moto
2025-06-26 23:18:42
2096文字
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夏祭りに、参上

さまささワンドロワンライお題「スタンドマイク」

射的の的が次々と倒れていく。特賞である大きなぬいぐるみまでもが眉間を撃たれて倒れてしまい、なすすべもなく店主の顔がゆがんだ。「左馬刻さあん」と情けない声が上がる。
「なんなんすか、その弾、鉛っすか」
「んなわけあるか。てめえが渡してきたコルクだろうが」
「まだ始まったばっかりなのに商売上がったりだあ」
 頭を抱える店主に「景品はいらねえよ」とあっさり言い放つ。
「ええ?まじっすか?」
 元より欲しいものなどなく、見回りついでのお遊びだ。ほっとしている店主に銃を返し、ふと視線を下ろすと、小さい子どもが二人、ぽかんと口を開けて左馬刻を見つめていた。浴衣姿の子どもは左馬刻と目が合うとぱちぱちと両手を鳴らして「おにいさんすごいねえ!」「すごい!」と声をそろえた。きらきらしたまなざしで「おにいさんはころしやのひとですか?」とあまりにハキハキと物騒な質問をされて、吹き出してしまう。
「やっぱ、それとそれもらうわ」
「なんでも持ってってください!」
 射的で倒したお菓子を二つ、子どもに渡してやる。特大の菓子箱に、子どもは今度は喜びで口をぽかんと開けた。
「わ!びすこだ!」
「俺様は殺し屋じゃねえ。善良な市民だ」
「ぜんりょーなしみん」
 きょとんと首を傾げる子どもの頭をポンポンと撫でてやる。
「それ食って強くなれよ」
「ありがとー!」
 結局は左馬刻の正体を気にすることなく、お菓子の箱を掲げて子どもは走り去った。
「お兄さんは殺し屋の人ですか?ええ質問やなあ」
 その声と同時に、頬に冷たい物が当たる。左馬刻にこんないたずらを仕掛ける奴は一人しかいない。
「おい、簓ァ」
「ひひひ。ちびっこおもろいな」
 頬に当てられた缶ビールを差し出し、浴衣姿の簓が涼しげに笑っている。
「もう飲んでんのかよ」
「お先にやらせてもらってますう」
 簓はぐびりとビールをあおり、左馬刻の手に持たせた缶と自分の飲みかけの缶をぶつけて今更ながらの乾杯をした。
「左馬刻のオススメの屋台ある?」
「たこ焼きだな」
「ほーん?本場のオオサカ人の前でよう言うたな」
「フン」
「よっしゃ、まずはたこ焼き食べよ」
 そう言いながらも簓は道すがらの屋台に目移りしている。さらにそれぞれの屋台の店主たちが左馬刻に声をかけるものだから、そのたびに立ち止まり、ちょこちょこと買い物を続け、気づけば左馬刻の手にはビールの他にベビーカステラと焼きそばが追加されていた。隣の簓は、この時間のかき氷最高やなあ、とかき氷を堪能している。その前に焼きとうもろこしをぺろりと平らげていた。たこ焼きまでの道のりは長そうだ。
 日が暮れて日中の暑さもやわらぎ、人も増えてきた。賑わっている屋台をひとつひとつ覗いて、ひとつひとつに簓が何事かしゃべっている。途中、射的屋で左馬刻に話しかけてきた子どもたちが輪投げを楽しんでいるのを見かけた。
 ソースの匂いに簓が嬉しそうに顔を上げた時だった。歓声とは違う声が近くで上がった。悲鳴と怒号、わらわらと人々が散っていく。目的地であるたこ焼き屋で数人の男が揉めていた。せっかく作られたたこ焼きが地面に投げ捨てられている。男たちがマイクを取り出したのを見て、左馬刻が一歩を踏み出そうとした、その時、隣で簓が大きく振りかぶり、ビールの缶を投げつけた。それは見事にマイクを持った男の一人の頭にぶつかり、鈍い音を放ち残っていたビールを撒き散らした。
「ってえなあ!誰だ!」
「あ〜あ!手が滑ってもうたわあ!」
 わざとらしい棒読みで大きな声を出した簓を、左馬刻は動きを一旦止めてまじまじと見つめた。
「お前……こういう時はひと呼吸おくもんじゃねえのか?」
「へ?間髪入れずの一発が大事なんちゃうかったっけ?」
……
……
 顔を見合わせて、同時に吹き出した。
「よう覚えとるな」
「お前もな」
 金と銀、二つのスタンドマイクと、髑髏と招き猫のスピーカーが現れた時には、屋台の店主たちが総出で人々を避難させており、存分に力を発揮できるよう舞台が準備されていた。
「俺様のシマで暴れるとはいい度胸してんじゃねえか」
「さあさあ、みなさん、夏祭り、余興の始まりや!」


 男が全員倒れ伏した瞬間、遠巻きにしていた人々からワッと歓声がわく。呆気ないものだった。倒れた男たちを店主と左馬刻の舎弟が引きずっていく。遅まきながらパトカーのサイレンも聞こえてきた。まもなく銃兎が到着するだろう。マイクを収めようとした時、まいく!かっこいー!と声がした。あの子どもたちが目をきらきらさせて惜しみない拍手をしている。左馬刻と簓は顔を見合わせて、スタンドマイクを手にしてポーズを決めた(タイミング良くどこかからか太鼓の音がドドンッと鳴った)子どもたちは大喜びで飛び跳ねて純粋なまなざしでこう質問したのだった。
「おにいさんたちはせんたいのひとですか?」
 並んだ輝くスタンドマイクをひとつひとつ指さして答えを待つ子どもたちに、簓は左馬刻の肩に腕を回して「サマトキサマシルバーとササラサンゴールドや!」と豪快に笑った。