この長身はいつも気紛れな睡眠でベッドをその長い手足で好きなだけ占領している。しかしそれがどう言うわけか裸で寝た夜は、こちらの身じろぎで目を覚ます。その朝もそうだろうと、寝そべった儘起きてはいるだろう男を見下ろすように起き上がる。
「……朝何が良いんだ。」
作って遣るのは吝かでは無いにしろ、ベーコンエッグかパンケーキか、塩っぱいものか甘いものかくらいは聞いておかないと、朝から文句が日差しのように降り注ぐことに成る。
「ん。おい?」
返事も無く微動だにしないので、もう一度問う。
「……みず。」
「……ああ、分かった。」
確かに昨夜はだいぶ水分を消耗していたから、飲ませはしたが、今朝に成って不足を覚えたのかも知れない。ベッドから立ち上がって水を取りに行き、また戻る。
「ほら。」
しかしまた黙り込む。視線がこちらを向いて、水を捉えたのは感じる。首を傾げて待っていると。
「のませて。」
水を持った儘反対側に首を傾げる。
「吸い飲み有ったか?」
「……ちがう。」
口を開けた男のその中は奥深く泥濘み、光を反射した水分はこちらを待ち構えて居る。奴の息は、それでも尚水分を欲して居ると言うのに、勿体無い程湿って居て、ゆっくりと手招きして居るようだ。
一度自分が嚥下した後、今度はこちらが暫し黙って。そして、相手のための水を、自分が飲む。その口で相手の口に触れ自身が吸い飲みに成る。
実はこれ、簡単なことじゃ無い。人の口でタイミングも分からず液体を注がれたら、そりゃあ水を飲むどころじゃ無い。普通に飲むのがちょっと怠いとしても、口移しの方が楽だなんて、思うわけ無い。
「おまえ元気だな?」
「ええ、元気ですよ?」
上手いこと器用に喉を潤した男が、先程より明瞭な声を聞かせる。
「朝からここで運動出来るくらい。」
調子付いた気紛れな男は、まだベッドから出る気が無いようだ。つまり朝食はまだ先に成る。
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