない癖に、俺程度に好きにされてるようじゃ……ハニートラップなんて全っ然向いてねーよ、兄貴には」
…………

 これは本当に弟か?
 レッドの頭にはそんな疑問さえ浮かんだ。自分をベッドへ貼り付けてくる腕はすごい力だ。「調子に乗るな」といつものように拳を振るって、なあなあに終わらせる……なんてことも出来そうにない。
 これまで手を抜いていた? そんな癪なことがあるか。レッドは眉間に皺を寄せる。
 確かに弓の腕前や反射神経は、以前授業で組手させられた際に嫌でも感じたし、戦闘に長けたアマゾネス一族に育てられたのだから、その手のスキルがあってもおかしくはない。
 だが兄として認める訳にいかない。弟に組み伏せられ、その力に敵わないなどと。

 しかし━━━

……………悪く、ねーな)

 そんな状況にも関わらず、この男は兄である前に、一人のスリル好きの人間として期待に胸を膨らませていた。







 松明の火も消えた暗闇の中で、ゴソ、とベッドの上で一人分の影が身体を起こした。
 一際乱れた赤髪に、その隙間からちらりと覗く紅い跡。ここで何があったかを生々しく物語るが、本人は至って平然とした面持ちで、隣で眠るブルーへぼんやりと視線を送る。

……マジで、盗めちまったな……

 ━━━否、一応動揺しているらしい。
 ただそれは兄弟の一線を超えてしまった後悔……とは少し違うようだ。

 どうやらレッドは、ブルーに対して少なくとも好意があった。だからと言ってどうなるつもりもなく、この気持ちを伝えることはまず無いと思っていた。
 そんな中スパイ映画を目にしたのは本当だ。ハニートラップで華麗に対象の宝や情報、心まで奪っていくヒロインに素直に感心し、可能なら自分のスキルに加えるのも悪くないと思っていた。だがいきなり実践というのも気が引ける。
 そう思ってブルーを練習相手に選んだことに、あわよくば、という邪な心があったことは否定出来ない。本気で引かれてあしらわれて終わると思っていた相手がまんざらでもない態度を取るので、つい調子に乗ってしまったのも事実。

 だがまさか、相手の純情さを哀れんで途中で引いてみた結果、本当に手を出させてしまうことになるとは。
 レッドは少々の照れ臭さから下唇を突き出すと、満足そうな寝顔のブルーの青髪を乱雑に撫でた。

「ごちそーさん」

 そう一言だけ言い残すと、本日のハニートラップの成果とも言える重い身体を引き摺り、二度目の風呂場へ向かうレッドだった。
 さて、弟が起きた後はどう対処するのやら。



END





後書き

なんかこの時点だとまだくっつかなさそうな二人になっちゃいました。
アッチの方はどこまでいったのかそれは私も書いてみないことにはわかりませんね←